作者:555さん >753-759


金の影が揺らめいた。
深い静寂と闇に包まれている王宮の廊下を、小さな灯火一つを頼りに歩く影。
やがて影は豪奢な扉の辿り着き、静かにその内側へ消えていった。
「主上。お呼びでしょうか」
景麒は扉を閉めると、堂室にいるはずの主に声を掛ける。
室内は暗く、主の姿は見えない。見えないがそこに彼女が居ることは彼の本能が承知している。
景麒は臥牀に近づき、そばに添えられた卓子に灯りを置いた。
灯りが照らしだした彼の主――陽子は広い臥牀に腰掛けていた。
着ているのは無造作に身に付けられた被衫一枚。
彼女の象徴的な紅い髪は束ねられることなく、腰にかかるその長さを主張している。
頼りない灯りが、どこか虚ろな彼女の表情をちろちろと照らし出した。
「こんな夜更けに如何いたしたか」
景麒は問い掛けた。が、その言葉はいつもの常套句。端から返事など期待していない。
時たま孤独が王を襲う狂おしい夜の、幕を開けるだけである。
「班渠、ご苦労だった。休むといい」
案の定、陽子は景麒の言葉に答えず、遣いにやった使令に声をかける。
床を覆う深い影から御意、とだけ聞こえると、すぐにまた静寂が満ちた。
二人は静寂に溶けたまま、しばらくそうしていて、ふいに陽子が声をかけた。
「景麒」
「はい」
「叩頭して」
自らが禁じたことを下僕に命じる。景麒は何も言わずに従う。
膝をつき、かつてしたように陽子の足の甲に額を当て、深く額づいた。
「言って」
陽子の端的な命の意を汲み、またも景麒は従う。
「御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約する」
自分の足元に額づく己の下僕を、陽子は静かに見下ろす。その瞳に宿るのは、無だ。
額を付けられている足を静かに持ち上げ、顔を上げさせる。景麒は抗わない。
そのまま爪先で彼の白い輪郭をなぞる。額から頬を伝い、顎を軽く持ち上げ視線を交わした。
「許して欲しい?」
陽子は軽く微笑を浮かべて問う。それはとても儚いものだった。
時折、こんな夜が訪れるのだ。ただただ静寂が孤独をつれてくる夜。
初めて真夜中に呼び出された時はその不安定な様子に何か落ち込んでいるのかと心配したが、原因はわからなかった。いや、原因など無かった。
陽子は誓約の言葉を要求し、そして王と麒麟はまぐわった。何かを確認するかのように。
今宵もまた、そんな夜なのだろう。
「すでに許されておりますれば」
景麒は言うと、陽子の華奢な足をとり、口付けた。そのまま足の指を舐め始める。
他人――たとえそれが主といえど――の足を舐めるなど下卑た行為だが、景麒は自らそれをした。
舌先で滑らかに整えられた形の良い爪をなぞり、甲へと這い上がる。
「腹の底では許していないかもしれないぞ。恨んで、憎んで、――呪っているかも」
笑いながら陽子が言う。影のある笑いだ。
景麒は掌で柔らかい腿をさすり、一気に脛を舐め上げてから上目遣いで陽子を見やった。
「いいえ、貴女は許している」
下僕を、全てを許す代わりに、己を責めているのだ。それが王。
陽子は表情を無くした。手を伸ばし、両足の狭間でゆらゆらと光る金の髪を梳く。
景麒は被衫をまくり、掌で太腿の付け根をさすった。舌は内側を這っている。
「ふ、ぅ……はぁっ……ん……」
陽子は吐息を漏らし始めると、背を仰け反らせ両足を開いた。
「……足りない。全然足りない。もっとだ」
「……承知いたしております」
下僕は逆らわない。景麒が腰まで被衫を捲し上げると、小さな茂みが露わになった。
下着に隠されてもいなかったそこは夜露にしっとりと湿っていた。
景麒の唇はその奥に隠れる陰唇に口付けるように触れる。
「はふぅ……ぁあ…っ…」
唇で焦らすように筋を辿り、伝う蜜を吸う。陽子はたまらず声を上げた。
「ぁっ……足りない、足りないっ。景麒…足りないんだ……っ」
「そうでしょうとも。……では」
主の切ない叫びに応えるべく、景麒は陽子の足を高く持ち上げた。
次の瞬間には彼女の陰唇に舌を差し入れ、音を立てて吸い上げ始めた。
「あ!…ふぁあ…っ…ンんぅ、あ、あ、そ……そう…だ……!」
ちゅくちゅくと水音がたつ。半ばわざとらしいほどに音は続く。
「……っそう……もっと、……は…ぅん!もっとだ…っ…」
陽子は声を荒げ要求した。主の浅ましい姿にも動じず、景麒は愛撫を続ける。
陰唇を舐めながら、長い指を一本、膣内に侵入させた。ぐるりと掻き混ぜ、その内を探る。
陽子の膣内の襞は悦び勇んで溶かすように絡みつく。侵入したものを全て飲み込もうとする。
それでも、まだ足りないといわんばかりに打ち震えるのだ。
指の腹を押し付け陰核を刺激すると、陽子の身体はびくんと跳ねて身を捩じらせた。
「…まだ…ぁ、そんなんじゃ…ふぅ、ぅン…いかない……ぞ…」
「……そうですか」
「……ぁっ……」
景麒は指を抜き愛撫を止めると、陽子の足の間から身を起こした。
溢れ出した蜜が高価な褥に染みをつくっている。
彼女の流した欲望で濡れる口元を拭っていると、陽子が濡れた瞳で睨んだ。
「……止めていいなどと言ってないぞ」
被衫を乱し、欲にまみれた女の顔を見ながら、景麒は拭った蜜をひと舐めする。
ふいに陽子が俯いた。俯いたかと思うと、その肢体を小刻みに震わせた。
くくく、と小さな声がする。笑っているのだ。
「……くっ……ふ、ははっ、お前だって、興奮してるんだろう……?」
そう言って顔をあげると嬬裙の上から景麒のものを掴んだ。
「……主上…」
「ほら、もうこんなにして……。楽しいか?気持ちがいいか?
 自分が仕える主の身体の主導権を握るのは、それだけで快感だろうな?」
くすくすと笑いながら臥牀に四つ這いになり、嬬裙から景麒のそれを取り出す。
固く反応し大きく屹立したそれを眺め、ほぅと溜息をつくと赤い舌でちろりと舐めた。
「……ぅ……」
景麒は吐息を漏らしたが、彼に与えられた刺激はそれだけだった。
「してやらん」
舌なめずりをして陽子が言う。唇から見え隠れする舌はひどく官能的だ。
「お前は私の下僕だ。下僕であることを私が許してやっているんだ。わかるか?」
陽子は暗闇に深く染まった紅い髪をかきあげ、首筋を仰け反らせて笑い声を上げた。
「……そのとおりにございます」
いつだか陽子は獣になる夢を見たと言っていた。これが彼女の中の獣だ。
「勅命をもって命ずる。――私を満足させろ」
「……御意」
触り心地の良い褥に紅い髪を散らし、陽子はしどけなく横たわる。
命を受けた景麒は主に従い、はだけた胸元に手を滑り込ませた。
褐色の良い乳房に触れながら、首筋に舌を這わす。舌はやがてなだらかな鎖骨へ。
「……ぁん…、もっと、激し……く……」
言われて景麒は強く乳房を握った。柔らかいそれは男の手の中で形を変える。
もう片方の掌は陽子のしなやかな脇腹をさすっている。
曲線を描く女の身体はそれだけでも優美だが、揺れる灯火に照らしだされて肢体は幽艶さを増す。
景麒は乳房の頂きをいきなり強く吸った。
「…あぅ…っ…!」
陽子の背筋を快感が駆け上った。途端に頂の突起は固く立ち上がる。
景麒は乳房を揉みしだき、舌と唇で強い刺激を与えつづけた。
「……甘い……」
「…ン…ぁ……、ふふ…こうしてると……ぁんっ……子供、みたいだ……な…」
陽子は喘ぎながら、自分の乳房に吸い付く景麒の鬣を撫でまわした。
身体から唇を離すと、景麒の舌で辿った部分がてらてらと光っている。
胸の頂きからはまるで蜜が流れ出たように唾液が垂れ、丸い膨らみを伝って谷間へと落ちる。
その様は淫らな、彼女の内なる獣を飾っている。淫靡と言うに相応しい眺め。
景麒は目を細めて、陽子の身体を舐めるように見た。しかしこれだけでは彼女は満足しないだろう。
「……それから?」
妖艶な微笑を浮かべて、陽子は景麒を促す。
景麒が再び触れようとした時、陽子が景麒の身体を押しのけ上から覆い被さった。
くすくすという笑い声から漏れる吐息と、薫りたつ紅い髪が頬をくすぐる。
「お前の身体はどんな味がするんだろうな?」
陽子は細い指先で景麒の胸を撫でた。胸に付く飾りを爪弾くと、景麒の身体が震えた。
その反応に唇の両端を吊り上げ、さっきまで自分がされていたようにその飾りに舌を這わせた。
「……しゅ、じょう…っ……ぅ…はぁ……」
景麒が喘いだ声を漏らし始めた。陽子は舌先で弄んでから歯を立てる。
「………獣め」
陽子は執拗に景麒の胸を責める。突起を転がし、吸い、噛み付く。
「……ぁ、くっ……主上……!」
景麒は普段の彼からは想像できない、低く艶のある声を漏らしていた。
「良い声で鳴く獣だな……こっちもして欲しいか?」
相手を煽るような言葉を紡ぎ、陽子は更に固くそそり立っている景麒のものを掴んだ。
すでに快感に犯されている景麒は、触れられただけで達してしまいそうになる。
が、それは主が許さなかった。華奢な手で陰茎をきつく握り締められる。
「っ!……ぁあ…っ…」
「……私は満足させろと言ったよな?」
景麒は呻き声を飲み込むと、自分に跨る主の背に腕を回した。
うなじを撫で、すらりと伸びる背筋を辿り、再び陰唇に指を添える。
いやらしく疼く女のそこを、指で持ち上げるように掻くと、垂れ流された蜜が跳ねた。
「…ひ…ぁん……!」
「……主上におかれてはまだまだ足りない御様子……獣は、どちらでしょうね?」
荒く息をしながらも仕返しとばかりに笑い、陽子の中を掻き混ぜる。額の汗が艶めかしい。
「王も麒麟も、揃って淫獣か……ぁ、ふぅ……ふふ、それも、悪く、な……い」
再び襲いくる刺激に喘ぎながら、陽子は独り言を呟くように言って笑う。
白い頬を褐色の両手で挟み、翡翠の双眸で景麒の意識を捕らえた。
「……欲しいか?」
それは貴女でしょう、その言葉も言うことが出来ないほど強い視線。
「くれてやる。……貪るがいい」
そう言うと掴んだ景麒のものを、そのまま自分の中に埋めていく。
くちゅり、と先端が触れて互いの身体が打ち震えた。
「あ、あぁ!……ぅん、ん、はぁ…ん…、ふぅぅ……!」
陽子の中は待ちきれないと言うように、入っていく景麒を締め付ける。襞は包み、絡みつく。
「…あぁ…っ…貴女の中は、く……貪欲に…熱いっ…」
景麒のものを根元まで飲み込むと、陽子はすぐに腰を動かし始めた。
女の肉壁と男の肉棒が擦れ合い、ぬめる蜜がぐちゅぐちゅ音を立てる。
景麒は今すぐにでも精を吐き出したかったが、陽子の言葉がそれを止めた。
「…ぁ、はぁ、耐えて…みろ……私より先にいくのはっ……、ん、許さないからな……!」
従順な下僕は従う。或いは解放されるためか。
景麒は下から激しく自分を包む肉壁を突き上げた。奥へ奥へと先端が深みを擦る。
「ンぁあ!!ふ…ぁ、あ、あぁ、は……いい…ぞ!」
嬌声を上げながら、陽子は善がる。身体を打ち震えさせながら妖しく笑う。
激しい腰の動きに合わせ、乳房が誘うように上下に揺れている。景麒は揺れる振り子を両手で強く掴んだ。
「ぁあん!」
陽子は新たな刺激に悦び、動きを更に早めた。もっと激しく、もっと強く。
「……はぁ…ぅン!もっと…だ、ぁっ!…も…と……私の…中を…責め立てろ!」
「……承知、いたしております……」
景麒もまた息を荒げながら、処女のようにきつく締め付ける陽子の中を蹂躙し貪る。
そこは熟れ過ぎた果実のように赤く割れ、粘つく蜜を垂れ流している。
景麒は上体を起こし、陽子の細い肩に腕を回した。
そして自身で下から抉るように突き上げると同時に、彼女の身体を下部へ強く押し付けた。
「ひぁぁああっ!!」
その瞬間、陽子は達した。背を弓なりに仰け反らせ、膣内はびくんびくんと痙攣している。
「いきましたね……」
陽子の達した証は陰茎を伝い、景麒の太腿までを濡らして褥に新たな染みをつくった。
仰け反った陽子をそのまま押し倒し両手首を掴んで褥に縫い付けると、体位を変えて景麒は再び動き出した。
すると蕩けるようだった陽子の中もまた、ぎちぎちに締め付けてくる。
「……く、ぁっ……まだ、足りないと仰るのか……っ」
「まだ……もっ…と、欲しいっ!……もっと責めて……!!」
陽子が景麒の長い鬣を掴み、快感に潤んだ目で催促した。
艶のある表情に奮い立ち、また己の満足のために景麒は抽挿を繰り返した。
「んぁっ…はぁあん、…あ、あん、ぁあ!…責め、ろ……もっと責め……てぇ」
首筋に顔を埋め、女の匂いを嗅ぐ。陽子が景麒の背中に爪を立てた。
「…ぅん、あ……責めて、ひぁっ……お前は、決して私を……許すな……!」
「は…ぁ……、ぁ、主上…っ…?」
陶酔しながら陽子が言う。襞は激しく景麒に絡みつき、お互い逃れることを許さない。
「ひぁあんっ…許さな、で、私の……ぁンっ……戒めに、なれ…っ!」
「……御意……っ……」
きつく収縮する肉壁に、景麒はたまらず精液を叩きつけた。その後も飽くことなく互いを貪りあった。
乱れ、交わり、精を味わう。快楽で互いを縛り付ける。狂い夜は互いの生が尽きるまで続くのだろう。
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