尚隆×陽子『夕暮れ刻』
作者237さん
「慶国の街は活気づいてきたようだな」
延王尚隆は露台から雲海を見下ろしながらつぶやいた。
卓を挟んで向かいにはこの国を統べる女王・景王陽子が座っていた。
「ええ、やっとのことで。しかし私の目にはまだ堯天の街しか見渡すことがで
きないので、果たして他の街まで活気がでてきているのかはまだわかりません」
小さくため息をつく。
そんな姿を見遣った尚隆は人の悪い笑みを浮かべて小声で囁いた。
「市井に出てみぬか?」
陽子はほんの少しだけ眉を動かした。
「…お忍びですか?」
すると今度は尚隆は快活に笑った。
「そうだ、慶国のはずれ。雁国に近い郷都に以前会ったことのある仙人がおっ
てな、時間のある時にでも訪れてみようと思っていたのを先頃思い出した」
そこまで言うと一旦、言葉を切って小声になった。
「良ければ陽子もついてこぬか?」
陽子は一瞬迷ったが、このところの激務続きに飽き飽きしていた。
やっと区切りがついたところだったのでついていく決心をすぐにした。
尚隆が景麒に、延麒の使令を連れて行くからと約束をしてやっとのことで許可を得た。
二日間ではあるが、息抜きの間を得たのだ。
仙に面会した後、二人は街に出て舎館をさがした。
今日は祭りがあるせいでどこも満室が続いてた。
六軒目にやっと一部屋を確保した。
陽子はいつもの少年のような姿をしているのでどうやら尚隆の弟として扱われ
ているようだった。
「…同じ部屋…なのですか?」
すると尚隆の方も肩をすくめた。
「仕方あるまい。祭りの日に当たった上に、ここまで混んでいるのだから」
仕方のないこととはわかるが、やはりどこか釈然としない陽子だった。
以前の辛い旅で楽俊とは同じ部屋に泊まっていたので他人と同室には慣れていたが。
部屋に着くと尚隆は荷物を下ろした。
陽子も荷をほどく。
「陽子、どうも埃がすごいぞ」
そう言われ、陽子は自分の顔を手で撫でた。
手には埃がうつる。
「この辺りは乾燥しているからな。俺は風呂に行ってくるから、その間に湯で
体を拭いておけ」
そう言うなり尚隆はさっさと部屋から出ていってしまった。
「延王はせっかちな御方だ…」
陽子も部屋を出て湯をもらいに出た。
大きめの桶いっぱいに湯をもらって部屋に戻ると陽子は入り口に閂をおろした。
急に尚隆は入ってきてこられては困るので。
部屋の少し広くなった衝立の後ろに桶を置いた。
そして腰に巻いてある帯に手をかけた。
解いた帯を衝立にかける。
身につけていた物をすべて脱ぐと陽子は桶に浸した手巾を絞って肩口を拭いた。
その刹那、衝立の向こうで何か物音がした。
「曲者!」
反射的に手が刀を探す。
しかし、手は空を切るばかりだった。
衝立の向こうからは聞き慣れた声がした。
「これは曲者とは如何なものか」
先ほど出ていった尚隆だった。
するとどことなく楽しそうな声で言った。
「景王たるもの不用心にもほどがある。陽子は気安いところが魅力だが、
それも度をすぎると痛い目にあいかねる」
そう言って、衝立を退ける。
咄嗟に陽子は両腕で胸を隠し、しゃがみ込んだ。
「…ご…ご冗談を! 延王、戯れが過ぎます!」
必死に声を出したが、尚隆は益々声に張りがでてくる。
「佳い娘だ…王であったのは非常に残念だったが…。もし王として出会わなけ
れば、必ずや召し抱えたものを」
力強い腕が陽子の腕を掴んだ。
難なく陽子の腕は外され、形の良い胸が露わになった。
「やめてください!」
拒否の声も尚隆の欲情をかきたてるだけだった。
「ここは金波宮でも玄英宮でもない。そして我々は景王と延王でもなくただの
女と男。そうではないか?」
少年のように括っただけの髪がほどけた。
はらはらと散る赤い髪がより陽子の美しさを際立たせた。
「もう我慢がならん。今宵はもう離さぬ」
貪るように唇を首筋に押しつける。
陽子もこれほどまでに人肌の温度を感じたこともなく硬直していた。
「やっ…や……」
何かを言いかけた陽子の唇を尚隆の唇で塞ぐ。
そして唇を離すと、尚隆はうっすら笑みを浮かべ聞いた。
「何か言いたげだな。申してみよ」
きつく瞼を閉じていた陽子だったが恐る恐る目を開けて上擦った声を出した。
「…私ばかり裸体とは…恥ずかしすぎます…」
頬を染めるその姿を見て尚隆はいよいよ欲情を駆られた。
「では、共に果てまで」
そう言うなり尚隆は自ら纏っていた物を全て脱ぎ捨て、陽子を抱きかかえて
牀榻に場所を移した。
「どれ」
そう言って陽子の手首に優しく接吻する。
しかしまだ陽子は恥ずかしそうに目線を反らしていた。
「どうした? 何か具合が悪いか?」
すると陽子はやや頬を赤らめ答えた。
「まだ…湯で体を拭いておりません。その…まだ体が汚いので…」
尚隆は声をあげて笑った。
「陽子の恥じらいは本当に可愛いな。ではかわりに拭いてやろう」
そう言うと尚隆は先ほどまで陽子が手にしていた手巾を取り、桶に汲んであった
湯に浸した。
それを絞って牀榻の横たわる陽子の腕を取った。
「そ…そんな、延王に…」
慌てて腕を引く陽子。しかし尚隆は気にしない様子で腕を引き戻した。
「先ほども言うたではないか。今宵は王ではなくただの女と男」
「…まだ夕方にございます」
少し拗ねた風な陽子にまんざらでもない笑みを尚隆は浮かべた。
やがて上肢を拭き終え、脚へと布は移動する。
股の内側を最後に拭き終えるとたまらず、尚隆は陽子の女陰へと指を伸ばした。
「あぁ…あ…」
陽子も堪えきれずに声をあげた。
「その喘ぐ声も美しいな」
そう言って更に奥になる秘部へと指を伸ばす。
慣れた手つきで芽をいじり始めると陽子は尚隆に抱きついた。
「…んぁ…」
「この状態ではお前の美しい秘部を眺められないではないか」
余裕いっぱいの尚隆だったが陽子の耳には聞こえないようだった。
余りの的確な責め具合に陽子の腰も砕けるのではないかという気にすらなった。
「では、眺められないのであればこちらにも…」
尚隆は逆の手で陽子の形の良い胸を掴んだ。
薄紅色の突起を摘みあげる。
「…ああ、いやっ。痛っ…」
最初は苦しそうに眉間に皺を寄せた陽子だったが、やがて快楽のために目尻から涙が落ちた。
その涙を尚隆は優しく吸い上げた。
「この涙は俺のものだ…」
そして先ほどから動きを止めていた秘部へと再度指が動き始めた。
先ほどよりも潤い、蜜が湧き出していた。
くちゅくちゅといやらしい音が陽子の耳にも入った。
「んぁ、そんな…恥ずかしぃ…」
力無く言う陽子の声は艶っぽく響く。
尚隆は返事もせずに指の動きに集中した。
やがて指を秘裂に滑り込ませる。
一本、二本と入る指が増える度に陽子の背中が反るのがわかった。
「もっとその表情を見せてくれないか…」
尚隆の額にも汗が光る。
陽子はきつく閉じていた目を恐る恐る開け、尚隆の顔を見た。
そして陽子は尚隆の唇を求めた。
逞しいその下唇を甘噛すると舌で全体を舐めた。
その心地よい舌遣いに尚隆も陽子の唇を求めた。
絡み合う舌、優しくそして力強く触れる唇、甘い唾液。
どれもが悦楽の一時を与える。
「…尚隆ぁ…」
甘い声での呼びかけに尚隆の下肢に疼きが宿った。
やがてその疼きを感じ取ったのか、陽子は尚隆の自身に掌をあてがう。
熱い…、その熱を感じ取りながら陽子はやがて自身に頬を寄せ、やがて口腔へ誘った。
「そろそろ、中に入っても良いか…」
陽子は潤んだ翠の瞳を尚隆に向けた。
「そんな、聞くだけ野暮です…」
わざと意地悪く答えた。
尚隆も苦笑しつつ、そのまま陽子の秘裂を自分自身を差しこんだ。
「んあああ…あ、あ…!」
十分に準備が調ったはずの秘裂であったが、尚隆の自身を受け入れた時は
きつく締めつけた。
「よ、陽子…ようこ…」
尚隆も頂に昇っていた。
最適な締めつけが脳天まで痺れるような快感を与えた。
互いの高みに達した時、二人は蓬山よりも高い頂に登り詰めた。
目が覚めると陽子は尚隆の腕を枕にしていた。
「はぁ、これは…」
慌てて退こうとする陽子の腕を掴んだ。
「慌てなくとも、俺は逃げん」
悪戯っぽく笑う尚隆に陽子はわざと拗ねたように装った。
「尚…いや、延王はこのような行為をするために私を連れだしたのですか?」
クスリと笑みが零れる。
「俺も登極したばかりの頃は息詰まることも度々あった。
その度に外へ出て息抜きをしたものだ。陽子もそろそろそんな時期かと思ってな」
少し黙って陽子は口を開いた。
「…私にはもう少し社会勉強が必要かと思われます…。私に王としてのいろは
を御教授願えないか?」
「良かろう、いくらでも王として必要なことを伝授してやろう…」
もう一度、尚隆は陽子に覆い被さった。
そろそろ夕闇が街を覆う。舎館の窓の外は夏の熱気と祭りの雑踏が漂う。
陽子と尚隆の影は灯に照らされて一晩中重なり合うのだった。
まさか場末の舎館で王同士の睦みが行われているとは誰一人として知る者はいなかった。
―了―