六太×陽子
作者886さん
「ええ、その時言った事は確かに覚えています」
「そーそー、あの時の尚隆の顔といったらもう。忘れられねえな、あれは」
少しばかり意地の悪い笑みを浮かべて六太が言う。
金波宮の一室、そこには雁の麒麟と慶の女王以外は誰一人としていなかった。
「後で考えてみたら、結構無謀な真似してたんですね」
「あー、いいっていいって。あの莫迦殿を黙らせるにはあれくらい言った方が良かったって」
六太は卓子の上の茶碗を手に取った。茶碗からは細く湯気がたっている。六太につられて陽子も茶碗を
手に取った。陽子は何度か息を吹きかけ茶碗の縁に口をつけると、中の茶を啜った、が。
「あつっっ!!」
反射的に茶碗を卓子に置くと両手で口を覆う。舌の痛みに涙すら出てきた。
背中を丸める陽子に、六太が駆け寄った。
「大丈夫か?陽子」
「だ、大丈夫です…。ああ…舌がひりひりします」
その言葉に、六太はふいに悪戯な表情をする。涙目のまま怪訝そうに六太を見つめると、
陽子、と名を呼んで彼は言った。
「舐めて治してやろーか?」