焚き火の音がする。

木の枝がパキッ!、パキッ!と
炎で折れる音がする。


ふと、目を開けると―――。








『・・・・・・マスター・


「あ、スイクン。起こしちゃった?」








バクフーンの大きな体にもたれながら
目の前で静かに燃える火を見ていた我が主・の姿が映った。

私は意識で彼女に話しかけ、彼女は普通に喋り答えていた。










『明日も少し長くなります。どうか、休んでください』

「うん。でも、色々思い出しちゃって」

『と、申しますと?』









「ワカバタウンを出て・・・もう随分経つんだなぁ〜って思っちゃった」






ワカバタウンとはマスター・の故郷のこと。
時々私も彼女からその町の話しを聞かされる。










『そうなのですか?』

「うん。だって、バクフーンがまだちっちゃヒノアラシの時にあの町を出たんだよ。
ポケモンだって・・・こんなに居なかった。私には、バクフーン、うぅんヒノアラシしか居なかったから」








そう言って彼女はもたれるバクフーンの背を撫でる。
手の感触が心地いいのか、バクフーンは嬉しそうな表情を浮かべていた。









「私ね・・・パパとママの顔知らないの」


『え?』


「何処で生まれて、パパが誰でママが誰でって言うの・・・知らないの。って言う名前だって・・・ウツギ博士がつけてくれたの。
赤ん坊のときに、研究所の前に置かれたから」


『そうだったんですか』


「博士、研究に没頭するとお家にも帰ってこないから・・・寂しくて。そんなときに、博士がタマゴをくれたの」


『それが、彼・・・なんですね』


「そう。バクフーンの幼年期、ヒノアラシのタマゴ。タマゴを貰ったとき、博士は私の頭を撫でながらこう言ってくれた」




















”大切に育ててね。生まれたらきっと、のお友達になってくれると思うから“













「正直、ヒノアラシのタマゴ・・・・・割っちゃおうかなぁって考えたこともあった」



『え?』










マスター・の顔を見ると少し苦しそうな表情を浮かべていた。



今はこんなにまで私や、他のポケモンたちに愛情を注いでくれる彼女なのに
どうしてそんな考えをしていたのかよく分からなかった。








「ポケモンなんていらない。私には、家族がお友達が欲しかった。・・・わけの分からない生物と暮らすなんて、イヤだってそう思った。
だけど、タマゴ・・・・・・割れなかった」







そう言うと彼女は天を仰ぐように、星を見つめた。





「博士の言葉・・・信じてみようって思ったの。博士は、私の気持ちを知ってたからヒノアラシのタマゴを渡してくれたんだって。
きっと”寂しくないよ“、”ポケモンも家族やお友達になれるよ“って言ってるような気がしたの」



『家族・・・友達・・・・・・ですか』




私はそう呟きながら、焚き火を見た。





「スイクン?」



『私も・・・いえ、私たちも、貴女の様に・・・親の顔を、知りません。本当の名前も分かりません』



「知ってるよ。マツバさんが話してくれた。・・・スイクンたちは昔、名前のないポケモンだったって」









50年も昔の話。

あの塔への落雷。
燃えさかる炎の中、我々三匹は逃げることも出来ず
雨粒が無常にも空から零れ、鎮火した頃には我々は息絶えていた。


其処へあの御方が我々に、命を与え・・・名を与えてくれた。


あの日に起こった天災から我々に、新たな姿、命を授けてくれた。







落雷を”ライコウ“。

燃えさかる炎を”エンティ“。

鎮火の雨粒を”スイクン“。









『だから、貴女のように親の顔も知らない、名前も分からない。でも、貴女とホウオウ様は似ている。慈愛に、満ちている』


「スイクン」






だから惹きつけられた。



エンティやライコウが信用せずとも
私は何故だか、彼女だけは信用できると思った。


それはどこか、彼女が・・・・ホウオウ様の持っているぬくもりによく似ているから。








『だから度々、貴女の前に姿を現したんです。貴女が相応しい人間かどうかを。この目で近くで・・・見てみたかった』


「そうだったんだ」


『捕らえられたとき、いち早く傷の手当てをしてもらったとき・・・貴女の温もりに触れた瞬間』


























『この方のためなら、一生・・・・何処までも付いて行こうと、そう心に誓いました』








ジョウトやカントーを走り回っている最中
ホウオウ様が度々、我々に何かを訴えかけていた。






<私は・・・この子のためなら・・・命は惜しくない>







彼らは「そんな人間、信用できない」と言って
ジョウトの町を駆け巡っていた。

私は、少し・・・・・信用してみようと思った。


他の人間と違うのであれば、捕らえられてもいい・・・その方のためなら―――。






『命は惜しくありません。貴女の為にすべてを尽くせるのであれば』


「スイクン。・・・・・・ありがとう」









そう言ってマスター・は私を抱きしめてくれた。
この方の胸に抱かれ、優しく耳に彼女の胸の鼓動が聞こえてくる。



目を閉じると、あの時と同じぬくもり。



そう、死に絶えたとき・・・優しい光に包まれた・・・あの時と同じように。






「ねぇ、スイクン」

『はい、何でしょうか?』







すると、マスターは私から離れる。
そのときの表情は少し寂しげな表情だった。








「私・・・エンティやライコウと仲良くなれるかな?」

『マスター』

「だって、まるで私を避けるみたいに・・・ジョウトを走り続けてるから。捕まえたとしても、仲良くなれるかな?」









彼女は少し不安なのだろう。

確実に捕らえられるか、そして彼らと同じように接することが出来るのか。








『大丈夫ですよ。マスターなら彼らとも仲良くなれます。少々、彼らは私と違って頑固ではありますが
貴女なら、必ず・・・家族、友達に・・・なれますよ』


「そう・・・そうだよね。うん、ありがとう」







私がそう言うと彼女は安心した表情を浮かべ
再びバクフーンの体に、自分の体を預けた。

私は毛布を咥え、彼女の体にかぶせる。







『今日はもうお休みください。明日もまたたくさん歩かなければなりませんから』

「うん」

『何かありましたら、お申し付けください。すぐに対処いたします』

「ありがとう、お休み」

『お休みなさいませ、マスター・









そう言って、焚き火の火を消した。


暗い空に輝く星。
その中で一番に輝く星は、愛しい我が主人(貴女)。

貴女がこの空、この世界で一番に輝けるよう・・・私はそれをお守りします。


何があっても、貴女を守り・・・愛します。






我が主輝け愛しき星
(貴女はこの空、世界で輝く一番星でいてください)


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