逢い引き
作者:665さん >665-667、681-682、704-705 @二冊目
その鳥が飛んできたとき、下官はそれを捕らえて丁重に銀の籠に入れた。
籠は次々と上位の官に手渡され、宮殿の奥深くへと運ばれる。そして最後の女官が鳥籠を携え主の私室に運び込む。
「公主、雁からの青鳥でございます」
柳の芝草は美しい町だった。その中でもとりわけ緑の豊かな美しい街角。
しかし緑の柱が妓楼だというのは、どこの国でも共通の印だ。
芝草の妓楼の中でも最高級と言われ、政府の高官もお忍びで利用すると噂される店の最奥の豪華な一室。
露台に続く大窓から、贅を凝らした造りの中庭を眺めている娘がいる。
呂の生地を重ねた意匠の襦裙は、質素に見えるが実は非常に上質な作りだ。
同じく髪もつややかに編みあげ、華美でこそないが、技の粋を凝らした象牙の櫛をさり気なくあしらってある。
娘の目に入る中庭の木々は若葉に覆われている。池には陽光がきらめき、所々に置かれた花鉢には、季節よりも少し早めの初夏の花々が咲き乱れている。
部屋のあちこちにも、豪華に花を生けた紫檀の台が置かれている。
娘はその場所に、かれこれ1時間あまり佇んでいた。
「こんなところでいつまで待っているのかしら・・・」
そう娘がひとりごちた時、
「お待たせしたか」
背後から男の低い声がした。
びくっとして振り向くと、光の差し込む明るい部屋の中で、ごく普通の服装(なり)をした男が、くつろいだ様子で卓子についていた。
何の断りもなく、玻璃の瓶から揃いの杯に果実酒を注いで飲んでいる。
漆黒の豊かな長髪を後ろで高く無造作に結んだ、見たところ30くらいの、見目の良い、何処か人なつっこい雰囲気の男だった。
男の自然体な物腰に、自分がどれほど身繕いに時間をかけたかを思って、娘の頬は一気に紅潮した。
「いつの間に・・・」
「酒を一杯飲む間。
物思う風情の後ろ姿が美しくてな、声をかけるのをためらった」
娘は精いっぱい威儀を繕い、態勢を立て直そうとする。
「声も掛けずに後ろから人を見ているとは、礼儀を弁えないとお見受けする」
非難がましい言葉をさらりと受け流し、その声の美しさを楽しむ。
「美しいものを見ながら酒を飲むのは楽しいからな」
そう言って杯を日にかざしてみせる。
玻璃の切り子面がきらきらと輝いた。
「・・・っ!! (無礼な!)」
気を取り直して、娘は「青鳥を飛ばしたのは・・・?」と問うた。
青鳥は官府の使う通信手段、この男が只の使いであればと願っての問いだったが、
「俺だ」と男はあっさりと答えた。
やはり、この声はそうだったか。
「では・・・、貴方が?」
「風漢。年上の女性(にょしょう)を希望した男だ」
仕切り直さねば・・・。
娘はあでやかに微笑む。
「風漢どの。なかなかにうがったお好みとお見受けします」
「年下の男はお好みではないか、奏国公主・文姫どの」
「貴方様ほどの年の差でしたら、気にはいたしませんわ。雁国国主・尚隆殿」
互いの位置を推し量る微妙なやり取り。
風漢、いや尚隆は不適な笑みをこぼすと、つと立ち上がって娘の前に来た。
背の高い、たくましい体躯の男だとあらためて見上げる。
「双方合意だな」
手にした杯から酒を口に含むと、空いた手で娘の頸を捕まえて唇を吸う。
文姫がかすかに喘ぐのをとらえて、酒を口移しに飲ませ、そのまま舌を滑り込ませた。
尚隆の巧みな舌遣いに誘われるように、娘の喘ぎが深くなる。のどを滑り落ちた酒が身体の隅々にしみ通ってゆく。
「こんな場所では、外から見られます」
唇の合わせ目からようやく言葉を吐くと、
「構わんさ。ここはそういう店だ」
文姫のつややかな髪をまさぐっていた尚隆の手が美しい櫛を抜き取り、大窓の脇にある花台に置いた。次いで髪を結い上げている紐をほどいて外す。
「せっかく結ったのに・・・」
不満を伝えるその言葉は、誘っているようにしか聞こえない。
「解かれるため、だろう?」
のんびりとした口調で言うと、尚隆は娘を軽々と抱き上げた。
切り子の玻璃の杯が、厚く敷き詰められた段通(じゅうたん)の上に転がった。
次の間にある榻の、豪華な刺繍を施した上掛けの上に、尚隆はいささか無造作に文姫を放り出した。
その部屋の窓には模様を織りこんだ薄い紗の布が二重に掛けられていて、先の起居よりは幾分薄暗い。
そこに置かれたどの調度も贅を凝らし、同時に空間をゆったりと取った配置になっている。
傾き掛けているとはいえ、繁栄した柳の最高級の妓楼なだけのことはある。
とはいえ、どんなに豪華なしつらえでも、永く安定した治世を布いた国の王であり公主である二人にとっては驚くようなものではない。
しかしそこにある精一杯のもてなしの心をくみ取れるからこそ、永い治世を過ごしてきたとも言えるのだ。
半分解けた髪を扇のように広げ、背もたれに身を預けながらもきっと見返す文姫を品定めするように見下ろした尚隆はにやりと笑った。
「気が合いそうだ」
そのまま床に跪き、帯をとかずに文姫の胸のあわせをぐいっとくつろげる
「着付けにも時間をかけたのに・・・」
「脱がされるためだろう? それに・・・」
声がくぐもったのは、娘の首筋から鎖骨へと舌を這わせているためだ。
「俺のために着飾ってくれたものを、俺が脱がせる。男冥利につきるというものだ」
尚隆は手早かった。
帯をゆるめ、襦の袷を大きく引き広げ、肩までむき出しにする。その肌は白絹のようなぬめりを帯びた光沢を放っていた。
こぼれ出た右の乳房を掌で包み込み、頂点の桃色の果実を口に含んだ。巧みな舌使いでたちまち固くなるそれを、わざと乱暴に嘗め回し吸い上げる。
快感に負けて、崩れるように長椅子に横たわる文姫。いまだ少女の名残を宿した乳房をむさぼりながら共に身体を倒し、その間にももう一方の手は裙の裾を割り、敏感な部分をまさぐってゆく。
そこは、すでに熱く潤いをたたえていた。
「あ・・・、そんなに・・・」
(・・・指で混ぜないで・・・)
「準備はいいか」
耳元に熱い息を吹きかけてささやくと、袍衫の脇を割って己の怒張を取り出す。片足を床に、片膝で文姫の腰をまたぐと、構えることなく女の熱い部分にあてがい、ぐっと腰を沈める。
「くっ・・・」
文姫の眉間に薄くしわが刻まれ、唇を食いしばって堪えている表情にそそられる。
尚隆の怒張はきつい隧道を押し開きながら、少しずつ奥に飲み込まれていった。
思っていたとおり生娘ではなかった。しかし使い込まれたという風情でもない。
「一つになったよ、貴女と」
そう囁くと、ゆっくりと口づけをする。顔を離し、文姫のむき出しの肩に手を置いて、尚隆は優しく腰を使った。
娘の表情を読み、秘壺の熱さを確かめるように少しずつ動きを早める。
「あっく、あぅっ・・・・く・・・、はっ、はぁ・・・」
公主は何とか声を上げまいとしているが、身体の反応は抑えようがない。
自分の表情やむき出しの乳房をいいように見られているという思いもほてりを煽る。
頃はよしと見て取った尚隆は最後の一突きをくれて、娘の体内に白濁した熱いものを放った。
息ひとつ乱さず、尚隆は文姫の上に覆い被さった。
「早かったかな?」
娘の頭を胸に抱いて話しかける。
「お目にかかってから、まだ半刻とたっておりませんのに・・・」
どこか投げやりに答える文姫の頭の天辺に、男は笑って口づけた。
「貴女のためだ」
「え・・・?」
尚隆は柔らかな口づけを間断なく女の上に降らせている。
「時間をかけていたら、貴女の中にあったためらいが大きくなって、気が変わってしまっていたかも知れん」
「・・あ・・・・」
言われてみれば、確かに。
青鳥の誘いを受け取ってから後のことは、何もかもが夢の続きのような気がしている。
本来ならばあってはならない遭遇なのに、糸に引かれるようにしてここまで来てしまった。
今この部屋で起こったことはひと流れの水の動きにも似て、どこにも滞らず、自然にあるがままに運んだような・・・。
そして今、文姫の中には未だ固さを失っていない男のものが深々とくわえ込まれて、上に乗った男の大きさと重さを全身で感じている。
秘所は軽く突かれただけなのに熱く潤い、自分の蜜と男の精が壺の中で混じりあっている。
甘い攻撃を受けた乳房は張りつめ、男の袍に擦られる乳首が痛いほどに立っている。
そして何よりも男の口づけがおいしい。
軽くふれあわせる唇の強さ。じらすように舐める舌の熱さ。唇を甘噛みする白い歯の優しさ。
「もっと・・・」という気持ちが身体の奥底からわき上がってくるのだ。
男は文姫の身体から離れて立ち上がった。
「ぃゃ・・・」
思わずそんな言葉が唇をついて出る。
なめらかな太股をつたって、白濁した蜜が零れ出す。
「夜はこれからだ。時間はたっぷりとある。おつきあい願おうか」
しどけなく横たわる文姫を、獲物を視野に捕らえた鷹のように見つめながら、身につけたものを悠然と床に落としてゆく尚隆。
もう逃げられない。後には退けない。止められない。
―――止めて欲しくない―――
尚隆は褐色に日焼けした鍛え上げられた体と、今し方精を放ったばかりだというのに腹につくほどに長く反り返りテラつくものを、隠すことなく見せつけた。
とろけたような文姫の表情が答えだった。
楽しそうに笑い、再び文姫を抱き上げる。
文姫ののびやかな腕が、優しく尚隆の首にからまった。
奥の臥室には大きな寝台がしつらえてある。
互いについばむように口づけを交わしながら、尚隆は牀榻へと歩く。
これから公主の身体を覆い隠すものすべてを取り去って、その身体を味わい尽くすのだ。
互いの悦ぶ行為を探り出し、二人で高みへ上り詰めるのだ。
夜はまだ長いのだから。
〈 了 〉
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