『コイツでいい・・・コイツを実験台にしてやろう』
やめて!
やめて!!
僕は・・・僕は・・・。
『大人しくしろ!!コイキングのクセに”はねる“だけしか能のない役立たずが!!』
やだ!!
やめて!やめて!!
『安心しろ。お前は我々ロケット団のために生まれ変わるんだよ・・・そうだ、凶悪な・・・ポケモンにな』
やめろ!!!!
気づいたら、俺は進化していた。
青いはずなのに・・・体の色を見たら、血のように真っ赤に染まっていた。
そうか、俺は・・・人を殺したんだ。
だから、神様が罰を与えたんだ。
青い体じゃなく・・・人間を殺した罪を背負って生きろと
だから俺の体は赤いんだ。
惨いな・・・この赤は。
夕日のように美しい赤じゃない・・・・・俺の赤は――――。
人 殺 し の 赤 な ん だ 。
いかりのみずうみの真ん中。
俺はひっそりと佇んでいた。
人間は驚いた顔をして俺を見ていた。
珍しいだろう・・・赤いギャラドスなんて。
でもお前達は知らない。
俺のこの赤は罪を背負わされた赤なんだって。
お前らに、俺の気持ちなんか・・・分からない。
「赤い・・・ギャラドスだ」
すると、声が聞こえてきた。
下に目線を落とすと、俺を見上げる人間がいた。
しかも乗っているポケモンは俺よりもはるかに小さなポケモン。
人間も・・・女だ。
女は驚いた顔で俺をジッと見つめていた。
「悲しいの?」
すると女は俺にそう呟いた。
悲しい?
この俺が?
ふざけるな・・・・・・!!!
俺はその気持ちを掻き消すように、尻尾を水中から
引き上げ女に向けてたたきつけた。
だが、女を乗せたポケモンは間一髪俺の攻撃を避けた。
「寂しいんだね、可哀想だったね。でも、もう大丈夫だよ・・・・・・今、楽にしてあげるから」
そう言うと女はモンスターボールを構えた。
そうかお前も俺をあいつ等みたいに捕まえて、ワケの分からないことに使うんだろ?
もう、もう・・・人間に使われるのは真っ平ごめんだ。
お前も・・・ コ ロ シ テ ヤ ル 。
どうせ、この赤が血で染まるなら
染まるところまで染めてやる。
きっと何人、何百と人を殺しても俺の傷は絶対に癒えない。
人間に・・・お前に・・・俺の気持ち、分かるわけないんだよ!!!!
俺は雄叫びをあげ、女に向かって戦いを挑んだ。
気が付いたら、ボールの中だった。
そうか、俺はあの女の繰り出したポケモンの電気に当てられ
マヒした挙句、捕まった。
また人間の道具にされるのか。
もういい、好きにしろ・・・道具にするならすればいい。
俺はもう―――。
そう思った瞬間、温かい光がボールを、俺を包んだ。
何だ?力がみなぎってくる・・・・痺れていた体が癒えていく。
何を・・・俺は何をされているんだ?
『はい、どうぞ』
『ありがとうございます』
すると、ボールの外から女同士のやりとりが聞こえる。
一つは聞きなれない声だが、もう一つは先ほど俺を捕まえた女の声だ。
『その1匹で良いの?』
『はい、他の子は大丈夫なんで。でもこの子は捕まえたばっかりだし、マヒさせちゃってるから。すぐにでも回復させてあげなきゃと思って』
『そう。優しいのね』
『ポケモンはみんな友達です。家族です・・・だから大切にしなきゃ』
友達?
家族?
コイツは俺を道具に使おうとはしないのか?
あいつ等みたいに・・・道具にしようと――――。
『!』
『ちゃん。聞いたよ、湖の赤いギャラドス捕まえたって!!』
『ヒビキ君、コトネちゃん。・・・うん、さっき捕まえて。コレ』
すると、今度もまた別の声が聞こえてきた。
どうやらやってきた二人に俺の入ったボールを見せているらしい。
『大丈夫なのかよ?ギャラドスって・・・凶悪ポケモンだろ?・・・それに赤とか』
『こ、怖いよ。普通ギャラドスって青でしょ?・・・赤いギャラドスとか珍しいけど、怖いよ』
そりゃそうだろ。
だって俺の赤は人殺しの赤だ。
コイキングのときは皆と同じ色だった。
でも、あいつ等に捕まって改造されそうになったとき
俺は進化して・・・あいつ等を殺した。
そのときに出来たのが俺の赤だ。
理解されないのは・・・もう、慣れた。
捕まえたコイツだって・・・・・・俺のこと、怖がるに――――。
『え?怖くないよ・・・・・・綺麗な赤だよ。落ちてたウロコだって、見て!・・・ホラ綺麗でしょ?』
怖く、ない?
初めてだった。
俺のこの赤が、”怖い“という・・・・・・恐怖感情の多い色だった。
だけど、初めて俺はこの赤を”綺麗“と言ってくれるヤツに出会った。
『・・・でもっ』
『大丈夫だよ。このギャラドス・・・とっても寂しそうだったの、可哀想だった。
あのみずうみの雨は、まるでこのギャラドスが泣いてるように思えたの』
『ちゃん』
『だから捕まえたの。貴重とかそういうのもあるけど、一番はこの子の私・・・家族になってあげたいの!
きっとこのギャラドスの赤だって、何か事情があってこんな色になっちゃったんだと思う。
でもそれも個性じゃない!それも良い事なんだよ・・・私はね、この赤いギャラドスの赤ってこの子の個性だと思うの。
綺麗な赤だよ・・・私、このギャラドスの赤・・・大好き』
大 好 き 。
初めてだった。
こんなこと、俺に言ってくれるやつなんて一人もいなかった。
一人として存在しなかった。
俺を見るヤツの目は皆
「怖い」や「恐ろしい」という恐怖に似た目をしていた。
だけど、コイツだけは違った。
恐怖じゃない・・・俺を「助けたい」という目をしていた。
分かったんだコイツには、俺の本当の気持ちが。
寂しかったんだ。
悲しかったんだ。
生まれ、仲間とともに育つはずが
実験台にされそうになって、もがき苦しみ
それでも振りほどけなかった。
怒りや憎しみで、俺は進化した・・・そして・・・・・・――――人を殺した。
俺の赤は「人殺し」の赤・・・血の色そのもの。
だけど、その赤を「綺麗」とコイツは言う。
『が、そういうなら』
『だーいじょうぶだって。ちゃんならギャラドスを立派に使いこなせるって!ヒビキ君が心配しなくてもちゃんしっかりしてるもん』
『ありがとう。ヒビキ君、コトネちゃん』
俺の新たな主・・・それが。
なぁ、。
俺・・・初めてこの色で進化してよかったって思った。
だって俺・・・お前に逢うことできたんだ。
俺この色じゃなかったら、お前に逢えなかったんだよな。
「気持ちいい、ギャラドス?」
「ギャゴゴゴ!」
ある日、俺は外に出ていた。
ワカバタウン近くの隠れ水路、俺は其処で離され
体を休めていた。
俺の体の色を気にしているのか
それともがそうしたいのか分からないが
いつも俺をこの水路に放し飼いする。
まぁ他のポケモンよりも体がデカイというのもあるからだと思う。
「・・・こんな所にいたんですか?」
「あ、ランスさん」
すると、一人・・・水色の髪をした男がやってきた。
その男が現れるとはニコニコとヤツを迎えた。
「ほぉ、赤いギャラドス。・・・・・・もしかして、チョウジタウンのあの」
「え?あの時ランスさん居なかった・・・はずじゃ」
「えぇ、私はあの時は隠れ本部に居ましたから」
何の話をしてるのかさっぱりだ。
俺の脳みそはコイキング時代で止まったままか?
「ロケット団が本来ならこのギャラドスを頂くはずだったんですが、君に捕獲されては手も足も出ないわけですね。
私の元同僚がバクフーンやギャラドスの話を聞いて”猛獣使いか“と言ってましたね」
ロケット団!?
この男・・・・・・・・・まさか、ロケット団!
じゃあは?
も・・・俺を騙してるのか?
この男がロケット団なら・・・・・・も俺を騙して―――。
「ギャゴゴゴゴゴゴ!!!!」
「ギャラドス?!どうしたの?」
途端、俺は暴れる。
俺は・・・お前を信じていた。
あの時の言葉・・・信じてたのに。
お前もまた、俺を・・・・・・道具として扱うのか?!
「ギャラドスどうしたの?落ち着いて!」
「、危険です!下がらないと」
「きゃあっ!!」
「!!」
俺は我を忘れ、暴れた。
の声も耳に入ってこない。
俺はお前を信じてたんだぞ!!
それなのに、お前は・・・お前は・・・っ!!
『いい加減にしろ、ギャラドス』
瞬間、俺の目の前に・・・に忠誠を誓っているスイクンが現れた。
その目からは怒りが見えた。
『これ以上、我が主を傷つけてみろ・・・・・・私はお前を許さないぞ』
『傷つける・・・だと?』
『見ろ』
「!、しっかりしてください!!」
「・・・・っう」
「・・・しっかりしてください!!!」
ぐったりしているの姿が目に飛びこんできた。
の背後に居る男は、必死で
揺さぶるもは少しの反応しか見せない。
『あ・・・あぁ・・・』
『お前が突然怒り狂ったのかは、私には分からない。だが、お前は当たる相手を間違えている。
お前は・・・・・もっとも大切な人を傷つけた。その罪は・・・・・重いぞ』
『お、俺は・・・お、れは・・・・・・』
『私、このギャラドスの赤・・・大好き』
ふと、捕まった直後のあの時のの言葉が蘇ってきた。
俺の赤を唯一”大好き“と言ってくれた
俺の、おれの・・・・・・大好きな人。
『・・・・・・俺、おれ・・・・・・っ』
『とにかくお前はボールに戻れ』
『でも、コイツをこんな風にしたのは俺だ!俺が・・・っ』
『戻れというのが聞こえないのか?・・・・・・私を怒らせるな、ギャラドス』
スイクンは俺を鋭く睨みつけた。
破壊力が高い俺でも
スイクンのずば抜けたすばやさや、特殊能力の高さ。
その他をひっくるめたら俺は確実に負ける。
何より、を想う気持ちは・・・・・・と長い付き合いをしてきたバクフーンと同等レベル。
に心から忠誠を誓っているスイクンからしてみれば
今の俺は――――邪魔だということ。
俺は大きな体をゆっくり動かし・・・開ききったボールに入ろうとする。
「・・・・・・ギャラ、ドス」
?
ふと、顔を上げると
が苦しそうに俺の名前を呼んで・・・・・・頬から涙を流していた。
俺は・・・俺はこの体で――――。
大切な人までも殺そうとしたのか?
『博士、の容態は?』
『うん。ランス君が受け止めてくれたおかげで何とかなったけど・・・・・ギャラドスの尻尾の先に当たったのかな?
体に強い衝撃を受けて・・・・まぁ今のところ命には別状はないって、お医者さん言ってたし』
『そうですか。すいません、私が見ておきながら』
『君のせいじゃないよ。大丈夫、命には別状ないってことだからすぐ目を覚ますさ』
外の会話が聞こえる。
命には別状ないって事だけど
俺は酷く落ち込んでいた。
に裏切られたとか言うのじゃない。
を傷つけた自分自身が情けないと思っていた。
『テメェ!をこんな風にしやがって!!聞いてんのか、ギャラドス!!』
『やめようよ、バクフーン』
すると、バクフーンが俺に噛み付いてきた。
その怒り狂うバクフーンを静止するデンリュウ。
この二人はある意味腐れ縁。
幼年期からの付き合いで、大体噛み付くのがバクフーンで
それを止めるのがデンリュウという役割りだ。
『そうだ、デンリュウの言うとおりだ。バクフーン少し落ち着け』
『落ち着けだぁ?をこんな風にしたのはギャラドスなんだぞ!!もし、もしアイツと旅が出来なくなったらどうするんだよ!!』
『バクフーン・・・落ち着つくのだ。お前が怒り狂っても起きてしまった事はどうすることも出来ん』
『そうだぜ。お前が怒ったところで・・・何の解決になるんだよ』
『で、でもぉ!!・・・クソッ、もういい・・・俺寝る!』
『バ、バクフーン』
スイクンやホウオウ、ピジョットが宥めるも
バクフーンは何か言いたそうだった。
俺は何も喋らない。
『汝・・・・・何か言うことはないのか?』
すると、ホウオウが俺に問いかけてきた。
俺はゆっくり喋る。
『・・・・・・俺は、を傷つけた。お前等が怒って・・・・・当然だと思う』
『じゃあ、何故暴れた?お前が暴れなければ、マスター・はこんな風にならずに済んだんだぞ』
『仕方ねぇだろ!!!俺は・・・俺は、怖かったんだ。に・・・・・・裏切られたんじゃないかって。
も・・・・俺を道具として扱うんじゃないかって。そんなの、そんなの・・・・・・俺は嫌だったんだ!!!』
だから、暴れた。
でも、俺は危うく――――。
この体にの血を浴びるところだった。
『つかさ。・・・・道具として使うんだったら、嬢・・・お前のことや俺たちのこと雑に扱うっつーの』
『え?』
ピジョットの声で俺は声を上げた。
『俺だって幼年期(ポッポの時)から嬢のこと見てきたけど、あの人・・・一度も俺たちのこと道具として扱ったことないぜ。
むしろ、俺ら溺愛され過ぎって感じ』
『さんは僕たちをすっごく大事にしてくれるんですよ。誰か一匹でも毒とか異常状態になったら
道具使えばいいのに、すぐポケモンセンターに連れて行ってくれるんです』
『それは、我々のことを一番に考えているから。マスター・は誰よりも心優しい私たちの主。
だから、我々も万全の体調であの人の行く手阻むもの・・・倒さなければならないんだ』
『あの娘は我等の眠りを覚ました。だから、我もあの娘の為なら・・・長く生かしているこの命を
思う存分、あの娘のために捧げようと・・・だから、我はあの娘を選び此処に居る』
『お前ら』
それぞれが、それぞれの想いを持って・・・を想っている。
それはアイツが・・・・・・俺たち一匹一匹を信じているから。
信じているから、戦える・・・ともに旅が出来る、笑いあえる。
『お前はどうなんだよ』
『バクフーン』
すると、今まで黙り込んでいたバクフーンが俺に話しかけてきた。
『俺は此処に居る奴等よりも家族同然での側にいる。だから、たとえ・・・を傷つけたやつが
仲間から出たら・・・俺は許さない。正直許したくもない・・・・だから、あえてお前に聞く』
『お前は、の事・・・・・・どう思ってるんだよ』
バクフーンに問いかけられ、俺は黙り・・・・・しばらくして、沈黙を破った。
『俺は・・・この赤い体のおかげで、誰も・・・誰からも相手にされなかった。怯えた目で見られ、怖がられた。
だけど、だけは違った・・・俺のこの体を綺麗な赤だって言ってくれた・・・・・嬉しかった』
あの時のの言葉が俺を救った。
あの言葉で俺は救われた。
『俺・・・おれ・・・・・・アイツの側に、ずっと居たい。死ぬまで・・・・・ずっと居たい』
笑って、泣いて、怒って、悲しんで。
ボールの中から聞こえるの声に
俺は心が躍った。
「あぁ、コレがコイツなんだ」って。
単純で、ちょっと抜けてて、でも一度バトルに入ると
決して隙のない攻撃を指示する。
勝つと、すごく喜んで。
負けると、泣いて「ゴメンね」と俺たちに謝り続ける。
泣いてると「お前のせいじゃない、力不足な俺が悪い」って
そう思いながら俺はのために強くなった。
『・・・・・・ゴメン、ゴメンッ。俺、俺が悪かった・・・・・・だから、だから俺を嫌いにならないでくれ。
俺、お前に嫌われたら・・・怖い、怖いんだ。・・・・・ッ』
「・・・・ランス、さ」
「!?・・・目を、覚ましたんですか?」
「・・・はぃ」
すると外から、の声が聞こえた来た。
俺たちは耳を澄ました。
「あの・・・・・・ギャラドスの、ボールは?」
「え?・・・此処に。何を?」
俺のボールが持ち上げられると
優しい手が俺のボールを包んだ。
あ、の手。
「ギャラドス、ゴメンね。私がもうちょっとしっかりしてたら、こんなことにならなかったのにね・・・・・ゴメンね」
違う。
違うよ。
お前は、すごく優しい俺たちの主だ。
お前は何も悪くない。
悪いのは怯えていた俺だ。
「ゴメンね、ギャラドス。ゴメンね」
謝らないでくれ。
俺が本当はたくさん、謝らなきゃいけないのに。
それからしばらくして、も無事に退院して
俺はいつもどおりワカバタウンの隠れ水路で放し飼いされていた。
目の前には。
「さて、ギャラドス君・・・・私に何かする事あるでしょ?」
「・・・・・・・ギャゴゴゴ」
にそう言われ、俺は体全部を彼女の前に降ろした。
ようするに土下座(のつもり)。
「どーしよっかなぁ〜・・・パーティから外しちゃおうかなぁ〜」
「ギャゴッ?!」
ちょっと待て!?
さすがにそれは勘弁してくれ!!!
俺はまだボックスに入るには早いだろ!!
隠居生活なんてそんなの、ホウオウとかがするようなもんだ。
俺は首をブンブンと横に振って”イヤだ“のサインを出す。
「冗談だよ。でも、もうあんな事しちゃダメだからね」
「ギャゴ!」
「うん、いい子。・・・今日も綺麗な赤だね、ギャラドス。私の大好きなギャラドスの赤」
そう言っては俺を撫でた。
俺、死ぬまでお前の側に居る。
自分自身、この赤が大嫌いだった。
だけど、お前がこの赤を好きと言ってくれたから
ちょっとだけ、自分でもこの色好きになってきた。
お前がこの赤を好きというなら
俺もこの色好きになれる。
約束する。
お前を傷つけたり、泣かせたり絶対しない。
だけど、お前を傷つけるヤツや泣かせるヤツがいるなら俺は許さない。
だってお前は俺にとって
唯一の友達で、家族で・・・大好きな人だから。
真紅に染まりし龍の誓い
(この命朽ち果てるまで。この色褪せることなく君に忠誠を誓います)