※ゴーカン物にて注意!!

作者:前スレの二五七さん  >15、17、28-29、42-43、213-216@二冊目



 その少女を見たとき、またか、と景麒は絶望した。
 蓬莱の見慣れぬ服を着て、怯えた表情でこちらを見ている少女には、王足るべき覇気も思慮深さも感じられなかった。
 だが、それでも王気は彼女に宿っていた。
 彼女が王だ。それは動かしようのない天の理だ。
 景麒は少女の足を取り、膝をついた。
「御前を離れず忠誠を誓うと誓約する」
 だが、少女は契約を受けようとはしなかった。追っ手があると、危険があると何度も諭し、事実、敵の攻撃で建物が破壊されているにも関わらず。
 景麒は苛立った。
「命が惜しくないのですか。――許す、とおっしゃって下さい」
「い、いやっ」
 赤みを帯びた長い黒髪を乱し首を横に振る少女に、青ざめた顔の女が重なる。――玉座に怯え、自分の運命から目を背け、逃げようとした先代の王。
「台輔!」
 なおも詰め寄ろうとしたとき、使令が緊張した声を上げた。そのせっぱ詰まった様子に、いよいよ敵が近づいてきたことを感じ取り、景麒は焦りを深くした。
 ――手段を選んではいられない。
「班渠、ここは任せる。驃騎、この方を」
「御意」
 景麒の影から使令たちが姿を現す。少女が息を呑んだのがわかった。それに構わず、景麒は芥瑚に抱かれて飛んだ。驃騎が少女を抱え、後に続く。
「いやああああああああ!」
 少女の悲痛な声も、今の景麒をさらに苛立たせるものでしかなかった。事態を把握しようとせず、人の言を受け入れようとせず、感情に任せて泣き叫ぶだけの、愚かな少女。
 しかし、それでも彼女が王なのだ。
「芥瑚、止まれ」
 いくつもの山と海を越えて、ようやく追っ手の気配を感じなくなったところで、景麒は女怪に命じて地面に降り立った。
 そこは海にほど近く、四角い建物の建ち並ぶ一角だった。周囲に人の気配もないことを確かめて、景麒は少女を振り返る。
 少女も今は驃騎から降ろされて、息も絶え絶えに地面にうずくまっていた。
 景麒はその姿を冷たく見下した。
 まいたとはいえ、いつまた敵が迫ってくるかわからない。一刻も早く、彼女をあちらへ――本来の世界へと、連れていかなければならない。
 だが、いかに王といえども契約前は只人だ。このままでは呉剛門を潜ることはできない。無理に渡すことができないわけではないが、無事にあちらにたどり着く可能性が極端に低くなる。
 王を失うかも知れない、そんな危険を冒すわけにはいかなかった。
 景麒は少女に近づき、その前に再び跪いた。
「御前を離れず、勅命に背かず、忠誠を誓うと誓約する」
 のろのろと少女は顔を上げた。
「なんなの……?」
「契約を。でなければ、あなたをあちらへお渡しできない」
「……いや」
「まだそのような愚かなことを」
「いや!」
 少女は突然大声を上げた。
「勝手なことばっかり! 契約って何なの!? こんな倉庫街なんかにあたしを連れてきて……変なことに巻きこまないで! 家に帰して!!」
 ――どこまで愚かなのだ、この方は!
 景麒の感情が沸騰した。しかし、表情はあくまでも冴え冴えと冷たく、陽子を見据える。
「……では、どうしても嫌だと?」
「そうよ! わけのわからないことはもうたくさん! あたしは……っ」
 突然景麒に腕を掴まれ、少女は怯えて口をつぐんだ。
「な、なにを……」
「お言葉がいただけないのであれば、体の交わりにて契約をするまで」
 少女は言葉の意味を計りかねたように、一瞬ぽかんとして、それから狂ったように暴れ出した。
「い、や……いや、いや、いやぁぁぁ!」
 少女の抵抗を、流れる涙を、景麒は一切無視した。何よりもまず、契約をすませることが急務だった。
「冗祐」
 景麒の影から、賓満が姿を見せた。地面から半分だけ現れた赤い目をした男の顔に、少女は大きく目を見開く。
 その顔がするりと地中を抜け出し、ゼリー状の体が自分へと近づくと、パニックはより一層深まった。
「な、なに!? いやっ、やめて……こないでっ!」
 逃げようと腰を浮かすが、景麒に腕を取られて動けない。
「いや、いやーーーーーーーーーっ!」
 冗祐を寄せつけまいと、涙を散らし、髪を振り乱して、少女は自由になる片腕を振り回す。
 無駄な抵抗だ、と景麒は思う。
 少女の姿はいっそ滑稽ですらあり、景麒の心をますます冷えさせた。
 冗祐が少女の後ろに回り、首筋に取り憑いた。
 ゼリー状の体が襟元から侵入し、少女と一体化していく。
「ひゃ、あ……」
 少女がぶるりと体を震わせた。ぱたぱたと涙が地面に落ちる。
「いや……気持ち悪い…………」
 冗祐が完全に少女に取り憑いたのを確認して、景麒は腕を放した。解放されたと思ったのだろう、一瞬、少女が安堵の表情を見せる。だが、すぐにその顔は驚愕に歪んだ。
「なに……?」
 少女の手がゆっくりと上がって、衣服の襟元にかかる。
「いや、勝手に……あたしじゃない、こんな……」
 少女は怯えながらも、跪いたままの景麒を睨みつけてきた。
「あ、あたしにいったい何をしたの? あの化け物は何なの!?」
 少女が問う間にも、両手は上着を探っている。冗祐が衣服を解く術を探しているのだ。
 異世界の衣服は、景麒の常識からすれば下着姿にも等しいものだったが、やはり術を知らねば簡単には脱げぬ物らしい。
「冗祐、裂け」
 景麒の命令に、少女の手が襟元にかかった。そして、そのまま左右に引きちぎる。
 普段の自分ではあり得ぬ力に、少女は呆然と目を見開いた。それから白い下着を晒している自分の姿に気づいて悲鳴を上げる。
 しかし、少女の手はその下着も無造作に掴み、力任せに引っ張った。留め金が壊れて、少女の肌を打つ。
「あつっ……」
 少女の白い肌に赤い筋が刻まれる。景麒は手を伸ばして少女の肩を抱くと、そこに舌を這わせた。
「や、いやぁ……」
 肌に感じる男の唇を、少女は首を振って拒絶する。たが、その手は景麒の体を抱きしめていた。
 自由にならない体に、少女は涙をこぼす。
「ひどい……こんなのって――っ!?」
 少女がひっと喉を鳴らした。彼女の右手が、景麒の体を滑って下肢へと降りたのだ。
 細い指が、布の上から熱い高ぶりをなで上げる。
「ゃ……っ」
 男のモノなど触るのは初めてなのだろう、少女は弱々しい悲鳴を上げる。しかし、そのの手は長袍の合わせを潜り、下衣をはいで景麒自身に直接触れてきた。
「……っ」
 景麒はわずかに身体を震わせた。少女の手がゆっくりと景麒自身をしごき上げる。
「あ、あ……いやぁ……」
 眉を寄せ、少女は嫌悪感をあらわにする。その表情とは裏腹に、白い指は淫らに景麒にまとわりつき、的確な刺激を与えてくる。
 どこか倒錯めいた状況は、景麒の冷え切った心に欲望の灯をともした。
 自分のしていることが信じられないというように、瞠目している少女を引き寄せ、唇を奪う。
 きつく閉じようとする口唇を、顎を押さえて開かせて、舌を滑り込ませた。怯えて逃げる少女の舌を絡め取り、きつく吸い上げる。
 存分に柔らかな唇を味わいながら、景麒の手は少女の胸を愛撫する。まだ青いかと思われた膨らみは、意外な弾力を返してきた。
「ん、んんっ、ん――」
 少女の瞳からまた涙が溢れる。だが、その体が少しずつ火照りだしていることに、景麒は気づいていた。
 先端を指で挟んで擦ると、少女の顎が跳ね上がった。
「ぁっ……やめ、て……っ」
 離れた唇はそのままに、景麒の舌は首筋を辿っていく。拒絶の声に、微かではあるが喘ぎが混じり始める。胸の先端に唇がたどり着いたときには、紅く色づいたそこは完全に立ち上がっていた。
「はっ……くっ、ぁっ」
 舌先で転がせば、唇を戦慄かせて喘ぎを漏らす。
 少女自身も、もう自分の体の変化に気づいているようだった。
「ん……ぁ、いやあ、どうして……」
 ポロポロと涙をこぼしながら悲しげに首を振る。しかし、その声の中の拒絶の響きは弱くなっていた。
 景麒は少女の下肢へと手を伸ばした。厚手の裙のような服――それにしては短かったが――の裾をまくり上げて、秘所を覆う布に手をかける。
 その途端、少女はまたも激しい抵抗を示した。
「いやっ! やめて……お願い、お願いだから」
 どれほどに哀願されても、景麒は止めるつもりはなかった。憐憫を感じないわけではない。だがそんな感情も、大儀の前には些細なこととして切り捨てた。――切り捨てられる、と……そう考えてしまうのが景麒だった。
「いやああああああっ」
 白い布を一気に引き下ろす。完全に冗祐の支配下にある体は、簡単に膝を開いて、景麒の前に秘所を晒した。少女が目を閉じて顔を背ける。
 すでに花弁はしっとりと露を含んでいた。
 羞恥に震える少女を無感動に見やり、景麒はその場所へと指を差し入れた。
「ああっ……いたっ」
 少女が顔を歪めた。濡れてはいるが、十分ではないようだ。内部の狭さに、景麒は少女の体がまだ一度も開かれていないことを察した。
「いやっ、やめて……抜いて、お願い」
 体の自由の利かない少女にできるのは、ただ拒絶の声を上げ続けることだけだ。しかしその声も、景麒は無視した。
 もう一度、胸の突起を口に含みながら、ゆっくりと指を出し入れする。
「冗祐」
 景麒の命に、少女の手が景麒自身から離れ、自分の体を嬲りだした。引き裂かれた上衣からこぼれる乳房を左手が揉みしだき、右手は下肢へとのびる。
 少女が瞳を見開く。
「や、いやっ! 何するの、ぁふ、や、ぅ……ああっ」
 少女の細い指が花弁の中の芽をとらえた。露をからめて、ゆっくりと円を描くように転がすと、少女の喘ぎが深まった。
 紺色の下衣を腰の辺りにまとわりつかせ、大きく足を広げて花心を弄る。少女自身の意志を無視した自慰は、しかし確実に彼女を高めているようだった。
「……ふ……っ、ゃ、どうして、こんな……、いや……ぁっ」
 ちゅ……じゅぷ……。
 花弁からは淫らな水音が響くようになっていた。景麒は指をもう一本増やし、道を広げた。
「……んんっ………やっ……ぃ……」
 必死に喘ぎを押し殺し、少女は首を振り続けた。だが、その内部は熱く景麒の指に絡みついてくる。
内壁を擦るように指を折り曲げると、とうとう堪えきれなくなったのか、戦慄く唇から高い喘ぎがこぼれた。
「ぁ……はっ、も、もう、許して……んっ、おねがっ」
 すがるような表情で、少女は景麒を見上げる。その漆黒の瞳は快感に潤み、半開きになった唇からは熱い呼気が漏れている。
 自分がどれだけ扇情的な貌をしているか、少女に自覚はないだろう。また逆に、意図的に媚びているのならば、これほど男を煽りはしない。――無自覚だからこその罪。
 不意に景麒の中に苛立ちが甦った。
 少女の中から乱暴に指を引き抜くと、彼女に己の高ぶりをあてがい、押し入った。
「ひ、ぁ……――――――っ!」
 少女の悲鳴は声にならない。喉を引きつらせて、呼吸すらままならない様子だ。
 景麒もまた、体の変調を感じていた。破瓜の血の穢れにあたったのだ。だが、それを無視して体を進める。
 慣らしたとはいえ、少女の中はひどく狭かった。
 景麒を拒むかのように彼を締めつけ、押し返そうとする。しかし、それは景麒に快感をもたらすだけであった。
 いや、それ以前に、景麒は体の奥底からわき上がるような歓喜を覚えていた。
 それは麒麟としての本能。
 王を見出し、契約が成されんとしていることへの歓び。
 だが――。
 景麒は少女の顔へと視線を転じた。
 黒い瞳を今は閉じて、痛みに顔を歪めながら、少女は泣き続けている。
 ――彼女は、駄目だ。
 先代の王の時と同じ予感が、景麒の胸を満たす。
 よき王となるためには、何かが決定的に足りない。……慶にはもう、猶予はほとんど残されていないというのに。
 ――自分は、慶を滅ぼす王を選んだのかも知れない。
 絶望と、歓喜と。
 相反する感情が景麒の中でせめぎ合う。
 景麒は乱暴に少女を抱え上げると、より深く、彼女の中に突き入れた。
「……っ、……ぅぁ…………」
 がくがくと人形のように揺すぶられる少女の唇から、喘ぎとも嗚咽ともつかない声が漏れる。
 その瞳は変わらず涙を流し続けていたが、少女の表情から拒絶の色は失せていた。いや、感情というものがほとんどなくなっているかのようだ。
 ただその中に、ほんの少しだけのぞく色がある。
 それは、諦めの色。
 何もかもを諦めて、ただ、時がすぎるのを待つだけの……。
 景麒は唇を噛みしめて、いっそう体の動きを早くした。
 ほどなく、その時が訪れる。
「あぁ……っ」
 体の中を何かが走り抜けたような感覚に、少女は思わず声を上げる。
 感情のなかった瞳に色が灯った。
「いや……中、に…………ひどい……」
 少女は唇を噛みしめて、また新たな涙をこぼした。
 少女がなぜそれほどに嘆くのか、景麒にはわからない。
 景麒の絶望が、彼女にわからないように。
 少女から体を離すと、景麒は袍を脱いで白い体の上にかけた。
「これで契約は成されました。袍を着られよ。呉剛門を開く」
「けいやく……」
 呆然と呟いた少女が、ゆっくりと顔を上げた。
 そこにはもう諦めの色はなかった。悲しみも、自分を哀れむ色さえも。
 初めて見る少女の表情に、景麒は瞠目する。
「……ふざけないでよ。こんなことで契約ですって? 冗談じゃないわ。あたしは認めない。あたしの意志を無視した契約なんか、絶対に認めない!」
 噴き上げるような怒りと、憎しみが少女を支配していた。
 景麒を睨みつける瞳には毅い輝きが灯る。
 景麒が少女に近づいても、その光は変わらなかった。
「脅すなら脅せばいい。だけどあたしは絶対に承知しない。あなたなんかの言いなりにはならない!!」
 他を圧倒する、紅蓮の炎のような輝き。
 この方なら――。
 胸を噛む痛みがほんの少しだけ薄らいで、景麒は微かな笑いを唇に乗せた。
 この方ならば、あるいは。
『台輔、敵が』
 景麒の影から驃騎が姿を見せた。しかし、少女はもう怯えた様子は見せない。
「追いつかれたか……」
 景麒は呟くと、芥瑚が影から取り出した剣を少女に渡した。
「なによ」
「あなたのものです。お受け取りを」
 少女の意志よりも早く、冗祐が少女の手に剣を握らせる。ギリッと少女は唇を噛んだ。
「これで、あなたを殺してやりたい……」
「ご自由に。しかし、それもここを切り抜けてからのこと」
 冷淡に言い捨てて、景麒は瞳を閉じた。今は見えない額の角に、気を集めはじめる。
「お気をつけを。――門を開きます」
 憎まれるといい。
 景麒は思う。
 憎むことで、少女が王としての強さを手に入れることができるのなら。
 いくらでも憎めばいい。
 自分もそのように振る舞おう。
 ――そうして、憎しみで繋がれた王と麒麟の物語が始まる。
                                             ―終―

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