景王・愛の劇場『番外編・忘却の祥瓊』
作者148さん
「どうだ、気分は?落ち着いたか?……」
「――はい」
祥瓊にとっても本気の恋だった。そして余りにも短く、呆気無いほどのその恋の幕切れ。
禁門を抜け、寝静まった深夜の内殿の奥、正寝に連れられるや否や涙も枯れよとばかりに泣いた。
「そなたには悪いことをした」
延は穏やかにそう言った。
「いいえ、どうか御気になさらずに。私は陽子も楽俊も大好きなんです……二人とも私にとって
決して失いたくない大切な友達。だから、あれで良かった…延王様には感謝したいほどなのです…
…こんなこと、二人には恥ずかしくて言えませんけど」
泣き腫らした瞼で、祥瓊は照れくさそうに微笑んだ。
「本当は…分かってたんです。最初から楽俊の気持ちが私には向いていないこと――だけど私は初
めて男の人を本気で好きになった。我ながら馬鹿な真似したなって思うけど、本気だった……」
「そうか…辛かったろう」
延は目を伏せ華奢な肩に手を置いた。
「忘れさせて、下さいますか?…延王さま……」
飽きるほど泣いたのにまた潤む紫苑の瞳で祥瓊は見上げた。
「尚隆と…」
「…尚隆さま……」
見上げたままそう呟くと祥瓊は目を閉じた。
尚隆は祥瓊の濡れた唇を啄み、舌は口中をまさぐり逃げ惑う少女の舌を追い回し絡め捕る。
「ん………ふ……」
熱い吐息と共に絡み合う舌と舌。それはいつ終わるのかと思えるほどに長く、狂おしいほどに甘い
くちづけ。いつの間にか祥瓊は進んで尚隆の舌を追い求め、漸く尚隆の身体が離れると祥瓊は名残
惜しそうに切ない吐息を洩らした。
頭がぼうっとする。目を開いても視野が霞んでいる。尚隆に掴まっていないと倒れてしまいそうだ。
尚隆は祥瓊の着物をはらりと床に落とし、小衫一枚になったその腰に片手を廻す。
綺麗に櫛通された紺青の髪を指で梳き、耳許から頬を、可憐な唇から華奢な顎、そして白磁のよう
な首筋へとなぞる様に優しく指先は散策する。
「はぁ…………」
祥瓊は目を閉じ、柔らかな風に吹かれるような心地良さに身を委ねる。尚隆の指は首筋から肩に降り
やがて小衫に隠された緩やかな曲線を描く丘に辿り着く。
「ぁ……ん…」
生地を隔てて優しく撫で回され、たおやかに息づくその丘。むず痒いようなもどかしさに吐息が洩れる。
指先がさまよう丘、それを包む白く薄い小衫にその存在を主張するかのように、小振りの蕾がくっ
きりと浮き出してくる。指の腹がそれを円を描くように撫で回し、くすぐる。祥瓊の身体は小さく
震え、自らその手を掴んで袷に導き入れた。
導かれた右手はもはや遠慮を無くし、たわわな乳房を余すところ無く蹂躙する。
「ゃ…あぁ」
袷がはだけ、こぼれ出した乳房に尚隆は顔を近付け、手と唇で柔らかな感触を堪能する。
舌先は固く起った乳首を転がし、唇がそれを啄み、甘噛みし吸い上げる。指先は白く瑞々しい乳房
を飽くことなく捏ね回した。
「はぁ…ぁ、あぁん……」
尚隆の右手が徐々に下りて行き小衫の帯を解く。開いた身頃から忍びこんだ手の行く先、薄く茂った
丘に隠された祥瓊の扉は既に泉から湧き出た蜜でしっとりと潤っていた。
祥瓊が僅かに脚を開き、その深奥へと進められた指先は濡れた音と共に難なく開く扉に迎え入れら
れた。潜った指が猫が水を飲むような音を立て、祥瓊は恥ずかしさに顔を覆う。
「あ、いゃ……恥ずかしい…」
潤みを掬った尚隆の指先はそれを塗り広げるように後のすぼまりから茂みの縁へと往復し、その度
に祥瓊の秘めた真珠の粒を擦り上げる。
「ひぃっ…くぅ、ん……ぁ…やっ、そこ、だめぇ……」
祥瓊は溢れ出したものが伝い落ちる太腿で尚隆の手首を挟む。動きを封じられた右手は指先を折り
曲げて祥瓊の虚海へ没して行く。
「いやぁ…尚隆さま、…もう、立って…んっ、いられない……どうか…」
がくがくと震える膝。脚に力が入らない祥瓊の細い指先が尚隆の背に食い込む。尚隆の右手が
膝の裏に廻され、祥瓊はふわりと身体が浮き上がるのを感じて小さく悲鳴を上げる。
「きゃ、…」
広い牀榻に下ろされた祥瓊は脚を擦り合わせ、胸を両腕で覆いながら言う。
「今夜だけ、今夜だけで良いのです……どうか、愛してください…私を、可愛がって……」
見上げる祥瓊。その紫苑の瞳が潤んでいるのは、もう悲しみのせいだけでは無いのかも知れない。
「もう何も言うな…」
尚隆は優しくその唇を塞ぐ。
「獣の宴が始まる――」
閨に間続きの露台に立ち、ぼんやり月を眺めていた六太はそう呟くと姿を消した。
程なくして人とは思えない狂喜の声が響くだろう。いつからか、それが常となったその場所から――
「鷹隼の一瓊、か――なるほどな…」
「知っていたの…ですか?」
長かった夜の終わりを告げ始めた窓の外。その空を見ながらぽつりと呟く尚隆に、目眩く快楽の
余韻に浸り褥に包まっていた祥瓊は身を起こした。乱れた髪が情事の激しさを物語る。
「先の芳国公主、孫昭…字は祥瓊。峯王崩御の後、野に隠るるがその後供王に召抱えられるも消息
不明――宝玉を盗んだ罪で国外追放処分となる……大した経歴だ」
尚隆は乱れた紺青の髪を梳かすように撫でながら薄く笑った。
「そして景王に取り入り、愛する人を奪おうとした愚かな女…」
祥瓊は窓越しの空を見詰め自嘲する。
「これからは延の愛人、と言う肩書きも追加だ。公には出来ぬがな」
「!……尚隆さま…また御逢いして…下さるの?」
「不粋なことを訊くな…」
尚隆はその胸に優しく抱き寄せる。その刹那の空と同じ色の髪の少女を――
―了―