鬼畜女王×愛玩奴隷1 :03/06/09〜作者:前スレ805さん

宵の浅い臥室に、二つの影があった。
一つは紅。もう一つは極薄の金色。――対比的な色彩で組み合わさる、慶の主従である。
主上、と求める声が、光源の少ない堂室に響いた。
榻(ながいす)にしどけなく身を凭せ掛け、陽子は膝頭に縋り付く下僕を冴えた瞳で見詰めている。普段は括って上げている髪が今は下ろされ、水分を吸って臙脂に染まっている。その後ろの背凭れには、水気を帯びた綿布が引っ掛けてある。
軽く上気した頬の瑞々しい艶めきや、寛げられた胸元や裾が、入浴の後だと云う事を物語っていた。
陽子の右手には、蒼い切子硝子の小さな高杯(たかつき)がある。杯の中で、葡萄酒色した丸実のものが、ころりと揺れた。
「…やれやれ。湯浴みから上がれば、待ってましたとばかりに現れやがって。偶にはゆっくりする時間くらい、与えてくれてもいいと思うが?」
「――不躾である事は重々承知。…しかし、御約束を頂きましたから」
確かにしたけどさ、と陽子は高杯を弄びながら呟く。
「せめて、駆け引きや雰囲気や。…そう云う趣向も踏んで欲しいものだな」
景麒は主人の不満を、異世界語で話されたような貌をしている。陽子はそれを見て溜め息を吐くと、
「…ま、朴念仁のお前にそれを望む事自体筋違いか。――しかし、それではあまりにもつまらん…」
と言って高杯の中から固体を一つ取り出して口に放り込んだ。軽く噛み砕いてから上を向いた景麒の顎に手を掛け、口移しでそれを与える。景麒は送られたものを飲み下しながら、主人の柔らかな舌を求めて唇を重ねた。
陽子が求めに応えると、景麒は更に深くを求めてくる。強く身体を引き寄せられた所為で、陽子の掌に在った高杯が転げ落ちて、中身が床に散らばった。
「…ああ、全く…。誰が片付けると思ってるんだ…」
叱り付けるようで、揶揄うような声で囁きながら、陽子は下僕と口付けを繰り返す。
そうやって何度目かに舌が交わった時、突然景麒の背がびくりと震えた。身体の芯から突き上げるような火照りと眩んでいく意識に、景麒は動揺する。
「――…『来た』みたいだな…」
下僕の変化を見遣って、陽子は嗤う。
「…しゅ、主上?…一体、何を…っ?」
変調に取り乱しながら、景麒は目前の主人を見詰めた。驚愕に開かれる紫の瞳を、陽子は嗤って見返す。
「身体が可変しい?それはね、さっき与えたものの所為だろう。あれは少し前に、雁の御仁から『食べると面白い事になる』と言われて貰った代物だ。
要は、媚薬だな。…だが、自分で試す気にはなれなかったから、今まで取って置いたんだけど。まさか、こんなに速く効くとはね。…さて、効き目はどんなものかな…?」
呟きながら、陽子は下僕の服の下に手を滑り込ませた。軽い皮膚接触に、景麒は身体をびくつかせる。陽子はふためく下僕を制して、その衣を崩した。
なぞるように触れると、平素は低温気味の景麒の肌に熱が昇っている事が判る。自分の手より少し高めの体温を確かめながら、陽子は掌を胸から腹に下らせ、更にその下まで突き進ませた。
爪先が、既に屹立している局部を掠める。
「あっ!」
指先で軽く触れられただけで、景麒は昂ぶった声を上げた。――機敏さを増している事が、思考の鈍りつつある頭でも解った。
「…ふぅん。ちょっとは変わるみたいだな…」
好い標的を見付けた悪戯っ仔のような貌で、陽子は景麒に触れる。その一方で、乱した景麒の上着を広げて、白い胸を空に晒した。
陽子は、景麒の胸の上に小さく影を落とす突起にふっと軽く息を吹きかける。
「ぁうっ…!主上、御戯れを…!!」
「情けない声。偶には欲求を抑えようとか、そう云う努力をしてみろよ」
「そ、そんな…はぁう!!」
「う、ご、く、な。神秘の獣というなら、その証を見せてみろ。色情に狂っても、主人の命令が利けるな?」
「っ…これが、御命令、ですか…?」
「聴き返すな。一回で理解しろ」
低く言うと、陽子はそそり立った身体の先端を軽く捻った。
「ふあぁぁぁっ!!」
「喚くな、煩い。発情期の猫以下だな、お前は」
「んぅうっ…」
陽子が景麒を指で押し上げ、掌底で転がすように擦る度に、電撃が流れたかのように景麒の背が波打った。時に優しく、時に荒々しい刺激が緩急をつけて景麒を責め立てる。
「あ、ぁ…っく…はぁ…っ」
嗜虐と慰撫に血流が乱され、景麒の吐息が荒がる。媚薬の所為で増長した敏感さに、これ以上に無いほどの興奮を引き起こされて、今にも快楽の頂点に昂騰してしまいそうな身体を、景麒は必死で抑える。
「ふ、ぅぅ…しゅじょお…」
硬さと熱を増すそれを、陽子は執拗に弄繰(いじく)った。昂揚に耐えながら押し寄せる快楽に酔い、愁眉を寄せる下僕の貌を、陽子は可笑しそうに眺める。不意打ちに、平たい胸に舌を這わせた。
「――ああっ!!しゅじょうっ!」
煽動に抑制が吹き飛んで、景麒は言い付けを破った。
「これ以上はもう…!!御許しを…ッッ」
乞いながら伸び上がって、景麒は陽子を榻の上に突き倒した。仰向けに倒なった主人の身体を圧して、弛んだ襟元から肌を啄ばむ。艶やかな肌に間近で触れると、花湯の香りに鼻腔を擽られた。
「戯け者が」
低く呟いて、陽子は下僕の首筋に歯を突き立てた。叱責と噛み付きの衝撃に、景麒の陽子を抑えつける力が一瞬緩まる。その隙に、陽子は身体を滑らせて椅上から脱し、立ち上がり様、うつ伏せに倒れ込んだ下僕の上に馬乗りに乗った。
「動くなという命を堂々と破ってくれたな?この淫縦め。…前々から不満に思うことがあった。――お前は自分の欲ばかり追い求めて、わたしを満足させる事が少ない」
もがく下僕を組み伏しながら、陽子は景麒の腕を掴み上げる。
「事を為すのに必死で、気の利いた台詞や洒落た仕草一つ出来ない拙さが、正直、癪に障る時がある。――丁度好い機会だから、それを身体で判らせてやろうか…?」
今度は動くなよ、と陽子は脅すような声で景麒に言った。
「逆らえば、金輪際、相手をしてやらん。哭こうが喚こうが、二度と触れる事を許さないからな。――それが厭なら、わたしの言う事を聴け。…返事は?」
「っぅ…はいぃ…」
暴走しかける欲求を、僅かに残った理性と冷静で抑えながら、景麒は主人の命に答える。
「ふ。聞こえてはいるようだな。…取敢えず、今まで鬱積していた分を晴らさせて貰う。――先ずは仕置きだ」
陽子は呟くと、景麒から腰紐を奪って、震える白い両腕を後ろ手に縛り上げた。

「何度言っても言う事を利けないような腕は要らん。手癖の悪さは、矯正せねばな」
ギュ、ときつく縛られて、景麒は幽かに声を上げる。
「痛い?――そりゃそうだろうな。でなければ、仕置きの意味が無い。――次は、この口だな」
陽子は言い、榻の背凭れに掛けてあった綿布を取って、景麒の口の中に押し込んだ。うめく下僕を無視して、その上から帯で猿轡(さるぐつわ)を嵌め、完全に口を封じる。
「言葉遊びも出来なければ、心を揺るがす弁明も紡げないような口は、在っても仕方が無い」
言い切って拘束を終えると、陽子は景麒から降りた。そして身体の向きを、半分だけ変えさせる。下肢を目下に晒させ、陽子はそれを掴んだ。
「――最後は堪え性の無い、コレだ」
呟きながら陽子は、空いた手で夜着の袂から深緑の髪紐を取り出した。そして躊躇う事無く、それを景麒に巻きつける。
「…この色を気に入っているんだからな、絶対に汚すなよ」
「んむっ?!――ん、ふうぅっ!!」
びし、と張って根本から登頂までを巻き込むようにしながらきつめに縛り付ける。圧迫に、景麒は身を捩らせた。
「諸悪の根源は此処だ。色欲を圧する方法を直に叩き込んでやる」
そう言って陽子はくつくつと嗤った。笑声の下で、服を乱されて縛られ、身を悶えさせる景麒の姿が、異様な淫靡さを醸し出している。
完全に自由の奪われた景麒を見下ろし、陽子は不敵に笑むと、臥台から薄い上掛けを取ってきて、ばさり、と景麒の上に投げ掛けた。
「これからわたしの言う事を、よく聴けよ。一度しか言わないからな」
視界が零になった景麒の耳に、主人の言葉がくぐもって届く。
「命令は簡単な事だ。『わたしが良いと言うまで、居ないものとして振舞え』。――声は勿論、動く事も許さん。…それが守れたら、褒美をくれてやってもいい。精々、耐え抜くんだな…」
身動(みじろ)ぎのしない上掛けを見遣って、陽子は忍び嗤う。「主上」と外から呼び声が掛かったのは、その時だった。
布の下で、景麒は意識を朦朧とさせながら、唐突に現れた声の主に眉を顰める。
陽子は動かぬ景麒に一瞥をくれると、「入れ」と言いらえながら、入り口に向かって足を踏み出した。
言いらえに応じて、宵の臥室に冢宰が入ってきた。
「今宵は御招き頂きまして…」
堂室の入り口から静かな仕草で入ってきた浩瀚は、部屋主の姿を見遣って少し目を瞬いた。
余裕の微笑で向かってくる陽子を視界の端に捉え、その背景に目を配る。
仄昏い部屋、絨毯の上に転がる硝子の高杯、点々と床に散らばる果実に似た物体、――そして榻の上に掛けられた、人ほどの大きさで不自然に盛り上がる布。
「…先客が御在りでしたか」
「いや?そんなもの居ないよ」
陽子は微笑しながら浩瀚に近付くと、その首に腕を絡めた。
「それでは、この状態を何と申し上げたら宜しいか。――癇癪でも起こされたような有様ですよ」
「ん、まぁ、そうだな。少し蟲の居所が悪かったかもな」
「それはそれは恐ろしい…」
語尾は、唇を封じられて掻き消される。珍しく早急に触れたがってくる女王を相手にしながら、浩瀚はチラリと榻に、目を遣った。
「――…全く、大胆不敵と申されますか…。よもや、このままなさる御積もりですか?」
くすくす、と愉快そうな笑声が陽子の咽喉元から零れる。
「この部屋には、わたしとお前以外、『誰も居ない』よ?それなのに、一体何を躊躇うと言うんだ」
恐いのか、と陽子は揶揄うように囁いた。
「…ええ、まあ。あまり度胸の強い方ではありませんので」
「そういう謙遜の仕方は、嫌味にしか聴こえんな…」
囁いて、陽子は浩瀚に再び口付けた。
「――で、お前は如何したい?得体の知れない恐懼に気が引けるというなら、このまま引き返すか」
「――…まさか」
小声で答えると、浩瀚は陽子を抱き上げた。女王を両腕に抱きながら、思いの外軽々とした仕草で臥台に向かう。
「未来への怯懦より、目前の誘惑の方が強いようですよ…」
「ふふ。これしきの事を誘惑と言う?」
「貴女は意外と御自分の事を御分かりでない。玉座を辞された主上は、御自分で御思いの以上に、余程魅力的で在られる。――特にそのように着崩れた御姿ほど、艶めかしく蠱惑的なものは御座居ません」
「…わたしの意思とは関わりないな」
「心にも無い事を。…澄まし貌で他人(ひと)を虜囚(とりこ)にするというのに、存じないと申されるか。…この手腕で、台補も陥落なされたのですか?」
浩瀚は懐中で艶やかに微笑む女王を柔らかな褥に下ろした。陽子は敷布の波に身体を委ね、誘う仕草で浩瀚の輪郭をなぞる。
「陥落も何も。あれは元々主人の命には逆らえんからな。――手応えが無かったぞ」
悪女の微笑が天蓋の下に満ちた。身体を重ねるように女王の上に乗りながら、浩瀚は問い掛ける。
「畏れ多い事を…。貴女は、台補を何と心得るのです?」
「…宰補、なら政治の片腕。景麒、なら…卑猥な愛玩奴隷(ペット)と言った所か。――まあ、どちらにしろ、愚かで可愛いわたしの下僕さ」
「――それが本音と?誠に恐ろしく、罪深い方だな、貴女は…」
「ふふ、その『恐ろしい女』がお前の仕える国の主だ」
失望したか、と陽子は妖しい光を湛える瞳で問うた。
「とんでもない。『仕え甲斐がある』と申し上げたでしょう?寧ろ、わたしは貴女のそう云う処に惹かれましたから、文句など言おう筈がありませんよ。――…さて、本当に宜しいのですね…?」
「何を?」
念を押すように訊かれた浩瀚の問い掛けに、陽子は真意を十割十分解り切った貌で訊き返した。
「…あくまで白を切り通されますか。まあ、それも宜しいでしょう。――この先、如何なっても、わたしは存じ上げませんよ…?」
「お前が案ずる事など何も無い。――そんな事より先に、わたしを満たしてくれるかな?」
明らかな徴発に、浩瀚は幽かに口の端を上げる。
「御命令とあらば、尽力致しましょう…」
応えて、浩瀚は最初から乱れた陽子の夜着に手を掛けた。肢体を堪能するように、首筋からゆっくりと襦袢を広げていく。
「…矢張り、貴女は美しい」
見蕩れるように、浩瀚は呟いた。陽子はそれに、軽い失笑を漏らす。
「…手が動いていないぞ…」
軽い叱咤に苦笑いすると、浩瀚は陽子の肌に唇を付けた。

景麒は布に隔たれた狭い空間で、主人が誰か――恐らく冢宰――を部屋に招き入れ、間合(まぐあ)っているらしい事を察した。
ぼそぼそという話し声はやがて、臥台の軋る音と甘い嬌声に変わり、室内を淫猥な彩(いろ)に染め上げていく。
景麒はその音を聴きながら、今まで以上に心と身体が乱れるのが判った。
――直ぐ近くで自分に最も近しい人物が、自分以外の他人と身体を重ねている。しかも、本来ならそれは、自分の立場だった。
焦燥と惜念、そして主人を寝盗られている、という嫉妬が景麒の胸に昇る。乱れた心が、朦朧として不安定な精神に揺さぶりを掛けた。
催淫を施された上に緊縛を受けた身体は、最早限界に近い。それに追い討ちを掛けるかのように、必要以上に淫らな声が景麒の鼓膜を貫いて、抑えがたい欲情を掻き乱した。
何よりも、他人の閨房を間近に臨んでいる、と云う事実に煽情される。僅かに残った理性や矜持を悉(ことごと)く粉砕され、景麒の精神は見る間に薄弱化していった。
現実と妄想が入り乱れ、景麒の視野の中に、冢宰と絡み合う主人の幻覚が過り始めた。その幻影は、景麒が視野を隔たれて隔離されている分、却って強い妄執を引き起し、嘗て無い淫情を呼び醒ます。
意識と呼応した身体の否応無い昂ぶりが、禁じられた身体を締め付け、景麒自らを更なる窮地に追い込んでいく。
それを嘲笑うかのように、布の外では危うい声と軋みが激しさを増す。――快楽の頂点に迫るその声に自らも煽られ、景麒は無意識の内に速まる呼吸と、緊縛に押さえ付けられる自身に苦しみ、密かに激しく悶えた。
束縛の痛苦と、聴姦の興奮と。呼吸は速まり、鼓動は爆発しそうな勢いで脈打っている。
昇り詰めて鋭さを増す快感に自我意識を掻き混ぜられて、景麒は身体を混沌に支配された。
一際高い声が宵を切り裂く。外の嬌劇が絶頂を迎えたその瞬間、景麒自身の興奮も天に突かされ、その衝撃で何もかもが吹き飛んだ。頭の中が真っ白で、何も理解する事が出来ない。
景麒は興奮の余波にどっぷりと浸かりきり、縛を振り切って己の欲情を吐き出した事にすら、気付いてはいなかった。

浩瀚を自室に返した後、陽子は裸の上に夜着を軽く引っ掛けて、榻に放置した下僕の所まで足を運んだ。
勢いよく布を跳ね除け、その下にあるものを臨む。陽子の目下には、寸前の痴情劇に触発されて達してしまった哀れましくもふしだらな、下僕の姿があった。
緊縛を課していた景麒の身体と、ぐったりとして弛緩した表情に一瞥をくれ、陽子は嗤う。
「――汚すな、と命じたのにな」
陽子は呟き、白い液体で穢された髪紐を手に取った。わざと解け易い方法で結んでおいたそれは、するりと音を立てて景麒から外れる。陽子は髪紐を萌黄に染める白濁の物を指先に一掬いし、明白(あからさま)に嫌味な口調で言葉を吐いた。
「あーあ…、コレじゃあ使いものにならないなぁ。気に入っていたのに、如何してくれよう…」
呟きながら、指先の物を景麒の頬に擦(なす)り付ける。
「自分のした事が判っているか?その様子だと、それも理解していないようだな。――ほんっとうに抑制力の無い奴」
「ん…ふ、ぅぅ…」
景麒が苦しそうな呻き声を漏らすのを見て、陽子は笑みを止めると、「まだ『良い』と言っていない」と冷たい声でぴしゃりと言った。
「命令は守れず、自らを圧する事も出来ず、と。――表向きの姿が、宮中で『氷月佳人』と密かに美辞されるほどの人物だとは到底思えない。…本当に、この穢らわしい裏の本性を晒してやりたいな…」
陽子の独白に、景麒は目を見開く。陽子は悪どい微笑を浮かべながら、景麒の瞳が必死に何かを訴え掛けているのを見て、「でも、やめた」と独りごちた。
「『月』は裏の貌を絶対に見せないものだしね。それを眺められるのはわたしの特権。こんな面白い本性(もの)を衆目に晒すのは勿体無いな。――むざむざ愉しみを、磨り減らす事も無いだろう」
陽子は言うと、「もう、いいよ」と言って景麒に近付いた。
「命令を解いてやる。お前の自己統制力に、端から期待してなんて居なかったさ。お前の在って無きが如きの理性限界くらい、ちゃんと判っているからね」
景麒の口を封じる帯を外し、猿轡を取ってやると、景麒は脱力した貌でそれを吐いた。
「…元気が無いな」
にこりと嗤って陽子は言う。
「――ぎりぎりだったが、凡(おおよ)その命令は守れていたから、免責として褒美を与えてやろうと思ったけど、如何やらお前の方が、それに応えられそうに無いな…」


それじゃあ面白くないんだよ、と呟き、陽子は膝を折った。絨毯の上に転がっている蒼杯に手を伸ばし、中に残っていた丸薬を一つ取り出す。
「今の有様では、こちらの溜飲が下がらない。…折角面白くなってきたのだから、最後までちゃんと愉しませてくれ。…主人の希望に応えるのが、下僕としてのお前の使命だろう…?」
言いながら媚薬の実を口先に咥え、ぱきり、と音を立てて歯で割る。そして先刻したのと同じ手段で、陽子は傀儡化した下僕にそれを流し込んだ。
暫しの間を置いて、景麒の身体は再び熱に冒され始める。先刻よりも更に強い衝動が身体の奥から突き上げてきた。芯から込み上げる昂ぶりに、景麒は声を上げた。
「――っくふぁあ…ッ!!」
「…好い啼き声だ…」
うっとりと囁き、陽子は薬の作用と呪縛に自らの意志で動く事の出来ない景麒に空を向かせた。
「…話の続きだ。褒美が欲しいか?」
紫の瞳を潤ませ、声を擦れさせて景麒は言った。
「と、当然…。あ、与えられる物なら、ば、…全て、下賜(くだ)さい…。こ、このまま、棄て置かれる…なんて、あんまりです…」
「ふうん?そこまでいうなら、与えてやろう…」
但し、と陽子は付け加えた。
「お前は言い付けを一つ破った。その罰則を付けさせて貰うぞ」
そう言って、精液で汚れた髪紐をぴしりと張る。平たく薄い、帯状の髪紐を景麒の両目にあてがい、瞼を閉じさせて視野を塞いだ。
「何処に居ようとわたしを見付けられると云うのなら、目がある必要は無いもんな」
揶揄するように陽子は言った。
「代わりに両腕の禁を解いてやる。――欲しければ残りの感覚で探って御覧」
75 名前:鬼畜女王×愛玩奴隷10 :03/06/12 01:31 ID:FeUr1Yuc
陽子がきつく縛り上げた景麒の両腕の縛を解くと、その下には薄っすらと赫い痕が残っていた。
拘束から脱し、自由になると同時に、景麒は傍らの気配に手を伸ばす。しかし、それが届く寸前にひらりと躱され、掴み掛けた景麒の右手は空しく宙(そら)を掻いた。
視えない視界の中に、主の気配が揺蕩(たゆた)うのが判った。その気を求めて、景麒は足を踏み出す。しかし、覚束無い足取りと間近に在った茶卓に進路を阻害されて、勢いよく地面に倒れ込んでしまった。
明らかな嘲笑が、堂室に響く。わらう膝を無理矢理起し、景麒は声と気配の方に立ち向かった。
「此処までおいで…」
揶揄う陽子の口調が空気を震わす。景麒はぐらつく意識で揺ら揺らと振れる気配を追いかけた。捕まえようと必死に伸ばす掌は、いつも寸手の処で虚に変わる。
景麒は思い通りにならない身体に苛立ち、とうとう自棄になって気配に飛び掛った。捨て身の構えが攻を奏したのか、空を斬る身体は、所望の物を辛うじて捕り入れる事が出来た。
足を縺れさせ、勢い余ってそのまま倒れ込む。何重にも重なった柔らかな衾褥が、重なって倒れた二人の身体を受け留めた。
押し重なった衝撃に、肌と肌が交わって温もりを直に伝える。確かな弾力を返してくる柔らかな感触に、焦燥に乾いた景麒の胸が燃え上がった。
もう絶対に逃さないよう、四肢で檻を為し、狭い空間に主人の身体を閉じ込める。
「…痛った…。もうちょっと優しく振舞えない?」
毒づくものの、陽子からは逃げる素振りが見当たらない。景麒は劣情に汗ばんだ掌で、その肢体を弄(まさぐ)った。
景麒の手の平が、陽子の身体を探るように、ぎこちなく夜着の上を滑る。なだらかな女体の隆起をなぞりながら中央に向かうと、不意に、指先が絹でない感触に行き着いた。
絹の質感とは確かに異なる、滑らかな肌の触感。夜着の合わせ目を見付けて、景麒は其処から中に指を滑り込ませた。
景麒は、指先に拡がる素肌の感触と曲線で、主人の身体の何処に触れているかを確かめる。焦る仕草で着物の合わせ目を見付け、引き割くように押し開いた。

目が視えない分、残りの感覚を使って必死に主人の身体を当たる。掌の下に拡がる肌の暖かさや柔らかさを、吸い付くような手つきで探り通した。しかし直ぐ様、手で触れ続けるだけでは厭き足らなくなる。
景麒は組み敷いた主人の身体に頬を擦り寄せ、舌を伸ばした。その肌を舌で丹念に舐め取りながら、主人の味を確かめていった。
肌と触れ合えば、その身体から昇る香りに鼻腔を擽られる。甘い匂いは、上がり花湯と、色場で発散された女の香りの混ざったもの。
魅惑の馨が、駆り立てられた衝動を突き動かす。
「…主上…っ」
景麒は興奮に昂ぶった声で、主人を呼んだ。
呼び声には返事が無く。ただ嗤う声が返ってくる。直下に触れ合っている所為で、振動として伝わる艶かしい声と、甘く乱れた吐息が景麒の鼓膜を揺さ振った。
主人の輪郭を撫ぜる内に、舌が丘陵の上に顔を出す突起に行き当たった。景麒は堪らず、それに喰らい付いて吸い上げる。
――この柔らかさが、この感触が、欲しくて欲しくて、欲しくて欲しくて仕方が無かった。
舌を尖らせて乳房をなぞると陽子の身体が、ぴくりと一瞬波打った。
「…んっ…ふふ…舌の使い方が、上手くなったんじゃないか…?」
妖艶に転がす笑声が、景麒の身体に振動で伝わる。陽子の冷たい指先が、景麒の背中を優しく撫で回すように滑っていく。焦らすように撫ぜられて、景麒の身体は益々興奮を覚えた。
「くぅ…っしゅじょお…!」
哀願の響きで、景麒は主人を求める。柔らかな乳房を掌で揉み上げながら、しきりに腰を摺り寄せて、結合の受諾を迫った。
「…馬鹿、焦るな…。時間はあるんだから、もっと愉しませろよ…」
言い返して、陽子は景麒の首筋を舌で舐め転がす。言葉とは裏腹に、性感帯を煽られて、景麒は背筋を戦慄(わなな)かせた。
「あぁ…っ!も、もう、これ以上…っ!しゅ、主上っ、御許しをぉ…っ!!」
「忍耐の無い奴だな…ッ」
舌を打って低く吐き棄て、陽子は緩く開いた肢を大きく動かした。不意を突いて、景麒を太腿の間に挟み込む。昂ぶりの治まらない分身をきつく締め上げられて、景麒は甲高く声を上げた。
「あうぁぁ…ッ!!」
「女(ひと)の希望に沿う事も出来やしない癖に、自分を満たす事ばかりに耽るのだから。――これなら浩瀚の方が余程マシだッ」
棘のある声で言いながら、陽子は膝を擦らせて景麒を刺激する。揉みしだくように嫐(なぶ)られて、景麒は声を迸らせた。
「はぁうッ!!も、申し訳、…ぁあッ!!」
「中まで許す価値も無い。お前なんか脚で充分だ!」
「っあああ!!主上、しょじょおぉ!!!」
陽子は、挟み込んで煽り立てた下肢の昂ぶりを、昂騰にぶつかる極限まで引き付け、唐突に脚を放す。
「!!」
達する寸前に放り出されて、景麒は行き場を奪われた快楽に戸惑った。
「如何した?逝きたいんだろ?ならばさっさと逝くがいい」
「しゅ、しゅじょおぅ…」
突き放した陽子の声色に、景麒は淫悦の消化不良に声を喘がせた。
「何だよ?此処まで高めて遣ったのに逝けないとでも言うか?足りないんだったら、自慰でも何でもすればいいだろう」
陽子は悪辣的な微笑を湛えて下僕を見遣る。
「それとも何か?それは矜持が邪魔して出来んと?淫獣の癖に、今更羞恥を思い出すか」
「そ、そのような訳では…」
瞳を隠された貌で必死に何かを求める仕草を見据え、じゃあ何だ、と陽子は言った。
「その口は飾りか?望みがあるならちゃんと言え。黙っていて考えが通じるならば、この世に言葉など要らんだろうが」
言い切って、放置されて居場所をなくした景麒を一撫でする。予告の無い撫和を受け、景麒は戦慄に震えた。
「――ぅう…つ、続き…」
荒く吐息を乱しながら、景麒は囁くような声で言った。
「つ、主上と続きがしたいんです…ッ」
消え入るような呟きに、陽子は鼻白んだ貌をする。
「は?聴こえない。はっきり言わなきゃ判らんなあ」
執拗な会話の虐待に、景麒は愁眉を寄せて貌を歪めさせる。陽子はその貌を見遣って、「先刻の続きか?」と悪鬼の微笑を浮かべて言った。
「――…お前には学習能力がないのか?ちゃんと何度も教えただろう。わたしとしたけりゃ、御願いしろよ。惨めに這いつくばって許しを乞えばいいだろう…!」
言葉で責め立てながら、陽子はギリギリを掠るような、微妙な接触で景麒を辱める。
「ふ、ひぁぁぁッ!!お、御願いします!先を…、温情を下賜(くだ)さいッ!!わたしに御身体を与えて下さいませ…!!」
懇願に辺り、陽子は口の端を上げる。
「――ふん。出来るじゃないか。ならば最初からそうしろよ」
吐き棄て、陽子は景麒を手に取る。ひんやりとした掌の感触に、景麒は大きく身体を引き攣らせた。陽子はその反応を愉しむように囁く。
「…知ってるか?女のカラダは男と違ってそう容易く極まらない。わたしはな、お前と交わってこの方、心の底から満足させられた事が殆んど無いだ。…だから課題だ。わたしがいいと云うまで絶対出すなよ。
――貌以外に大した長所のないお前も、一つくらいは、主人の望みに応えて漢(おとこ)をあげてみせろ」
「っう…は、はい…」
景麒が応えるのを見遣って、陽子は自らの胎の中に景麒を導いた。
「……う、くは…ッ」
忍び入ると同時に、熱く息衝く内壁が柔らかに景麒を迎え入れる。絡み付かれるだけで早くも達しそうな勢いを、景麒は必死で抑えた。
「…如何した?早く動けよ…」
脳天から快楽に蕩かされて陶然とする景麒の頬を軽く叩き、邪険そうに陽子は言った。
「…も、申し訳ありません…」
翳み掛かった頭で反射的に答えると、景麒はゆっくり動き始める。
呼吸に合わせ、加速度的に腰を突き動かしていくと、擦れ合った内部が蜜に満たされていった。
「…ん、ぁっ…!もっと!!もっと早くッ」
景麒の動きに合わせて陽子が腰を振る。命令に応えて景麒が動きを速めると、内部が更に息衝いて熱を灯した。強く絡まり合う身体が、景麒を淫楽の彼方に誘う。
「全然足りないッ!!もっと強く!!もっと奥まで入ってっ!!」
「は、はいぃ…ッ」

骨の髄まで色情に浸され、景麒の意識は疾うに臨界を超えている。主人の命令という抗えない力と己の肉欲の為すがままに、景麒は身体を突き動かした。
激しく動く分だけ、締まりがきつくなる。寄せては返すような重圧に巻き込まれ、奥に居るのに、もっと奥まで吸い込まれるような錯覚を覚える。景麒は、その目も眩むような快感に心の底から酔い痴れた。
「ぅ、ふぁ…っ、しゅじょう…ッ!!」
髪紐で為された目隠しの結び目が解けて首筋に落ちる。景麒の目前に朧げな視界が拡がった。久方ぶりに蘇った世界に飛び込んできた主人の髪色が、痛いほどに眩しい。ゆらりゆらりと揺れる紅が痴情を盛り上げ、景麒は興奮に打ち震えた。
「しゅ、しゅじょう…ッ!!もう…!!!」
景麒が弱音を吐くと、陽子は解けた目隠しの端を掴み、手綱を握る仕草で力任せに引っ張った。
「駄目!!まだッ!!」
「ふぁぁぁッ!!」
「まだまだ飽き足らないんだよ…っ」
上肢では騎獣のように動きを制御され、下肢では暴れろと言わんばかりに締め上げられる。
「ぁうあ!!そ、そんなに…ッ、そんなに締め…!!――ぅはぁあああっっ!」
矛盾と倒錯にギリギリの部分で抑制された衝動が爆発する。景麒は陽子の制止に応えられずに、熱く煮え滾る猥情の全てを噴出した。閉じ込め切れなかった部分が暴走して、白濁の物体が主人の貌にまで飛び散る。
陽子は軽く舌打ちすると、とろんとした白い液を手の甲で拭って、ぺろりとそれを舐め取った。
「…全く、身体の学習能力は知能以下だな。本当に忌々しいったら…」
景麒は荒く息をしながら、立腹する主人の機嫌を計った。
「も、申し訳…ないです…」
何処か泣きそうに眉を寄せる景麒の貌を見遣って、陽子は深く息を吐く。
「謝るだけならタダ。本当に悪いと思うなら、少しは身体で応えて見せろ。――正直、相手する気が殺がれる」
陽子の独白に、景麒は焦りを浮かべる。二度目の激昂に鈍磨した身体で力を振り絞り、主人の細腕に乞い縋った。

「ど、努力致します…。だから、どうか御見捨てにならないで下さい…!!」
切実に叫ぶその貌を暫く見詰め、陽子は軽く失笑した。
「…馬鹿だな」
囁いて、景麒の頬に手を触れる。
「見捨てたりなんかするものか。――愚かで卑しいからこそ、いとしいんだよ。…お前はこの世で最も厭しく愛しい、たった一人の半身だからな。望みとあらば、心行くまで愛してやる」
ふ、と軽く触れるだけの口付けを景麒の薄い唇に落し、陽子は悠然と微笑む。
「…少なくとも、わたしがお前に飽き果てる、その時まではな…」

陽子は二回目の入浴から上がり、新たな夜着に身を包んで臥室に戻った。
臥台では、体力を消耗しきった下僕が薄い寝息を立てて眠り込んでいる。熟睡する様子を察して、陽子は薄く笑んだ。
不意に、足の爪先が何かに当たる感じがした。何気に目を遣ると、其処に丸薬が落ちている。
点々と散らばるそれを拾って、陽子は溜め息を吐いた。
「…にしても、何て恐ろしい物なのだろう…」
――大半は下僕に流したものの、陽子も僅かに媚薬を服んだ。その所為か、普段より貪欲だったと他人事のように内省する。
たった少し摂取しただけだというのにな、と陽子は独りごちると、傍らに転がった高杯に手を伸ばして拾い上げた。
「…侮り難いな、本当に」
呟きと共に手を離す。禁断の実はころりと硝子の高杯の中に転がり落ちて、キン、と澄んだ音を立てた。
                              〈了〉

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