楽俊×陽子
作者896さん
「楽駿・・。」陽子は房間の入り口に佇んでいる。「陽子!」それに気付いた彼は
立ち上がって無二の客を迎える。青い髪、痩せてはいるが精悍で背の高い彼は、側に並ぶと陽子より
頭二つは大きい。「すまねえな、わざわざ来てもらって。」「ううん、いいの。
それより、いつものように半獣の姿じゃないんだ」「うん。鼠の姿じゃ、こういう旅館は難しいよ。
延王さまの旅券も置いてきたし。」「・・そうか。」半獣への差別を撤廃する勅令を
出したとはいえ、それを人々の心にまで徹底させるのは難しい。半獣への差別が無く
なるまでにはまだまだ長い年月が必要だろう。
「私は本当に何もできないのだなあ・・。」せっかく尋ねてきた朋を内宮に迎えることすら出来なかった。
まだ朝には問題が山積みにある。楽駿の方が気を利かせて、半獣の自分は出入りしない方がいいと、
わざわざ暁天に宿をとって陽子を待っていたのだ。「そんな事ないさ。こうして人々が毎日働けて、
それが少しずつでも豊かになっていくことに繋がる。陽子がいなければありえなかったことだ。」
言って楽駿は眼下の街を見下ろす。往来は行き交う人で溢れ、慶東國の首府は少しずつ活気を取り戻していた。
「それにオイラだって大学に入れて、思う存分勉強することが出来るんだ。陽子に会えなかったら絶対に
叶わなかったことだよ。本当におめえには感謝してる。」「楽駿・・・。」「ああ、何か照れるな。」
言って彼は本当に照れていた。思わず顔を背ける。知らず知らずのうちに赤くなっていた。
あの愛しい声を伝える鳥を使って「文通」は続けていたものの、こう面と向かって想いを伝えるのは、
どうにも気恥ずかしくていけない。取り乱して彼は茶碗に手を伸ばす。しかし、慌てた手つきは
湯飲みをひっくり返してしまった。玉を磨いたような白磁の器が床に転げ落ちる。
「あっ、落ちちゃったよ」「いけね」二人は、同時に手を伸ばす。伸ばして共にハッとした。
触れ合う手と手。二人はしばし見つめ合う。陽子の潤んだ瞳。瞬間はすぐに流れ去った。
唐突に、楽駿は陽子を抱きしめた。
「ら、楽駿・・!」陽子は驚きの声を上げる。しかし、驚いていたのは楽駿も同じだった。
(何やってるんだ、オイラは・・)つい理性を失ってしまった。気が付いたら陽子を胸に
力強く抱きしめている。「ご、ごめん陽子!」思い出したように咄嗟に身を離した。
「オ、オイラ、そのなんていうか、陽子があんまり綺麗だっかたから、つい・・・」
しどろもどろに、言い訳にもならない言い訳でまずます深みにはまっていく。
そんな楽駿を陽子はじっとみていた。しばらくそうして、急に吹き出した。
「な、何だよ・・。」「だって・・」声をあげる。「楽駿って、けっこうかわいいところが
あるんだなあって・・。」けらけら笑う陽子。楽俊はそんな彼女をぼーっとみつめる。
(いつも凛とした陽子が、こんなに無邪気に笑うなんて・・・。)
思えば、陽子を異性としてみたことはなかった。というよりも、意識しないようにしてきた。
でも、今になって急に、おさえていたものが溢れ出すような感覚。これは・・。
気が付くと柔らかい感触がした。視界をふさぐ赤い髪とかぐわしい香り。
「ん・・!」陽子は唇をそっと離した。「いいよ、好きにして・・。」
楽駿の広い胸に寄りかかる。「私を助けてくれたのは楽駿だから。
私が今の私でいられるのは楽駿だから。」きゅっと楽俊の衣を握りしめた。
「楽俊が望むなら・・・。」
「陽子・・。」
ついと陽子の顎をあげる。二人は今日二度目の口づけをかわした。
しんとした房間の中にただ衣擦れと二人の息づかいだけがいつまでも響き渡る。
楽俊は異性に触れるのは初めてであった。貧しい生活の中で青春を楽しむ余裕など有るはずもなかった。
だけどなぜか、今の楽俊には何もかもが手に取るようにわかるようだった。陽子がどうすれば喜ぶか、
どこをどう押せば、どんな音色がでるか・・。
「ああっ!」
陽子は堪えきれず声を漏らす。自分の身体がこんなに敏感だったとは。
楽俊に触れられたところが・・・・熱い。
「楽俊・・。」喘ぎ声の合間にようやく言葉を紡ぐ。
「あたし、おかしくなりそう・・。」
「俺もだよ」
そっと陽子の頭をなでる。
もう理性は吹き飛んでいた。彼女は自分などが手に触れて許される身分の女(ひと)ではない。
ましてや、こんなこと・・・。
でも、彼の頭はもう陽子だけでいっぱいだった。そして陽子もまたもう他のことは何も考えられなかった。
「・・陽子、いくよ。」
潤んだ瞳はじっと楽俊をみつめる。
「・・うん、来て。」
ゆっくりと陽子を突き破り、満たしていく。
「んっ・・。」
「どうした!ごめん、痛いのか?」
「違うんだ・・。」
涙を拭う。
「今、楽俊と一緒になれたんだって。それがうれしくって・・。」
「陽子!」ぎゅうっと楽俊は繋がったまま愛しい彼女を抱きしめる。
「陽子、オイラ、陽子の事が好きだ。大好きだ。」
「いいよ、来て。痛くしても良いから。」
「ああっ」房間の壁に映った影はまずます激しく揺らいでいく。
終わりがないかのように。
やがて二人は共に上り詰めた。
二人は生まれたままの姿で横たわり、ともに抱き合ってまどろんでいた。
バンと、突然扉が開かれる。
そこに佇むのは・・・
「景麒!?」
「・・・これはどういうことでしょうか?」
殺気を含んだ瞳がまんじりともせず、あられもない姿の二人を見据える。
「えっと、あの、これは、その・・」
「台輔、これはその、あの・・」
「許さない・・」
「えっ?」
普段の能面のような顔は、嫉妬に醜く歪んでいる。
「主上をこのような下郎に奪われるくらいなら・・いっそのこと私が・・・」
「なっ!?」
司令と共に飛びかかる景麒。陽子は押さえつけられる。
「私が犯す!」
「ちょっ、やめ・・」
・・・・
・・・・あれ?陽子は目を開ける
「うわああ、助けてくれ!」
景麒は楽俊に襲いかかっている。
「そっちかああああああ!!」
以後、地獄の3p編へ 続く(たぶん)