慶主従.SWEET&SWEET
作者251さん

就寝前の気侭な一時(ひととき)だった。
陽子は長い髪を解いて下ろし、寝間着に身を包んで臥台に寝転がっている。
臥室にはまだ煌々と灯が燈っているので、まだ眠る気はないらしい。
其処へ、足音が入ってくる。
陽子はその微かな音に目を向けて言った。
「如何した?珍しいな。こんな時間に」
「灯りが零れているのが見えましたので、まだ起きられているかと思いまして」
堂室に入ってきた彼女の下僕はそう言って己の主の下に赴いた。
陽子は軽く小首を傾げ、褥(しとね)から上半身を起こした。
「ふうん?相変わらず景麒の答えは答えになってないけど。…まあ、いいか。――座れば?」
景麒は自分を見上げる主人の視線から微妙に目を逸らしながら臥台に腰掛ける。
こほん、とわざとらしい咳払いをすると、衣服の余剰で不自然に隠れた右手を主人の前に差し出した。
陽子がそれに刮目すると、景麒は左手で右手の袂を引く。すると中から、白い花弁の可憐な花が現れた。
「…これは今日のような月夜に開花する花なんです。楼閣から、花が咲いているのが見えたので…」
「それでわざわざ摘んで来てくれたのか?」
陽子が眸を開いて言うと、景麒は照れ臭いのを我慢する貌で、「はい」と頷いた。
くすり、と陽子は軽く微笑う。
「綺麗。ありがとう」
主人の謝辞に照れ隠しに強張る貌を益々強張らせながら、景麒はその花を陽子の髪に挿した。
純白の花弁が鮮やかな紅に映える。
「――…貴女に、似合うだろうと思ったんです。…そう思ったら、無性に、顔が見たくなってしまって」
陽子は景麒の仕草と呟きに軽く頬を赤らめた。
「そ、そう…。ね、寝ないで良かった」
しどろもどろに呟いて俯く。景麒は決まり悪げな貌をしながら、ちらりと陽子に目を滑らし、少しだけ表情を崩した。
「…矢張り、よく御似合いです」
陽子は率直な景麒の言葉に更に貌を紅くしたが、不器用に微笑う下僕の顔を見詰めると擽ったげに息を吐き、ふわりと柔らかく破顔した。
「ありがと…」
微笑みながら上目遣いに視線を向けられた景麒の顔が一瞬凍りついた。そして凍りついたまま、まじまじと主人の貌を見詰めて深い溜め息を吐く。
「…主上…」
小さな呼び声に、陽子は「なに?」と真っ直ぐに顔を上げる。
「…どうやら、わたしもまだまだのようです。未熟者ですみません…」
景麒の呟きに、陽子は「え」と小声を漏らして景麒を見詰める。
景麒は無防備に目を見開く少女を思い切り引き寄せて唇を奪った。
「――んっ…」
冷たい唇に呼吸を塞がれる。予告の無い口付けに無理な姿勢を強要されて陽子は慌てた。
「け、けいき…っ」
反射的に押し遣って身体を離させる。しかしそうすると、今度はもっと強い力に流され、陽子は臥台に押し倒された。
景麒は褥に押し付けた主人が逃げてしまえないように体重を掛け、先刻より激しく口付けた。
柔らかい唇を存分に吸い、弄んでから唇を割り込ませて舌を潜らせる。戸惑う舌に舌を絡めて息を奪った。
「…っふ…んん…」
陽子は執拗な接吻に意識を軽く混濁させられた。だが、口付けが深まるにつれて意識とは裏腹に、身体が火照りを帯びていく。
一頻り唇を重ねたあと惜しむように離れて、景麒は抵抗を忘れて惚然とした主人と視線を交した。
羞恥と覚醒しつつある高揚に頬を染め、陽子は欲情を誘う貌で景麒を見詰めた。
「――…主上」
景麒は白く細い指を陽子の寝間着の合わせ目に滑らせる。微かに触れた肌にぴくっと身体を震わせ、陽子は承諾するように目を閉じた。
僅かに身を固める主人の様子を気遣って、景麒は衣の下に侵入しようとした指先を離す。
右手を主人の顔の傍に突いて自分の身体を支え、空いた左手で髪に挿した白い花を手に取る。その花先で宙(そら)を向いた陽子の顔を優しく撫ぜた。
感じるか感じないかの小さな刺激に陽子の睫毛が幽かに震える。景麒は花を臥台の隅に置くと、今度は花弁の代わりに自分の唇で、翡翠の閉ざされた瞼に軽い口付けを落とした。
触れた唇をそのまま陽子の額に寄せて慈しむように触れ、そして鼻筋から頬に、耳にと、優しくなぞるように口付けを降らせていく。最後に触れ足りなかった少女の紅い唇に、溢れそうな想いを乗せて、自らのそれを重ねた。
「…景麒…」
切ないような想いに応え、陽子は目を開けると両手を差し延べて景麒の顎を覆い、キスを返した。自分から唇を割って舌を送り、ぎこちなく景麒に絡ませる。
輪郭に触れた手を伸ばして景麒の首に緩く絡めて縋りつき、陽子は景麒の耳元で囁いた。
「…気にしないでいいよ…わたし、景麒が求めてくれるのが嬉しいから…。だから、我慢しないで欲しいんだ…」
掠れて殆ど聴こえない声に耳を澄ませて景麒が主人の貌を見ると、その向こうで恥ずかしな貌が景麒を見詰めていた。
深い翠に強い恋情と微かな情欲を浮かべ、陽子は言った。
「――…ね、しよう…?」
甘く誘う声を耳にして、景麒の背に微弱な電流が流れるような痺れが疾った。
痴情に頬を染め、控え目に求めてくる姿が愛しくて仕方が無い。
景麒は咽喉元からせり上がる興奮を抑え、「…っ御無礼を…」と囁いて、理性で抑えていた手の平を少女の躰に向けた。
服の上から掌が胸の膨らみを弄(まさぐ)ると、その下から早鐘のように高鳴る鼓動が伝わってくる。
もう幾度も閨房で睦み合っているのに、その最初はいつでも緊張している。こんな女王の姿が見られるのは自分だけだと意識すると、景麒の胸は高揚した。
少し力を加えて乳房を擦ると、陽子が「ぁ」と小さく声を上げ、震える吐息を漏らす。景麒は初心な心に似合わず多感な躰の主人を溺愛する表情を浮かべると、
「…御可愛らしい人だな、貴女は…」
と囁いて、指先を陽子の夜着の下に忍び込ませた。素肌が触れ合うと、景麒に縋りつく陽子の指先が一瞬震える。
合わせ目を乱し、露わになった処から唇をつけて啄ばんで紅い痕を付けていく。
夜の空気に触れる面積が増えていくごとに花弁が散るように紅い痕も増える。
景麒は丁寧に肌を明かしながら、陽子の滑らかな肌を愛撫した。
狭い開き目から忍ばせた手先が膨らみを柔らかく刺激する。
景麒は硬さを増して目立ち始めた蕾みに手を伸ばし、指の股で軽く挟んで擦った。
「あ…っ」
鼻の先から抜けるような甘やかな声が主人の躰の奥から零れる。その声をもっと聴きたい気がして、景麒は乳房を根元から捏ね上げ、いきり立ったそれを舌先で転がした。
「あぁんっ!」
明らかに熱を帯びていく主人の声と躰に、景麒はぞくぞくするような悦びを覚えた。深くに躰を沈めたくなる心を抑え、景麒は自分の着衣を乱しながら愛撫を続ける。
景麒は陽子を抱き起こしてその身体を締め付ける腰紐を解き、奪い去って床に放した。
崩れた傍から前合わせを捲って、主人の全てを明らかにする。肩の線からするりと衣が落ちて褥に拡がった。
明かりの下に裸体を晒され、紫の瞳に露わな姿を映されて、陽子は目を逸らして小さく呟いた。
「…あんまり見るな…」
「何故?お美しいその姿を、わたしはもっと見たいのに」
「…は、恥ずかしい事言うな、馬鹿っ」
本気で恥ずかしそうに耳まで顔を赤くする主人の様子に、景麒は少し悪戯心を起こした。
少し強引に身体の向きを変えさせ、景麒は自分の脚の間に陽子を座らせた。突然の行動に均衡を崩されて弛んだ陽子の脚の隙間から、茂みに向かって景麒の手の平が滑り込む。
しっとりと濡れた其処に手が入って、陽子は「あ…ッ!」と大きく声を上げた。
「御恥ずかしいと?こんな多感な御身体を御持ちで、何を仰るのです」
言いながら、景麒は透明の液体が纏わりついた指先を動かして秘部を弄る。前で抱え込んだ少女の躰が大きく跳ねた。
「ひゃぁん!」
侵攻に萎縮した陽子を後ろから抱き締めるようにして押さえ、景麒は息衝く身体を更に攻め立てた。指先が円を描くように秘花の花弁を焦らすようになぞる。
「きゃあぅっ!や、やだ、景麒っ」
「御厭ですか?…御身体の方は、そうではないようですが…」
両腕と突きたてた膝で、がっちりと陽子の身体を羽交い絞めにし、景麒は自由な手の平で陽子の乳房と秘所を弄(もてあそ)んだ。
左手で乳首を弄りながら、右手の中指と人差し指を花壺の中に潜り込ませる。
飲み込まれた花の中から、ちゃぷ、といやらしい水音が響いた。
「いやぁあああんっ!だ、だめぇ…っ」
「もうこんなに濡れてしまって…。御身体は正直ですね…」
耳元で擽るように囁いて、景麒は奥まで指を伸ばし、くちゅくちゅ、とわざと音を立てて動かした。
直に抱き締める躰から、背中越しに如何しようも無い火照りと、荒く短い呼吸が伝わる。
昂ぶっているのを判っていて、景麒は己の昂ぶりを陽子の腰に押し付けながら、もっと興奮を煽るように強い愛撫を繰り返した。
「はああああんっ!!」
逃げ出しそうな躰を押さえ込み、忍ばせた指で内部を掻き乱す。温まった内部が、ぴくぴくっと息衝くのが指先に伝わった。
「やんっ!やだ、も、景麒のイジワル…っ」
快楽と軽い恥辱に、陽子は瞳を潤ませる。その泣きそうな貌を見て虐めているような気分になり、景麒は軽く逡巡してから指を彷徨わすのを止めた。
景麒は少し行き過ぎた自分の振る舞いを省みて「すみませんでした」と謝り、きゅっと陽子を抱き寄せて耳の裏や項(うなじ)に軽く口付けた。
「…その、少し、調子に乗りすぎました」
侵攻が止んで、陽子は少し落ち着きを取り戻す。
「ほ、本当に、悪かったと思ってる…?」
軽く首を反らせ、快感に眩んで惚っとした目線で陽子は景麒を仰いだ。
景麒は振り返った陽子の瞼に唇で触れ、「思っていますよ」と言った。
「ホントに?」
「はい」
陽子は少し拗ねたように上目遣いで景麒を見遣ると、口先を尖らせ、「…じゃあ、許してあげる」と言った。
甘やかに恥じらう表情を目の当たりにして、景麒は軽く息を詰まらせた。
――無意識の内に欲情を煽る、天性の艶。
(…これで手を出すなと言うのが、土台無理な話だ)
頭の片隅でチラリと思い、景麒はあっさりと抑制を棄てた。
景麒が休ませていた指を気紛れに動かすと、鎮まっていた中の昂ぶりが目覚める。
「ひゃう!け、景麒っ…!!」
口とは裏腹な躰に、可愛くて仕方がないという貌で、景麒は微笑した。
「貴女は本当に御可愛らしい」
囁きながら、景麒は再び陽子の身体を弄(まさぐ)った。煽り立てるように泳ぐ指先に踊らされ、陽子は昂ぶった声を上げた。
「きゃうんっ!…もう、ばか景麒!!全然反省してないじゃないかっ!!」
催淫に錯乱しながら陽子が抗議すると、景麒は触れたがる手を休ませずに囁いた。
「元はと言えば主上がいけないのですよ?そのような愛しげな振る舞いで、御誘いになるのですから」
そう言って景麒は陽子の耳朶を甘く噛んだ。
「や、やだっ!そんな事してな…っ、ああ!」
「…無自覚だからこそ、罪ですよ。しかし、その天賦の罪深さですら、いとおしい…」
愛撫しながら囁いた景麒の声は、最早陽子の耳には届いていないようだった。
「気丈な所も、正直な処も全て愛しておりますよ。貴女の下僕(もの)に成れて、わたしは倖せです」
景麒は淫情に溺れる主人にうっとりと微笑み、指を引き抜いて陽子を抱き上げると、弛緩した脚を大きく広げさせて熱く昂ぶった己をその中に貫かせた。
「ふぁあああ…っ!!」
陽子は自分の中に入ってきた指とは比べ物にならない熱と体積のものに嬌声を迸らせた。
「…貴女の悦ぶ貌を、もっと見せて下さい」
景麒は力の入らない陽子の腕を自分の首に絡ませて抱き寄せると、ゆっくり腰を動かした。
「あんっ!あぅ、あぁあっ!!」
躰の内側から途轍もなく強い興奮が沸き起こる。陽子は、くらくらするような快楽に耽溺しながら、必死で景麒に縋りついた。
「ああ…っ景麒、けいきぃ…ッ!!」
知らず内に、もっと感じたくなって陽子は腰を振っていた。動きに合わせて快楽が怒涛のように押し寄せ、陽子は甲高い声を上げた。
「ひゃああん!!あん、あ、ああッ!!」
「主上…っ」
景麒は呼吸を荒げて悦楽に浸る主人甘い声に誘われて、更に深い繋がりを求めた。
開いた脚をもっと大きく広げさせて奥の奥に身を沈める。
「…ぅきゃああああああ!!」
躰の芯を突かれて興奮した陽子の叫びが臥室に響き渡った。
身体中の血液が沸騰するのではないか、というくらい、全身が熱く激しく昂ぶっていく。
「表に聞こえてしまいますよ…」
景麒は囁いて喘ぎの零れる陽子の口を己の唇で塞いだ。
熱を纏った舌を互いに絡ませ、何度も何度も口内を犯し合う。
狂ったように口付け合った後、陽子は淫靡に乱れた声を上げた。
「景麒…っ、わたし、何かおかしいよぉっ…躰が熱くて、どっかイッちゃいそう…!!」
卑猥に溶けてはらはらと零れ落ちる陽子の涙を、景麒は唇で掬い、淫らに惑う主人をさも愛しそうに抱き締めた。
「主上ぉ…っ!!」
景麒は額に薄く汗を滲ませて、強く強く主人を愛した。突き上げて捏ねまわすと、熱と蜜が溢れて拡がっていく。
「ひぃああっ!!壊れちゃう!こわれちゃうぅ…ッ!!」
深く愛した分だけ、熱に浮かされた陽子の腔内がビクビクと波打つ。緩急を与えながら、それは淫らに景麒に絡みついた。
「…っく…っ」
景麒が興奮に耐えながら、陽子の悲鳴を無視して壊れるくらいの勢いで何度も突き抜くと、胎内の収縮の間隔がどんどん狭まっていく。
「け…景麒っ、わ、わたし、もう…!!」
「しゅじょう!」
「――っああああああああ!!!!」
ビクッ、と大きく跳ね上がったのを最後に、陽子は翡翠の瞳を大きく開いて躰を凍りつかせた。
景麒は組み敷いた躰が絶頂に極まるのに合わせて熱く滾った劣情を吐き散らす。
快楽に酔って意識を跳ばされ、混ざり合った体液が躰の外に飛び散った事にすら、陽子は知覚出来なかった。



景麒の胸に身を乗せて横たわった陽子は、茫然(ぼんやり)とした瞳で無造作に放り出された白い花を見ていた。
何気なく手を伸ばしてそれを手に取る。花の付け根を持って指先で廻しながら陽子はポツリと呟いた。
「…全く、如何してだろう…」
景麒は自分の上に乗る主人の髪をそっと撫でながら、「何がです?」と問い掛けた。
陽子は平然とした面持ちの下僕を見詰めて軽く息を吐くと、質問には応えずブツブツと独りごちた。
「愛想なし、は兎も角、唐突だし、強引だし、反省しないし、言う事は聴かないし、結構ゴーイングマイウェイというか…」
並べられる雑言から思うに、どうやら自分の事を言われているらしい、と考えて景麒は思考を廻らせる。
しかし、言うのに丁度好い言葉が見付けられない。景麒は仕方無く、決まり悪げな貌で沈黙した。
陽子はそんな景麒を差し置いて、さも不思議そうに「なのに何でかなあ…」とまた独り言を落とす。
そして物言いたげだが声の紡げない下僕を翡翠の瞳で眺めた。
為すべき事の見当たらない景麒を暫し見詰め、その様子に破顔すると、「ま、仕方ないか」と陽子は呟いた。
「気に入っちゃったんだもんな。――もう他の者(だれか)なんて考えられないし」
呟いて、陽子は景麒に腕を廻して縋りつく。抱きついた姿で景麒の胸に頭を押し付け、陽子は軽く目を閉じた。
景麒は悪態からは予想もつかない行動をされて硬直している。陽子は動けないでいる下僕を気配で察して、
「…口惜しいけど、『愛してる』ってこと。」
と、今度ははっきりと景麒に向けて言った。
複雑な行動に戸惑いながらも、景麒は身を寄せてくる主人が頬を赤らめているのを見て、漸く真意を理解する。
すると景麒は心底嬉しそうな貌をして、全身で抱え込むように陽子を抱き締めた。
鼓動と呼吸を間近に感じながら体温を共有するのが心地好くて、陽子はそっと微笑む。
夜が静かに深さを増していくのを、窓の外の月が中天から優しく穏やかに見守っていた。
             《了》

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