散らない桜
- 344 :散らない桜 ◆36XtnskbK. :2006/04/20(木) 12:30:40 ID:kPH7DUOc
- 「いい天気ですね」
楓が空を見上げながら、そう呟く。
俺たちは、花見に来ていた。ここは、俺達の子供のころの遊び場だった裏山のがけ。わ
ざわざここまで来たのは、ここに鎮座する桜が、俺の知りうる限り、この町一番の桜だっ
たからだ。
しかし桜の花びらは、半分以上散っていて、少々時期をはずしてしまっている。さらに
は、創立記念日で俺達は休みなのだが、平日なので、周りに誰もいない。
寂しいかもしれないが、二人きりと言うことが強調されて俺は嬉しかった。
「ああ、本当にいい天気だ」
俺たちが本格的に付き合いだしてからというもの、なぜか、今まで以上に二人きりでい
られる時間が少なくなった。それは、急に甘えん坊になったプリムラのせいであったり、
まだ、俺をあきらめるどころか、巻き返しに全力を傾けるお姫様達のせいだったりするのだが。
それでも常に一緒にいることには変わりない。同じものを見て、同じものを感じている
俺達に、そうそう話題などがあるはずもなく、ボケ〜と桜に見入っていた。この時間は苦
痛ではない。そう感じられることも、幸福のスパイスの一つとなっている。
「サクラの花言葉って知ってます?」
しばらくして、楓が口を開いた。妙に照れくさそうな顔をしている。俺は、こういう楓
の表情が好きだ。もちろん、笑顔も、泣き顔も、怒った顔もすきだが、照れている表情が
一番可愛い。
「知らない。なんだ」
「純潔です。わたしは桜って花と、その響きが好きで、女の子が生まれたら、桜って名前
をつけようと考えていたんです。でも、最近になって、別の名前を考えるようになり
ました。純潔の花言葉を女の子につけるのは嫌だな〜って思うようになったから」
「どうして?純潔って、別に悪い意味じゃないと思うんだが」
「そうでもありませんよ。純潔っていうことは、相手がいないって言うことじゃないですか。
わたしが、シアちゃんや、リンちゃんに、純潔っていいですよね。とか、言ったら単なる
嫌味になってしまいますし」
ちょっとだけ、舌を出して、悪戯っぽい口調で楓は話す。俺達の間にあった。溝が埋まっ
てから、ほんの少しだけ楓は変わったように思える。うまくは言えないが、俺と同じ目線に
なったような気がするのだ。
「あははは、それもそうか」
「それに、もう一つだけ、嫌な理由があります。わたしが桜に似ているから」
楓は、自分の言葉で、口調も表情、急に険しいものになった。あまり、こういうのは好き
じゃない。俺は、シリアスとは、程遠い人間だから。
「なに言ってるんだ?楓は、もう純潔とは程遠いぞ」
俺が冗談めかして、一歩間違えればセクハラ発言をしたが、楓は表情を崩すことはない。
「そういう事じゃなくて、桜にまつわる話に自分にを重ねてしまうことが多いんです」
桜にまつわる話・・・。脳の中を検索する。一つだけ、思い浮かぶものがあった。たぶん、そ
れで会っている。なぜならそれは、楓のおばさんが昔俺達にしてくれた話だからだ
。
『桜が美しい花を咲かせるのは、男を惑わして、その精気を吸ってしまうからだ。そして、そ
うしなければ枯れてしまう。』
楓も、あえてどういった話かは、説明しない。それぐらいのことは通じ合うのが俺達だからだ。
- 345 :散らない桜 ◆36XtnskbK. :2006/04/20(木) 12:31:17 ID:kPH7DUOc
- 「桜はわたしで、稟くんは人。枯れそうだったわたしは、稟くんが身を削ることで、生きながら
えきました。そして今でも稟くんに寄り添っています」
熱く、熱く、楓は語る。目はらんらんと輝き、悲痛めいた声で。こういうときは、そんなこと
ないと言うのがセオリーなのかもしれない。しかし、俺は黙って彼女の話を聞いていた。そんな
言葉じゃ届かない上に、彼女の話は間違っていないからだ。
「最近のわたしはおかしいんです。他の女の子に嫉妬してしまいます。稟くんのことを縛り付け
たいなんて考えてしまいます。稟くんのために尽くすって決めたはずのわたし
が稟くんの枷になってしまいそうなんです。稟くんを好きになればなるほど、その気持ちが強く
なって、それで」
「楓。それのどこが悪いんだ?」
確かに、俺はそんなことないとは、言わない。だが、楓を泣かせることなんてしない。だから、
開き直ることにした。
「桜に命を捧げた男が何を思って、そうしたか考えたことがあるか?」
「・・・・ないです」
「この桜のためなら死んでもいい。そう思ったからだ」
「おかしいです。そんなの」
「確かに、おかしいけど、それが好きって気持ちなんだと思う。それに、俺には痛いほどその気持
ちがわかる。昔、俺は一人の女の子を好きになったんだ」
「それって」
「その子が壊れそうになったから、俺は一つ嘘をついた。正直な話をすると、後悔したことは、一
度や二度じゃない。傷つけられるたびに、削られていくたびに、もうどうでもいい。そんな風に思
うようになった。でも、がんばれた」
「どうして、投げ出さなかったんですか?」
顔を伏せ、感情を押し殺した声で、楓は尋ねる。少し恥ずかしいが、今まで、隠してきた。俺の秘
密を言うしかない。
「それは、その女の子が綺麗になっていったから。その子は俺のいないところでは笑顔だった。その
子は俺のいないところでは、笑い声をあげるようになった。修学旅行の写真で自分の写ってないのを
買ったり、壁に耳当てたりして、それを確かめられたから、俺は折れずに済んだ」
言って顔が真っ赤になる。今思い返すと、まんま、ストーカーだから。
「でも、それでも、悔しかったりしないんですか?悲しかったりしなかったんですか?」
「したけど、それでも、嬉しかった。桜に精気を吸われた男も同じ気持ちだったと思う。綺麗に咲い
てくれたから、桜に命を捧げ続けたんだ」
お互い黙り込んでしまう。楓のほうを見ると、理解はできるけど、納得はできないと言う様子だ。
ここまでくればあと一歩でいい。そう単純なことだ。相手が揺れ始めたの
なら、力づくで押してしまえばいいのだ。
「それに、重大な勘違いがある。俺は、楓にいくら、精気を取られたところで死にはしない。嫉妬して
しまう?嬉しいことだ。それだけ、楓が俺のことをそれだけ好きだってことじゃないか」
「それは、そうですけど」
「最後に、一つ。これが一番大事なことだが、桜に捧げるのとは違って、人間に精気を捧げることはとっ
ても気持ちいいんだ」
それを聞くと、楓は、俺の言わんとすることを理解して、顔を真っ赤に染める。やっぱり、照れている
顔が一番可愛い。
距離を詰める。もとから、一歩分の距離しかなかったが、その一歩を詰めることに大きな意味がある。
「稟くん?えっと、その、するのはいいんですけど、やっぱり場所を選ぶことって重要だと思うんですよ」
「大丈夫。どうせ、誰も来ないから」
そういって、俺は、楓の服の中に手をつっこんだ。
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