if朱氏珠晶『花残月』
作者6026さん
黄海を出て、各地を転々としながら生きる術を学ぶ。それもまた独り立ちには欠かせないものだ。
そういうわけで、頑丘と珠晶は才の山中で野営をしていた。珠晶は今日、十六になった。そして
彼女は、あることをずっと前から心に決めていたのだ。
「頑丘」
「だから宰領と呼べと・・・なんだ?」
改まった様子の珠晶に頑丘も小言を途中で止める。
「あたし、今日で十六になったの」
「・・・で?」
「けっこう女らしくなったとか思わない?」
「は?何を言い出すんだお前は」
「あたしは朱氏になるの。でもって黄朱って、生きるためには大抵のこと、やらなきゃいけないのよね?」
脈絡のない話に思えたが、珠晶がひどく緊張しているのに気付いて頑丘も真面目に答える事にした。
「そうだな」
「あたしは女で、男にはどうしたって腕力じゃ勝てないから・・・いつか嫌な奴に乱暴されちゃうことだって
あると思う」
「・・・それは、あるだろう」
やっぱりそうよね、と俯く。そして再び顔を上げ、続けた。
「解ってるわ。・・・だからせめて初めての人くらい、自分の意志で決めたって良いわよね?」
「あ、ああ・・・?」
「頑丘、してくれない?」
頑丘の思考は、完全に停止した。固まってしまった彼を見て珠晶は泣きそうになる。
「そんなに嫌かしら?」
「・・・・・・・・・ちょ、ちょっと待て。何の話だ?」
「だから、頑丘にあたしの初めての人になって欲しいって言ってるの!」
「・・・何の?」
もう一度聞き返したら、張り手が飛んできた。呆然としていて避けることを忘れていたせいで
頑丘の頬はしたたかに打たれる。
「処女のまんま一人前の朱氏として生きていける訳ないわよね?だったらこれも宰領の仕事よ、
そうでしょ?」
「お・・・落ち着け!どうして俺なんだ!?」
「あたしは落ち着いてるわよ、この上なくね。どうして頑丘か、なんて、そんなの決まってるじゃない」
明らかに怒っている顔で、珠晶は座ったまま後ずさりをしようとした頑丘の上にのしかかる。
「あたしが、頑丘を好きだからよ」
頑丘は、今度こそ思考が真っ白になってしまった。だから珠晶が身を屈めて顔を近づけてきても、
避けなかった。
柔らかな感触が、頑丘の荒れた唇に押し当てられる。勢いがあったせいで、かちん、と歯があたってしまい
珠晶が顔を離す。まだ呆けている彼を頬を染めて睨んでもう一度口付けをしようとしたが、さすがに我に
返った頑丘が止めた。
「待てと言ってるだろうが!・・・お前、こんなオヤジ相手に本気で言ってるのか?俺なんかより・・・そうだ
例えば利広とか居るだろうが!」
取り繕って言ってみたものの、頑丘は珠晶が他の男に抱かれることを望んでいなかった。たとえ相手が
利広だとしても。
「どうして人の話を聞かないのよ?あたしは頑丘が好きなんだって言ってるでしょ?」
ここまで高圧的に好きだといわれても素直に受け取れる筈が無いのだが、珠晶は
「生憎、あたしはこんなオヤジが好きなのよ。頑丘は嫌なの?あたしの事、嫌い?」
と、彼に馬乗りになったまま畳み掛ける。こうなったら頑丘に勝ち目は無かった。
理詰めの感情論などというややこしいものは珠晶の得意技で、頑丘の最も苦手とするものだった。
「ねえ、答えて・・・もし本当は嫌いとかだったらやっぱり・・・言わないでほしいけど」
そう言って珠晶は唇を噛んだ。
頑丘は、酷く臆病だった。ずっと他人との濃厚な関係を築くことを疎んじてきた。傷つきたくなかったのだ。
しかし今、頑丘が痛みから逃げればその分だけ珠晶が傷つくことは明白で、それだけはできなかった。
「・・・嫌いな相手と何年も暮らせるほど俺はお人好しじゃない。どうでも良いガキなんか徒弟にしない。
まして囮になってまで護ったりはしないな」
頑丘の降参の言葉に弾かれた様に珠晶が顔を上げた。
「それ、本当?」
「嘘を言ってどうする」
言った途端、珠晶の大きな瞳が揺れ、透明なしずくが盛り上がって零れ落ちた。
「バカ・・・泣くな」
喜怒哀楽の激しい奴だと思いながらも手を伸ばし、震える頭を抱き寄せた。頑丘の袍の胸元が熱く
濡れていく。珠晶が腕を彼の首に回し、もう一度口付けた。今度は止めたりはしなかった。しかし何も
知らない珠晶の口付けはあまりに稚拙で、唇を離された頑丘は
「下手くそ」
と呆れて呟いてしまう。
「し、仕方ないじゃない」
「そろそろ退け。重いぞ」
ぶっきらぼうに言って珠晶を降ろし、手を伸ばす。後ろ頭を引き寄せるようにして、頑丘から口付けをした。
軽く啄ばみ、舐めて放せば珠晶は大きく息をついた。どうやら呼吸を止めていたらしい。本当に何も知ら
ないのだと頑丘は実感した。
苦しくて大きく息をついたら苦笑交じりに
「隙間を開けてやるから、口で呼吸しろ」
と言われた。
「そうなの?」
思わず真顔で聞き返したら、答えの代わりにまた口付けが与えられる。僅かな隙間に呼吸をしようと唇を
開いたら、そこに彼の舌が侵入してきた。
「んう!?」
驚きこわばる腕を柔く叩かれ、力を抜くよう促される。舌が口腔内を犯し、珠晶のそれに触れる。恐る恐る
応えるのに絡ませ吸い上げられる。頑丘の背に回した手が、きつく服を掴んだ。
牀榻に倒され心細げに見上げる顔は、普段の勝気さなど嘘のように劣情を誘う。
頑丘の手がゆっくりと移動して襟に手をかけ、するりと肩まで剥く。珠晶は知るはずもなかったが、頑丘にとって
求め焦がれ、夢想の中で何度も汚したその身体が今、本当に彼のものになろうとしていた。
肩口を食み、乳房を掌で包み込んで撫で回せば中央の突起が張り詰め立ち上がっていく。それと共に珠晶の
吐息に混じる、切ない掠れた声もその比率を増して行き、頑丘の内に火を灯す。敷き衾を握り締めた手に
力が込められ、躰が熱と湿り気を帯びていく。指で乳首を挟んでゆるく捻る。
「んっ、ふあん!」
努力を無視するように裏返った声が口をついて出て、珠晶は真っ赤になった。まさか自分の口からこんな媚びた
声が出るとは思っていなかったのだ。頑丘に呆れられたのではないかと思ったが、それを窺うより早く彼の指と唇、
そして舌がそこを集中的に弄り出し、声を堪えることも不可能になる。
「はぁん・・・ん、や、きゃ・・・んぅ・・・」
ぴちゃぴちゃと音を立てて舐られ、甘い痺れが下腹部へと集まっていくのを自覚した瞬間、そこがきゅうっと反応する
のがわかった。彼に気付かれるはずは無いと分っているのに、恥ずかしくてたまらない。そう思えば思うほど意識は
集中していく。肌を濡らした唾液が夜風に冷えて愛撫の余韻を残す。
湿った滑らかな肌を吸い、時に歯を立てながら頑丘は下降して行く。珠晶の喘ぎはあまりに切なくて、未知の
快楽に戸惑い苦しんでいるのが分った。
緩みきった帯を解き、完全に前をはだけさせて彼女の褌の中に手を差し入れた。
「やあっだ、駄目!」
半泣きの珠晶が腕を掴むが、頑丘も止めてやる気はさらさら無い。すぐに熱く潤った狭間を見つけて潜り込む。
指を蠢かし粘液で十分濡らして其処に侵入した。少女が顔を歪め、ぽろぽろと涙が零れる。その目じりに
口付け、涙を舐め取って半開きの唇に口付けをして舌を絡ませ合う。指は出入りを繰り返し、頃合いを
見計らって本数を増やしていく。その都度彼女の身体は強張るが、潤いはますます溢れてきて、僅かずつ
でも珠晶に男を受け入れる
準備が整いつつあるのを教えてくれる。
しかし、頑丘の方が限界だった。身を起こして彼女の褌を引き下ろし、咄嗟に合わされた膝を掴んで両脇へ
押し開く。
珠晶は彼の意に従おうとする気持ちと、耐え難い羞恥心と恐怖に挟まれて、ただ強く目を瞑った。先刻まで
頑丘の指で弄られていた処に何かが押し当てられるのがわかって、身が硬くなる。
「・・・珠晶」
低く掠れた声に瞼を上げて彼を見、首に腕を絡めてしがみついた。
「珠晶、力を抜いていろ」
「うん・・・だ、大丈夫だから・・・」
一瞬の沈黙の後、指などとは比べ物にならない圧倒的質量を持ったそれが珠晶の狭い入り口を押し広げ、
押し入ってきた。想像より遥かに強い痛みに珠晶は目を見開き、彼の肩に爪を立てる。
「ひっや・あ・・いた、痛いっ!やああ、いや、だ、痛いッ・・・!!」
大丈夫と言ったことなど吹き飛んでしまう痛みに暴れかけて、肩を褥に押し付けられ、一気に貫かれた。
体が弓なりに反り、悲鳴は音にすらならなかった。
焦点の狂った瞳に輝く月が映り、そのせいで影になっている頑丘の姿が映ってようやく珠晶は我に返る。頬に
彼の手のひらが触れた。珠晶は自分の中心に、傷みと共に打ち込まれた楔の熱を強く感じた。
苦痛を長引かせるよりは、というのは口実で本当は只、少しでも早く彼女を貪りたかったのだ。破瓜の痛みに
きつく寄せられる眉根も零れる涙も、熟しきっていない為かこりこりと少し硬い感触の残る内壁も、全てが頑丘の
征服欲をこれ以上ないほど満足させる。そしてもっともっと蹂躙したくて堪らなくさせる。
「・・・もう少しの間、我慢できるか?」
欺瞞だと解っていたが、訊いてみた。珠晶の潤んだ瞳が月光に煌めいて玉のようだと思う。しかし彼女は無理に
笑顔を作り、頷いた。
「今度、こそ、だ、だいじょうぶだから・・・」
本当はまだ痛く怖かったが、それよりも頑丘が自分を求めてくれる方が嬉しかったから。だから珠晶は彼に
悦くなって欲しいと言う。頑丘はそんな珠晶に小さく、すぐに終わらせるから、と詫びて、ゆっくりと動き出した。
それが退出し、また珠晶を押し広げて入ってくる。その動きと共に、血の混じった粘液が溢れ滴り、卑猥な音を
立て始めた。その潤いは動きを助け苦痛を弱め、新たな感覚を呼び覚ます。粘膜が擦れあう刺激、内臓を
揺さぶられる圧力が甘い痺れへと変わっていく。
少しずつ珠晶の表情に苦痛以外の何かが混じり始め、そこが頑丘に絡み付きだした。出て行くのを引き
止めて奥へと誘うように蠕動する。次第にぐちゅぐちゅという音も高くなり、珠晶の目が空ろになっていく。もはや
閉じることを忘れた唇からは悲鳴にも似た嬌声が零れた。
それから然程時間はかからず、頑丘は珠晶の内部に己の白濁を迸らせ、果てた。
身体を重ねたまま、しばらく何も言葉にならなくて只、荒い呼吸をしていた。全身に彼の体温と重みを感じながら、
珠晶はこの先誰にその身を汚されることがあっても耐えられると思う。自然と言葉が出てきた。
「頑丘、好きよ?」
頑丘が口を開く。
「これから先、おそらく俺ではお前を守りきれない時が来る」
珠晶は笑った。ばかね、と言って、顔を上げた男を見る。
「あたしは護られてお荷物になんかなりたくないわ。自分の力で、あなたの傍にいたいの」
それを聞いた彼は小さく、そうか、と呟いた。そしてその後は何も言わなかった。