「秘密特訓」  作者:165さん  165-177>@二冊目


 天に届く山───北の大国、雁州国の関弓山の麓にそれはあった。
 広大な市街のはずれの小高い場所、国府の一つであるそこは、才気ある若者達の学び舎であり、住居だった。
 学問の最高峰、大学の学寮である、ここは静かになる事はない。学生達の笑い声や学生と教師達との論議の声──そういった声がひっきりなしに聞こえてくる。
 耳を傾けているだけでもいいな───そう彼は自分の部屋に戻る長い廊下を歩きながら思っていた。
 大学にもやっと慣れてきた事と、彼の姿と成績の事もあり、歩いていると嫌でも視線を集めてしまう。その中には好意的とは思えないものもあったが、彼にとってはそんな事は些細な事でしかない。
 何よりも、こうやって勉強出来る事、それが嬉しくてならなかった。
 そういえば、そろそろあの鳥が来る頃だろうか。ふと窓から空を眺め、そう思い出した。それとも忙しくて送る暇もないのだろうか。
 それは当たり前で、そうあるべきだと判っていたが、少しだけ、ほんの少しだけ、寂しいと思ってしまう自分がここにいた。
 古錆びた戸を開け部屋に戻ってみると、彼は目の前の光景に絶句した。
 一瞬夢かと思った。試験があったせいでやや寝不足気味の事もある。そう思いたかった。だが、それはすぐに現実のものだと判ってしまった。
「やぁ、楽俊! 元気そうで嬉しい!!」
 忘れるはずのない、忘れたくない彼女───陽子がそこにはいた。
 あまにも現実離れしてしまうと、それを理解する事すら出来ないらしい。
 楽俊はポカンと何も喋れずにその場に立ち尽くすしていた。
 彼女は、陽子は、慶東国の女王だ。延王と似た気質を持つ彼女は、彼と同じく改革者であった。
 長い間、不安定だった慶の新しい国王であり、今では信頼出来る官吏達も出来、国は沸いたように復興の道を辿っている。
 その長い赤い髪と同じく、胸に秘めたものは炎のように荒々しく、そして、暖かい───。
「よ、陽子! どうしてここにお前がいるんだ!?」
 なんとか意識を持ち直し、無意識に上げた声がそれだった。陽子の方はいえば、さして何も思っていないのか、嬉しそうに彼を見ているだけだ。
「難民の事で新しい事をしようと思って、延王に色々と助言を聞きに来たんだ。
延王には色々とお世話になりっぱなしだし、聞いておきたい事あって」
 確かに雁と慶は隣国であり、雁にまだいる難民は両国にとって重要な問題だ。書面で聞けばいいのにと思いつつも、延王も陽子も考えるより実行、というタイプだ。それは陽子の方が強いかもしれない。
 らしいなぁと思いつつも、そんな事は今は重要な問題ではない。
 問題なのは、どうして彼女が自分の部屋にいるか、という事だ。
「だから、どうして陽子がおいらの部屋にいるんだ」
 鍵だって、かけていたはずだというのに。
「うん。延王がせっかくだから会っていけばいいっておっしゃってくれたんだ。
それでここから入るといいって親切にも教えて下さったんだ」
 陽子はそう言って、窓を指した。
 そうそこは、時々暇つぶしなのか官吏達から逃亡中なのか、延王と延麒が時々入ってくる戸であった。
 珍しい人型であった楽俊の顔は渋い顔をした。こんな事まで陽子に教えて下さらなくてもいいというのに。
 気がつけば、陽子はすぐ傍までやってきて、まじまじと自分を見上げていた。その真っ直ぐすぎる蒼い瞳に楽俊は、一瞬、心をわし掴みにされてしまった。
「どうして今日は人型なの?」
 陽子といる時は半獣のもう一つの姿、鼠の姿でいる事が多い。出会いもそうであったように、未だに陽子の中には正丁の姿とあの鼠の姿とが合致しない。
「これは慣れだ」
「慣れ?」
「おいらどうもこの姿に慣れないみたいでさ。鳴賢達にこのままじゃ弓射と馬の弁許が取れないぞって脅されてな、それで出来る限り授業の時は人型でいるようにしてんだ」
 楽俊は未だに慣れないのか肩を落として堅苦しい首元を少しだけ広げた。未だに着飾っているようで肩が凝る気がしてならない。
 ふと陽子を見ると、今度は不可思議そうに自分を見ていた。
「鳴賢? 弓射と馬? 弁許?」
 あぁ、そういえば詳しい話は何もしていなかったんだっけ……。
 こうなると陽子は聞き魔だ、知らない知識は興味深々なのだ。もう、うやむやには出来そうに無いと悟った。
 窓の外を見ると、空が赤く染まっていた。そろそろ夕食の時間だった。

「陽子、こっちだ。こっち」
 陽子自体、あちらでは高校生だった。大学というものにはもちろん行った事がない。慶には大学はあったが、当たり前のように延には遠く及ばない。
 あるもの全てが珍しくてならないのか、陽子は楽しそうに楽俊の後を歩いていた。
「よぅ、文張! 一緒に夕飯、食べないか?」
 半獣姿の楽俊に声を掛ける者は少ない。その声に楽俊の耳が敏感に反応した。聞き覚えのある声だった。
「鳴賢じゃねぇか」
 未だに説明してもらうなかった言葉に、陽子の耳も動き、興味深々の様子で声をする方に顔を向けた。
 陽子の姿を見て、あ、と彼が小さな声を上げると楽俊の肩を抱き、ぐるりと反転させ耳元で囁いた。
「なんだ?」
「文張も隅におけないな。一言、言ってくれりゃあ協力したってのに」
 何を? と問いただす前に、鳴賢は一人勝手に納得したように、うんうんと頷いている。
「上手くやれよ、文張!」
 そういい残すと、一人足早にその場から去って行ってしまった。
「楽俊、あの人が鳴賢さん?」
 ふと振り返り、ああ、と楽俊は納得した。うかつなのは自分も同じなのかもしれない、と。
 楽俊にとっての陽子はどうも昔のままだ。女というよりも少年……といった方が似合っている彼女のままだ。
 だが、今の彼女は違う。確かに着ているものは質素であるし、中世的な少年と見られても可笑しくはないが、雰囲気は女そのものだ。少し格好にそれが
欠けているのが難点かもしれないが、傍から見れば十二分に女だった。
 ……鳴賢のやつ、一人で勝手に勘違いしたな。
 陽子以外にも問題が増えてしまったようで、楽俊はやれやれと心の中でため息をついた。

「美味しい!」
 食堂の窓際で二人は夕食を取っていた。陽子もいる事だし、外食にしてもよかったのだが、彼女が学食に興味を示して、結局ここに来てしまった。
 陽子は本当に美味しそうに学食を食べている。国王なのだから、絢爛豪華な食事をしているはずだというのに、そういう素振りを陽子は見せない。本当に
心の底から美味しいと思い食べているのだと、そんな姿に楽俊は少しだけ昔を思い出して懐かしんだ。
「楽俊はこんな美味しい食事を食べられるんだな、羨ましい」
 陽子は自分の食事は食べることよりも礼儀作法を注意される事を話し、はぁと大きくため息をついた。
 夕食を食べ終えると、また二人は楽俊の部屋に戻ってきた。そこでようやく大学についての仕組みや勉強について楽俊は話した。
「弓射は知ってる。こちらでは凄く大切なんだよね。少学の推薦では、弓射で優劣を決めるんだって聞いた」
「うん、そうだな。頭も性格も同じぐらいなら、最後は弓射で決められるんだ」
「楽俊はどう? 上手いの?」
 そう聞かれると、楽俊はいんやと頭を横にふってみせた。ヒゲはだらんと垂れ下がり、申し訳なさそうにしている。
「どうも間合いが上手く掴めなくてなぁ……感覚が鼠でいる時と同じにしちまうんだよな」
 弓を引く真似事をしてみせて、楽俊は苦笑いをしてみせた。大学を卒業する為には弓射と馬は外す事ができないというのに。
「人の姿に慣れない……か」
 ポツリ呟いて、陽子はあっ、と何か閃いた様に手を小さく叩いた。
「楽俊、人の姿になって! 私、名案が浮かんだんだ!!」
 そう急かす陽子に押される形で楽俊は頷いた。陽子には後ろを向いてもらい、備え付けの棚から洋服を取り出した。
「もう、振り返ってもいい?」
「……あぁ、いいぞ」
 低い優しい声に誘われるように陽子が振り向くと、彼女は嬉しそうにほほ笑んだ。
 その微笑を純粋に可愛いなぁなどと楽俊は思ってしまっていると、不意に陽子が抱きついてきた。
「よ、陽子!?」
「しっ……あんまり大きな声出すと、外に聞こえちゃうよ」
 楽俊は慌てて口を噤んでみたものの、心臓の音は時を重ねる毎に早くなってしまっていた。
「様は、この姿に慣れればいいんでしょ? だったらこの姿でしか出来ない事をすれば、いいんだよ」
 要領を得ない楽俊を尻目に、陽子の頬は少しだけ赤く染まった。
 楽俊の腕の裾を強く掴んでいた手が陽子によって解かれると、彼女はその赤い頬を上に向かせた。
「楽俊……忘れた?」
 どくん、と体中から血が激しく巡るような感覚に楽俊は襲われてた。忘れるはずがない、だが、忘れようとしていた想いが一瞬にして湧き上がった。
 彼女の細い腕身体に無意識に手を回してしまっている自分に気付き、慌ててそれを押しとどめる。
 こんな事をしていいはずかない、そう常識に訴える。それでも心のどこかでは、この時を待ち望んでいる自分がいる事を楽俊は知っていた。
 友情が、それ以上のものに変わってしまったのは、何時からだろうか──?
 それすらも考えられなくなっている自分がここにはいて、まるで媚薬でも飲んでしまっているのではないかというぐらい身体が熱かった。
「私はずっと忘れなかった……」
 そう告げると、陽子は背伸びをして彼の唇に自分のものを重ねた。ただ、重ねるだけの口付け──それだけでも十二分に想いは伝わった。
 楽俊は堪らず回していた腕に力を込めて陽子を抱きしめた。触れる彼女の体温に酔いしれてしまいそうだった。
 不意に互いに顔を見てしまい、照れくさそうに二人共、笑った。互いがいる事で自分が自分らしく、自然でいられる事に二人とも気付いた。
 陽子はちらりと後ろに視線を向けて、そこに寝床があり、座れそうなのに気付いた。ぐっと楽俊の肩に回した腕に力をこめて、自分の方に引き寄せた。
「……陽子?」
 寝床に腰をかけた陽子は、少しでも力を込めれば寝床に組み敷けてしまいそうだった。そうして欲しいような振る舞いに、陽子自身、気付いているのか、さっきから顔を合わせようとしない。
 そんな妙に初心な彼女に楽俊はくすりと笑うと、ゆっくりと寝床に陽子を仰向けにさせた。こうすれば嫌でも顔を合わすしかない。照れと気恥ずかしさの混じった表情は自分も同じだろう。
 ──おいらは陽子がどんな作る国を見てみたい。
 その想いはあの日から重ねる毎に楽俊の中で強くなった。王となってしまった陽子の傍で、それを見続ける為には、何処かの官吏にならなくてはならない。
 彼女の為になるのならば、手伝ってやりたいという気持ちもある。
 だが今の自分では足手まといになるだけなのだ。もっと勉強し、多くの知識を見つけて無くては、本当に彼女の役には立たない事を楽俊は知っている。
 その歯がゆさに似た感情を楽俊は一生持ち続けていようと思った。それが自分の為、ひいては陽子の為になるのだ。
 そんな風に妙に彼女に肩入れしてしまっている自分に楽俊は少しだけ戸惑いを覚えなくもない。昔の自分は想像も出来ないほど変わってしまったようにも思える。
 それでも陽子といると、そんな自分でもいいか、と思ってしまう自分もいた。

「あ……らく、しゅん……」
 首元を降りるように舌を這わすと、陽子は緊張しているのか、背中に回した手をぎゅっと握り締めた。
 鎖骨辺りまで舌を這わせると、そっと胸元のボタンを外した。外気に触れた肌に柔らかい唇が当たると、陽子の身体は少しだけ震えた。
 初めてではないにしろ、互いに経験は無いに等しい。互いに少しだけ戸惑いがあるのが、嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちにさせた。
 形の良い胸の膨らみを優しく手のひらで包み、真ん中にある突起が硬くなるまで触れられた。
 外に聞こえないように陽子は必死に声を押し殺すのだが、先端の突起にじかに触れられると、堪らず声を漏らした。
「陽子、これ、気持ちいいんだな……」
「ぁ、……んっ」
 指の腹でこね回すと陽子は回していた腕を外し、必死に指で咬んで声を殺した。
 そのいじらしい姿に、楽俊は胸から手を離すと身体をずらし、驚かせないように彼女の脚を開かせた。
「だ、だめっ……」
 恥ずかしいという様に、陽子が慌てて身体を起こそうとしたのだが、その前に、楽俊は素早く服を脱がせ下着を剥ぎ取ってしまった。そしてうっすらと恥毛に隠された秘部に顔を埋めた。
「あぅ、ん……っ!!」
 そこは既にうっすらとだが濡れており、楽俊の動きを容易にさせた。花びらをなぞるように何度も往復して焦らせると、ますます蜜は滴り落ちた。まだ包皮に隠れた肉芽を見つけ、それを唇で優しく挟んでやった。
「ら、く……しゅん……」
 必死に自我を保とうと陽子はただひたすらに彼の名を呼ぶ。その声に楽俊は抑えられなくなり、自分の前合わせを外し、既に硬くなったそれを取り出した。
 厚くなった花びらにそれを挟ませると、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「あ……」
 ひくひくと自分自身が彼を求めているのが陽子にも判った。硬い彼のものが肉芽に触れると、それだけで気持ちがいい。
「陽子、つらくねぇか?」
「……うぅん…気持ちいい……」
 ゆっくりと動かされる動作に戸惑いつつも、更に気持ちよくなりたいと陽子の身体は無意識にリズムを刻む。
 気持ち良い場所に当たるたびに陽子は小さく喘ぎ、楽俊の腕を掴んで手を強く握った。
 互いに小さく吐かれる吐息に興奮するように、楽俊は上り詰めてしまいそうだった。それでなくとも陽子が気持ち良さそうにしている表情は艶っぽくて色っぽい。そして陽子は動くリズムに慣れてくると、微妙に楽俊の動きとタイミングをずらして身体を揺すった。
「陽子、そんなに動かないでくれ……おいら」
「いいの…楽俊も気持ちよくなって欲しい」
 それが引き金だったのだろうか、楽俊はぐっと声を噛み殺した。それに反動するかのように、彼の分身は勢いよく爆ぜてしまう。
 どくどくっと白い白濁液が陽子の腹に降り注ぎ、どろりと流れ落ちた。
 腰を下ろして、はぁはぁと肩で息をする楽俊の姿に、陽子はぼんやりとした表情のまま起き上がった。
「すまねぇ…なんか布あったはずだから」
「……いい」
「え?」
 予想外の陽子の言葉に楽俊が驚いていると、彼女は恥ずかしそうに目を伏せて彼の股に顔を近付けた。
「よ、陽子!?」
「静かに……外に聞こえる」
 妙に肝が据わっている陽子に楽俊が戸惑いを覚えると、
「祥瓊から教えてもらったんだ、こうすると楽俊が喜ぶって」
 楽俊の脳裏に耳年魔の彼女の姿が浮かんだ。確かに彼女ならば知識だけは人一倍もっていそうな気がして納得した。いや、納得などしている時ではないのだが。
「だから、私もしたいんだ…いいでしょう?」
 そう言われて、駄目だなんて言えるはずがないじゃないか。それでも口にしなかったのは流石楽俊と呼ぶべきか……。
 だが、返事の無いのは良いという事と陽子は思ったらしい。
 陽子はうる覚えな記憶を必死に手繰り寄せて、そっと彼のものの先端に口をつけた。
 先ほど果てたばかりだというのに、楽俊の分身はその刺激に過敏に反応した。
先ほどとは逆に声を出してしまいそうになり、慌てて口を噤む。
 陽子の方はというと、一生懸命にその茎に舌を這わせた。裏筋をなぞり上げるようにされた時は、楽俊も堪らず爪を寝床に立ててしまった。
 徐々に硬くなるそれに陽子は安堵したように、茎に手を置き扱いた。そして同時に先端のくびれを嫌というほど舌でなぞる。
「よ、陽子っ!!」
 このままではまた果ててしまいそうになり、楽俊は強引に陽子を剥ぎ取った。 そして顔を見られるのが照れくさくて、ぎゅうと抱きしめた。
「楽俊、よくなかった……?」
 一気に湧き上がってしまった欲望を落ち着かせるように楽俊はただ陽子を抱きしめていた。
 どうも自分はこっちの知識には疎くて、陽子より自分が先に気持ちよくなってしまうのだ。それが少し情けなくて、彼女に申し訳ない。自分は彼女より年上だというのに。
 不安げに自分を見る陽子に楽俊は困ったように頭を振った。
「気持ちよくなるなら、一緒になりてぇんだ。おいら」
 何を意味しているのか陽子にも理解出来たのか、彼女は小さく頷いた。
 落ち着いた所を見計らって、楽俊はそのままの体勢で陽子を少しだけ膝立ちにさせた。そして秘唇を分身でまさぐり、ゆっくりと沈めた。
「…ぁ、あぁ……」
 大きく息を吐くよう喘ぎに、陽子は楽俊を受け入れた。ふるふると背筋が震え、大きく後ろに反り返る。無意識に彼の胸元に置いた手が強く握られた。
 まるで身体を射抜かれるような感覚に、陽子は堪らず楽俊に抱きついた。
「やっぱり、つらいのか?」
 耳元で優しく囁かれるだけでも、どうにかなってしまいそうだった。まるで全身が楽俊に抱かれているな錯覚さえ覚えてしまう。
「……平気」
 楽俊はゆっくりと陽子の身体を抱き上げ、そして沈めてしまう。時々、楽俊自身も腰を突き上げると、陽子は泣いてしまうほどの快楽に襲われてしまった。
 奥を何度もまさぐられるかと思えば、ずるり引き抜き、入り口付近で優しく擦られる……まるで時が止まってしまったかのように、陽子はそれを感じ続けた。
 気付けば寝床に寝かされ、陽子の長い髪は放射線状に広がっていた。
 楽俊の与える快楽に陽子は酔っているように身を預けていた。
「あ…そこは、だめっ……」
 その瞬間、陽子は今までに無いほどの何かを味わった。そこに当たる時だけ普通以上の何かを感じてしまうのだ。
 何が駄目なのか、陽子自身も判らない。ただ、そう口にしなければ、自分が自分でなくなってしまいそうだった。
 楽俊もそれが判ったのか、そこを重点的に擦り上げる。リズムもどんどん短くなり、ぷっくりと膨れた肉芽にも当たるようになると、陽子は堪らず腰を浮かせてしまった。
「楽俊、いっ…ちゃうから、だめ……」
「……陽子、今度は一緒に気持ちよくなるって言ったろ?」
 ん、と彼女が声を押し殺し答えたが、言った楽俊もまた限界が近かった。
 そして陽子が我慢できずに断続的に声を上げると、彼女の中は今まで以上にきつく楽俊を締め付けた。
 まるで扱きたてるような締め付けに楽俊が意識を手放すのと同時に、陽子もまた彼と同じく恍惚の世界に誘われていた───。


「どうだった? 人の姿には慣れた?」
 ぼんやりとしたまどろみの世界に、陽子の声がして、はたと楽俊は我に返った。陽子は元気だなぁなんて年寄りじみた事を考えてしまったりもした。
「こうやって練習すれば、きっと人の姿にも慣れるはずだよ!」
 楽俊は無意識に嫌な感じがした。それを取り払おうとしても取り払えず、それは一層、楽俊にまとわり付く。
 ──陽子の言っている事は、行為をしたいが為の口実ではなくて、ただ純粋にそう思っているからではないのだろうか?
「私もこれなら協力できるし、一緒に頑張ろうね!」
 もう何も考えたくない気さえしてきた。楽俊は頭を抱えたいのを我慢して、嬉しそうに自分を見ている陽子に向き直った。
 その日、楽俊の部屋からは真夜中になるまでお説教の声がが聞こえていたらしい。



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