作者:257さん&620さん  >835、842-843

「この間、六太が蓬莱から面白いものを持ってきてな」
 と、尚隆が取り出したのはいわゆる電動こけしだった。きょとんとしている景麒の前でうぃんうぃんと動かしてみる。
「自ら動く仕掛けがしてあるのだ。ただ形を模しただけのものならこちらにもあるが、残念ながこういった道具はまだないな」
「はあ……」
 景麒が理解してないと見て取り、尚隆はニヤリと笑った。
「何に使う道具だと思うか?」
 しばらく考えこんだが、景麒は首を振った。
「私にはわかりかねます」
「いかんな、そんなことでは」
 尚隆は大仰な仕種でため息をついた。
「麒麟というものは、王の半身。主が必要とするもの、望むことを先回りするぐらいの気配りをしなければ」
「ということは、それは王が使う道具なのですね」
 王、という言葉を聞いて、景麒の表情が引き締まる。
「んー、まあ、そうだな」
 王だけじゃないが、という言葉は飲みこんで、尚隆は難しい顔を作る。
「だが、陽子は使い方を知らんかもしれんなぁ」
「ならば、使い方をご伝授いただけますか」
 企み通りの答えを景麒から引き出し、尚隆は内心、ガッツポーズをする。
「そうか。景麒がそのように頼むならば仕方ない。俺が2人に教えてやろう」
「ありがとうございます。すぐに主上を呼んで参ります」
 尚隆の本心には欠片も気づかず、いそいそと景麒は立ち上がった。
 陽子の運命やいかに。


「主上、失礼します」
「ああ、景麒か。どうした?」
 陽子は首を傾げながらも、景麒を招き入れる。
 もう夜も遅い。陽子は激務に疲れ切った体を休めていた。
「ああ、もうお休みでしたか」
「いや、いい。それよりどうしたんだ?こんなに遅くに」
「……主上はこれをご存じですか」
「……っ」
 陽子は絶句する。知識としては知っていたが、思わず赤面して目をそらす。
「し、知らないっ」
「そんなことでは困ります。主上にはよい王となる為にも、これの使い方を覚えてもらわねば」
 そう言って景麒は尚隆に教えられたとおり、スイッチを入れる。
 ぶいんぶいんと音がして、それがみだらにくねり始めた。
「うっ」
 陽子の顔が引きつる。
「ちょっと待て景麒。予王にもそんなことをして差し上げていたのか?」



「ねえ、どうして予王が関係あるのかしら」
「さあ……それより見て、あの動き。蓬莱ってすごいのねえ」

「いえ、残念ながら当時の私は、こんなことも知らなかったのです。
 お恥ずかしながら、私がこれを知ったのはつい先日」
「つい先日!?」
 陽子の脳裏に閃くものがあった。
「なあ……景麒。それ、誰に教えてもらったんだ?」
「雁王陛下に」
「あんの愚王めえっ!」


「陽子怒っちゃったわよ」
「アレを陽子が知ってたなんて……誤算だったわ」
「私も知らなかったのに……」

 




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