「ちっくしょー!!何だよあのガキども!!」
「まったくだわ。私たちの計画が悉(ことごと)く潰されるなんて。あんたのフォローが悪いのよラムダ」
「ちょっと待ってくださいよ、アテナ姐さん!俺様の何処が」
「全体的に・・・ちょっとは進歩したらどうなのよ?」
「くぅ〜!!ちょっと上だからっていい気になりやがってこの年増がっ!!」
「なーんですってぇえええ!!!!!」
妨害電波をチョウジタウンから発生させ
サカキ様へと届かせようとしていたが、またしても旅のトレーナー3人衆に行く手を阻まれ
さらには黒いマントを羽織った男にまでも邪魔をされ
ラムダとアテナさんは退却してきた。
私は壁に寄りかかりながら、二人の話を聞いていた。
「特にあの小娘がむかつく」
「俺の相手してた、マリルリ持ってたガキか?」
「違うわよ!・・・珍しいポケモンだったわ、炎を後ろに纏った・・・怪獣みたいなポケモンのマスターよ」
炎を纏った・・・怪獣みたいなポケモン。
まさか・・・?!
この件にまで首を突っ込んでくるとは。
どうやら本気で私と彼女は完璧に敵同士というわけか。
「あの黒いマントを羽織った男とタッグで、私も近くに居た下っ端で応戦したけど・・・ったく使えない」
「よーするにアンタも負けてきたってわけかよ」
「それに、いかりのいずうみに居た・・・赤いギャラドスなんか出してきたから、威嚇で負けるわよあんなの」
「なんじゃそりゃ!?猛獣使いかよその小娘」
いずうみに居たギャラドスまでをも懐かせてしまうとは
さすがと言うべきか・・・・・・は本当に恐ろしい子だ。
「此処まで子供にコケにされたら・・・もう最終手段をとるしかないですね」
「アポロ」
すると、アポロさんが奥の部屋からやってきた。
このままやられっぱなしでは、復活なんてできっこない。
サカキ様にも声が届くはずない。
「コガネシティのラジオ局を占拠しましょう、そうすればどこかにいらっしゃるサカキ様に声が届くはず」
「もう、それしかないわね」
「あぁ」
「すべてはロケット団のために・・・サカキ様のために」
我々はそう団結し、足を動かした。
「ランス」
「・・・何か?」
すると、突然アポロさんが私を呼び止めた。
私は振り返りかの人を見る。
「お前・・・ヒワダタウンでの、バトル以降・・・何があったんです?」
「と、申しますと?」
「どこか、物思いにふけっているというか・・・・・・・・・あの、とかいう少女と面識でも?」
アポロさんは厳しい視線で私を見てきた。
私は鼻で笑い、答えた。
「まさか。彼女は我らの野望を邪魔する忌まわしきトレーナーですよ。そんな子供と面識があってどうするんです?」
「そうですか。私の思い違いと?」
「考えすぎですよ。今度こそ、成功させましょう・・・・・・ロケット団、完全復活のために」
「そうですね」
そう言って、アポロさんは私の前を歩いた。
ヒワダタウン、ヤドンの井戸でのとのバトルで私は
見事に彼女のポケモンに負けた。
あのヒノアラシが・・・此処まで高い戦闘能力を持っているとは。
そして、あの優しいがこんなにまで美しく、そしてたくましい子に成長していた。
あのときのの目には、涙が浮かんでいた。
そして、その目には怒りが見えた。
何の罪もないポケモンを傷つけられ、涙を流し
そのポケモンを傷つけた私に怒りを覚えていたのだ。
先ほどのラムダやアテナさんの話を聞く限り
と彼女のポケモンはさらに強くなったに違いない。
だが、私も負けっぱなしというわけにはいかない。
野望のために、大好きな彼女の元を去った。
大好きだったの元を去らなければならなかった。
どれだけ辛く、どれだけ悲しかったか。
その苦しみを押し殺すように、悪事に手を染めた。
気づいたら、と言う存在を忘れていた・・・・・・そう、ヒワダタウンで、敵同士として再会するまでは。
もう、負けるわけにはいかない。
此処ですべての気持ちを払拭させなければ、私はいつまでも
彼女を想い・・・それを引きずり続けるに違いない。
此処で・・・・・・あのラジオ局で、出逢ったら最後・・・・・・もう、想いを断ち切るしかない。
好きという、愛してるという・・・・・・・・・バカげた感情を。
ラジオ局の占拠には成功。
だが、やはりやってきた・・・・・・子供のトレーナー3人。
下っ端の奴らの報告によると、団員はほぼ全滅。
ラムダと子供のトレーナーの一人・・・・・・報告では二つ分けの女の子と戦闘。
末にラムダは見事に負けたが、相手のポケモンに重傷を負わせることが出来たらしい。
つまり、その子はもう動けない。
ということは、男のほうとが確実にこちらにやってくる。
すると、階段をすごい勢いで上がってくる音がする。
団員はほぼ全滅状態・・・ということは―――。
「あっ!」
「こんなところにもロケット団がっ」
男のトレーナーとが現れた。
彼はを庇うように後ろにと控えさせた。
「これ以上先には進ませませんよ。さぁ、大人しく――」
「ヒビキ君・・・先に行って!」
「ッ!?」
すると、が突然前に出てきた。
あまりの行動で私は驚いた。
「此処は私に任せて!」
「でも、」
「みんなでチャンピオンになるって約束、忘れたの?コトネちゃんの努力、無駄にする気?」
「・・・・・・・分かった。こっちが片付いたらすぐ来る!それまで」
「大丈夫だよ、私・・・・・・負けたりしないから。早く行って!!」
そうが彼を促し、彼はエレベーターに乗って
5階へと向かった。
馬鹿だ・・・5階には幹部のアテナさんが残ってるし、展望台にはアポロさんだって。
一人で倒せるはずない。
「アナタの相手は、私がするわ!」
「ヒワダタウンでの汚名返上させていただきますよ・・・・・・お嬢さん」
私はゴルバットを出し、そしてはヒノアラシの最終進化形であるポケモンを繰り出してきた。
すると、のポケモンが突然私をジッと見つめてきた。
「バ、バクフーン?」
「・・・・・・・・・」
「バクフーン、どうしたの?」
彼はジッと私を見つめている。
まさか、気づいた?・・・いや、そんなはずはない・・・そんなはずはない。
ズバットもゴルバットに進化して、ドガースもマタドガスに進化した。
私だって、あのときの私じゃない。
気づくはずないんだ。
「今更・・・アナタのポケモンは怖気づいたんですか?」
「!!・・・違う、むしろ余裕よ。甘く見られちゃ困るわ」
「そうでしたか、これは失礼しました。では行きます・・・これが最後ですよ、お嬢さん!!」
「アナタのほうこそ!!」
。
きっと君は分からないだろうね・・・君は、私を忘れてしまったから。
好きだったんだよ・・・愛してたんだよ、君の事。
3年の月日が、私や君を変えてしまったけど
あのヒワダタウンでの再会が・・・・・・私を3年前のあの日へと戻してくれた。
名も知らない、正体も分からない私に優しくしてくれた君を―――。
気づいたら、完敗。
ゴルバットもマタドガスも戦闘不能。
私も彼女のポケモンの技に当てられ、ボロボロ。
床に倒れていた。
すると、彼女の持っていたポケギアが鳴る。
「もしもし、ヒビキ君?・・・・・・うん、そう・・・そう、分かったわ」
会話を終えると、彼女は倒れている私を見た。
「展望台に居るアナタの仲間・・・もう無理だと悟ったみたい。ロケット団は解散よ」
「・・・・・・そう、ですか。まったく、3年前と同じか」
私はボロボロの体で、起き上がった。
「何処へ行くの?」
「さぁ、捕まらないどこかに・・・ひっそり暮らすとします。では、御機嫌よう・・・・・・可愛いトレーナーさん」
そう言って私は、隠し持っていた
あなぬけのヒモを使ってその場から消えた。
あなぬけのヒモで運良く着いた場所が、路地裏だった。
コガネのラジオ局にはすでに警察が入りこみ
たちに倒された団員達は次々に捕まっていく。
その中にラムダやアテナさん、アポロさんの姿は無かった。
だが、アポロさんは「解散」と言ったのだから
きっともう動き出すことはないだろう。
だが、幹部クラスの我々が逃げ延びたということは、いずれ指名手配にでもなるか。
「3年前と同じじゃないですか・・・まったく、3年前の子供といい、彼らといい・・・邪魔ばかりして」
だが、に再び出会えた。
私はそれだけで嬉しかった。
幼かった彼女が此処まで成長していたから・・・美しく、そして強く。
これで・・・・・・いいんですよね、きっと。
私は開けていた目をゆっくり閉じた。
体を誰かに突付かれている。
誰だ?もう私は疲れたんだ・・・少しくらい眠らせてくれないか。
そう思いながら閉じていた目を開けると――――。
「き、君は・・・っ」
「グルルル」
のポケモン・・・・・・確か、バクフーンと言ってたような?
「私が・・・・・・分かるのですか?」
「グルッ」
バクフーンの頬に触れると、彼は喉を鳴らしながら喜んでいた。
「バクフーン!バクフーン、何処に居るの?・・・バクフーン!・・・・・あっ、アナタッ」
「ぉや。ご主人のお出ましですよ」
すると、バクフーンが心配だったのか
が彼を探しにやってきた。
だが、バクフーンだけではなく私の姿も見つかってしまった。
「バクフーン、何してるの!!この人は悪い人なのよ!!側によっちゃダメ、警察を」
「グルルル!!!」
「えっ?!」
が警察を呼びに行こうとしたが
バクフーンが彼女の袖を引っ張り、行くのを阻んだ。
彼の突然の行動には目を見開かせ驚いていた。
「何庇ってるの!?悪い人なんだよ!ポケモンを悪いことに使ってた人なんだよ!!」
「グルー!!グルルルル!!!」
「おやめなさい」
「グルゥ」
私がそう言うと、バクフーンはの袖から手を離した。
そして、彼は私に近づく。
「彼女は・・・・・・もう、覚えてないんですよ。仕方のないことなんです」
「え?・・・どういう」
「・・・・・・大きくなりましたね、私は嬉しいです」
もうこれ以上隠し切れないか。
そう心の中で呟き、私は深く被っていた帽子を脱いだ。
私の姿を見た瞬間、は驚いた表情になる。
「・・・・・・ぉ、お兄さん?」
「はい、お兄さんです。3年前、君が助けてくれた・・・・・・お兄さんですよ」
そう言うと、は地に膝を付き
私にそっと触れる。
「お兄さっ・・・・・・どう、して。何で・・・・・ロケット団なんかに」
「私は、元からロケット団の幹部でした。・・・3年前のあの日も、命からがら・・・カントーからジョウトのほうに逃げ込んだんです」
「私を、騙したの?」
「そのつもりは・・・・まったくありません。最初はただ、体を休める場所としてそして、身を隠す場所として・・・傷が癒えたら
すぐにでも出て行こうと考えていました」
「じゃあ、何で・・・ずっと、居たの?」
「君が愛おしくなって・・・・・・側を離れることが出来なくなっていました」
気づいたら、君に恋をしていた。
まだ幼い君に、私は恋を抱いていた・・・愛を持っていた。
「でも、私はロケット団の幹部。普通の人間の生活は・・・・・・・・・許されなかった。だからすべてを明かすことなく
私は君の家から、黙って出て行きました」
「お兄さん」
「ヒワダタウンで、3年ぶりに君と再会したときはビックリしました。忘れていた記憶が蘇って来たんですから」
「私・・・ゎたし」
すると、はポロポロと涙を流し始めた。
私は手を伸ばし、そっと彼女の頬に触れ
そのまま自分の元へとゆっくり引き寄せ、抱きしめた。
「私に酷いことをしたと思ってますか?」
「だって・・・だって、お兄さんは・・・お兄さんっ」
「君は正しいことをしたんです。悪を裁くのは、当然の行いです」
「だけど・・・っ!」
「私は悪なんです。でも君から裁かれるのであれば・・・・・・私は本望ですよ、」
そう、君から裁かれるのであれば・・・それでよかった。
君から倒されるのであれば・・・それでよかった。
「泣かないでください、。私は、君に再び逢えただけで・・・・・・幸せです」
「お兄さん」
「そして、こうやって・・・君とまたあの日みたいに話せて・・・・・・嬉しいです」
「お兄さっ・・・・・・・・・・・ランスさんっ」
ようやく、彼女の口から・・・私の名前が出てきた。
3年間・・・・・・決して呼ばれることのない私の名前だった。
だけど、ようやく・・・・・・君の口から、私の名前が出てきた。
それを聞けただけで・・・・・・私は幸せだ。
「・・・大好きです、愛してます・・・・・誰よりも」
そう、誰よりも・・・私は、君を愛してる。
その気持ちだけは、決して変わることがなかった。
いや、変えることが出来なかった。
本当に、私は馬鹿な男だ。
『ー!』
『ちゃーん!!』
「ヒビキ君、コトネちゃん」
「さぁ、お行きなさい・・・」
「ランスさん・・・・・・貴方はどうするの?」
「私は、とにかく逃げます。ほとぼりが冷めたら、君の前にひょっこり現れるとします」
「ランス、さん」
私はそっと、の頬に触れ涙を拭いた。
「大丈夫ですよ。さぁ、行きなさい。・・・・・・バクフーンも、を頼みますよ」
「グルッ!」
「ランスさん・・・・・また、またっ!」
「えぇ、また・・・逢いましょう。その時は、もう私は逃げたりしません・・・君の前から逃げたりしないと誓いましょう」
私がそう言うとは
嬉しそうな顔をして、路地裏を出て明るい世界へと戻っていった。
私はボロボロの体を立ち上がらせ、暗い世界へと戻っていった。
大丈夫・・・もう、明るい世界に怯えないよ。
だって、その先には必ず君が居るから。
「・・・・・・新チャンピオン、誕生か」
新聞の見出し一面を、新たなチャンピオンの誕生の記事で
華々しく取り上げられていた。
心地よい風が部屋に入り込み、私は微笑んだ。
記事の写真に写っているのは
トレーナーのヒビキ。
同じくトレーナーのコトネ。
そして―――。
楽しそうにピースサインをしているの姿。
私は新聞を閉じ、机に置いて
椅子から立ち上がった。
「さて、新チャンピオンのお祝いに花束でも買って行くとしますか」
そう言って、部屋の扉を開け外に出る。
温かい日差しが私に降り注ぐ。
このぬくもりはまるであの日、に包まれたように優しかった。
私は携帯を出して、番号を出した。
「あ、もしもし?ですか?・・・・・私です、ランスです。えぇ、記事見ましたよ。おめでとうございます。
今からそちらに伺おうと思ってるんですが、今どちらに?・・・えぇ、えぇ・・・そうですか。じゃあ今からそっちに行きますので
待っててくださいね。えぇ、ではまた後で」
携帯を閉じて、足を一歩一歩動かす。
3年前のあの日から、望みもしないことがすべて舞い込み
そして、望んではいけないと思っていたことが
ようやく・・・・・・―――叶えられた。
今から君の所に行くよ。
大きな花束を持って、私を受け入れてくれた優しい君のところに。
そう、私がようやく望んだこと。
永遠に、何の壁もなく
君を愛し続けるということ。
望んだ未来、望まれた幸福
(ようやく、私は一人の人間として君を愛することが出来る時が訪れた)