あの日からようやく、彼女と和解し
私は少しでも歩けるように、歩く練習をたくさんした。
そのとき、もちろん支えをしてくれていたのはだった。
今となっては歩くどころか走ることも可能になった。
ベッドから起き上がり、自分の足で地を歩き・・・走る。
今までと同じような動きが出来るようになった。
「、私も手伝います」
「あ、いいですよ。お兄さんはまだ怪我人で」
「これもリハビリです。手伝います」
「そ、そうですか。じゃあ、そのレタスを千切ってお皿に盛ってください」
「分かりました」
と二人でキッチンに立つ。
傍から見れば、まるで歳の離れた妹との仲睦まじい光景に見える。
だが、幼い彼女に私は、恋心を抱いていた。
少女に恋を抱くなど、私も思わず自分で笑ってしまった。
だけど、抱かずにはいられなかった。
正体も分からないこんな男に、は優しくしてくれた。
時に困った態度を起こすこともあったが
それは彼女がまだ何も知らない、真っ白な存在であるから。
だから、好きになった・・・好きになってしまった。
私はレタスを千切りながら、の顔を見る。
「・・・どうかしましたか?」
「いいえ、何でもありません」
視線に気づいたのか、は問いかけてきたが
私は”何でもない“という言葉で濁した。
ずっとこのまま・・・ロケット団が目を冷ますことがなければ
私はずっと、ずっと・・・―――――。
だが、それも叶わぬ願いだった。
風の強い夜。
ワカバタウンの若葉の木が激しく揺れ
風が激しく吹き荒れる。
窓がガタガタと動き、嵐でも来るのではないかと思った。
私はベッドで体半分を起こし、本を読んでいた。
側に置いてあった時計を見ると
深夜を回っていた。
「そろそろ寝なければ」と思い
読んでいた本を閉じ、点けていた電気スタンドのスイッチを切ろうとした。
『キーッ、キーッ、キーッ』
すると、甲高い鳴き声が窓から聞こえた。
私はスイッチから手を離し、窓を見ると―――。
「ズバット!」
随分前に他の団員のことを調べるよう
外へと飛び立たせた私のズバットが私を呼んでいた。
私は急いで窓を開け、ズバットを中へと入れた。
中に入れた途端、ズバットはもう羽を羽ばたかせる力も残っていないのか
フラフラしながら私の胸にやってきた。
「ズバット。・・・よく戻ってきましたね」
「キーッ・・・」
「まずは体を休めなさい。報告はまた後で聞きます」
「キーッ・・・」
そう言ってズバットは静かに羽を休めた。
コイツが私の元に戻ってきたというのは
他の団員・・・ラムダやアテナさん、アポロさんといったメンバーの動きを察知したのだろう。
そして―――との別れがやってきたのかもしれない。
いや、まだ別れると決まったわけじゃない。
ズバットの報告次第で私も動くことにしている。
他の団員に何の動きが見られないのならば
私はこの町を出ることなく、とずっと一緒に居れる。
だが、もし動きがあるとするなら
この町を出て、とも二度と会うことなく・・・また闇の世界に逆戻りをしなければならない。
ひとまず、ズバットが目を覚ますまで
私は一人静かに待つことにした。
『・・・というワケよ。・・・こっちは何とかうまくやってるわ』
『今現在、我々は地下深くに潜り・・・新たなる作戦を練っているところです』
『早く戻ってこいランス!何処で油売ってやがるんだよ!!』
外の風が静まり、ズバットも目を覚ました。
そして彼が集めた情報の報告を聞いていた。
何とかみんな無事逃れ、他の場所に身を隠しているようだ。
報告からして、確信した。
こ の 町 を 出 な け れ ば な ら な い 。
そして、とも別れなければならない。
仕方のないこと。
ロケット団の幹部として、生きている以上・・・団のため、そして居なくなられたサカキ様のため。
私は、動かなければならない。
また、冷酷な男に私は戻るのか。
ロケット団の幹部・ランスとして生きていたはずなのに
たった数ヶ月・・・幼い少女との生活で、一人の人間に戻っていた。
そして、少女に私は恋をした。
離れたくない・・・離れたく、ないのに――――。
「すべては・・・・・・ロケット団のため。・・・、側に居れない私を許してください」
そう言って私はベッドから出て
部屋に置いてあった、が買ってきてくれた私の服とジャケット。
それに着替え、ジャケットを脇に抱え
肩にズバットを乗せ、ドガースのモンスターボールを縮小させポケットの中へと入れ
階段を下りた。
階段を下りると、机に突っ伏して眠っているの姿を見つけた。
私は近づき、彼女を揺さぶり起こす。
「・・・」
「んっ・・・お、兄さん?」
起こすと彼女は眠そうに目を擦りながら私を見た。
「こんなところで寝てたら風邪を引きますよ。ちゃんと自分の部屋で寝なさい」
「ぅん。・・・おやすみなさい、お兄さん」
「えぇ、おやすみなさい」
そう言うと、はフラフラしながら
自分の部屋へと戻っていった。
それを確認し終えて、私は置手紙を残しの家をゆっくり出た。
風はもう木々を揺らすことなく、止んでいた。
私は一歩一歩、ワカバタウンを・・・の側を離れていく。
『行かなければならない場所があり、急ではありますがお暇します。
今までほんとうにありがとうございました。こんな私を助けてくれて、そして優しくしてくれて
本当に嬉しかったです、ありがとうございました。またいつかどこかで逢えたら』
その時は伝えたい。本当にありがとう、そして―――――。
「・・・・・・愛してます」
伝えきれなかった、私の想いを。
―3年後―
「ヤドンのしっぽは高く売れますからね。ヒワダタウンは本当に素晴らしい町だ」
あれから3年の月日が流れた。
ロケット団の完全復活までには資金がどうしても必要となり
ヤドンのしっぽを切って売りさばくということをしていた。
ポケモンには痛みなんてない。
切ってもどうせまた生えてくる。
まぬけポケモンのヤドンのことだ。
そんなもの気にもしていないはず。
「コラァァア!!貴様らか、ヤドンのしっぽを切っている奴らは!!」
「誰ですか、アナタ?」
すると、ヤドンの井戸に見知らぬ男が怒鳴り込んできた。
まったくこういう人間は感情的で
相手にするだけで時間と労力の無駄だ。
「ガンテツさん!」
「ちょっ、何これ!?」
「ひ、酷い」
すると、男の後ろから子供が3人やってきた。
見るからに旅格好・・・ということはトレーナーか。
「ヤドンにこんなことさせるなんて。チコリータ!」
「ロケット団・・・許さないんだから!!私のマリルで」
「待って!ヒビキ君、コトネちゃん」
帽子を被った少年と、髪を二つ分けをしてこれまた帽子を被った女の子が
私に戦いを挑もうとしたが、彼らの後ろからロングヘアーの女の子が立ち上がった。
「此処は私にやらせて」
「えっ・・・で、でも。お前は今さっき此処に着いたばっかりだし」
「そうだよ。此処は私やヒビキ君に」
「うぅん、やらせて。大丈夫だよ・・・私も、この子も・・・まだ、戦える。二人とも、お願い」
彼女の言葉に、二人は黙ってその後「うん」とだけ答えた。
たかが、旅のトレーナー・・・しかも子供だ。
赤子の手を捻るほど倒すのは容易い。
ロングヘアーの子はいまだ
私に背を向け、こちらを見ようとしない。
「それで、私の相手をしてくださるのはそこのロングヘアーのお嬢さんでしょうか?
女の子だからといって私は手加減しませんよ」
「酷いよ・・・。ヤドン、何も悪くないのに。・・・許さない」
「これも我々の”ビジネス“ですから。まぁまだ子供の貴女には分からない世界でしょうけどね」
「分かりたくもないわ!・・・こんなの、ただの・・・悪事よ!!・・・許さない、許さないんだから」
瞬間、少女は振り向いた。
ロングヘアーが美しく靡(なび)き、顔が表情がはっきり見えた。
その顔を見た瞬間、私は目を疑った。
まさか・・・君は―――――。
「!ヤバくなったら、いつでも言えよ!!」
「そうだよ、ちゃん!!私たちも手助けするから!!」
「ありがとう・・・ヒビキ君、コトネちゃん」
・・・・・・君なのか?
私が目を見開かせ驚いていると
と思われる少女がゆっくりと歩きながら
腰に下げていた縮小したモンスターボールを元のサイズに戻し
中からポケモンを出した。出てきたのは――――。
「ヒノアラシ。・・・・・いけるね?」
「キュー!!」
ひねずみポケモン・・・・・ヒノアラシ。
このポケモンを扱えるのは、私の中で・・・たった一人。
やはり、君なんですね・・・・・。
こうなる、運命だったのか・・・・・―――3年前のあの日から。
出逢い、そして・・・敵同士になるという。
もう、君は・・・・・私のこと、覚えてないだろうね。
私は帽子を深く被り、目を光らせ
目の前のを睨み微笑んだ。
「良いでしょう。ロケット団でもっとも冷酷な男・・・このランスが貴女のお相手をして差し上げましょう」
神よ。
これがアナタの望んだ結末なんですね。
これがアナタの望んだ未来なのですね。
これが・・・これが・・・――――。
許されない恋の終幕なんですね。
望まれない別離、望みない未来
(3年の月日で、私は変わり・・・君も、変わってしまった)