※この作品は軽いボーイズラブ系であり、ショタ同士のフェラチオしか出てきません。女性キャラは一切出てこない点、あらかじめご了承くださいますよう、よろしくお願いします。
夏休みだ――といっても、今日は留守番をしなければならない。
「つまんねーなぁ……」
マンションの一室、姉と二人で使っている自室のベッドで小学四年生の孝司(たかし)はボンヤリと上を眺めていた。
カーテンで仕切られた二段ベッドの下は孝司のプライベートルームである。見上げる先にはアニメのキャラクターや雑誌から切り抜いたサッカー選手のシュートシーンなどが張り付けられている。だが、それを見たところで退屈がしのげるわけもない。
「どーすっかなぁ……ゲームの真(まこと)に貸してるしなぁ…………」
半ズボンから突き出る日焼けした足をバタつかせながら、孝司はボンヤリと暇潰しの方法を考え込んだ。
(そうだ!)
あるアイデアを思い付き、勢いよくカーテンを開ける。
九畳ほどの自室には、勉強机が二つ、仲良く並んでいた。孝司はそのうちのひとつ、様々なシールがはられていない、こぎれいな机の方に向かい、ガサコソと引き出しの中をあさりはじめた。
(確か……)
一番下の大きな引き出しを開き、そのさらに奥の方をかきわめてみる。
不意にたかしはニヤリと笑った。
「みーつけた!」
取り出したのは、薄っぺらい冊子だった。まるで音楽の教科書のように薄い本だが、姉が自分に見せまいと隠していた本であるのは、まず間違いないだろう。
確か『ドージンシ』という名前の本だったと記憶している。
だが、どうして姉が隠していたのかまでは、よくわからない。
「……げっ!? これで千円!?」
裏表紙に書き込まれていた値段を見て、孝司はギョッとなった。改めて表紙を見てみると、アニメ絵の、半裸の男の子が二人ほど描かれている。タイトルは『BOY×BOY』。よくわからないが、どことなくHな感じだ。
(もしかしてホントにHな本だったりして……)
孝司はドキドキしながら、その場に座り込み、ページをめくってみた。
見慣れた少年マンガ風の絵柄ではないため、奇妙な感じがする。どことなく、幼馴染みの部屋にあるマンガに似ているように思えた。
ストーリーは――よくわからない。
よくわらないが、先を眺めてみると、髪の黒い男の子が髪の白い男の子とキスをしていた。「うげっ」と思ったが、先が気になってので、さらにページをめくってみることにする。
たかしはさらにギョッとした。
髪の黒い男の子が、髪の白い男の子のペニスを舐めていた。
黒髪の少年は「どうだ?」と尋ね、白髪の少年が「気持ちいい……」と答えている。
「うぉおおおおお」
意味もなく歓声をあげてしまう。
その頃にはもう、孝司のペニスも勃起していた。初めての経験ではない。まだ、よく理解していないが、興奮してくると勃起することぐらいは孝司も理解している。だから、それほど彼は驚かなかった。
しかし。
――ピーンポーン
突然のチャイムは、彼を慌てさせた。
「うわぁっ!」
急いで本を机の中に戻し、アタフタと周囲を見回した後、意味もなく自分のベッドを眺め、そうか、チャイムが鳴ったんだから客が来たんだと思い付き、ドタバタと足音を響かせながら玄関先へと駆け出していく。
「はーい!」
孝司はチェーンロックをかけたままドアを開いた。
「あっ……」
と、玄関の前にいた人物が後ろにさがる。
クラスメートの真だった。スポーツが苦手で、肌も色白なせいで「もやし」とイジメられることもあるが、孝司にとっては気軽にいろんなことを話し合える仲のいい、一番の友達だ。
ただ、今日の真はいつもの雰囲気が違う。
「あの……さ…………」
真はオドオドしながら、手にぶらさげていたリュックから携帯ゲーム機を取り出す。孝司が貸したものだ。それを見た孝司は、すぐに真が、ゲームを返しにきたのだと勘違いする。
「ちょっと待てよ! 今、開けるからさ!」
すぐ玄関を閉ざし、チェーンロックを外す。次いでバンッと開けたあと、孝司はオドオドする真の手首を目を輝かせながらむんずと掴んだ。
「暇だろ? あがれよ! いいもん、みっけたんだ! ほら、早く!」
興奮気味に急き立てる孝司。
真は用件を切り出すことができず、部屋にあがることしかできなかった。
♥
「なっ? すげーだろ? 姉ちゃん、こんな本、隠してたんだぜ!」
部屋に連れ込んだ孝司は、真を姉の学習机のそばまで連れ込むと、先程初めてみたばかりの『ドージンシ』を床に広げ、得意げに見せ付けた。もちろん、見せる場所は、ペニスを口に咥えている、あのページである。
だが、真は『ドージンシ』を見ようともせず、右手に携帯ゲーム機を持ったまま、顔をうつむかせ、ペタンと正座したままだ。
「……真?」
不思議に思い、孝司は小首を傾げた。
その瞬間。
「ごめん!」
真はバッと、携帯ゲーム機を孝司に差し出した。
そこでようやく、孝司は異変に気付いた。液晶モニターの部分に亀裂が走っているのである。液晶そのものは変色していないものの、貸した時にはなかった亀裂がついているのは明白だ……
「こ、壊したのか!?」
「ごめん!」
「そんなぁ……嘘だろ…………」
驚きと失意とで体中から力が抜けていく。
これまで、孝司の家にはゲーム機が無かった。父親がテレビゲームなど勉強の邪魔になるだけだと頑固に言い張ったためだ。それでも、真面目に家のお手伝いを続けながら何度も何度も頼み込んだことで、ようやく孝司は携帯ゲーム機の所持を許された――その携帯ゲーム機が壊された。それも、一番の友達だと思っていた真によって。
「ど……どうしてくれるんだよ!」
孝司は立ち上がりながら怒鳴りつけた。
「ごめん!」
真は顔をうつむかせたまま謝り続ける。
だが、
「弁償しろよ!」
と孝司が告げると、言葉を失い、黙り込んでしまった。
弁償できるはずなどない。真も孝司と同じ小学四年生だ。お小遣いなどたかが知れているし、クラスの中でカードゲームもベイブレードも買えないでいるのが二人だけだったからこそ、こうして仲良くなったようなところでもある。
孝司もそれはわかっていた。だが、わかっていても、怒りは収まらなかった。
「どうすんだよ! 弁償しろよ! 真が壊したんだろ!?」
「……ごめん」
真の肩が小刻みに震えた。ポタッ、ポタッと、半ズボンから突き出る白い太股の上に涙がこぼれ落ちる。
不意に孝司は罪悪感を覚えた。
真は滅多なことは涙を流さない。小一の頃からの付き合いだが、これまで真は、二回しか孝司の前で泣いたことが内のだ。
一度目は二人の目の前で真の家の犬が死んだ時。
二度目は、母親が『リコン』して家から出ていったと公園で打ち明けてくれた時。
今、真はそれと同じぐらいの辛さを味わっている――そう思うと、孝司の怒りは急速にしぼんでいった。それでも、簡単に許してやれるほど孝司も大人ではない。何か『許すための言い訳』があれば……『許すための言い訳』が…………。
(……?)
ふと、足元に広げられたままの『ドージンシ』が目に入った。
真がポツリとつぶやいたのは、まさのその時だった。
「……ごめん……なんでも孝司くんの言うこと、きくから……だから…………」
(……あっ!)
閃いた。これだけ屈辱的なことなら、携帯ゲーム機を壊したことと釣り合いそうだ。
「今の言葉、本当だな!?」
孝司は尋ねた。
真はうつむいたまま、コクンと頷く。
「すっげー、イヤなこと命令するぞ?」
再び真はうつむいた。
少々の優越感を感じながら、孝司は『ドージンシ』を踏みつけた。
「これ、やれよ」
真は無言だった。
どうやら言葉の意味がわからなかったらしい。それでも、涙目のまま顔をあげ、孝司がグリグリと『ドージンシ』を踏みつけると、ようやく意味を理解し、ハッとなって、顔面を蒼白にさせる。
それでも彼はうなずくしかなかった。
弁償できないから。
それに――こんなことで、一番の友達に捨てられたくないから。
♥
立ったまま半ズボンを脱ぎつつ、孝司は少しだけ後悔していた。
なぜ一番の友達に、よりにもよって、ペニスを咥えろなどと命令したのか。一生懸命、他の命令を考えてみたが、ふと、足元の『ドージンシ』が視界に飛び込んできた。
白髪の少年が、狂いそうなほど気持ちいいと告げているコマが目につく。
どんな気持ちよさなのだろう?
期待と好奇心が膨れあがる。加えて、『ドージンシ』を姉が隠していたことを考えること、ペニスを咥えるという行為が『ワルイこと』であると簡単に想像できてもいた。
大人にとってのワルイことが、実際にそうである場合は少ない。
鼓動が高鳴る。そのせいで別案が思い付かない……
――パサッ
半ズボンがずりおちた。孝司は恥ずかしさを堪えながら、えいっとブリーフもずりさげる。
ピョコンと、まだ包皮に包まれた小降りなペニスが反り返った。
真は青白い顔のままペニスに視線を向けてくる。
「や、やれよ!」
やはり間近で見られると恥ずかしい――孝司は顔を真っ赤にさせながら怒鳴りつけた。
「う、うん……」
真はコクンと生唾を飲み込むと、正座したまま孝司に近づき、チラッと傍らにある『ドージンシ』に目をやった。
最初のコマで、黒髪の少年は、白髪の少年のペニスを棒をこするようにしごいている。
真は孝司のペニスを掴んだ。
ヒンヤリとした真の掌の感触で、孝司は「ひっ!」と声をあげ、退いてしまう。
「ご、ごめん……」
反射的に真は謝った。
「お、おう…………」
孝司は耳まで顔を赤くしながら、威厳を取り戻そうと元の場所に立ち、いつも虚勢を張る時にそうしているように、腰に手をあて――いつもは胸だが今日は――腰を突き出した。
再び真がペニスを握ってくる。
真はチラチラと『ドージンシ』を見ながら、不器用に手を動かし始めた。
くすぐったい――孝司はそう思ったが、また逃げ出してしまうのは情けないと思い、グッと歯を食いしばって耐えようとした。
(……あれ?)
くすぐったさの中に、変な感覚がある。
以前、サッカーをしている最中、足をつったことがあったのだが、その時、真にマッサージしてもらったのと同様の、妙な気持ちよさが感じられる。そういえば、車酔いをした時、姉に背中をさすられると楽になったものだが……
(そうか!)
孝司は発見した。
足もペニスも、他人に揉まれたりさすられたりすると気持ちよくなる。きっと、他の場所でも同じかもしれない。
(あとで真にも教えてやろう……)
そう思いながら、孝司はニンマリと笑った。
もっとも、真の方は、そんな孝司の表情に気付く余裕すらない。『ドージンシ』を見ると、次のコマで、黒髪の少年はペニスを咥えているのだ。しかもご丁寧に、欄外のところに「↑歯があたらないように気をつけてる」と書かれてある。黒髪の少年のキャラクターが、原典である作品の中で、何度となく登場した怪物を噛み殺したからこその注釈なのだが、当然、真はそんなことを知るはずがない。
(噛まないようにって……)
いろいろ考えた後、真はアイスキャンディーを舐めている時は噛まないと思い出し、とりあえず、それを真似てやってみることにした。
真は手の動きをとめた。
もう一度、生唾をコクンと飲み込む。孝司も、コクンと唾を飲み込んだ。
(……よしっ!)
真はギュッと目を閉じ、口を開いて、ハムッとペニスを咥える。
「んっ――!」
包皮を被っているとはいえ、湿って、生暖かい、口の粘膜にペニスが包まれるという未知の感触に、孝司は思わず堪えるように声をあげてしまった。
もちろん、真の方はそれどころではない。彼の方は、とにかく早く終わらせようと、『ドージンシ』の真似を始めた。
歯をあてず、アイスキャンディーを舐め溶かすように少しだけ吸い付きながら、しきりに『ドージンシ』の黒髪の少年のように顔を前後させる。
その拍子に、孝司のペニスの包皮がむけた。
初めて露出した亀頭が唾液にまみれたザラついた舌とツルツルの上顎とでこすられる。
「あ゛っ!」
痛みと気持ちよさが同時に襲いかかった。
たまらず孝司は真の頭を両脇から押さえた。
「うっ!?」
孝司のペニスを咥えこんだまま、真が驚きの声をあげる。その声による振動も、孝司の腰を痺れさせた。
瞬間――孝司は体を痙攣(けいれん)させた。
射精はしない。
まだ精通が訪れていないためだ。
驚いた真が離れると、孝司はドサッとその場に尻餅をつきつつ、包皮のむけたペニスと腰とをビクビクとうごかし続けた。
「た、孝司くん……?」
なんが起きたのかわからず、真が心配そうに声をかける。
「はぁ……」
両手を後ろにつきながら、孝司は天井を見上げた。
「大丈夫……?」
心配げに真が重ねて尋ねる。
途端、孝司はバッと顔を真に近づけた。両目がランランと輝いている。
「真! これ、すっげぇ、気持ちいいぞ!」
「えっ……?」
「おまえも脱げよ! やってやるから!」
孝司は興奮していた。
性的な気持ちよさも手助けしていたが、未知なる発見をしたことへの興奮と、この驚きを一番の親友と共有したいという思いが何よりも先に立ったのだ。
「えっ? で、でも……」
「いいから! ほら!」
孝司は強引に真の半ズボンを脱がそうとする。
真は断れなかった。
まだ携帯ゲーム気を壊したことへの罪悪感が強いせいだ。それに、興奮した時の孝司がだれにも止められないことは、誰よりも真が一番良く知っているのである。
「う、うん……」
真はズボンとブリーフを脱ぎながら立ち上がった。
孝司と大差の無い、可愛らしいペニスがひょこんと顔を出した。
すかさず――迷うことなく――孝司は真のペニスを口に咥えた。
「痛っ! た、孝司くん、歯が……」
「えっ?」
真が指差す『ドージンシ』を眺め、孝司は「↑歯があたらないように気をつけてる」という文章を初めて目にした。
なるほど。
納得してから、再び真のペニスを咥え、真がしたように顔を前後に動かす。
すぐに真の包皮も向け、敏感な亀頭が生暖かい口腔の粘膜にこすりあげられた。
「あっ! あっ! あっ! あっ!」
真はガクガクと足を震わせ、前屈みになりながら目と口を大きく開けた。
未知の感覚だ。
すぐに視界の中に光が飛びかいだし、真の頭の中は真っ白になった。
「ひっ!」
真は息を吸い込みながら歯を食いしばった。しかし腰とペニスは勝手にビクビクと、別の生き物のように震える。
射精はしない。真も精通は、まだだった。
――ドサッ
真も孝司のように、尻餅をついた。
孝司は落ち着くのを待ってから、目を輝かせつつ語りかける。
「なっ!? すっげーだろ!?」
呆然としたまま、真はうなずき返した。
孝司が嬉しそうに笑みを浮かべながらスクッと立ち上がる。
「真、もう一回やろうぜ! 交代交代でさ!」
「……うん!」
真にいつもの笑顔が戻った。すぐに近づき、孝司のペニスを再び――
「ただいまぁ」
不意に玄関から孝司の母親の声が響いてくる。
「い゛っ!?」
「うわっ!」
二人はあわててブリーフと半ズボンを履いた。
「た、孝司くん! その本!」
「えっ?――あっ! やべっ!」
ドタバタと姉の学習机の引き出しに『ドージンシ』を戻す。
「孝司ぃ、真くんもいるのー?」
「い、いるよー!」
答えるが早いかか、孝司はリビングに飛び出した。
郊外にある大型スーパーのビニール袋を手にした母親は、ちょうど、リビングに隣接したダイニングキッチンに入ったところだった。
「いらっしゃい、真くん」
「お、お邪魔してます!」慌ててついてきた真が頭を下げた。
「母ちゃん、俺たち、外であそんでくるから!」
「……待ちなさい!」
母親の鋭い言葉を受け、孝司と真はビクッと震えながら硬直した。
「……孝司、お姉ちゃんのもの、いじってたでしょ?」
「な、なんでだよ!」
「まったくもう……」母親はため息をついた。「あとで怒られてもしらないからね?」
「い、いってきまーす!」
孝司は玄関に向かって駆け出した。
「お、お邪魔しましたー!」
その後を真が追う。
バタバタと靴を履き、マンションの非常階段にぬけ、一目散に、いつも遊んでいる町中の自然公園までかけっこをするように全速力で走り続ける。
二人が立ち止まったのは、公園の中央にある『草の広場』という場所だった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ビックリしたぁぁぁ!」
孝司がゴロンと芝生の上に転がる。
「で、でもさぁ」と息を切らしながら真が尋ねた。「逃げること、なかったんじゃ、ない、かな?」
孝司は考える――そう言えば、そうかもしれない。
「先に言えよ!」
「だってさぁ」
二人は顔を見合わせ――プッと吹き出し、笑い始めた。
「おっ――あれ、孝司と真じゃねぇの?」
「おーい! サッカーしよーぜー!」
遠くから、遊びにきていたクラスメートたちが声をかけてくる。
「よーし!」
孝司は起き上がり、真に向かって、掌を向けた。
「二人だけの秘密だからな」
「当然!」
真はその手をパンと叩きかえす。そして二人は、サッカーの輪の中に加わっていった。
おわり