お名前プレイ(違)桓×祥
作者5834さん
「青将軍、青将軍!?」
祥瓊はよく知るその後姿にそう声をかけた。
ここは内宮、祥瓊は遅い夕餉を取ろうと花殿に向けて歩いていた。
そんな時、こちらに向かって歩いてくる人影を見つけた。
それはよく知っている人物であったし、相手もそうだっただろう。
役職で呼んだのはここが内宮だからだ。
親しい名で呼んでよい場所ではないと、そう祥瓊は判断したのだが、どうやら相手は違っていたようだ。
「祥瓊。その名で呼ぶのは勘弁してくれないか?」
「駄目よ。誰かに聞かれたら大変だわ」
そういう事に関して無頓着なのは、彼も彼の仕える主上も同じだった。
半獣で、しかも元麦州師将軍だった彼は今や禁軍筆頭の左軍将軍だ。
昔からいる官からは何かと目を付けられる事が多いのも祥瓊は知っている。
宮中の綺麗な所も汚い所も知っている祥瓊から見れば、彼の振る舞いは無防備に見え、
心配でならない。
彼女の言い分も判るのだろう、青将軍――は、やれやれと一つ溜め息を
つき、話題を変えた。
「こんな夜更けまで仕事をしていたのか?」
「陽子が手紙を書きたいって言ったの、付き合っていたらこんなに遅くなって
しまったの」
そうか、とは労うように少しだけ微笑んでみせた。
「青将軍もお忙しいようですね?」
くすくすと笑い祥瓊がそう尋ねると、意地が悪いなとは反論した。皮甲
を付けていない所を見ると、今日のの仕事もまた書卓の上だったようだ。
彼曰く、椅子に座り書類と睨み合うのは、複数の敵を一人でなぎ倒す事よりも辛いらしい。
書類と悪戦苦闘するそんな姿を祥瓊は想像し、くすりと笑みを零した。
「女に口で勝とうなんて思う事事態、無理があったな。
……いや、祥瓊がそこまでするのなら、俺もそれなりの意地があるという事を見せ付けないといけないな」
「意地?」
きょとんとしている祥瓊に向かって、はお返しだという様に、にやりと笑ってみせた。
「どうだ、今夜は俺の所に来ないか? 散らかってはいるが、二人で寝れる牀ぐらいは確保してあるんだが」
そう告げ、差し出されていた手の意味を理解して、祥瓊の頬は少しだけ赤く染まった。
何度か来た事はあるが、やはり何度ここに足を踏み込む度に胸が高鳴る――
そう祥瓊は思う。
彼と肌を合わせてからというものの、一人でいる夜が当たり前だったのに、
何故か人肌が恋しくて堪らなくなってしまうのだ。
それはきっと彼の優しさは温かさが肌を通じてじかに伝わってくるからではなのだろうかと最近はそう思い始めていた。
しかし一つだけ文句があるとすれば、この雰囲気を壊す乱雑な部屋だけかもしれない。
ここに移り住んでもう随分と経つというのに、一向に片付かない部屋の荒れ様に呆れていた。
本当にそういう事に関して彼は疎すぎて、そういえば楽俊もこの官舎に招いたらしい。
その話を聞いた時は、よくこの荒れ様で人を招き入れられると、祥瓊は逆に感心してしまった。
しかも何時貰ったかも判らない菓子を出そうとしていたらしいではないか。
そんなものを食べて腹でも壊したらどうするの?
――そう尋ねてみると、桓堆はあっけらかんと笑って「考えていなかった」と告げたのだ。
変な人、本当に変な人―――祥瓊はそう思う。
出会った頃から一貫して変わらない彼の印象。でも、普通とは違うというのとは意味が違う。
彼には彼なりの考えがしっかりあって、それを貫く為ならば、どんな犠牲も厭わなかった。
ある種、高潔で、誠実な人だった。
だから、皆に慕われているのだ。それは自分も同じ様に……。
「祥瓊」
ふと、気付けば後ろには桓堆が立っていた。
彼が着替えてくると告げてから随分と時間が経ったのだと、その時になって祥瓊は気づいた。
背後から、そっとうなじをなぞる様に触れられた。
その手はそのまま髪をなぞり、一つに纏めていた髪留めを取った。
はらりと落ちる自分の髪が首筋に当たった。
「……?」
「おっと、今夜はその名は駄目だ」
「え?」
意味が判らないと祥瓊が振り向くと、は楽しそうに、まるで何かを企んでいる様な、不敵な笑みを浮かべていた。
「こうでもしないと俺は慣れないんだ。だから、今夜は青。とは呼ぶなよ。
いいな?」
「え、でも……、」
驚いている祥瓊をそのままに、は後ろから優しく彼女を抱きしめた。
そして首筋をなぞる様に唇を落とした。
「青、だ。もし、またその名を呼んだら……今度はお仕置きだな」
「お仕置きって、馬鹿な事、言わないで」
「馬鹿なもんか。これは一種の勝負なんだ。俺が諦めるか、それとも先に祥瓊
が非を認めるか、そのどちらかだ」
するすると桓堆は慣れた手つきで祥瓊の襦裙を床に落とした。やわわかな乳
房を小衫の上から手の平で味わう。少しだけ力をこめる度に祥瓊の口から艶を
帯びた声が出てしまっていた。
「あ、だ、駄目、……そんなに強く揉まないで」
「青」
耳元でそう囁かれ、そう呼べと言われた事を思い出した。だからお仕置きなのだろうか、
は硬くなりつつある乳房の蕾を指の腹で押さえつけた。
その瞬間、ぴりりと雷鳴が身体の中を駆け抜けたように祥瓊は感じた。
足の震えが止められず、無意識のうちに彼に寄りかかっていた。
それに彼も気付いたのだろう、ひょいと祥瓊を抱き上げた。
「どうだ? 非を認めるか?」
「非って……私は悪い事なんかしてないわ」
牀榻に向かって歩いている桓堆にそう問い掛けると、彼は、確かに、とそう口にした。
「悪い事、ではないかもしれないが、俺にとっては嬉しくない事ではあるな」
「嬉しくない?」
「そう、嬉しくはない」
謎かけでもされている様な気が祥瓊にはした。には何か思惑があり、
それを自分に導き出させる為に、こんな事をしているようなそんな気がしてならない。
だけれど、それを冷静に考えるだけの余裕が今の祥瓊にはない。
そもそもこの行為自体、祥瓊にとっては手に余るものだった。
牀に寝かされると、うっすらと月明かりが彼を照らしていた。
武官としてはさほど背も体格も大きくはないだが、こうやって目の前にいると、やはり大きいと感じてしまう。
その大きくて暖かな手の平で頬を撫でられ、口付けをされると、祥瓊は何も考えられなくなってしまう。
全てを委ねてしまえる。そんな存在に彼がなってしまったからなのだろうか。
「祥瓊」
そう名を呼んでもらえるのが素直に嬉しかった。
彼の低い優しい声色がとても心地良い。何度も聞いていたいと、せがむ様に手を彼の上着を掴んでいた。
「……」
無意識にそう名を呼んで、祥瓊ははっとした様に彼を見た。
そこには怒る訳でも悲しむ訳でもなく、ただ心底嬉しそうにこちらを見つめるがいた。
「やはりそちらの方が落ち着くな。青だと余所余所しいとは思わないか?」
ええ、と祥瓊は素直に頷いた。親しい間柄だからこそ、呼ぶ名前もある――
―実際、が青と呼ばれるのは将軍としている時だ。
気の置けない飄々とした彼だが、任に就いている時だけは、その顔は軍人に変わるのを祥瓊は知っている。
だからこそ、二人でいる時ぐらいはとそう呼んで欲しいのかもしれない。
「……でもやっぱり他人に聞かれたら、まずいわ」
「公私混同しろとは言ってないさ。二人きりと判る時だけでいい」
「……」
「お仕置きは……もう必要ないな」
口元を緩めてそう桓堆が言うと、祥瓊はそっと腕を彼の背中に回した。
もう一度、祥瓊が頷くと、桓堆は何を言うでもなく、その唇を自分の物で塞いだ。
小衫を脱がしつつ、露になった祥瓊の肌には何度も唇を押し当てた。
くすぐったそうに彼女が身をよじる時も、それを軽く受け止める様に唇を落とし続けた。
「あ、……」
「祥瓊は、ここも別嬪だな」
「馬鹿……んっ、」
髪より少し濃い恥毛を梳かす様には触れた。月明かりしかないとはいえ、
まじまじと秘部を見られ、祥瓊は嫌だという様に脚を閉ざすのだが、既に脚の間にはの身体がある。
初々しい抵抗もまた可愛いらしくて、はそれを楽しむ様に彼女を焦らしていた。
「可愛いよ、祥瓊」
閉ざされていた扉から、とろりと流れ落ちた蜜を見つけ、はそれを舌ですくい取った。
震える脚を優しく撫でつつ、溢れて止まらない蜜を味わい続けた。
自分だけに聞かせる甘くて艶やかな祥瓊の声にせっつかれる様に、は舌で閉ざされていた門をこじあけた。
入り口を舌でなぞられる度に祥瓊は堪らず声を上げてしまっていた。
恥ずかしくて目を閉じているせいなのか、逆に舌が蠢く姿を想像してしまう。
下腹部からこみ上げてくる何かに侵される様に、祥瓊の頭は空っぽになってしまいそうだった。
「か、……っ、」
そう彼の名を呼ぶのが精一杯だった。
「辛いのか?」
目尻に当てられた柔らかい感触に、祥瓊が恐る恐る目を開けると、そこには
心配そうに見つめる彼の顔があった。
「そうじゃないの……でも……」
「でも?」
不意に手を繋がれて、祥瓊は無意識に繋ぎとめてしまった。少しだけ驚いた
様子のも、すぐにまた嬉しそうに笑った。
彼が笑うと何故か安心する―――そんな気が祥瓊はした。
「やっぱり恥ずかしくて……」
「じゃあ、さっさとそんな事を考えられなくさせちまうか」
「え? あ、――っ、」
てらてらと濡れている花びらを桓堆のそれは弄った。
ぬるりと蜜がそれを満たすと、互いを擦りあう音だけが牀榻に響いていた。
焦らずに祥瓊の呼吸に合わせる様に、はゆっくりと腰を沈めた。ん、と
その狭さに少しだけ顔を歪ませつつも、のそれはすっぽりと祥瓊の中に包み込まれた。
変な感じだと祥瓊は思う。息苦しいまでの圧迫感があるというのに、それが逆に嬉しくさえ思えてしまう。
わずかに灰のかかった紺青の髪は敷布の上に広がっていた。
まるでそれが海の様には感じた。蓬莱では海は母なる海だといわれているらしい。
全ての始まりは海から生まれたのだ―――そう陽子から聞いた事がある。
こちらに生まれたにとっては、いまいち理解し難い事だったのだが、今ならばそれが少しだけ判る気がした。
自分を受け入れてくれる存在はまるで自分を包み込んでくれる様に温かい。
それは母の温もりに似ている気もしないでもない。
いい歳をした男が考えるような事ではないのだが―――。
「?」
「本当に祥瓊は別嬪さんだな」
「もう、そればっかり……」
そっと頭を抱きかかえて、は彼女の額に口付けた。こんな気持ちになる
のは始めてで、話したい事は山の様にあるのだが、今はただ、彼女を抱いてい
たかった。彼女もまたそうであって欲しいと願うように、少しだけそんな自惚
れを想像しながら、は止まっていた腰を動かし始めた。
初めてではないけれど、それでもまだ互いを知らない身体は自制が思う様に効いてはくれなかった。
腰を引く度に、それを圧し留める様に祥瓊の中はきつく桓堆のものを締め上げる。
入り口を優しく擦り付けては、勢いよく沈める。
ただそれだけの事だというのに、それがどうしようもなく気持ちがいい。
「、……!」
祥瓊は感じる快楽が怖いという様に、の背中にすがり付いた。
彼女自身でも気付いていない涙を桓は唇で拭いながら、それでも動きを止めなかった。
最奥の壁を何度も叩きつけられて、祥瓊は仰け反ってしまっていた。
繋がっている部分からくる甘い痺れが身体全体を包み込んでいた。
彼が動く度に身体が痺れる。それが痛さからくるものなのか、それとも違うものなのか、経験の少ない祥瓊にはそれが判らない。
けれども、自分の中で激しく存在感を示す彼のものが、祥瓊にも判った。
苦しむ祥瓊を気遣ってなのか、がそれを口にする事はしないけれど、そうなのだと、はっきりと祥瓊に教えてくれる。
繋がっているのだと―――はっきりと判り、それが嬉しかった。
「祥瓊、少しだけ我慢してくれるか?」
「我慢しなくていいって、いつも言ってるじゃない……」
「そういう訳にはいかんだろ?」
こんな所まで生真面目でなくともいいのにと祥瓊は思いつつも、そんな所がまた彼らしかった。
本当はもっと彼の為にしてあげられる事があるのだろうが、まだその余裕が祥瓊にはない。
それが判っているからこそ、も言わないのだろう。
数をこなせばそれなりに慣れるって本当なのかしら―――
空ろな頭でそんな事を考えていると、は詫びる様に口付けてきた。
無意識に身体にこめられてしまった力を解く様に、深いくて優しい接吻に祥瓊もまた夢中になっていた。
自然と力の抜けた彼女の身体をはぐいと引寄
せた。
小さな悲鳴と共に、ただひたすらに腰を動かす。開ききった傘を狭い彼女の中に擦り付け、強い快楽を貪った。
ずるりと引き出される己のものが彼女の中に無理矢理沈みこむ。
その光景には目を瞑った。酷い事をしている自分に気付いてしまうのが怖いのか、は
たまた、それ以上のものを望んでしまいそうな己の欲望を押さえ込むように、
強い快楽だけを望み、己のものを彼女中に強く突きたてた。
「あ! あっ……っ、」
の背中にしがみ付いていた祥瓊の腕に力がこもった。爪を立ててしまう
ほどに、熱いものが祥瓊の中に流れ込んできた。永遠に続くかと思うほどに長
い律動に、祥瓊は小さな声を漏らし、背中を仰け反らせるしかなかった。
ぎゅうと痛いほどに自分が抱きしめられている事に祥瓊が気付いたのは――
―随分と経ってからの事だった。
「……ねえ、」
「ん?」
牀の上で寄り添う様に横になっていると、不意に祥瓊が口を開いた。
「公私混同するなって判ってて、それでもして欲しいって……それっての
我侭なだけじゃないの?」
その問い掛けには、意地悪く笑ってみせた。
「ばれたか」
それは本当に幼い者がするような悪戯に思え、祥瓊はぽかんと口をあけてしまった。
その様子が可笑しいのか、はくつくつと笑っている。
「俺は惚れた女の困った顔が一番好きみたいでな」
「いい性格してるわ、って」
「よく言われる」
いけしゃあしゃあとそう言ってのける彼に、祥瓊は眉を顰めた。そんな彼女
の額には唇を押し当てた。これで許してくれというつもりなのだろうか。
そんな甘い自分ではないけれど、今夜だけはこれで許してあげようと祥瓊は思
った。それぐらい優しい口付けだったから。だけれど、
「……いつか見てなさい。今度は私がを困らせてあげるから」
いい性格をしているのは、お互い様だという事に、当の本人達だけが気付い
てはいなかった。