作者:587さん >733-736、754-757、774-777、785-791 @二冊目
まただ。またここに来ている。
誰もいない荒野。暗く重い空。地平線の果ては泡立つ虚海。
そばにいない誰かを捜し求めて広い荒れ野を走り回る。
突然、足下の地面が溶ける。
落ちる・・・落ちる・・・落ちる・・・
いつか見た映画のように、暗灰色の大きな雲がものすごいスピードで渦を巻いて追ってくる。
雲の中心が黒い口をあけて自分を飲み込もうとしている。
逃げろ、逃げろ、逃げろ!
追いつかれる、誰か、助けて、誰か・・・
「景麒!」
陽子は自分の声に驚いて飛び起きた。
汗をかいている。
何の夢かは覚えてはいない。が・・・。
「イヤな夢だった・・・・」
初勅からひと月。慶の朝廷は次第に整ってきている。
陽子自身、信頼のおける仲間が身近に出来たことで気持ちに余裕が生まれ、政務にも勉強にも意欲的に取り組んでいた。
その疲れがたまっているのだろうか。
「頑張りすぎてるのかな・・・・」つぶやいた刹那、
不思議な気配を感じて身構えた。臥室の片隅にぼんやりと光る白い影があった。
目を離さずに、傍らの水禺刀に手を伸ばす。
王の私室にとがめられずに入ってくることは誰にも出来ないはずだが、その影は確かにそこに佇んでいる。
夜目にも白いその影は・・・・。
それは、麒麟だった。
ほっとひとつ息をついた。
「景麒、か」
「主上。お呼びになりましたか」
美しい獣の姿から聞こえる声は、紛れもなく陽子の下僕(しもべ)だ。
「呼んだ?」
「あまりにせっぱ詰まったご様子でしたので思わず転変して参りましたが、何事かございましたか?」
どこか叱りつけるような口調。見慣れない麒麟の形をしていても、中身はやっぱり景麒だ。
「ああ・・・。あれは、おまえを呼んだのか・・・」
「は?」
「夢を見ていて、自分の声に驚いて目が覚めた」
「夢、ですか?」
拍子抜けした様子の麒麟は、それでもどこか心配そうだ。
「うん、同じ夢を何度も見ている気がするんだけど、よく覚えていないんだ」
「同じ夢を何度も・・・。
それは気がかりですが、内容を覚えてはいらっしゃらないのですね?」
「うん。ごめん」
たかが夢にうなされたくらいで景麒が心配するので、ついあやまってしまう。
「本当に大丈夫ならよろしいのですが」
輝く雌黄の姿を見やって答える。
「大丈夫だ。心配させて済まなかった」
「それでしたら、私はこれで・・・」
そそくさと辞去しようとする台輔を見て、陽子はこれがまたとない機会であることに気がついた。
「そうだ待って、景麒。聞きたいことがある」
牀榻の上から声を掛ける。
「何でしょうか」
「おまえ、最近私を避けていないか」
「は・・・?」
何を・・・と言いたげな、不安そうな口調。
「朝廷に於いて王を補い、助けるのが台輔の役目じゃないのか」
「果たしているつもりですが」
そんなことじゃないのは、おまえが一番判っているはずだ、と内心思う。
「初勅以来、お前は政務の事以外では私に近づこうとしない。
他の用事があってお前を呼んでも、理由をつけて3回に1回は来ない。
かと思うと祥瓊や鈴と一緒にいたり、桓たいと稽古する私を遠くから見ている。
何故なんだ?」
主(あるじ)からの詰問に、麒麟の姿をした台輔は押し黙っている。
「質問しているんだ。答えて、景麒」
「お答えしかねます」
仁の生き物として嘘はつけない、だから沈黙を選ぶ。そういうことだろう。
「主(あるじ)に隠し事をするのか」
麒麟は明らかにたじろいでいる。
「私は・・・・」言い淀み、思い直して言葉を続けた。
「二人の王に仕えました。そして先代の予王・舒覚さまを補佐し遂げることが叶いませんでした」
「?」
そんな名前が出るとは思っていなかった陽子は、我知らず身震いをした。
「主上はご存じですが、舒覚さまは私のせいで政道を誤られ、最後には私を救うために禅譲の道を選ばれたのです」
それは・・・。
「違う、景麒。何もかもがお前のせいだった訳じゃない」
常世の生まれで、王気を持ちながらその責を全うしようと務めなかった予王について、蓬莱からやってきた陽子の点数は辛い。
「しかし、私のせいでもあったことは真実です」
ぴしゃりと麒麟は返した。
「二度と再び、慶が私のせいで王を失うことになってはなりません。
王を選定した以上、麒麟の仕事の一番大事な部分は終わりました。
主上は短い間に朝廷を整えられましたし、ご学友もおられます。
こうなれば、あとはうまく流れに乗せてゆくだけ。
これ以上宰輔が出しゃばる必要はございません」
景麒の言い方にむらっとした。
この麒麟め。私が、宰輔(おまえ)に頼り切った揚げ句に道を失う王だというつもりか。
したり顔で、何もかもを決めつけたような物言いに腹が立つ。
「それが・・・、理由か」
陽子の怒気を含んだ声音に、麒麟は一瞬すくんだ様子を見せた。
「お前の自己憐憫と、もういない前王のために、私はこんなにひとりぼっちで、こんなに淋しくて、こんなに辛い思いをしなければならないのか」
いいながら自分の言葉に驚いていた。
こんなことを言うつもりではなかった。
景麒の心得違いを正し、宰輔としてもっとそばに仕えるように言うつもりではなかったのか。
私は何を言いたかったんだ。
半分は八つ当たりだとは陽子も解っている。
蓬莱から渡ってきてからこちら、息つく間もなく精いっぱいに切り抜けてきた。
ここに来て少しほっとする時間がもてるようになった。
そのせいで、今まで無意識のうちに押さえ込んできたいろいろなことが、急に表に出はじめている。
一人では抱えきれないそれを誰かにこぼして、少し楽になりたい。
そんな甘えがどこかに出てきたんだろう。
それに生真面目な景麒が予王のことで我が身を責めているのは十分に考えられる話だった。
景麒の身になって考えてみれば判りそうなものを気づいてやれず、自分のことでせいいっぱいだった。
そして頑固者の台輔は、自分にはそんな態度をおくびにも見せなかった。
そのことも腹立たしい。
ーーーだけど、だけど今は。
「私は何もかも自分一人で処理しなければならないのか。
国の仕事さえこなしていれば王は事足りるのか。
辛いことがあっても悩んだり泣き言を言ったりしちゃいけないのか。
王である私がそんな話をできるのは、この世界で景麒、お前しかいないんじゃないのか!」
一気に言いつのって堰を切ったように涙があふれた。
言ってしまった。とうとう景麒に吐き出してしまった。自分をこの国の王として選んだ麒麟に弱みを見せてしまった。
やはり、とため息をつく様子が目に浮かぶ。蓬莱まで行って胎果の女王など選ぶのではなかったと、暗い顔をする下僕(しもべ)を思い浮かべると憤ろしい。あんなに辛い思いをして自分を慶に連れてきた麒麟も、ここまで頑張ってきた自分自身も、失望させたくなんかないのに。
ため息をつくならついてみせるがいい。麒麟をにらみつけ、嗚咽をかみ殺そうとするが止まらない。
思えばもう長いこと、陽子は自分のための涙を流さずにきたのだった。
なんて子供じみた・・・。そうは思うがもう止められない。
抱え込んだ膝に顔を埋め、陽子はしゃくり上げた。
不意に衾褥の上掛けがはぎ取られた。布の舞う気配がして、陽子の隣に誰かが座る。
涙で腫れた目をあげると、人型になった景麒が、首からすっぽりと上掛けにくるまって陽子の横にいた。
動きにくそうに手を出して、枕元の箱に積んである薄紙を取って渡してくれたので、派手な音をたてて鼻をかみ、涙を拭く。
景麒がそっと背中をさすっている。
そのままぼんやりしていると
「主上・・・・」
景麒がぽつりと言った。
「私は、自分が二度と同じ過ちを繰り返さぬようにと身構えるあまり、主上のお気持ちを蔑ろにしていたのだと思います。
それこそ同じ過ちの轍を踏むところでしたのに・・・。
申し訳ございません」
こんな醜態をさらして見せても変わらない、落ち着いた声。
「・・・うん・・」
肩を抱いてくれたので、そのまま景麒に寄りかかる。
「お許しくださいますか?」
「私の方こそごめん。言い過ぎた。
おまえだって辛い思いをしていたのに・・・」
そのまま二人で静かに寄り添い、夜の時間が過ぎてゆくのをじっと見ている。
穏やかに流れていたその時間が妙に意識されるようになってきた、その時。
静かに景麒の手が頬にかかって、そっとおとがいをもちあげた。かぶせるように顔を傾けてくる。
暖かく柔らかなものが陽子の口をふさいだ。
何も言わずにそれを受ける。目を閉じ、相手の肩に頭をもたせかける。
陽子が欲していたのは、こんな風に優しいぬくもりを感じる瞬間だった。
ただ唇を合わせているだけで他には何もしない。それがこんなに気持ちを落ち着かせる。
主従の息づかいがぴたりとあって、次第に深まって行く。
不意に陽子を離し、景麒が立ち上がった。
「夜分に失礼いたしました。主上も落ち着かれたようですし、部屋に戻らせて頂きます」
「待って、景麒」
つられるように牀榻から下りる。
まだ、そばにいて欲しかった。
景麒は立ち止まったが、陽子に背中を向けたままだ。
「私は、ずっと怯えておりました」
「え?」
淡々と話はじめる景麒。
「予王・舒覚さまはよく、私に同衾せよとお命じになりました」
そんな話は、・・・尚隆から聞いたことがある。でも、今この場で景麒からは聞きたくはない。
「主(あるじ)の命には私も精いっぱいお仕えしましたが、仕えれば仕えるほど予王は私が他の女性に気持ちを移すのではないかと疑われ、私を独占するために国から女を排除しようとまでなされた。
麒麟なれば、決して主の命には背けませんのに」
その話については、陽子もおおよそのことは知っている。
予王の恋着が景麒の失道を招き、恋しい景麒を救う唯一の手だてとして前王は禅譲の道を選んだのだ。
「私は麒麟です。王を補佐し、お助けするように教えられて育ちます。
自分の選んだ王のお側にお仕えするのが、麒麟の一番の喜びでもあります。
けれど舒覚さまのふるまいは、私の教えられてきた王の姿とはあまりにもかけ離れていました」
心なしか景麒の肩が震えているように見える。
「私は予王のお気持ちを受け止めることができず、かといってかわす術も持たず、いたずらに混乱させてしまいました」
「景麒・・・」
陽子の下僕の心は、思った以上に深い傷を負っている。
「ですから新しい王が女王だと判ったときから、その方には必要以上に近づくまいと心に誓っておりました」
新しい王。慶国のための別の王。景麒が選んだ、二人目の、女王。
またも女だと判ったときの、景麒の絶望の深さを思う。
そんな陽子の気持ちを知ってか知らずか、またひとつ大きく息を吸って、景麒が向き直った。
「そんな風に誓っていても、あなたにお会いして、おそば近くに仕えていると、時々自分でもどうしようもなくなるときがあるのです。
夜遅くまで政務に就かれていたり、昼餉のあとにふと疲れた様子をお見せになったりするのを見るたびに、あなたを抱きしめたい、肌に触れたい、命じられなくとも一番近くでお慰めしたいと願う気持ちに負けそうになる。
それが麒麟の本能なのだとしたら、私はあなたから遠ざかるようにする他に、どうすれば良かったというのですか」
一気に語って、正面から陽子を見据える。
「景麒・・・」
紫と翡翠。二組の視線が真っ向から絡み合う。
「でも、それが・・・、王と麒麟というものなんじゃないのか?」
考えのまとまらないままに陽子は話し出す。
今ここで、景麒を説得しなければならないような気がしているーーー
「麒麟と王はそれぞれを補い合って、ようやく一つのものだと言われたことがある」
何をどう言いたいのか判らないが、言葉を懸命に紡ぎ出す。
「麒麟が王のそばにいるのが嬉しいのと同じように、王も自分の麒麟と一緒にいることが嬉しい。
お互いに求め合うのが王と麒麟なのだと」
景麒がふらりとたたらを踏んだ。
「なのに、二人目だからという理由で自分の麒に避けられる女王なんてーー」
「主上!」
陽子の言葉を押しとどめようと景麒が鋭く口を挟む。
けれど間に合わない。それは陽子自身にも思いがけないほどに、するりと口から出てしまった。
「抱いて・・・」
景麒は背中からそっと抱きしめてきた。
陽子の体は下僕(しもべ)の腕と胸の中にすっぽりと包み込まれてしまう。
泣きすぎたせいもあって、物憂い気分でそのまま後ろにもたれかかると、景麒の形の良い手が胸をまさぐる。被衫の上から胸全体をやわやわとほぐすように揉みあげる。
それだけで布にこすられた乳首が勃ちあがってきてしまう。
「ぁ・・・」
吐息混じりに声をもらす。
景麒は愛撫を続けながら、片手で帯をほどく。
被衫を肩から落とし、うなじから背中にかけて唇を這わせる。温かくて柔らかくてなめらかな肌を丁寧に味わってゆく。
肩の先端に熱い吐息を感じて、陽子はぞくりと身を震わせた。
こんなところも感じてしまうのか・・・。
口づけが欲しくて肩越しに振り向く。
「景麒・・・」
低く名を呼ぶと、唇を重ねてきた。
ついばむように何度も何度も口づけを重ねる。
その間にも景麒の手はとまらず、陽子の乳房を捏ねあげ、平らに引き締まった腹をさする。
「あぁ・・・」
向き直って景麒のまとっていた上掛けをはぎ取り、背中に手を回した。
転変した姿で来たが故に、景麒は全裸だった。
口づけは続いている。繰り返しくりかえし、お互いを唇で確かめる。
景麒の手が背筋を辿って下り、陽子の尻の二つの丘をそっと握った。
互いの身体を確かめるように撫でさすり、ようやく巡り会えた旅人同士ででもあるかのように何度も抱きしめ合う。
そのまま景麒は軽々と陽子を抱き上げた。ほっそりした体躯の下僕(しもべ)は何の苦もなく主(あるじ)を牀榻に運ぶ。
二人で横たわると四肢を絡み合わせ、尚もそれぞれの身体を大切にまさぐり合った。
自分の下僕と素肌を合わせ、互いのぬくもりを分かち合う。それがこんなに心地よく安心できる。
景麒の体中に手を滑らせながら、陽子は満たされるものを感じていた。
褥(しとね)の暖かみとは対照的にひんやりとした景麒の掌が、陽子の全身を形作るように愛撫する。そして頬を両手で夾むと、改めて唇を求めてきた。
陽子もそれに応え、互いの舌を絡ませ、唾液を送り合う。
陽子の額や鼻の頭にも優しい口づけが降ってくる。
景麒の唇が離れるたびにちゅっと小さな音がするのは、ひとつひとつ丁寧に吸っているから。
さらに唇で肩先や鎖骨を辿り、手はわき腹や背すじを味わい尽くすようにまさぐっている。
「景麒」
「主上・・・」
口づけの隙間から互いをつぶやくように呼び交わす。
景麒は陽子の身体を抱き直すと、かぶせるように手のひらを陽子の乳房にあてがった。
すでに尖りかけている乳首を避けて、乳房の脇を4本の指先でやわやわと揉みあげる。輪郭のくっきりした乳輪のわずかに外側を、爪の先がつつっとなぞる。
「はぁ・・・・んっ・・」
じらされている・・・。そう感じる。
景麒が自分の顔を見つめているのも判っている。でもそのために表情を取り繕うなんて出来ない。
景麒の長い指が与える感触が陽子の知らない新たな快感を呼び覚まし、無意識のうちに両脚を擦り合わせている。
陽子の反応が深まるのを見て、景麒は親指の背で乳首を擦り上げた。
「はぅっ」
待ちかねていた刺激に、それは即座に反応する。
「これが、お好きなのですねーーー」
いいながら乳首をつまんでころころと揉んだ。
愛撫に唆された乳首は充血し、硬くしこってくる。先端を軽く指の腹で擦りあげると、その力加減の絶妙さが陽子から恥じらいをはぎとってゆく。
もっと景麒が欲しくて、自ら乳房を持ち上げその口にあてがった。
堪えていたらしい景麒は待ちかねたように吸いつき、乳首をくわえ込む。乳房全体を大きく吸い上げ、ついで口に含んだまま舌先で先端を転がす。
「ぁあ・・・ん」
陽子の口から甘い声が漏れた。堪らずに景麒の頭を抱え込む。幼子を抱くようにかき抱き、絹糸のような鬣に指を絡ませる。
熱い下僕(しもべ)の口が乳首を責め立てている。
これが欲しかった、こうして乳首を弄ってくれる口が・・・。
巧みに乳首を吸い転がされる快感は、そのまま陽子の腰の奥へと直結して伝わってゆく。
舌で舐り、きつく吸い上げ、指先でやわやわと揉みしだいてくる景麒に
「こっちもして・・・」
かすれかけた声で囁き、もう一方の乳房を与えた。
陽子の体を抱き、口では乳房を思うがままに愛撫しながら、景麒のもう一方の手は陽子の脚の間に伸ばされる。
ふっくらと柔らかい丘を手のひらで包み、ひんやりとした指先が花芽を探り出す。優しく花芽の両脇をさすり、更に手を伸ばして花びらをそっとかきわけてくる。
「んっ・・・けい、き・・・」
上手い。いつもの生真面目な下僕のイメージからは想像もつかないほどに巧みな愛撫。心の中でつい、初めての男、尚隆と比べてしまう。そして、予王もこの快感におぼれたのかと思う。
関係ない、今は。景麒と自分と二人だけ・・・。
更に愛撫を施されるうちに陽子は軽く達して、秘所からはとくりと密やかな音を立てて甘い蜜が湧きだしていた。
景麒がしきりに腰を擦り立てている。陽子の乳房をむさぼりながら、腰の中心を陽子の太股に押しつけてくる。
無理矢理に乳房を離させると景麒の顔を手で挟み、熱に浮かされたような紫の瞳を見つめた。
乳房を責めたてたせいで涎にまみれた口の周りを舐め取ってやり、両のまぶたに唇を押し当て、とがらせた舌先で紫色の瞳を舐める。
されるがままになっている景麒の肩を押しやって仰向けにさせ、腹の上に乗った。
唇から顎の先へ、首筋を舐め、鎖骨のくぼみから肩先へと景麒がしてくれたように舌で辿る。
「しゅ、主上?」
うろたえた声を上げる景麒に構わず、体をずらしてピンクがかった褐色の乳輪に舌を這わせた。思い切り吸いあげ舌の先で細かく刺激すると、すぐに小さな乳首が勃ち上がってくる。
「ふふ・・。景麒のこれも可愛い・・・」
からかうように言いながら、左右交互に何度も甘噛みを繰り返す。
息づかいの乱れた景麒の手が陽子の肩を押さえている。陽子の下腹には熱く固いものがあたっている。それを二人の腹の間に強くはさみこんだ。
景麒が低いうめき声をもらした。
気になって体を起こし、自分の下にある顔を見下ろす。
紫の瞳が気だるげに陽子を見上げた。整った白い顔は欲情でうすくけぶっている。
その表情にそそられて、唇で景麒の口をふさいだ。
自分から深く舌を差し入れる。
景麒がそれをしゃぶってくるのをしばらく自由にさせた後、一転して景麒の下腹部におりた。
陽子は初めて、下僕(しもべ)の隠すもののない全身を見た。
透き通るような色白のなめらかな肌。その体を愛撫する自分の小麦色の手との対比を楽しむ。
白に近い金の鬣の色は、体毛にも共通している。
「きれいな身体をしている」
そう言うと陽子は目的の場所に口を付けた。
景麒の肉棒。色白な体の中でそこだけが赤黒く染まっている。その先端を口に含む。
「くっ、主上っ・・・・」
蓬莱で見つけたときには確かに処女(おとめ)の気配をまとっていた主(あるじ)が、自分の知らない内にこんな事をする女になっている・・・。こんな快感を与える術をどこで(誰と)どうやって身につけたのか。
しかし、今は他のことを考えられない。全身の感覚が股間に集中してしまっている。
掠れた声を漏らしながら愛撫を受けやすいように脚を広げると、その間に身体を伏せて、陽子は舌全体を使ってその棒の裏側を下から上へと舐めあげた。
くびれた部分の形をなぞるようになめ、口に含んでしごき上げる。その動きに促されるように、それは長さと太さを増した。
眉をひそめ歯を食いしばり、陽子の与える感覚をただ受け止めている。あくまでも控えめなその表情が美しい。
景麒の反応を見ながら、長くて口に収めきれない部分を掌で包み込むようになでさする。
根本に唇を寄せ、玉を一つずつ吸い込んでは舌で転がし、先端に戻って、先走りの露をとがらせた舌でえぐり取るように舐める。
「しゅ、しゅじょう・・・。もうおやめ下さい・・・」
景麒に頭を押され、頬ばっていたものから離れた陽子は
「嫌か?」と聞いた。
涎にまみれた口元からのぞく舌先、眦(まなじり)を上気させ興奮で輝く翡翠の瞳の淫らなまでの美しさ。
「いいえ・・・。
でもこんなにされては、このままでは主上のお口に・・・」
「私は構わないよ」
本当に構わないと思った。自分の口で自分の下僕(しもべ)をいかせたかった。
「私が構います」
言うと景麒は、体を入れ替えて陽子の上にのしかかってくる。
思いがけないほどに強い力。
今し方まで己のものを銜えていた口を強く吸ってくる。
私たちは二人ともキスが好きなんだ・・・頭の隅にちらっとよぎらせ、景麒の舌を受け入れた。
景麒の舌が陽子の唇の裏側をさざ波のように愛撫している。
歯茎を舐め、歯列を割って更に奥に進入してくる。
生き物のようなそれは陽子の舌を絡め取り、筒のように巻き込んで強く吸った。
その刺激で陽子の蜜が更にあふれ出す。
陽子の口中を思うがままにしながら、手は乳首を揉み転がし、わき腹から腰に向かってなで下ろす。陽子がふるえるのを全身で感じ取る。
「主上、もう・・・」
返事の代わりに陽子は膝を立てて脚を開いた。
その間に身体を滑り込ませた景麒の細く器用な指が、陽子の濡れそぼった秘所をさぐり、溢れた蜜を周囲に塗り広げてゆく。
熱く濡れた花びらをかき分け、開かれたそこに先端をあてがうと、景麒は深く腰を沈めた。
初めてではないとはいえ久しぶりに開かれるそこはきつく、景麒はうめき声を漏らした。一方の陽子も、景麒の長さにのど元まで貫かれるような感覚を味わわされている。
ようやく一つになれた。そこで初めてこんなにも求め合っていたことに気づいた。安堵のあまり二人ともに大きな声をあげる。手足を絡めてしっかりと抱き合い、互いの身体の存在を確かめ合う。
「あ、景麒が・・・、私の中にいっぱい・・・」
「主上も・・・。とてもきつくて温かい」
それだけで、とてもとても安心できる。
それだけでは、満足できなくなってくる。
「よろしいですか」
陽子の耳元で囁くと返事は待たず、景麒は自分のくびれのぎりぎりまでゆっくりと引き、その腰をずいっと送り込んだ。
脳天まで突き抜ける衝撃。
「あんっ」
思わずあがる嬌声に
「しっ・・・」
いいながら陽子の口を手でふさぐ。
その指の一本ずつに舌を這わせる陽子。
景麒のしなやかな腰の動きが陽子を体内(なか)から愛撫する。
大きくうねらせる腰、体中に降らせるくちづけに身悶える。
擦り上げられ、捏ねまわされる。体を波に委ねるような、初めて味わう快感。
何度も体位を変え角度を変えるそれを、どこまでも受け入れる。
獣はこういう繋がり方をしたがる、そんなことを聞いたような気もする。
けれど最後に二人が選んだのは、お互いに向かい合うこの形。
少しでも深く打ち込んで欲しくて、陽子は脚を大きく開いた。
何かに触れずにはいられなくて、景麒の腰に手を添える。
きゅっと締まった尻を掴んで快感に耐える。
景麒はその手をとって、陽子の頭の両脇に縫い止めるように押さえ込んだ。
目の前が霞むような感覚。今、自分の下にいて自分を包み込む主(あるじ)のことしか考えられない。
肘を伸ばして上半身を支える。腰の動きが加速してゆく。
陽子は声を抑えようと必死だった。
総ての中心が景麒と自分とを繋ぐ一点にある。
「・んぁっ・・ひはっ・くぅ・・・っ・ん。
景麒、けい・き・・・、一緒に・・」
激しく奥を突き上げる動き、それになりふり構わずしがみつく。
「あっ・はっ・あひっ・はっ・あんっ・あんっ・あんっ・あっ・・・・」
「ーーーーーーーーーーーーー主上、ーーーーーーしゅ・じょおっ」
景麒の動きが頂点で止まるのにぴたりと重なって、陽子の腰も突き上げられた。
放出の長い痙攣が続く間、一体の彫刻と化して凍り付く。
「けい・・・き・・・・」
総てを注ぎ終えた下僕(しもべ)が陽子の上にくずおれるように身体を伏せた。それを全身でうけとめながら、陽子も意識を手放した。
二人の荒く上下する息づかいだけが、夜の闇を乱していた。
陽子が目を開けると、心配そうな景麒が顔をのぞき込んでいた。
「どうしたんだ? 私は・・・」
「ほんの少しだけ、気を失っておいででした」
いかにもほっとした声音で答える。
不安な夢から解放されて、一瞬の眠りに落ち込んでいた。こんなにも安心して意識を手放せたのは、いつ以来だろう。
「だってあんなに・・・」
甘い声音で言いかけてぴくんとする動きを腹の中に感じ、お互いの腰が繋がったままなことに気づく。
「景麒、これーーー」
「主上、今はまだ・・・」
言葉を封じ込めるように、景麒が甘く唇を重ねた。
その夜何度目かもうわからなくなった口づけを交わす。
互いの舌を相手の口に差し入れ、絡め合う。
それは激しさを増し、互いの口唇をむさぼり合い淫らな音を立て合う口づけになる。
着やせするらしい景麒の、思いの外厚みのある胸板が、ふくらんだ乳首と形のいい乳房を押しつぶした。
何回口づけを交わしても、どんなにきつく吸い合っても飽きないお互いの唇。
ようやく顔を離したとき、二人の口は光る透明の液体で結ばれていた。
収めたままのものが、身体の奥に向かって勢いを取り戻している。
「主上・・・今一度、よろしいでしょうか?」
拒否されるかも知れないなどとは、疑いもしないその口調。
麒麟は絶倫の生き物・・・・、いつか尚隆に聞いた言葉がよみがえる。
陽子の心も体も、それを求めている。
「景麒の望む通りにして。
それが私にも嬉しいことだから・・・・」
恋愛、という関係ではあり得ない。
感情だけの結びつきは、いつか色あせ移ろって行く。
陽子と景麒との繋がりは一蓮托生。半獣のそれぞれ半分ずつ。
だとしても、どちらが人でどちらが獣なのだろうか。
混ざり合って二度と再びわけることのできない熱い液体のように、繰り返しとろけてゆくのだ。これからも。
〈 了 〉
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