作者:257さん  >854-864(*>375-383の続編)


「……では、今日はこれぐらいにしておきますかの」
 積翠台で、遠甫の講義を受けていた陽子は、大きく伸びをした。
「お疲れのご様子じゃな」
「んー、ここのところデスクワークが続いたからなぁ」
 コキコキと首を回していた陽子は、自分が蓬莱の言葉を使ってしまったことに気づいて、フォローを入れた。
「えーと、つまり卓子の仕事が多かったってこと。あまり体を動かさないでいると、肩が凝るよね」
 遠甫はほほうと顔をほころばせる。好奇心旺盛なこの老人は、あちらの言語や風俗に触れることを面白がった。
「つまり『すとれす』が溜まるということですかな」
「とんでもない!」
 用法としては間違ってはいない言葉だと遠甫は思ったのだが、陽子は恐ろしい勢いで首を振って否定した。
「私はストレスなんか感じてないぞ。まったく元気だ!」
「……それは何より」
 いささが呆気にとられた様子で、遠甫は呟いた。しまったと、内心陽子は狼狽える。かえって不審を煽るような真似をしてしまっただろうか。
「ま、まあ、ちょっと疲れてるだけだ。こんなの、一晩、ぐっすり眠ればすぐ治る」
「ふむ……」
 笑ってごまかす陽子を、幸いにも遠甫は追求しないでいてくれた。
「それでは、今日はもう政務は切り上げて、ゆっくりされることですな」
「うん、そうする。ありがとう」
 積翠台から出ていく遠甫を見送ってから、どかりと椅子に座り直して、陽子は大きく息を吐いた。
 あれ以来――景麒が、延王の入れ知恵で、とんでもないストレス発散法を実行して以来、陽子はその言葉が景麒の耳に入らないよう、細心の注意を払っているのだった。
 ――まったく、本当にとんでもない……、………………。
 その時のことを思い出してしまって、陽子はひとり赤面する。そこへ――。
「主上」
「うわわわわわわわっ!」
 突然声をかけられて、陽子は狼狽えた。声を聞けばわかる。たったいま、陽子が思い返していた相手、要するにとんでもない発散法を仕掛けてきた麒麟だ。
「何だ、景麒」
(向こうは王気でこっちの位置がわかって、こっちがわかんないというのは不公平だよな、くっそー)
 心の中で毒づきつつ、何とか平静な声を出す。
 声は誤魔化せても、顔の火照りは誤魔化せないので、顔は卓上に向けたままだ。
「……太師の講義はおすみですか」
 返答の前に奇妙な間があったが、動揺している陽子は気づかない。
「ああ、ついさっき終わったところだ」
 そのままの体勢で陽子は答え、次の景麒の言葉を待った。だが、相手はなかなか切り出そうとしない。
 さすがに訝しく思って振り向けば、景麒は戸口のところに突っ立って、何やら難しい顔をしている。
「どうした、何か用があったんじゃなかったのか?」
 陽子が促すと、さらに妙な――怒ったような、不機嫌な顔になった。
(? また小言でも言いにきたのかな……)
 だが、頭の中で心当たりを探ってみても、特には思いつかない。あまり気の長くない陽子は、だんだんイライラしてきた。
 椅子から立ち上がると、つかつかと歩み寄って、景麒の前に仁王立ちになった。
「何なんだ、言いたいことがあるのなら、ハッキリ言え」
 それでも相手はむっつりと押し黙っている。まったく扱いづらい麒麟である。
「景麒、言ってくれなければわからない。いったい何を怒っているんだ?」
「……怒っておられるのは主上でしょう」
 語調を和らげて陽子が問うと、ようやく答えが返ってきた。が、待望のそれは、陽子にとって意味不明な――まったく心当たりのないものであった。
「は? 私は怒ってなどないぞ?」
「ならば、何故私を避けられるのか」
 うっと陽子は詰まった。
 そう、確かに陽子はここのところ――正確に言えば、あれ以来、景麒を避けていた。用があっても伝言ですませていたし、朝議で顔を合わせても必要なこと以外は話さなかった。
 周囲に悟られるほどあからさまにはしなかったつもりだが、本人にばれないはずはもちろんないのである。
 バツの悪そうな顔になった陽子に、景麒の表情がわずかに動く。
「やはりそうでしたか……」
 その声に、陽子は意外な響きを感じ取り、まじまじと相手を見つめた。
 不機嫌そうな表情は変わらないが――怒りよりも落胆に近い気配がそこにはひそんでいるように思える。
 何だか自分が相手を傷つけたような気がして、陽子はひどく慌てた。
「そ、その、避けてるわけじゃ……いや、避けていたんだけど、それは怒っているというわけじゃなくて」
 陽子は言いよどむ。これを白状するのは少し抵抗がある……が、景麒に誤解を抱かせたのは自分だ。謝罪の気持ちが、口を開かせる。
「その……て、照れくさかったんだ。私は、ああいうことが初めてだったから、どんな顔していいのかわからなくて。……誤解させたようで、すまない」
 頬が熱い。きっと、さっきよりずっと顔は赤くなってしまっているだろう。
 景麒が二、三度瞬いた。
「では、嫌というわけではなかったのですか?」
「……恥ずかしいことを聞くな」
 陽子は横を向いた。もはや耳まで火照っているのがわかる。
「そう、でしたか……」
 かすれたような景麒の声には、安堵の色がはっきりと出ていた。
「そ、そういうわけだから。もう気にするなよ」
 陽子はクルリと背を向けて、景麒にひらひらと手を振った。どんどん頭に血が昇っていくのがわかる。
恥ずかしくてたまらない。とにかく早く話を切り上げたかった。
 だが、振った陽子の手を景麒が掴んだ。びくりと身体を震わせる陽子を、そのまま後ろから抱きしめる。
「な、な、な、何だ」
 耳元に景麒の吐息を感じて、陽子は体を硬直させる。
「ぁっ……わ、私は別に、今はストレス溜まってないぞ」
「――私の方が、『すとれす』が溜まってしまったようです」
 陽子は瞳を見開いた。景麒がこんな物言いをするなんて。
 まだ頬は熱いままだったが、陽子は景麒の腕の中でぐるりと回転し、真っ正面から相手を見た。
 そこには、いつもの鉄面皮。だが――常なら冴え冴えとした光を湛えている紫の瞳は、どこか霞がかかったように見える。よくよく見れば、表情がないように見える白い頬も、うっすらと赤くなっているような気もする。
「……私の顔に何か?」
「いや」
 陽子はクスクスと笑った。この麒麟を可愛い――と思えたのは、初めてかもしれない。
「あのさ、私は今日の予定はもう終わったんだ。景麒は?」
「私もこの後、特には」
「それなら」
 陽子はつま先だって、景麒の首に手を回した。
「臥室へ行こう。甘えさせてやる」

 我ながら大胆なことを言ったものだと思う。
 臥室へと向かっているときから、陽子の心臓は早鐘を打ちっぱなしだ。
 不器用な麒麟を甘えさせてやりたいと思ったのは本心からだが、この先の行為を思えば陽子の面には緊張が走る。
 嫌なわけでは、けっしてない。
 ただ圧倒的な恥ずかしさが、陽子の体を固くする。その中には、わずかではあるが自分が自分でなくなっていく……欲情が理性を凌駕する瞬間への恐れもあった。
 その恐怖を感じとっているのかどうか、景麒の口づけはひどく優しかった。
 なだめるように何度も唇を合わせる。陽子が自分から唇を開くまでは、それ以上は進もうとしない。そうして、入ってきた舌先も、犯すものではなく絡めとるような甘さを持っていた。
 次第次第に、陽子の体から力が抜けていく。
 しゅるり、と衣擦れの音が耳に届いた。それが長袍の帯を解く者だとわかっても、もう陽子には抗う気持ちはなかった。
 衫の合わせを広げ、現れた褐色のなめらかな肌に景麒は感嘆する。
 言葉遣いも衣装も少年王のような主だが、柔らかな曲線はまぎれもなく女性の艶やかさを持っている。
 この美しさを自分が独占しているのかと思うと、身の裡が喜びに震える。
「……あまり見るな」
 潤んだような翡翠の瞳が景麒を見上げた。それがたとえようもなく扇情的で、男を誘っていることに彼女は気づいていない。
 もう少し見ていたかったが――何しろ、初めての時はそんな余裕はなかった――主の望むままに、景麒は陽子を臥牀に横たえた。
「……んっ」
 唇へ落とされるのかと思ったキスは、紅く色づいた耳朶に触れた。思わず肩をすくめる。舌先がやわやわと中へと潜りこんできてゾクゾクと体が震えた。
「や、ぁ……」
 そんな部分にさえ、快感のスイッチが隠されている。それは皆同じなのか、それとも自分だけが淫らなのだろうか。
 ふと抱いた疑問に答えを求めるべく、陽子の手がするりと動いて景麒の耳を捉えた。そのまま指先でくすぐるように軽く触れる。
「っ、……主上」
 景麒が息を詰め、困惑したような声を上げた。してみると、自分だけが特別というわけではないらしい。
「お戯れはおやめください……それとも、煽っておられるのか」
 景麒が首筋をきつく吸い上げた。
「っ、ば、ばか、そんな、とこ……」
 陽子とてキスマークの付け方ぐらいは知っている。……あくまで、知識だが。景麒が跡をつけたのは、耳の下、袍の高い襟でも隠れないような場所だった。
「御髪で隠れましょう」
 平然とした顔で、景麒はそのまま首筋を辿った。右手は胸の膨らみを包みこむ。
「こ、の……ぁ、んんっ、あ……」
 抗議の声は、たちまち喘ぎ声にすり替わる。景麒の長く、節張った指先が乳房を揉みしだく。深く、浅く、くり返される愛撫に、先端がゆっくりと立ち上がってきた。
 指の間から姿を見せたそれに、景麒は口づける。自分の下に組み敷いた体がピクンッと跳ねた。
「う、ぁ……け、いき……んっ、ふ、ぁあっ」
 そのまま頂を口の中で転がせば、切なそうに吐息を漏らす。その声の甘さに、景麒は眩暈にも似た感覚を覚える。
 ――この声もまた、自分だけのものだ。
 頭の中に、ゆっくりと霞がかかっていくような気がする。それでいて、感覚だけがとぎすまされていく。
 褐色の肌が、鮮やかに朱に染まる。
 もっと啼かせてみたくて、景麒は先端に軽く歯を立てた。陽子がのけぞる。
「ぁあっ! ……っ、んんっ」
 漏れでた高い声にあわてたように、陽子は手の甲で口を押さえた。
「主上、どうぞお声をお聞かせください」
「だ……て、恥ずか……んっ、……は、あ……っ」
 真っ赤になって陽子は首を振る。景麒は無理強いはしなかった。ふたたび、彼の指が、唇が、陽子の肌に快感を刻んでいく。
「ぁ……っ、ん、ふ……っ、んんっ、あ……ぁあっ」
 自分の体が、どんどん敏感になっていくのがわかる。肌に金色の鬣が落ちかかる、その感触にさえ陽子は身体を震わせた。
 景麒の指が先端を何度も擦り上げ、唇がやわらかな肌に跡を残し、舌先が……。
 陽子は狼狽えた。景麒の唇がいつの間にか下にさがり、臍をくすぐり、さらにその先まで進もうとしていた。
「ま、待て、景麒! そ、そこは汚……っ!!」
 腰を引こうとしたが、景麒の腕にしっかりと抱えられていてかなわなかった。足を閉じたくても、すでに相手の体が入りこんでいる。
「主上の体のどこにも、汚い場所などありません」
 必死になって引き剥がそうとする陽子に構わず、景麒はその場所に舌を這わせた。
「ふあああああっ」
 目がくらむ。ざらざらとした舌が、充血した襞をねっとりと刺激する。指先とはまるで違うその感覚に、陽子は惑乱した。
「ぁぁっ、そこ、あ、だめ、ぁ、ぁは、ぁああっ」
 尖らせた舌がわずかに入りこみ、小刻みな振動を入り口に与える。襞の一枚一枚を探り、なぞり上げる。
 あまりに大きな快感を受け止めきれずに、陽子はただただ首を振り続けた。
 やがて、景麒の舌先が隠されていた赤い珠を見つけだした。
「あはぁ!」
 触れられただけで、陽子は軽く達した。全身が痺れていうことをきかない。だが、景麒はなおもそこを責める。
「ひゃ、ぁ、景麒、も……ぁぁ、あっ、ああっ」
 もはや押し殺すこともせず、陽子は淫らな声をあげ続ける。何も考えられなかった。恥ずかしさも、恐怖も、すべてが快感に押し流されて溶けていく。
「ひゃぅ!?」
 景麒の指が、濡れそぼった肉の中に入りこんだ。胎内を探るそれは、すぐに2本に増やされた。舌は変わらず敏感な部分を覆い、舐めあげ、つつみ、しゃぶり……。
 2ヶ所からの刺激に翻弄され、陽子は身もだえる。快楽の波は陽子の中でうねり、ふたたび高みへと彼女を連れて行こうとする。
「け、景麒、ゃぁ、また、あぁ、んぅ、あ、あ、や、あぁぁあああああああああああっ」
 陽子の中から蜜が溢れて、景麒の指を濡らした。腰が引きつるように持ち上がり、痙攣している。
 それが達するということなのだと、景麒は先日の経験からおぼろげながら察していた。
 ゆっくりとその場所から指を引き抜くと、まるで代わりを求めるかのように、桜色の襞がひくひくと震えた。
 景麒としても我慢の限界に近い。手早く服を脱ぎ、自身の昂ぶりをそこにあてる。
 陽子が弛緩していた体を緊張させた。
「怖いのですか?」
 少し逡巡して、陽子は頷いた。
「そうだな、少し。でも大丈夫だ」
 景麒を見上げ、悪戯っぽく笑う。
「できれば、この間より優しく扱ってもらえると嬉しいがな」
「努力いたしましょう」
 苦笑して、景麒は陽子の額に軽く口づけた。
「……んっ」
 景麒が陽子の中へ入ってくる。胎内を、熱い塊がゆっくりと侵していく。
「ぁぁっ、んんぁ……っつ……んっ」
 ごくわずか漏れた苦鳴を景麒は聞き漏らさなかった。奥までおさめたところで動きを止め、陽子を気づかう。
「まだ痛みを感じられますか」
「っん……いや…………」
 心配そうに覗きこんでくる紫の瞳に、陽子は強がってみせた。
「だいじょうぶ、だから…つづけ、ろ……」
 陽子に促されて、景麒はふたたびゆっくりと動き出した。
「あ……ふっ、ぁっ、っ、あっ、んぁっ」
 痺れるような痛みと異物感が下腹に広がり、陽子は褥を握りしめた。自分の中に景麒がいる。それがはっきりと感じられる。
「ふ、ぁぁふ、んっ……あ、ぁんっ」
 やがて痺れは快感にすり替わり、陽子の声に艶めいた響きが混じりはじめた。突きいれたところで、擦りつけるように回転させると、腰を浮かせて喘いだ。
「あ、やはぁああああっ」
 陽子の反応が高まってきたのを感じて、景麒は動きを速くした。じゅっ、じゅぷ……と粘ついた水音が2人の間から流れる。
「あっ、あぁ……っ、けいき、ぁあ、は……っ」
 陽子の身体が跳ね、形の良い乳房が揺れる。快感に張りつめたその先端に誘われるように、景麒は口づける。気がつけば、陽子の腰も淫らに動いている。より深く、より激しく、快感を貪るために。
「んは……っ、あ、景麒、や、も、ぁぁぁ、んぁ、ひゃ……っ」
 堪えきれないというように、陽子が景麒の首筋に両腕を絡めた。間断なく快感の電流が体の中を流れて、思考をとろとろに溶かしていく。
 不意に、景麒が陽子の両足を抱え上げた。
「な、こんな格……あぁぁぁぁぁぁあんっ」
 大きく脚をMの字に広げられ、恥ずかしさに陽子は身をよじる。だが、より深く、陽子のさらに奥を侵す甘い刺激に、体は勝手に悦びの声をあげた。
「ひゃっ、そんな、おく、に……っ、ぁあん、ぁああ、あぁっ、だ、だめ、ぁ、景麒、お、おかしく、なっちゃ……や、あぁぁぁんっ」
「おかしくなってしまいなさい。ここには私と使令しかおりません」
 快楽で痺れきった頭に、その言葉はワンテンポ遅れて理解された。
「ち、ちょっと待……ぁっ、あああっ」
 浮かんだ疑問は、しかし、突き上げられる快感でうち消された。意識の中で白い光が何度も弾け、体の奥から急激に膨れあがってくる。
 これまでにない高まりに、陽子は怯えた。
「ぁ、や、いやだ、景麒やめ……」
「大丈夫……ともにおります。このまま、一緒に……っ」
 耳元で囁かれる熱い声。それは陽子の全身を貫いた。甘い痺れが駆け上り、陽子の中に残る最後のタガを吹き飛ばしていく。
「あ、ぁぁぁあああぁあああぁぁ――――――――――――……っ」
 爆発。
 そうとしか思えなかった。
 全身がバラバラになるような快感。
 膣が急激に締まり、景麒も欲望を吐き出した。奥に叩きつけられる熱が、陽子をより高みへと連れ去っていく。
「……っぁ、あ、あ、………………」
 全身を痙攣させ、陽子は喘ぐ。景麒の荒い呼吸と、自分の速い鼓動が耳を打つ。それを最後に、陽子の意識は途切れた。



「やめろって言ったのに止めなかったな。優しくすると言ったくせに……」
 褥に顔を押しつけたまま、陽子は文句を言った。自分の乱れようを思い返すと、身悶えしたくなるほど恥ずかしい。
「主上が私を締めつけて、離していただけなかったので」
「ばばばばばばか!」
 しれっとした答えに陽子はさらに悶絶する。その時、彼女の中に引っかかっていた疑問が、ふと浮上した。
「そういえば、お前、さっき何て言った!?」
 陽子が、突然、ガバッと身を起こしたので、景麒は驚いたようだった。
「さっき、と言いますと?」
「何か、使令がどうとかと言ってたよな」
 ああ、と景麒は納得した顔をする。だが、陽子がなぜ耳や首筋まで赤くしているかはわかっていないようだ。
「まさか……まさかと思うが、その、今、使令はこの部屋に…………」
「おりますが、それがどうかいたしましたか?」
 陽子の質問に、景麒は至極当然といった口調で答えた。口をパクパクさせている陽子を不思議そうに眺めつつ、冷静にだめ押しの一言。
「使令は麒麟の影に棲むもの。それに主上には冗祐をおつけしておりますれば」
 ――そうだ、冗祐!
 蓬莱で景麒につけられて以来、すっかり馴染んでしまい、なかば意識から抜け落ちていたが、自分の体に憑依する不定形の使令のことを、ようやく陽子は思いだした。
(と、いうことは、前回の時も……)
 全身が一気に沸騰した。
「景麒ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


『黄昏〜』で、陽子が冗祐を体から離し、護衛の使令さえ側につけていなかったのは、この件が原因……なわけはない。

―どっとはらい―



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