博士に話があると言われ
研究所に向かうと、衝撃的事実を聞かされた。
私はとりあえず帰ってきて
ランスさんにプチお仕置き後、急いで自分の部屋で荷造りをしていた。
「明日!?・・・えらく急ですね」
「はい。博士の研究所に行ったら」
『そうか。とにかく行ってくれるんだね』
『はい。あのそれでお話って』
『うん・・・その船のチケットなんだけど・・・・・・』
あからさまに、博士の様子がおかしい。
なんだか焦っているというか、申し訳なさそうな顔をしていた。
『君に考えろって言っておきながら悪いんだけど』
『はい』
『明日、船に乗ってくれないかな?』
『は?』
「理由を聞いたら、どうやら私に渡した船のチケットの期限が明日で切れちゃうらしくて・・・それで」
「なるほど。それで明日には此処を立つんですか?」
「はい、アサギの港から船に乗って。多分当分は戻って来れないかと」
バックのチャックを閉めて、準備完了。
私は立ち上がり、ランスさんを見る。
「すいません。またお家預けちゃって」
「構いませんよ。しかし、明日は私も博士に頼まれた用事があるので・・・見送りには行けません。すいません、ナオト」
「いいんですよ!そんな見送りとか。もう子供じゃないんですから」
「私からしてみればまだまだ子供ですよ。でも、君を見送れないのはホント残念です」
「ランスさん」
ランスさんは少し寂しそうな顔をしていた。
カントーに居る時も時々は帰ってきたり、様子を見に来たりしてたけど
今度はそう簡単に帰ってこれる距離じゃない。
それは私だって、ランスさんだって分かってる。
「大丈夫です!私、ちゃんと帰ってきますよ!」
「ナオト」
私がそう言えば、きっとみんな安心する。
寂しい顔して出て行くんじゃない、元気に出て行けば
皆寂しそうな顔はしない。
「ちゃんと、戻ってきてくださいね。それまで此処は任せてください」
「はい。よろしくお願いします」
「それと」
「?・・・きゃあっ!?」
すると突然、ランスさんが私を抱きしめた。
「向こうで男なんか作って御覧なさい。・・・どうなるか分かってますね、ナオト」
「あぁぁああ・・・あぁああ、はい!わ、分かってます!!気をつけます!!」
耳元で吐息混じりにランスさんが囁く。
それだけで私は背筋に痺れが走り、腰が砕けそうになった。
―翌日・アサギシティ、アサギ港―
「え?ミカンちゃんも行くの?」
「えぇ。私情もあるんですが、私が居れば何かとナオトさんが安心するんじゃないかと思って」
「ミカンちゃ〜ん」
翌日、私はピジョットに乗ってアサギ港に来た。
すると港の船着場でミカンちゃんが大きな荷物を持って立っていた。
理由を聞くと彼女もシンオウ地方に行くらしい。
私情でも身近に知り合いが居ると心強い。
「おーい!ナオト〜、ミカン〜」
「よかった、間に合ったな」
「そのようだな」
「あ、アカネさん、イブキさんにヤナギさん」
「ナオトー!」
「ナオトさーん!お見送りに来ましたよ!」
「ハヤト君、ツクシ君も」
「お前等〜ワシも忘れんな!」
「シジマさん・・・タンバシティからわざわざ」
すると、四方八方から
各地のジムリーダー達がやってきた。
突然の皆の登場で私は驚いていた。
いや、しかも今日私が出るなんて誰一人にも伝えていない。
知っているのはウツギ博士とランスさんだけ。
二人も忙しいから、連絡できるはずない。
「皆・・・どうして?」
「僕が連絡したんだ」
「マツバさん!!」
すると、一人ゆっくり現れたマツバさんが言う。
「僕が昨日、全員に”今日ナオトがシンオウに向かうからアサギ港に見送りにいける人は行こう“っていうので」
「そ、そうだったんですか」
しかし、此処に各地のジムリーダーが
集まったとなると・・・・・・今頃ジムは大変なことになっているだろう。
あれ?でも私マツバさんにも言ってない。
「昨日、僕のところに変な電話がかかってきたんだ」
「変な電話?」
すると、マツバさんが話し始める。
私は首をかしげながらそれに耳を傾ける。
「”明日、ナオトがアサギ港よりシンオウに向かいます。出来ればジムリーダー総出で見送りに行ってあげてください“っていう。
やたら敬語口調で、しかも男だったから問い詰めてやろうと思ったら、用件を言うだけ言って切りやがった。それってさナオトの知ってる人?」
「え?!・・・あ、あぁ・・・まぁ」
ランスさんだ。
多分私が寝てるときに、マツバさんに電話したんだ。
ていうか、何でマツバさんの番号知ってるんですかランスさん!?
「まぁ、見送り出来たからいいんだけどね」
「マツバさん」
「あ、そうだ。ちょっとナオトこっちおいで」
すると、マツバさんが手招きをする。
何だろうと思い私はマツバさんに近づいた。
瞬間、腕を引っ張られ――――。
「んっ!?」
「アラ」
「お」
「フン、若者のすることは分からん」
「見るなツクシ」
「ちょっ、イブキさん!?」
「わぁぁあ、子供は見たらアカン!!!ハヤト見たらアカン!!」
「待て!俺まで子ども扱いするなよ!!」
腕を引っ張られ
マツバさんが私にキスをしてきた。
しかも、し・・・舌が入ってきて
いつものマツバさんの深いキス。
私はそれを抜け出そうとするも
腰をがっちりホールドされて、動くに動けない。
「んぅ・・・んっ・・・ふぅ・・・・・はぁ・・・あっ・・・」
「行ってらっしゃい、ナオト」
しばらく深いキスをされ、離れる。
そして瞼にキスが落ちてきた。
「マ、マツバさん!!」
私は恥ずかしさのあまり、マツバさんを叩いた。
マツバさんは笑って私に「ゴメンゴメン」と謝る。
「ナオトさん。もう、そろそろ船が出ます・・・行きましょう」
「あ、う・・・うん!」
ミカンちゃんの声に私は
自分の荷物を持ち上げ、シンオウ行きの船へと向かう。
「ナオト!」
すると、マツバさんが私を呼ぶ。
振り返ると、其処にはマツバさんだけでなく
各地のジムリーダーの皆が居た。
皆笑ってる。
だから、私も笑って――――。
「行ってきます!」
そう手を振って、新たな世界へ向かう船へと乗り込んだ。
旅立ち〜新世界の入り口へ〜
(笑って行こう。そうすればきっと皆も笑って見送ってくれる)