「その気にさせたのはどっち?」
作者:254さん >324@2冊目


 キン―――。
 剣のぶつかり合う音が金波宮の中庭に響いていた。
 一方は鮮やかな紅い髪をひるがえし、水禺刀を振るう景王、陽子。もう一方は水禺刀の倍はあろうかという幅広の大剣をふるう禁軍左将軍、桓たい。陽子のすとれす解消の仕合いが今日も行われていたのだ。
 桓たいのふるう剣をかいくぐり、陽子は桓たいの体勢が崩れるのを待った。
「っつ―――!」
 桓たいの、横に大きくなぎ払った一閃をかわした陽子が、大剣を弾き飛ばした。
 ぺたり、と桓たいが地面に座り込む。
「お見事―――」
 飛んでいった剣を拾って差し出した陽子を見上げて桓たいは賞賛した。
「お前の得意な槍で一本取れたら、誉めてもらうよ。冗祐も憑いてるし」
 陽子はそう言って照れくさそうに笑ったが、不意に笑みを消して桓たいの前に座る。
「血が、出てる……」
「え?ああ……。こんなのは舐めとけば治ります」
 桓たいは右腕の肘に滲んだ血を見て、事も無げに言った。実際、陽子の剣が少し掠めただけなので、仙たる身には何も心配もない傷だった。
「大丈夫か?」
 陽子はそう言うと、ぐいっと桓たいの腕をつかむ。
 ぺろり―――。
 陽子が紅い舌を出して、その傷を舐め上げた。
「しゅ、主上―――!?」
「いいから……」
 慌てる桓たいをよそに、陽子は一心不乱に舐め続ける。
 陽子の柔らかい唇を感じて、桓たいの心拍数は跳ね上がった。普段の余裕げな雰囲気は消え去り、困惑した顔でその行為を眺めていた。不覚にも顔が火照るのを、桓たいは感じていた。
 陽子がちら、と顔を上げて桓たいを見た。ドギマギとしたその視線とぶつかり、陽子はにや、と笑みを浮かべた。
「どうかしたか?」
「い、いえ……」
「他に舐めて欲しいところでもできたか?」
「……っつ……!最初から、そのおつもりだったのではないでしょうね?」
「そんなわけないだろう?お前が、そんな顔するからだ……」
 うふふ、と艶やかに笑って陽子は悔しげに眉を寄せた桓たいの顔を覗き込む。
 そして、しなやかな指を伸ばして軽く勃ち上がったモノを一撫でしたのだった。



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