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■ しょーとすとーりぃ

淫魔ですが、なにか?


――淫魔たちよ! 妾のために精気を集めてくるのだ!!
 なんて言われて、もう半年近く経った。
「どうすっかな……」
 俺は児童公園のブランコに座りながら、ボンヤリと"これからのこと"を考え続けた。
 無差別に犯りまくればいいってことぐらい、俺だってわかっている。
 でもさ、俺って偽装型なわけよ。つまり触手も出せなきゃ、変身だってできない。まぁ、ナニの大きさと形を変えられるとか、その気になれば体液を媚薬にできるとか……そういう能力ならあるけど、ぶっちゃけ、その程度なわけ。
 そこで問題になるのが――大地母神の聖なる戦士、"美少女騎士"なわけだ。
 少数精鋭だから、もう、強いのなんのって。
 だいたい、S学G年生ぐらいのくせに、金属製の胸当てをつけたバニーガールみたいな恰好なんかして、やたらとデカイ武器を軽々と振り回すだなんて、反則もいいところだろ、それにあいつらの強さ、桁外れもいいところだ。俺程度のザコなら、軽くひとふりするだけで消え去ってしまう。いや、マジで。前に見た映像に、そういう場面、入っていたし。
 そんなやつらと戦えるか?
 無理だ。その決まっている。
 でも、俺だって淫魔だ。女の精力を吸わなきゃ生きていけない。
 そういうわけで、ナンパで引っかけた女を食っては、美少女騎士たちに存在を悟られないよう、ほんの少しだけ精気を吸わせてもらう――ということを繰り返しながら、今日まで地味ぃに生きていた。
 でもまぁ、ちょーっと痩せ我慢しすぎたらしい。
 実は今の俺、けっこう死にそう。
 精力残量、多分、あと数時間分。今から適当な女を襲えば1日ぐらいなら延命できるかもしれないけど、でもな……ぶっちゃけ、無理矢理ってイヤなんだよな、俺。淫魔だけどさ、やっぱ、向こうも心から感じてるってわかったほうが燃えるんだよね、俺って。
 変だよなぁ。
 でもさ、人間にだって、淫魔みたいに無理矢理が好きなヤツ、いるだろ?
 それと同じじゃねーかな、なんて俺は思っている。
 だからまぁ、そういう自分が嫌いじゃないから、このまま死ぬのもいいかな……なんて。
「あっ!!」
 児童公園の面した車道のほうから声が響いた。
 女の子の声だ。
 近隣でも有名なお嬢様学校S等部の制服を身につけている。体つきからすると、多分、G年生ぐらい。ただ、胸は平らで顔立ちも凛々しいうえに、髪形もベリーショートにしているもんだから「男の子?」とか思ってしまった。ちゃんとスカート、吐いているのに。
「あぁ、もう! こんなところに残ってるし!」
 そう怒鳴り散らすなり、彼女はタタタッと公園の中に駆け込み、背中の鞄を投げ捨て、右手を高々と掲げた。
「フレイムクリスタルパワー、ドレスアップ!」
 なに!?
 驚く俺をよそに、彼女の全身がカッと真っ赤に輝いた。
 次の瞬間、紅蓮の炎が竜巻状に彼女の体を包み込んだ。
 制服が燃え尽き、全裸になる。かと思うと、炎が体に巻き付いて赤いワンピースの水着に、脚にも巻き付いてピンクのオーバーニーソックスと皮のパンプスに、胸元にまとわりついて紅蓮の金属製胸当てに、それぞれ変貌した。かと思うと、あんなに短かった髪がファサッと一気に伸び、ポニーテイル状に勝手にまとまった。最後はその髪から、ピョンとウサギの耳が飛びだし、イヤリングと口紅がキラキラとついていった。
 少女はカッと目を開くと、なおも周囲を包む炎の竜巻をガッと掴んだ。
 そのまま両手で振り上げる。
 刀身だけでも身長の2倍近い長さを持つ巨大な両刃剣が出現した。
 彼女はブンッと振り抜きつつ、炎の竜巻を蹴散らし、最後にポーズをきめて俺のことを指さしてきた。
「聖なる炎が悪を焼き払う――美少女騎士フレイムバニィ、参上!」
 茫然自失。
 まさか、こんなところで天敵の美少女騎士に遭遇するだなんて。
「こんなとこで待ち伏せなんて、復讐するつもり!?」
 復讐?
「こっちがひとりだからって勝てるとか思ってんの!? 美海(みゆ)ちゃんや風花(ふうか)ちゃんがいなくたって、あんたなんか、わたしひとりでなんとかできるんだから!」
 ひとり? 美海ちゃん? 風花ちゃん?
「さぁ、かかってらっしゃい!」
「…………」
「どうしたの!? さぁ!!」
「……あの、さ」
 俺は頬をポリポリとかいた。
「倒されることに異論は無いんだけど……復讐って、なに? ひとりって……アクアバニィとウィンドバニィ、どっかいったの?」
 今度は彼女が黙り込む番だった。
 もっとも、呆気にとられていた俺とは違い、疑念の目で俺のことを見ている。
「いや、別に罠とかそういうんじゃないって。俺、偽装型だからずっと単独行動してたし、今だって精気も枯れかけてるから、反撃なんて不可能だし……っていうか、ザコだから相手になんないって。罠にかけるにしても、弱すぎだろ? それよりさ、復讐ってなに? まさか、クィーン・インラン様が倒されちゃったとか?」
「……知らないの?」
 彼女が訝しむように尋ねてきた。
「やっぱり……」
 予想はしていたが、こうして現実に聞かされるとショックが大きかった。
 道理で毎週現れていた伝達役が、ここ最近、姿を見せないわけだ。
「んじゃ、いいわ。生きてる理由もないし、サクッとやっちゃって。サクッと」
「…………」
「ほら、早くしてよ。腹減ってしゃーないし」
「…………」
「んっ?」
 見るとフレイムバニィは、ものすごーく、胡散臭いものを見るような目で俺のことをジロジロと見ていた。いやまぁ、実際に胡散臭いモノなんだけどね。
「あんた、ホントに淫魔?」
 疑うように彼女が尋ねてきた。
 というより、美少女騎士なら直感で淫魔か否か判別できるはずだ。それとも俺の残り精力が少なすぎるせいでわからないのか? いや、きっとあれだな。俺が淫魔の変質者、人間みたいな淫魔だから、変に思っているだけだろう。
 だから俺は、苦笑まじりに答えた。
「淫魔ですが、なにか?」
「ホントに?」
 それでも彼女は、俺の正体を疑い続けた。




 誰かに見られると面倒なことになるので、フレイムバニィは児童公園に結界を張り巡らせた。以前ならアクアバニィがやっていた作業なので、随分とてこずっていた。
「うん、これでOK」
「お疲れ様」
 俺の超感覚も、公園が結界に包まれたことを告げていた。これで公園の中の様子は誰も見えないし、聞こえないし、気が付かない。近づこうともしないし、仮に近づいてもイヤな感じがして近づきたがらなくなる。
 と、フレイムバニィはジーッと俺のことを疑い深そうに見つめていた。
「なに?」
「……あんた、ホントに淫魔?」
「だから、人間にこんなこと、できる?」
 俺はズボンのチャックからデローンと垂れ下げたペニスを一瞬で勃起させ、さらにシュワシュワ、シュワシュワと大きさを自在に変えて見せた。疲れている今でも、これくらいのことは呼吸するようにできる。
 フレイムバニィは「うーん」と唸りだした。
「もっとさ……淫魔って『うへへへ!』とか『ぐふふふ!』とかさ、そういういやらしい感じなのが普通じゃないの? 目だってギラギラさせるのが普通だし。あんた、淫魔にしてはさわやかすぎない?」
「人間にも淫魔みたいな変質者、いるだろ? 俺は淫魔の中の人間みたい変質者なわけ」
「変質者って……」
「無理矢理って、どうにも燃えないんだよねぇ。燃えないから精気の吸収も今いちだし」
「それより、いいかげんしまってよ。それ」
「あぁ、ごめんごめん」
 俺はペニスを小さくしてからズボンにしまい、チャックを閉めた。
「ホントに変わってんのねぇ……」
 彼女は溜め息混じりに苦笑を漏らした。
「それより聞かせてもらえない? クィーン・インラン様、倒されたんだって?」
「うん。もう、2ヶ月ぐらい前かな?」
 どうせだから少し話を整理してみよう。


 今から数億年前、もはや文明の痕跡が残っていないくらい遠い昔、太陽系には偉大な文明が存在した。その頃の金星を統一したのが大魔術師クィーン・インラン様だ。だが、淫魔を操り、地球まで支配しようとしたインラン様は、月に本拠地を置く"美少女騎士"たちに倒され、封印されてしまった。
 それから数億年後の今から約8ヶ月ほど前。インラン様を封印していた魔導書を、ひとりの人間が解放してしまった。復活したインラン様は淫魔を産み出し、精気を集め、往年の力を取り戻すことで、再び世界を征服しようとした。
 だが、ここでもまた美少女騎士たちが邪魔をした。
 数億年前、インラン様を封印した美少女騎士たちは、いずれ復活するかもしれないインラン様を倒すべく、転生の秘術で未来に魂を移したのだ。そのうちのひとりが、今、隣のブランコに座っているフレイムバニィこと火野朱美(ひの あけみ)ちゃんだ。
 夢の中で聖母ガイアのお告げを受けた朱美ちゃんは、最初のうちこそ信じていなかったが、友達が淫魔に襲われたことを受け、ついに覚醒した。その後、しばらくひとりで戦っていたそうだが、クラスメートの河野美海(かわの みう)ちゃんがアクアバニィに覚醒、同じく嵐山風花(あらしやま ふうか)ちゃんがウィンドバニィに覚醒し、共に戦ってくれるようになった。
 これを知ったインラン様は、特別に作り上げた3体の上級淫魔を差し向け、美少女騎士たちの精気を奪い取ろうとした。だが、その試みは失敗に終わり、逆に上級淫魔は3体とも葬り去られたばかりか、インラン様の根城もわかってしまい、逆に再封印されてしまうことになった……


「言っとくけど、《魔導書》は探そうとしたって無駄だからね」
「いや、探す気もないし、どうでもいいよ」
 俺はキィ、キィ、とブランコを軽く漕ぎながら苦笑をもらした。
 偽装型だったもんだから、そんな動きがあったなど欠片も知らなかった。考えてみると美少女騎士と対面するのも、これが初めてだ。映像では飽きるほどみてきたが、こうして対面すると、あの理不尽な強さが嘘のように思える。それくらい、小柄で普通の女の子なのだ。フレイムバニィは。
「それにHなことしようとしても、武装してる間は絶対無理なんだからね」
「そうなの?」
「わたしたちの《聖なる貞操体》、破れると思う?」
「貞操体……」
 思わずブランコを足で止めた俺は、隣でブランコに座る彼女の股間を凝視してしまった。
「こ、こら!」
 彼女があわてて股間を隠した。
「あっ、ごめんごめん。ここ数日、吸精もなにもやってないもんだからさ」
 俺はアハハハと力無く笑いながら、再びブランコを漕ぎだした。
 だが、彼女はムッと俺を睨んだまま、言い返してきた。
「そうやって油断させようとしてるんでしょ」
「どうかな? まぁ、どうでもいいや。インラン様、もういないんだし」
 俺は、ふぅ、と溜め息をついた。
「でも……そうか……もういないんだ…………」
 それから俺は黙り込んだ。
 彼女もなぜか、黙り込んだ。
 キィ、キィ、というブランコのきしむ音だけが聞こえる。と思ったが、遠くでカラスがカァ、カァと鳴いた。目の前の道路を自動車が通る。カップルらしい高校生の男女が、少し頬を赤らめながら、手をつなぎつつ、通り過ぎていった。
「いいねぇ」と俺。
「なにが?」と彼女。
「恋人って、いいよなぁ……って」
「……あんた、これからどうするつもり?」
「どうって……」
 キミに殺されるんだろ?――なんて聞く気にはなれなかった。いくらなんでも、嫌みだろう。むこうはそれが職務なんだし。
 すると彼女は、沈黙する俺に、別の質問を投げかけてきた。
「なにかしたいこととか、あるの?」
「したいこと……うん、ある」
 それはすぐ思いついた。
「いっぱいあるなぁ。ゲームで遊んだり、カラオケいったり、映画みたり、ドライブしたり……そうそう、○×亭のラーメン。あれ、TVで見た時、1回は食いたいって思ってさぁ。あのチャーシュー、たまらなくうまそうなんだ。ほんとに。あっ――あと、学校ってところにも行ってみたかったなぁ。そうそう、ぼやーっと街を歩くってこともさ。ずうっと、怯えて暮らしてたから……美少女騎士に見つからないように、インリン様の逆鱗に触れないように……あはは、考えてみると、今日までずっと、こうやって空を見上げたこともなかったっけ。なんでかなぁ。空って広いんだなぁ。当たり前だけどさ」
 俺は溜まっていた鬱憤を吐き出すように、ベラベラと喋りだした。
 自然と、生まれてから今日までのことも話しだした。
 生まれた直後は戸惑ったこと。
 他の偽装型と一緒に街に出た時、妙に感動したこと。
 命令通りに初めて襲った女性のこと。そのことがずっと気になり、遠くから彼女のその後を見ていたこと。そのせいで彼女に見つかったこと。土下座したら、泣きながら何度も叩かれたこと。それでも許してくれたこと。
 街を離れたこと。
 精気を集めるためにナンパをしまくったこと。風俗嬢のヒモになったこと。美少女騎士の話を聞いて怯えたこと。吸精しすぎて体調を悪くさせた女の子がいて、あわてて注精したせいで、ノルマが果たせなくなり、そのことで怯えたこと。
 連絡係がこなくなったこと。もしかして、と思い始めた頃に女遊びがバレて風俗嬢に追い出されたこと。行く当てもないので、最初の街にもどってきたこと。俺が最初に傷付けた女の子が、引っ越していたこと。
 少しずつ自分が死にかけていること。
 でも、なにもやる気になれないこと。
「……で、キミと会ってしまったってわけ。いや、運命って面白いもんだわ。おかげでインラン様が封印されたこともわかったし、俺が生きてる理由が無いってこともわかったわけだし。もう、心おきなくズバーッと逝けるって感じ? いやぁ、ホント、人生っていうか、淫魔生ってやつ? なにがどうなるかわかんないもんだよねぇ」
 俺はアハハハと笑った。
 その間、彼女はズッと無言だった。おかげで俺は、スッキリするまで話すことができた。
 ありがとう、フレイムバニィ。
 これで俺も踏ん切りがついたよ。
「こんなところでいいだろ? さぁ、ズバっとやってよ」
 それでも彼女は無言だった。
「フレイムバニィ?」
 俺は尋ね返し――本当に今さらだったが、彼女がポロポロと泣いていることに気づいた。




 彼女が泣きやんだのは、それから5分ぐらい経ってからのことだ。
「……落ち着いた?」
「うん……ごめん…………」
 俺がハンカチを差し出すと、彼女は素直に受け取り、目元に押し当てた。
 予想外すぎるこの反応に、この5分間、俺は何もできなかったばかりか、言葉をかけることすらできなかった。なにしろ、あのフレイムバニィが泣きだしたのだ。俺の話を聞いて。そんなこと、予想外どころの話じゃない。だって俺、殺されるって思ってたんだぞ、この子に。フレイムバニィに。
「わたしも……ね。ひとりになっちゃったんだ」
「――えっ?」
「美海ちゃん、イギリスに留学しちゃったの。風花ちゃんもお父さんのいる新潟に引っ越すって……」
「そう……なんだ…………」
 俺はかけるべき言葉が思いつかなかった。
 淫魔には家族がいない。友達もいない。恋人もいない。同時期に生まれた同型でさえ、現実には凌ぎを削り合うライバルそのものだった。だから、彼女の気持ちを理解できるはずがない。
 でも……似た感覚なら、ついさっき味わった。
 インリン様が封印された。
 つまり、俺のような独立行動ができる偽装型を除く淫魔という淫魔が、この世から消え去ったということだ。いや、連絡係のやつが最後にボソッと、
――おまえが最後の1匹だからな…………
 なんて言って記憶がある。あの時は、その街で最後の1匹だと思っていたが……
「あのさ……ちょっと聞きたいんだけど……俺みたいな偽装型淫魔、たくさん倒した?」
「……うん」
 彼女はコクンとうなずいた。
「風花ちゃん、覚醒してからしばらく、人間に化けてる淫魔を倒してたから……」
「あぁ……じゃあ、俺もひとりだわ。一緒、一緒」
 俺は初めて見つけた共通項に、嬉しさを覚えた。
 彼女はキョトンとしていた。
 俺はニコニコとしていた。
 そんな俺の顔が面白かったのだろう。急に彼女はプッと吹き出し、頭のウサミミをふりながら、口を押さえて笑い出した。俺もなんだか嬉しくなって、いやぁ、と頭をかきながら笑い出した。
「ひとりぼっち同士?」と彼女。
「そうそう。同士、同士」と俺。
 しばらく笑いあった俺と彼女は――ふと笑いをやめ、共に足下を見つめながら、ふぅ、と溜め息をついた。
 再び沈黙の時が訪れた。
 でも、悪い沈黙ではない。とても居心地のいい沈黙だ。
「ねぇ」と彼女。「名前、なんていうの?」
「俺?」
「お兄さんしかいないじゃない」
「おっ、『あんた』から『お兄さん』に昇格?」
「だからぁ、名前、なんていうの?」
「偽装型淫魔51018番――偽名なら山ほど名乗ったけどね。どれも今いちで」
「51018……51018……51018…………」
 ブツブツと言い出した彼女は、パッと俺のほうに顔を向けた。
「『ゴトウカズヤ』ってどう?」
「『ゴトウカズヤ』?」
「うん。5と、10と、1と、8だから、510でゴトウ、18でカズヤ」
「510と18……ゴトウカズヤ……後藤和也……うん、いいね、それ」
 心の底からそう思った。
「後藤和也か……うん、なんで思いつかなかったんだ? いいじゃないか、後藤和也」
「気に入った?」
「かなり」
 俺は彼女に笑い返した。彼女も嬉しそうに微笑んでいる。
「じゃあ、和也」
「あれ? 『お兄さん』から呼び捨てに格下げ?」
「だって、生まれて1年も経ってないんでしょ? だったらわたしの年下じゃない」
「まぁ……そうだけど、体はどう見ても年上だよ?」
「変装できるんでしょ? 偽装型なんだし」
「無理無理。そこまで高い能力、無いって」
「そうなの?」
「そうそう。それにできたとしても、今、精力枯れかけてるし」
「わたしの、分けてあげる」
「……んっ? 今、なんて?」
「だから、わたしの精力、分けてあげる」
 彼女はピョンと、ブランコから飛び降りた。
「そうすれば、死なないんでしょ?」
「まぁ……そうだけど……でも…………俺、淫魔だよ?」
「もういいじゃない。オバサン、封印しちゃったし。それに和也が人間みたいな淫魔だってこと、ちゃーんとわかったし」
「いや、でも……」
 俺は戸惑った。
「俺たちがどうやって吸精するか……知ってるだろ?」
「さ、最後までさせないわよ! バカ!」
 カーッと顔を真っ赤にさせながら、彼女は慌てて胸元と股間を手で隠した。胸当てがあるとはいっても、その下はワンピースの水着だ。それだけに、S学生とはいっても、妙にそそるところのある反応だった。
「だ、だから大きくしないでよ、それ!」
「あっ、ごめんごめん」
 俺は不自然なくらい膨らんだ股間を押さえ、大きさを子供サイズまで下げた。
「でも、それならどうやって……?」
「キスよ、キス」
「キス?」
「わたしたち、キスで精力を送り込むことができるのよ――変なことしたら、ぶっとばすからね!」
 彼女は真っ赤になったまま怒鳴りつけてきた。
 そんなところが妙に可愛らしい。
 なんとなくだったが、この時にはもう、彼女のことが好きになりかけていた。




「いい。絶対、変なことしないでよね」
「うんうん」
 正直自信は無いが、彼女とキスができるならどんな要求も受け入れる――なんていう心境になっていた。もしかすると美少女騎士には、そういう魅惑の力があるのかもしれない。まぁ、どうでもいいや。こんな可愛い子とキスができるだけでも、この世に生まれてきた意味があるってもんだし。
「……目、閉じてよ」
「はい」
 俺は両目を閉じた。
「……顎、ちょっとあげて」
「はい」
 言われるまま、俺は顎をほんの少しだけあげた。
 彼女が俺の前に立った。
 頬を両手で挟まれた。
「……やるからね」
「うん」
「……絶対、変なことしないでよね」
「うんうん」
「絶対に絶対に、絶対だからね」
「うんうんうん」
 まずい。もう、変なことしたい気持ちになってきた。
 と、何か柔らかいものが一瞬だけ唇に触れた。
 まさか……今のが?
「……あのぉ?」
「い、今のはテスト! 次が本番!」
 彼女があわてて怒鳴りつけてきた。その反応がとてもいじらしくて、俺はつい、口元を緩ませた。
「わ、笑わないでよ! しなくてもいいの!? 死んじゃうんでしょ!?」
「このまま死ぬなら最高だなぁ」
「……もぉ、いい!」
 彼女の手が頬から離れた。
 目を開くと、耳まで真っ赤になったフレイムバニィが、頬をふくらませつつ、プイッと顔を背けていた。
 胸の奥がジーンと熱くなった。
 こんな可愛らしい子と、触れるだけのキスができたなんて……
「ありがとう、フレイムバニィ」
 語りかけると、彼女は頬を膨らませたまま、目だけをこっちに向けてきた。
 俺は素直な気持ちをうち明けることにした。
「その気持ちだけで充分だよ。俺、どう転んでも淫魔だからさ……生きながらえたところで、どうせろくなことしないし……だったらこのまま、君の手で仲間のところに送り届けてくれたほうが気楽なんだ。あっ……でも、手にかけるのがイヤなら、このまま帰ってもらってもいいよ。そうすれば、今夜のうちに――」
 突然だった。
 バッと再び俺の頬を両手で挟み込んだかと思うと、ギュッと目を閉じたフレイムバニィの顔が急接近した。
 彼女の唇が、俺の唇に押しつけられた。
 目をパチパチさせていると、フレイムバニィは唇を離し、少し顔をうつむかせながら、
「……息、吹き込めないじゃない」
 と恥ずかしそうに言ってきた。
 子供サイズにしたペニスが、これ以上ないほどズキューンと固くなった。意識していなければ、最大サイズまで膨張していたかもしれない。それぐらい、ハートと股間を直撃されてしまった。
 俺は思わず、彼女の背中に両腕を回した。
「きゃっ!」
 驚いた彼女はみじろぎしたが、ギューッと抱きしめるだけだとわかると、ふぅ、と吐息をつきつつ体の力を抜いた。
「……それ以上やったら、許さないからね」
 彼女が耳元で囁いてきた。
 ゾクゾクときった。
 俺はうんうんとそのままうなずいた。
「……脚、揃えて」
 いわれるまま、俺は脚を揃えようとした。ちょうど間にきていたフレイムバニィの脚につっかえたが、彼女は俺の脚をまたぎ、あろうことか、揃えた俺の太股をまたぐようにして腰を下ろしてきた。体位で言えば対面座位。ちょいと捻れば抱き地蔵。わかってやっているのか、無意識の行動なのか。ペニスを子供サイズにしていなかったら、もう、すごいことになっている状況だ。
 と、今さらだったが、彼女の胸当てが消えていることに気が付いた。
 そういえば巨剣もいつしか消えている。
 武装は変身中の出し入れも自在らしい。おかげで今は、ワンピースのハイレグ水着にオーバーニーソックスとウサミミをつけたS学G年生の女の子、なんていうドリーミィな状態にある。自分にロリ属性は無いと思っていたけど、これはこれで萌えまくるのだから淫魔心というのは不思議なものだ。
「……口……開いて…………」
 言われるまま、俺は目を閉じながら、少しだけ唇を開いた。
 彼女の小さな唇が押しつけられた。
 柔らかくて、吸いついてくる感触が溜まらなかった。
「――ふぅぅぅぅ」
 熱い吐息が吹き込まれてくる。それは濃密な精気を伴っていた。
 俺は貪るように、それを吸い込んだ。
 甘い。それに熱い。
 全身に染み渡るほどに、体が燃えながらとろけていく感じさえあった。
「――はぁぁぁ――ふぅぅぅ」
 少しだけ唇を離した彼女は息を吸い、再び吹き込んできた。
 俺の呼吸もそれにあわせた。
 彼女が息を吸う時に吐き、吹き込む時に吸う。
 3度繰り返すだけで全身に力がみなぎってきた。4度目にはさらなる活力が沸いてきた。5度目になると、股間にも力がみなぎったせいで、子供サイズを維持するのが難しくなってきた。
 まずいな――と思ったので、これで最後と思いながら6度目を吸い込んだ。
 限界を超えた。
 やばい――と意識して押さえ込んだが、ペニスが1段階上のサイズまで膨張した。
 さらにまずかったのは、無意識のうちに、俺が彼女を強く抱き寄せていたことだ。晩冬だが、淫魔な俺に寒さは関係ない。だからジャケットの下はロングTシャツ1枚という薄着でいたのだが、そのおかげで水着越しに感じる、異常なぐらい柔らかくて熱い彼女の体の感触がなんともいえず……
 そのせいで俺は、左手で彼女の腰を、右手で彼女の背中を押さえつつ、グッと体を引き寄せていた。つまり、大きくなった股間の感触を、彼女はダイレクトに股間で感じ取れる状態にあったのだ。
 怒る――と、俺は思った。
 だが、彼女は何も言わなかった。それどころか、逃げる素振りもなく、さらに7度目となる"精気のマウス・トゥ・マウス"をしてきた。理性は「彼女を突き放せ!」と叫んだが、これほどの精気を一気に吸収するのがあまりにも久しぶりだっただけに、俺は彼女をさらに抱き寄せ、彼女が吹き込んでくる精気をめいっぱい吸収した。
 目の裏側でチカチカと星が瞬いた。
 もう限界だ。
 たまらなくなった俺は、彼女の口の中に舌をスルッと差し込んだ。
 彼女は逃げなかった。
 舌で応えてくれた。
 俺は無我夢中で彼女の口腔を犯した。舌を絡め、上あごを舐め、歯茎と頬肉の間も舐めた。淫魔なので長い舌を持っている俺は、縦横無尽に――でもできるだけ優しく――彼女の小さな口腔を犯していった。
「んっ……んっ……んっ……」
 彼女の腕は、俺の首に軽くまきついていた。
 後頭部をまさぐってくる彼女の手が、ものすごく気持ちいい。
 俺はとうとう、彼女のお尻を両手でわしづかみにした。そのまま前後に軽く揺すり、コットンの柔らかいズボンの膨らんだところへ、彼女の水着に包まれた股間をこすりつけた。
 彼女はこれにも抵抗しなかった。
 燃えるように熱く、マシュマロのように柔らかい彼女の股間は、これまでの女性に対する挿入感を遙かに上回る気持ちいいものだった。
 と、彼女が唇を離し、潤んだ眼差しで俺のことを軽く睨んできた。
「……変なこと……するし…………」
「ごめん。これ以上はしないから」
 殴られるのを覚悟でそう告げると、彼女は潤んだ眼差しのまま、小首をかしげた。
「……若返った?」
「えっ……?」
 俺は彼女を動かすのをやめ、右手で自分の顔を触ってみた。
 どことなく頬に丸みがあった。
 いや、それだけじゃない。手の感じも少し違う。そういえば、この姿勢になった時のフレイムバニィも顔も、最初は少し下にあったのに、今は同じ高さにあるような気がする。
「何歳ぐらいに見える?」
「……わかんないけど……K校生……かな?」
 だったら若返っている。
「すごいなぁ、美少女騎士の精気って……インラン様が欲しがるわけだ…………」
 俺が知るインラン様の外見は老婆そのものだったのだから、そりゃあ、多少のリスクを背負ってでも欲しがったはずだ。多分、そのせいで墓穴を掘り、倒されたのだと思うが。
 と、彼女がむーっと唇を尖らせていた。
「なに?」
「……媚薬の力、使ったでしょ」
「えっ? あっ……」
 ようやく彼女が抵抗しなかった理由に気が付いた。
「ごめん。無意識に使ってたかも……」
「……変なことしないって約束したのにぃ」
「本当にごめん……」
 俺は彼女のお尻を掴んでいた左手も離した。正直、イクまでやめたくなかったが、こうなっては仕方がない。なにしろ俺は約束を破ったのだ。ディープキスに服越しのこすりっこだけでも、殴られて当然の行いなわけだし。
 そう思った矢先、彼女はこつんと、俺のおでこにおでこをぶつけてきた。
 彼女はつぶやいた。
「……優しくしてくれる?」
 イキかけた。その一言だけで、射精しそうになった。
 反則だろ、それ。
 つまり、そういうことでしょ?
「だから言ったのに……俺、淫魔だよって」
「……うん……ちょっと……油断したみたい…………」
「でも、《聖なる貞操体》があるんだよね?」
「……もう外してる」
「えっ?」
「鎧……外したし…………」
 それから彼女は、おでこ同士をくっつけあったまま、自分の胸元を軽く撫でた。
 スーッと水着が消えていった。
 桜色に染まった、瑞々しい彼女の裸体が白日の下にさらされていた。
「これで……全部だから…………」
 今になって気が付いた。俺のズボンは、ジュースでもこぼしたかのように濡れていた。あまりにも彼女の体温が高くて気づかなかったが、もう、彼女のそこは、どうしようもないくらい、ベトベトに濡れていたのだ。
 またもや射精しかけたが、体を震わせるだけで、どうにか耐えしのいだ。




「媚薬の力……使っていい?」
「……うん」
 お許しをいただいた俺は、彼女にブランコへ座ってもらうことにした。
 聖なる部位は、歪みも穢れもなかった。
 陰毛も無かった。
 陰唇も未成熟で、充血しても、ほんの少し筋が開くだけだった。
 クリトリスも完全に包皮にくるまれていた。指で周囲を押してむき出すと、彼女はブランコの鎖を掴む手にギューッと力を込めた。本当なら痛がるところだが、俺の唾液に含まれる媚薬の効果で心地よい痺れを感じているだけだった。
 俺は夢中になっていた。
 というか、フレイムバニィのあそこを舐めていること、そのものが信じられなかった。
 あまりにも現実味がない。
 顔をしかめて声をおさつつ感じているS学G年生の美少女騎士。
 身につけているのは、頭のウサミミとオーバーニーソックスと靴だけ。
 全裸も同然の恰好で、夕暮れも間近な児童公園のブランコに座り、今日、初めてあった俺みたいな男にアソコを舐められ、大量の蜜をあふれ出させている……
 信じられない。
 夢にしか思えない。
 死にかけているせいで幻覚でも見ているのか?
 いや、彼女の燃えるような体温は、これが現実だと告げている。
 漂ってくる甘酸っぱい汗のニオイもそう。
 香ってくる蜜のニオイもそう。
 なにより、吐息と同じぐらい甘くとろけそうな蜜の味が最高だ。これを飲んでいるだけでも、体の精気が満ちあふれてくる。しかも、蜜は無尽蔵に、あとからあとから、だんだんと粘性を高めつつあふれ出てきた。
 陰唇を左右に開き、小さな膣口をぺろりとなめあげてみる。
 まるでゼリーが押し出されてくるように、粘性の高い蜜がプクゥと出てきた。
 たまらずしゃぶりつく。
 ジュルッと音をたてて吸うと、彼女は俺の頭にしがみついてきた。
「あっ、だめ、すっちゃ、ぁん、あっ、きたない、きたないよ、あっ――」
「汚いところなんて、あるわけないよ」
「あっ、だめ!!」
 俺はひくひくと動くアヌスのしわもなめあげた。
 さらにとめどなく蜜が溢れてきた。
 そのまま膣口に吸いつき、ヌッと舌を差し込んだ。
「あっ……入って……舐めて、る? 舐めてる? わたしの中、舐めてる?」
 両脚を俺に両肩に乗せた彼女は、まるで体全体で俺の頭を抱えるようにしながら尋ねてきた。まだ膣の感覚が鈍いようだ。俺は舌を抜くと、
「膣(なか)にも膜にも唾液の媚薬、しっかり塗り込めてあげるよ。そうすれば痛くないし、初めてでも気持ちよくなれるから」
「そう……なの?」
「だから舐めるよ。舌の感覚、確かめてみて」
 俺は答えをまたず、再び彼女の膣口に長い舌を差し込んだ。
「んんっ……うん……入って……舐めてる、舐められてる、あっ、中、わたしの中、舌で、ぁんっ、ふぁ、あっ、中、舌で、あっ」
 彼女の声は、どこか夢見るような響きを伴っていた。
 そんな彼女がたまらなく可愛くて、俺は一心不乱に彼女の膣に舌を差し込み続けた。
 淫魔独特の長い舌のおかげで、俺は彼女の処女膜を丹念になめ回すことができた。幸運にも彼女の膜は、中央に少し大きめの穴が空いているタイプだった。それに薄めだ。これなら切れる部分が少なくて済む。痛みも最小限のはずだ。
「フレイムバニィ、もっと舐めて欲しい?」
「だめぇ……」
 彼女はギューッと頭にしがみついた。
「名前で……朱美って呼んでぇ……」
 甘えるような言葉に、俺の背筋にゾクゾクっとした快感を覚えた。
「朱美……もっと舐めて欲しい?」
「だめ……和也とする……お腹、じんじんするの……」
 俺は彼女のおへその下あたりを指で軽く押さえた。
「このあたり?」
「うん……その奥……じんじんするの……切ないの……これって……もう大丈夫って……ことだよね……和也が欲しいって……和也としたいって……ことだよね…………」
「うん、そうだよ」
 俺は朱美から離れると、彼女の前で服を脱ぎだした。
 俺は彼女の前で服を脱ぎだした。
 ジャケットを脱ぎ、ロングTシャツも脱ぎ、ズボンごとパンツも脱ぎ、靴下と靴だけになる。
「それ……入っちゃうの?」
 ポーっとしている朱美は、俺の股間に反り返るペニスを見つめながら、ボンヤリと尋ねてきた。
「ちょっと待って」
 俺は少し呼吸を整えてから、ペニスを縮小してみた。
 それでも子供サイズより二段階大きいレベルになった。日本男性としては、少し小振りといったレベルだ。さすがに興奮しすぎて、これ以上は小さくならないらしい。
「これを挿れるよ」
「……うん」
「入ったら、一番気持ちよくなる大きさに変化するから、驚かないでね」
「……変わるの?」
「淫魔だからね。無理矢理でも、気持ちよくさせちゃうんだ」
 俺はペニスをしごきながら語りかけた。
「気持ちよく……されちゃう……の?」
 彼女はポーッとしたまま尋ね返してきた。
 どうやら、聞くなら今しかないようだ。今なら間に合う。だから、聞かないと。
「そう。どんなに朱美が嫌がっても、気持ちよくなっちゃう。だからね、やめるならいまのうちなんだ。朱美なら……美少女騎士なら、淫魔の媚薬ぐらい、うち消すこともできるんだろ?」
 そうなのだ。
 美少女騎士の敵は淫魔だ。淫魔の媚薬に溺れるようでは、戦いにならない。つまり耐性が高いか、媚薬の力をうちけす能力を持っているはずだ。だから、引き返すなら今しかない。このまま進めば……俺は朱美の処女を奪ってしまう。
「……もぉ、遅いよ」
 彼女はニコッと微笑んだ。
「鎧も衣も脱いじゃったし……唾液もいっぱい飲んじゃったし……ここにもすりこまれちゃったし……」
 そう告げながら、朱美は器用にもお尻を乗せるブランコに両足を乗せた。
 一言でいえば"M字開脚"。
 あまりにも扇情的すぎる光景だ。
「もぉ、ダメ……わたし、エッチなの。エッチじゃないふり、してただけなの。でも、もう終わったから……和也になら、いいの。フレイムバニィのわたしと、火野朱美のわたしと……いっしょに…………」
 最後の理性が弾けそうになった。
 本能のまま、淫魔として彼女を犯してしまいそうな自分がいた。
 でも、潤んだ瞳のおかげで最後の一線を保つことができた。
 正直言って、彼女がどうしてこんなことを頼んでいるのか、今の俺には理解できない。それでも、フレイムバニィであることを含めた朱美のすべてを受け入れられる人物が、もう、俺だけであるのだと、その目が訴えてきていた。
 俺は躊躇(ちゅうちょ)した。
 本当にこれでいいのだろうか。彼女の寂しさにつけ込んでいるだけではないのか。そうでなくても、俺は淫魔で、彼女は人間だ。
「……お願い」
 彼女は鎖に回した両手で、お尻の柔肉ごと、秘肉を左右にムチュッと広げた。
「苦しいの……お願い…………」
 トロォと蜜がしたたり、糸をひきながらポタッと落ちた。
 体が勝手に動いた。
 頭の中では、まだ疑念がうずまいているというのに、俺の体は、ペニスをしごきながら彼女へと近づいていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――」
 荒い呼吸をすることしかできない。
 膝立ちになると、高さがちょうど良かった。
 右手でガイドしたペニスの先端を彼女の膣口に押しつける。
 亀頭に、燃えるような熱い彼女の体温が伝わってきた。それだけでいってしまいそうだ。さらに中に入ればどうなってしまうのか――本当に燃え溶けてしまいそうで、背筋がゾクゾクっとした。
 ふと顔をあげると、朱美と目があった。
 疑念が吹き飛んだ。
 もう、淫魔がどうとか、寂しさがどうとか、そういうことはどうでもいい。
 俺は彼女が好きだ。
 火野朱美という女の子が好きだ。
 フレイムバニィという美少女騎士が好きだ。
 それで充分だ。
 俺は――腰を前に突き出した。
「んっ!」
 彼女はグッと全身に力を込めた。
 それでも俺の唾液でトロトロに溶かされていた彼女の膣は、抵抗らしい抵抗もなく、ヌルッと簡単に俺のペニスを受け入れてしまった。膜すらも、まるで最初から受け入れるつもりだったかのように、呆気なく、プツッと破れていた。




 強烈な締め付けと、猛烈な熱さと、極上のトロトロ感で、俺はペニスが本当に溶けるかと思った。本気で、美少女騎士の膣には淫魔のペニスを溶かす力があるとさえ思った。
 それでもいいとも思った。
 彼女の処女を貰ったのだ。そのうえ、こんなにも気持ちのいい思いをさせてもらったのだから、今さらペニスが溶けようが消え去ろうが、どうなってもかまいやしない……
 だが、ペニスは溶けなかった。むしろ膨張していた。
 変形が始まったのだ。
 淫魔のペニスは女性の膣に入ると、まるで最初からそうであったかのように、膣の形と性質にそった状態へと変化する。最高の快楽を与えることで、最高の精気を吸い取れるようにするのだ。
「あっ……あっ……あっ……」
 ペニスの膨張を体感した朱美が、ブランコの鎖を巻き込んだまま、俺の首に両腕をまわし、しがみついてきた。
 両脚も腰にまきついてきた。
 俺もブランコごと抱きしめた。同時に歯を食いしばっていた。
 膨張のたびにこすれる膣壁の感覚だけで、今にもいってしまいそうだった。
「……痛く、ない?」
 膨張が終わると、俺は荒い息のまま、彼女の耳元にささやきかけた。
「キス……」
 彼女は荒い息のまま、かすれた声で、そう応えた。
 言われるまでもない。俺は彼女の唇を奪った。今度は彼女も小さな舌を突き出してきた。舌と舌をからめあい、お互いの唾液を舐めあっているだけでも最高の気分だ。
 彼女を貫くペニスには、じわっと彼女の熱が染みこんでくる。
 精気だ。
 そう気づいた瞬間、彼女の精気は濁流なって俺の腰へとなだれ込み、そのまま背骨をかけあがって脳天を直撃した。
 いきそうになった。
 まだ入れただけなのに、強烈すぎる快感に何もかも忘れそうになった。
 俺は息を止めて堪えた。
 彼女から流れ込む精気の濁流に体が馴染むまで、俺はただひたすた、耐えるしかなかった。
「はぁ……」「はぁ……」
 俺たちは同時に吐息をもらしながら顔を離した。
 唇の間に、唾液の糸が生まれていた。
「……痛く、ない?」
 俺はなによりも気になる質問も、もう一度だけ繰り返した。
「平気……少しジンジンするけど、全然痛くない……媚薬のおかげ……かな?」
 彼女は嬉しそうに微笑んだ。
 俺は少し目を細めながら、そんな彼女の額に軽く唇を押しつけた。
「ごめん。淫魔の力で、無理にその気にさせて……」
「……こら」
 彼女はゴツッと強めに、おでこ同士をぶつけにきた。
「またそんなこといったら、本気で怒るからね」
「……えっ?」
「だから……」
 彼女はふてくされたように唇を尖らせると、ぷいっと顔を背けてしまった。
「……淫魔の力は……衣を着てれば……無効化されちゃうし…………」
「えっ? えっ? えっ?」
 えっと、つまり……キスしても抵抗しなかったのは?
 こすりっこで嫌がらなかったのも?
 自分から水着を脱いだのも?
 全部媚薬の力ではなくて、彼女自身が???
「その代わり……」
 彼女はムッとしたまま、俺を上目遣いに睨んだ。
「もう二度と……他の人としないこと。お腹が空いたら、わたしとすること。それと……」
 彼女はカーッと今まで以上に顔を赤らめた。
「……わたしの……彼氏に……なること…………」
「あっ、う゛っ!!」
 不意打ちだ。卑怯だ。こんなこと言われて、こんな熱くて、キツキツで、トロトロで、ピッタリなものに包み込まれて、おまけに言ったそばからキュッとさらに締め付けてくるなんて、卑怯にもほどがある。
 俺は堪える余裕すらなく、彼女の中で射精した。
「はっ! うっ! ぐっ! う゛っ!!」
――ドプッ! ドプッ! ドプッ! ドプッ!
 彼女の奥の奥まで差し込まれている俺のペニスは、とどまることなく、欲望そのものを朱美の無垢な子宮へと流し込んでいた。
「あっ……ああっ……あっ……」
 彼女も震えだした。
 ギュッと俺の首にしがみついてくる。
「出て……る? 出されて、る? うそ……妊娠、しちゃう? わたし、妊娠しちゃうの? あっ……しちゃう……しちゃうよ……妊娠しちゃう…………」
「あ、朱美!」
 俺はドクッ、ドクッ、とさらに流し込みながら彼女を抱きしめた。
 キューッと彼女の締め付けがさらに強まった。
「か……かず…………」
 朱美も小刻みに痙攣しながら、クッと背と首をのけぞらせた。
 すごいことが起きた。彼女の膣が、まるで俺から精液を絞りとるようにウネウネと動き出したのだ。
 声が出せない。
 呼吸もできない。
 俺は、彼女の子宮に精液を流し込む1個の機械になった。そうとしか言えない状態まで高められていった……




 ようやく射精が止まった頃には、膣からあふれ出した精液で足がベトベトになっていた。
「……気持ちよかった?」
 ポーッと俺に抱きついている彼女が尋ねてきた。
「すごく……淫魔なのに……キミに溺れそう」
 俺は素直な感想を口にした。
 そこでハッとなった。
「……ごめんね。中で出しちゃって」
 彼女はクスっと笑った。
「わたしのこと、妊娠させる気?」
「ごめん……」
「えっと……淫魔の子供って、数時間で、生まれちゃうんだよね?」
「あっ――それは産卵型。俺、偽装型だから」
「違うの?」
 彼女は顔を話し、おでこ同士をくっつけながら目を覗き込んできた。
「全然違うよ」
 俺は彼女の腰からお尻のあたりを撫でつつ応えた。
「産卵型は兵卒型の淫魔を産むことに特化してるんだ。だから、産卵型の精子は子宮にたどりつくと、すぐ勝手に成長して、これぐらいの大きさになったら、出てくるんだ」
 俺は握り拳をつくってみせた。
「うん、見たことある。白いおたまじゃくしみたいなモノだよね」
「そうそう。それが1分ぐらい経てば、朱美と同じぐらいの年齢まで成長するんだ」
 こうして白髪白肌、白目を含む部分まで真っ赤な眼をした知性に欠ける兵卒型淫魔が誕生する。彼らはほとんどロボットと同じだ。おまけに陽光をあびると灰になってしまう。これを生み出せるのは産卵型の淫魔か、特定の上級淫魔だけだ。
「俺みたいな偽装型だと、生まれてくるとしても同じ偽装型なんだよ。だから、普通の人間と同じ感覚でしか生まれないんだ」
「……十ヶ月?」
「そう。十月十日……だっけ?」
「うん。授業で習った。わたし……いいママになれるかな?」
 息が詰まった。
「……産んでくれるの?」
 彼女は恥ずかしそうに応えた。
「……うん」
 心を打ち抜かれた。
 完敗だ。
 やはり美少女騎士は天敵だった。
 淫魔の俺が、もう、どうしようもないくらい彼女に溺れてしまった。
 本当にもうだめだ。
「んっ……」
 彼女は少しだけ顔をしかめた。俺が彼女の腕をブランコから外し、お尻を掴みながらその場に座った衝撃のせいだ。
 ちょうど対面座位の姿勢になった。
 ついでに俺は、つかんだ彼女のお尻を、ほんの少しだけ上下にゆすった。
 固さを失わない俺のペニスは、彼女の蜜と俺の精液でドロドロになった膣壁とほどよくこすれていた。
 もっと強く動けば快感も高まる。
 でも、ただでさえ出したばかりで敏感になっている。そこまでやった時には……自分がどうなるかわからない。こうして彼女の感覚を確かめられるギリギリの状態で、彼女の味を思う存分、味わいたい……
「……気持ちいい?」
 彼女が尋ねてきた。
「すごいよ。朱美の膣(なか)。燃えてるみたいに熱いし、キューって締め付けてくるし、でもドロドロだからこっちが溶けちゃいそうで……」
「わたしも……」
 彼女は艶っぽい眼差しで、ポーッと俺を見つめながら答えた。
「お腹の中……押されてるのわかるの……息が詰まるぐらい大きくて……奥、トントンって叩かれて、ピリピリするの……」
「痛い?」
「ううん……もう平気……これって……気持ちいいってこと?」
「エッチだなぁ。初めてなのに、もう気持ちいいの?」
「違うもん……カズの媚薬のせいだもん……あっ!」
 俺が少し高く彼女をあげてから、ストンと重力に任せて落としていた。
 朱美は口を半開きにしながら、プルプルとかわいらしく震えていた。
「ほら、気持ちいいだろ?」
 俺は同じことを二度、三度とくりかえした。
「あっ! あっ! だ、めっ! あっ!」
「どうなんだい?」
「ちがう、エッチ、なんか、じゃ――あっ! ぁんっ! んっ! あっ!」
「エッチな朱美、可愛いよ」
 途端、朱美の膣(なか)がキューッとしまった。
 全身が小刻みに震え出す。
 イッたのだ。
 動くのをやめ、彼女を抱き寄せると、フッと体の力を抜いた彼女が、ぐったりと俺に寄りかかってきた。
「イッちゃった?」
「……うん」
「気持ちよかった?」
「……うん」
「うれしいよ。俺のモノで気持ちなってくれたんだろ?」
「……うん……カズのオチ○チ○……すごいの…………」
「もっとすごくしていい?」
「……だめ……もう……壊れちゃう…………」
「壊していい?」
「…………」
「ごめん。やっぱり俺、淫魔だわ……キミのこと、メチャクチャにしたくなってきた」
「……イキそうなの?」
「うん。本当にごめん。今度出したら……絶対、妊娠しちゃうね」
「いいよ……」
 彼女は首に抱きついてきた。
「……カズの子供……妊娠させて……いいよ」
 俺は遠慮も呵責も捨てた。
 ブランコが邪魔になるので、グッと身体を捻りながら、彼女を横に向かって押し倒した。
 下は、あふれ出た精液の水たまりになっていた。あまりにも小さな彼女の膣と子宮では、あの圧倒的な量を受け止めきれず、そのほとんどを溢れ出してしまったのだ。
 俺は動いた。
 精液のベッドに寝そべる彼女を汚した。
 フレイムバニィを貫いた。
 まだ胸もわずかに膨らんだ程度で、陰毛すら茂っていないS学G年生の女の子を、欲望のままに、膣の入り口から子宮口までズルッ、ズルッと、まんべんなく、何度も何度も犯していった。
 彼女は右手で、たまたま頭上にあったブランコを掴んでいた。
 左の人差し指は、口元に押し当てられている。
「ぁ……ぁ……ぁ…………」
 可愛らしい喘ぎ声だった。苦悶するように寄った眉間のシワが可愛らしかった。
 結合部からはジュボッ、ジュブッという信じられない音は響いていた。
 俺の精液がさらにかきだされてきた。
 彼女の蜜もあとからあとからあふれ出てきた。
 限界はすぐ訪れた。
 俺は射精した。
 それでも腰の動きがとめられない。
――ビュクッ! ビュクッ! ビュクッ!
 深々と差し込むたびに、射精した。
 腰を引いても射精した。
 精液を押しのけながらズニュッと締め付ける膣壁をかきわめ、また奥で射精した。
 射精しても射精しても精液が尽きない。
 彼女から流れ込む精気も激しさを増すばかりだ。
 と、彼女は何かをいいながら両脚をピンと伸ばし、背をのけぞらせた。俺の動きで体中にとびちった精液が、桜色に染まった彼女の体をいやらしく彩っていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
 俺は獣の声を張り上げながら、これで最後とばかりに腰を強く突き出した。
 彼女の腰をしっかりと引き寄せる。
 たまらず膝立ちになった。俺もまた、彼女のように背をのけぞらせ、天をあおぎながら体中の精気という精気を彼女の中に流し込んだ。彼女からも最初の濁流を遙かに上回る量の精気が流れ込んでくる。
 流し込み、流れ込む。
 注ぎ、注がれる。
 想像したこともない強烈な快感で視界が真っ白に染まっていた。
 全身の感覚がマヒした。それなのに、ペニスの感覚だけはハッキリしていた。
 世界がそこだけになった。
 彼女に包まれながら彼女に注いでいる俺と、俺に注がれながら俺を包み込んでいる彼女だけが、この世のすべてになっていった……




――フレイムバニィ……フレイムバニィ…………。
 遠くから誰かが呼びかけてくる。
――ガイア……さま?
 朱美の声が聞こえた。少しぼんやりとした声だった。
――おめでとう。とうとう、見つけたのね。あなたを耕してくれる人を。
――はい……人間じゃなかったけど……でも、いいんです。
――本当にそれでいいのですね?
――はい。
 迷いの無い返事だった。
――淫魔の人。
 それまでより強い声が俺を揺さぶった。
――は、はい!?
 俺は応えた。だが、口を動かした感じがしない。それどころか、体の感覚が消えている。五感で感じられるのは、俺にペニスをしっかりと締め付けてくる朱美の膣の感触だけだ。強いて言えば、ぬるま湯につかっているような、心地のいい浮遊感もあるが……
――あなたの名前をうかがってもよろしいですか?
――後藤和也。
 すんなりと出てきた。
――朱美に……フレイムバニィから貰いました。
――その名を大切にしてください。それはあなたを現すものであり、あなたがあなたであることを証明するものです。あなたはフレイムバニィとの結びつきによって、淫魔から、淫魔でも人間でもない、『ゴトウカズヤ』というまったく新しい存在に生まれ変わりました。そのことを決して忘れないようにしてください。
――はい……。
 胸の中がじんわりと温かくなった。
 俺は淫魔でも人間でもない『ゴトウカズヤ』になった――普通なら屁理屈にしか思えない言葉だったが、なぜか"ここ"では素直に受け入れられる気がした。
――フレイムバニィ、ゴトウカズヤ。新たなる敵が現れました。
――えっ!?
――敵!?
 俺と朱美は驚きの声を響かせた。
――クィーン・インランの部下だった者たちが目覚めたようです。
 部下? クィーンの?
――その力はすでにクィーン・インランを上回っています。注意してください。彼らは美少女騎士に宿る"精気の泉"を狙うはずです。8つの泉のうち、3つが彼らの手に落ちてしまえば、世界は彼らの思うがままになってしまいます……。
――ま、待ってくれ!
 俺は叫んだ。
――部下ってなんだ!? 俺が、最後の淫魔じゃないのか!?
――未来の……あなたのいる時代のクィーンが生み出した淫魔は、確かにあなたで最後です。他はすべて消え去っています。
――未来? まさか……。
――私は過去から語りかけています。あなた方のいる時代から数億年前の地球。大陸の中央に位置する"生命の泉"のたもとから……。
 衝撃的だった。
 時空を越えた接触――そんなことが可能なのか!?
――フレイムバニィ。
――はい。
――あなたには……つらい役目ばかり任せて、本当に申し訳ないと思っています。
――いえ、いいんです。そのおかげで……和也に会えました。
――朱美……。
 俺は無性に朱美を抱きしめたくなった。
――2人の未来に大地の加護と祝福を。
 ガイアが祈りの言葉を告げた。
――もう、私はあなた方の時代と接触できません。これが最後です。ゴトウカズヤ、フレイムバニィのことをお願いします。
――はい。
――フレイムバニィ、他の美少女騎士たちのことをお願いします。
――はい。
――全ての騎士を集めるのです。そうすれば伝説……の……エーテ……ル……バ…………
――ガイア様!?
――おい、ガイア! ガイア!!
 声は急激に遠のいていった。
 それと共に俺たちの意識もスーッと沈むように薄らいでいった……




 お互いに意識が戻ったのは、日も暮れたあとのことだった。
「うわっ……」と彼女。
「うへっ……」と俺。
 いろいろな意味で、俺たちは驚いていた。
 日が暮れていたこともそうだが、精液の水たまりがブランコ全体を包み込むぐらいまで拡大していたことにも驚いた。それにも増して驚愕したのは、目でわかるくらい、彼女のお腹がポコッとふくらんでいたことだ。
「……妊娠しちゃった
 彼女は恥ずかしそうに――でも、どこか嬉しそうに――膨らんだお腹を両手でさすった。
「させちゃったんだぁ……」
 俺は呆然としながら、同じように彼女のお腹を両手でさすりだした。
 まだ俺たちはつながったままだ。俺は正座したままだったし、彼女はだらりと両脚を伸ばしたまま、精液の水たまりに横たわっている。俺のペニスは固さを失っていない。ギリギリまで大きくなったまま、ガッチリと彼女の膣にくわえ込まれていた。
「よいしょっと」
 彼女が両手を地面につけ、上半身を起こそうとした。俺は腰と背中に腕をまわし、お腹を圧迫しないよう注意しながら彼女が起きるのを助けた。
「どっちかな?」と彼女。
「えっ?」と俺。
「男の子と女の子」
「……女の子がいいな。朱美みたいな可愛い子」
 俺は苦笑しながら答えた。
「うん。それでいっぱい、可愛がってあげるの。ずっと家にいて、必ず帰ってきたら『お帰りなさい』って言って、ご飯も一緒に食べて、お風呂も一緒で、寝る時も一緒で……それで朝になったら、『おはよう』って起こすの……」
 彼女はお腹をさすりながら、夢見るようにそんなことをつぶやいた。
 直後、彼女の顔はふっと真剣なものになった。
「でも、その前にやることやらなきゃ」
「……あの夢、夢じゃなかったんだな」
 俺が尋ね返すと、朱美はコクッとうなずいてから、すぅ、と息を吸い込んだ。
「フレイムクリスタルパワァ……ベイビィシール」
 ふわっと膨らんだお腹が淡い光を放った。
 変化は一瞬だった。
 スルッとお腹がへこむのと同時に、ふわっと半透明の何かが浮かび上がったのだ。
 胎児だった。
 淡い球状の膜に包まれた胎児は、丸まったまま眠り続けていた。
「あっ、女の子
 朱美はクスッと笑ってから、そっと、その胎児を両手で支え持った。
 みるみるうちに胎児が小さくなった。
 重ね合わせた掌の中に隠れた。消えたかと思ったが、違った。
「平和になるまで、出産はお預け」
 そっと見せてくれたのは、小さな胎児が眠る桜色のビー玉だった。
 俺は驚いたまま、彼女の顔を見た。
 彼女は苦笑していた。
「結婚してからひとりずつ……ね?」
「そりゃないよぉ」
 俺はガクッと項垂れた。
 だって……そうだろ? こっちは覚悟決めてたんだ。S学G年生の女の子を妊娠させて、あまつさえ出産してもらい、子供をあわせた3人で生活するために血反吐を吐いてでも頑張るぞぉ、とか。
「もぉ……S学生としちゃうだけでも犯罪なんだから」
 彼女はクスクスと笑った。
「それは人間の話。俺、淫魔だからいいの」
「淫魔でも人間でも法律は法律」
「いいの。だからもっとセックスして、妊娠させまくる」
「うん
 反発されると思った言葉だったのに、朱美は嬉しそうに微笑みながらチュッとキスをしてきた。
「いっぱい子供作って、いっぱい幸せになろ
「……よぉし。そのためにも、クィーンの部下という連中、さっさと片付けるか」
「そうこなくちゃ」
 俺たちは唇を重ね合った。
 時は夜。精液だらけの児童公園で、K校生ぐらいの淫魔とS学G年生の美少女騎士が全裸に近い恰好で、今だにつながったまま唇を重ね合う――そんな異常すぎる状況だったが、俺の心は不思議と穏やかだった。
 頭上から降り注ぐ月の光が、まるで俺たちを祝福しているかのようにさえ思えた。




淫魔ですが、なにか?

第?話 最終決戦のそのあとに






 ちなみに――
「うわぁ……全身ベトベトぉ」
「……どうしよっか?」
「抜いていい?」
「抜きたくないけど、仕方ないか」
 俺はジュボッと彼女からペニスを抜いた。ぱっくりと穴を開けつつ、ドプッと精液をあふれ出す膣口を見るだけでも、またまたペニスがビクッと固くなった。そんな膣穴が、キューッと見る間にすぼまっていく様も、しまりの良さを連想させ、ペニスをビクビクっと震わせた。
「……カズ、元気すぎ」
 内股になった朱美はムッと睨みあげてきた。
「いやぁ……淫魔だし」
「もぉ」
 それでも、朱美は、どことなく口元を緩ませていた。
 俺のなぜかホッと安堵した。
「よいしょっと」
 彼女は立ち上がり、すぅ、と息を吸い込んでから、例の呪文を唱えた。
「フレイムクリスタリパワァ、ドレスアップ!」
 炎の竜巻が体に巻き付き、再び彼女は武装状態に変身した。
 かと思うと。
「フレイムセイバァ! バニィピュリフィケーショォォォン!」
 一気に跳躍。巨大な剣を地面に突き立てた。
 トーンと光の波紋が広がった。
――ズワッ!
 精液という精液が光りの粒子と化して巨剣に吸い込まれていく。
 俺の体についたものもそうだ。
 当然、彼女の体に付着していた精液もキレイサッパリ吸い込まれていった。
 ポカーンと口を開けるしかない。
「はい、これでおしまいっ」
 剣を消した彼女は、クルッと回転しながら俺の前に着地した。
「ほら。服、早く着ないと」
「……あっ」
 言われて思い出した俺は、あわてて脱ぎ捨てた服を拾い、埃を払いつつ身につけていった。ジャケットも羽織ると、結界がパキーンと砕け散る感覚があった。見ると朱美は、武装を解除し、真っ赤なポニーテイルの少女から、もとのベリーショートが可愛らしい、M学園S等部の制服姿に戻っていた。
 なんとなく、なにもかもが夢だったように思えた。
 彼女が美少女騎士であることも、俺が淫魔であることも、なにもかもが……
「……んっ?」
 見ると彼女は、タタタッと鞄を拾いに行き、タタタタッと俺のほうに駆け寄ってきた。
 ぶつかるように、俺に抱きついてくる。
 戸惑う俺を見上げながら、彼女が笑いかけてきた。
「カズ、一緒に帰ろ
 甘えるようなその言葉は、S学G年生の女の子そのものだった。

おわり
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