作者:78さん >113-120@二冊目
「‥‥‥‥主上」
景麒が腕の中の少女にそっと、気づかうように呟いた。
房室は既に薄暗く、雲間からこぼれる月明かりだけが二人を照らしている。
「景麒、ごめん。どうしたらいいか‥‥‥わからないんだ」
景麒がどういう気持ちで、何のためにここに来たのか、もう予想はついている。
そんな彼を、拒みたくはないのだけれど。
「‥‥‥怖いのですね?躊躇っておられるのですね、受け入れることを」
「‥‥‥‥‥‥ッ」
しかもこの国では罪悪なのだ、自分たちが今にも踏み込もうとしている領域は。
おそらく思うところは同じなのだろう。陽子がぎゅっとすがりついてきた。
その身体を抱きしめ返して、景麒は言葉を探す。
「‥‥‥形があれば、よろしいか」
「‥‥‥‥形?」
「そう、形。‥‥‥貴女が拒む。にもかかわらず、私が無理に求めた‥‥‥そういう形です」
罪は自分だけが引き受けるから、と。
少女は息を飲み、しかし、受諾も拒否もしなかった。無言のまま、いっそう強く青年にしがみつく。
溜息をついて、景麒は陽子をその腕から解放した。
陽子は一瞬、驚いたように彼を見つめ、それから二歩後ずさる。寝台に腰を落として、俯いた。
「私は情けない‥‥‥こうして食い下がってまで、想いを遂げようとしているのだから」
自嘲気味に呟くと、一拍置いて景麒は歩を進めた。
先の陽子とは逆に、彼は二歩進み、そのまま寝台に膝を埋める。ぎし、と音がした。
寝台に上がってきた景麒は、さらに後ずさる陽子をたちまち壁際まで追い詰める。
陽子は赤面して顔を背けたが、景麒の長い指は、すぐさま陽子の顎を捉えた。
唇が重なる。
「‥‥‥ん、んぅ‥‥‥ッ」
陽子が苦しげに身体をよじった。
その唇を解放し、次いで景麒は手をかけて一枚、また一枚と彼女の衣を剥がしていく。
またたくまに生まれたままの姿にされ、陽子は恥じらって目線を泳がせた。
その間に一瞬重なった視線を逃れるように逸らし、苦しげに景麒が言葉を吐いた。
「まこと私を拒まれるのであれば、どうか勅命を以ってお願いいたします。今ならまだ、間に合います
ゆえ‥‥‥」
本当か?と自嘲的な思いに突き当たる。
そう言った彼自身、その言葉を疑っていた。拒まれた時、己は本当に彼女の意志を尊重できるのだろうか、と。
言いようのない苦しさに瞼をぎゅっと閉じた時、小さな衝撃を感じて景麒は我に返った。
陽子が景麒の袖端を掴んでいたのである。
「‥‥‥主上‥‥‥‥‥‥」
「いいよ‥‥‥景麒」
え、と呟く景麒の頬に、小さくて柔らかな陽子の掌が触れた。
「‥‥‥‥ッ」
「お前一人のせいになんて、決してしないから」
誰かの罪を負わせて、一人満たされようとは思わない。
「‥‥‥主上‥‥‥ッ」
胸がじわりと熱くなる。
「だから‥‥‥して?」
二人はしばし見つめあい、そのあと同時に微笑んだ。
まるで、今にも壊れてしまいそうな顔で。
「はい、主上‥‥‥これより後、何があろうとも、私は貴女とともに」
「‥うん‥‥」
「貴女のお側に。私は貴女のものです‥‥‥」
また微笑んで、景麒も自らの衣を脱ぎ落とす。再び陽子に覆いかぶさると、胸元に唇を落とした。
わずかに汗ばむ肌を丹念に舌で辿り、終いに両の蕾を唇に含む。
「ああ‥‥‥ッ!‥‥んぅ‥‥」
陽子がしがみついてくる。小さな爪が食い込んで、景麒の肌に赤い筋を描いた。
「あ‥‥‥ごめん‥‥‥」
わずかとはいえ、滲む血に陽子は景麒の身を案じた。安心させるように景麒が言葉を返す。
「どうかお気になさらず‥‥‥名誉の負傷ですから」
「や、やだ何それ‥‥あぁッ」
思わず赤面する陽子に構わず、景麒は彼女の身体を辿ってゆく。
じんわりと濡れかけた秘所へ達すると、そこを長い指で優しくまさぐった。
「あ、ああ、あッ」
卑猥な音が室内に響き、あまりの羞恥に陽子はたまらず顔を覆う。
「あッ、景麒‥‥ッ、や、そ、そこはだめぇ‥‥‥ッ」
「感じやすくていらっしゃいますね、主上。では‥‥‥」
愛撫にますます濡れてくるそこを嬉しそうに鑑賞し、可愛くてたまらないというように熱っぽく囁くと、景麒はそこに指を差し入れる。
指で中を探り、その動きに合わせて切なげに啼く陽子をひたすら愛した。
「や、あ、も、もう‥‥」
支えてくれるものを求めて、陽子が景麒にすがりつく。大丈夫だ、というように景麒は陽子の肩に唇を落としてやった。
「さあ、主上‥‥」
私もともにおりますから、と呟き、景麒は指を巡らし大きく膣を掻き回した。
陽子の身体がぐっと仰け反る。
「あ、あ、あぁッ‥‥‥あああああーーーーーッ」
高い悲鳴とともに、陽子の身体が崩れる。
未知の高みへと昇らされた彼女は、未だ戸惑いつつも、快楽に溺れ、喘いだ。敷布を鷲掴んで、荒い呼吸を何度も繰り返す。
景麒は先ほど脱ぎ落とした自分の衣で、陽子の汗を拭いてやった。
そして、耳元でそっと囁く。
「‥‥落ち着かれたか?」
「うん‥‥‥‥」
陽子は微妙に視線を泳がせ、結局景麒にその焦点を合わさぬまま頷いた。
その細い顎を捕えて、景麒は陽子の目線を自分へと向けさせる。
射抜くような強い光をその瞳に湛えて、景麒は厳かに彼女に告げた。
「貴女の全てを、私にください。そして、お教えくださいませ。貴女に触れられる者は、ただ一人
この私だけだと」
そして、陽子の細腰を抱き直し、額に軽く唇で触れた。
ぎゅっと強くすがりついて、陽子が笑う。先と同じ、泣きそうな笑顔。
そんな彼女を、景麒は愛しいと思った。その視線に気づき、陽子が小さくこくり、とうなずく。
景麒は胸がかっと燃えるように熱くなるのを感じた。
「‥‥主上、ご無礼を‥‥‥!」
気持ちがはやり、彼は一気に自身を収める。
容赦なく奥まで貫かれ、どうにも激しすぎるその侵攻に初めての身体は悲鳴を上げた。
「あああああッッッ!!!け、景麒、痛‥‥‥ッ」
「主上‥‥‥」
身体に走る激痛に、陽子が呻く。
だが、こればかりはどうにもしようがないものだ。なだめるように、景麒は汗で濡れて張り付く髪を掻き分けてやった。
しかし、それでも陽子の苦悶は続く。
「や、やだ、そんなに、痛く、しないで‥‥‥ッ」
必死の懇願に、さしもの景麒も動きを止めた。
彼の腕に、陽子の細い腕が絡まる。
景麒は瞠目し、それから申しわけありませんと詫びて、陽子を抱き直した。
「力を抜いて。そう、そうです‥‥」
ゆっくりと呼吸をさせて、陽子を落ち着かせる。
それから、至極ゆっくりと動き出した。
それでもやはり痛いのだろう、陽子が表情を歪める。だが、景麒としてもこれ以上の譲歩は出来そうにない。せめて、と髪をそっと撫でながら景麒は陽子の頬にくちづける。すると、まるで彼を許すというかのように、陽子も景麒の裸の胸にくちづけてきた。
その必死な様子に景麒は苦笑する。
心の中で許しを請い、景麒は少しだけ、強く突き入れてみた。
「ああッ!!!あ、はぁ‥‥んッ‥あ、あぁッ」
陽子が可愛らしく啼いて、景麒を誘う。
腰を動かしながら、景麒は陽子の身体に赤い痕を刻んでいった。
徐々に高まる快感に、二人は耽溺する。
「あ、あ、あんッ」
激しい快感が体中を走りぬけていく。
涙がこぼれだして止まらない。
全ての思考は遥か彼方へと追いやられ、二人を結び合わせるのは奥底の本能だけ。
陽子の中がきゅっと締まり、景麒は果てが近いことを悟った。
「あ、や、あぁ‥‥あぁあああああーーーーーッ!!!」
景麒が小さく呻き、陽子の中に熱くたぎる精を注ぎ込んだ。
そのまま二人して寝台に倒れこみ、最後の力で互いの身体に腕を回す。
そして、きつく、きつく抱きしめあった。
「主上‥‥私の主上‥‥‥」
「‥‥け、いき‥‥‥ッ」
そう、これからずっと、離れることのないように━━━━━━━━━━━━
未だ半分まどろんでいるような陽子を腕に抱きながら、寒くないように、と景麒は掛け布をぐいっと
引っ張り上げた。
その動作で目が覚めかけたらしい陽子が、彼を見上げてくる。
「‥‥ん、景麒ー‥‥‥‥」
「申しわけない、お起こしするつもりは」
別に〜、と首を振るその表情はぼんやりしている。
はたして、わかっているのか、いないのか。
「まだ休まれた方がよろしい。お辛いでしょう」
「んー‥‥」
景麒は、寝惚けたようなその口調に苦笑する。
陽子は小さな欠伸を漏らし、素直に彼の腕枕に頭を預けた━━━━━━ついでに置き土産の一言を残して。
「‥‥ん。私も、景麒のものだよ‥‥」
「‥‥‥‥主上?!」
一瞬硬直したあと、景麒が世にも幸せそうに微笑んで眠りについたのは言うまでもない。
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