おんなのこの事情2
3769さん
「り、利広……」
珠晶の顔から表情が消えた。
しどけなくはだけられた夜着もそのままに、凍りついたようにその男を見詰めていた。
衝撃のあまり目が逸らせなかった。
男は驚くほどの早業で窓から臥室に降り立つと、珠晶の横たわる牀榻へ歩み寄った。
風除けの布や外套、上着を脱ぎ捨て、意外に逞しい上半身を露わにすると、珠晶の右手を掴んだ。
――先ほどまで、自分を想って慰めていたその手を。
「なっ……!」
珠晶は我に返ると身を捩って逃げ出そうとした。
恥ずかしさのあまり、ただ闇雲にもがくだけだったが。
「駄目だよ」
利広が珠晶を抱き寄せた。
体格差から言っても珠晶に勝ち目はなかった。
「逃がさない」
そう言うと、利広は珠晶の右手の指に口付けた。
「今夜は、離せないかもね」
ぺろり。
珠晶の愛液にまみれた指を一本一本丁寧に舐め上げる。
「あ……」
ぴくりと珠晶の小さな躰が震えた。
今だに小さな官能の炎が灯ったままの躰には、十分すぎるほどの刺激。
もう逃げ出すこともできずに、ただされるがままだ。
「可愛いねぇ……」
利広はそう言ってにっこり笑う。
その指から愛液を舐め取ると、珠晶の躰を褥に横たえた。
「こんなに珠晶に想われているなんて、思わなかったよ」
「……あれは、ただ……っ!」
珠晶の顔がさっ、と朱に染まった。
涙目で利広を睨みつける。
「ただ?」
利広はにこやかに先を促す。
可笑しくてたまらない、という風情が珠晶のカンに触ったが、瞳を逸らすとしぶしぶ消え入りそうな声で答えた。
「あなたが……、居て欲しいときに居ないから……」
くすくすと利広は声を立てて笑うと、その細い首筋に顔を埋めた。
「寂しがらせて悪かったね」
「あたしは寂しくなんて……!」
「嘘は良くないな」
利広の指が、大きく開いた胸を滑り心臓の上で止まる。人差し指で、とんとんと軽く叩く。
「ここも……」
悪戯めいた顔を向けて、利広の指が珠晶の脚の間に移動した。
くちゅ、と淫らな音を立てて秘所を嬲った。
「ここも、寂しくてたまらなかったくせに」
珠晶は唇を噛み締めて、そっぽを向いた。
その反応に利広はにんまりと笑い、珠晶を自分の方に向かせる。
強張った唇を解くように何度も触れるだけの口付けを繰り返した。
「あ……」
小さな吐息が漏れたのを見逃さずに、舌を挿し入れる。
ねっとりと口の中をかき回すように舌を絡め、きつく吸い上げた。
と同時に既に引っかかっているだけになっている夜着を、その華奢な躰から引き剥がす。
しっとりと汗ばんでいる肌は緋色に染まり、利広の指や紗で仕立てた夜着がさらさらと触れるたびに珠晶に快感を伝えている。
口付けを受けながら、珠晶の躰が小刻みに震えた。
「可愛いね、珠晶」
利広は口振りだけは優しく、だが荒々しく珠晶の膝を大きく開かせる。
押さえていた衝動がはじけるように、先ほどから潤いきったその場所にむしゃぶりついた
「やめてよ!あたしは……」
「そんな気分じゃないとでも言うつもりかい? あんな姿を見せ付けておいて?」
利広の頭を退けようとした珠晶の手を利広がきつく握る。
利広の言葉に、珠晶は反論できない。
動きを止めて、ただそっぽを向いて黙っている。
「泣いたってわめいたって、止めてあげられないよ。今夜はね」
冷ややかに言い捨てて、利広はがっしりと珠晶の腰を押さえつけ、しとどに濡れた花びらを舐め上げる。
「ひゃっ……ん……」
珠晶の腰が刺激から逃れようと蠢く。
それを逞しい腕で遮り、利広は溢れ出す蜜を啜り上げる。
「そんなに濡らして……。十分過ぎるほどだね」
そう言う利広の声にも艶が混じった。
眩しそうな目で珠晶を見ながら、ぐいっと手の甲で唇を拭う。
「火を点けたのはきみだ。静めてもらうよ?」
そう言って素早く下帯を解き、もう既に天を向いてそそり立つものを取り出した。
「待って……っ!」
「待たない。そんなことが出来るわけ、ないじゃないか……」
言葉尻は溜息に紛れて消えた。
普段、利広はこんな風に性急に珠晶を抱くことはない。ゆっくり時間をかけて慣らして焦らして、それから入ってくるのだ。
「もう限界だよ、珠晶……」
利広が珠晶の脚を抱え上げ、強引になかに押し入る。
十分過ぎるほど濡れてはいたが、一度頂点に達したそこは、何時にも増して狭い。
珠晶を苦痛を味あわせたくはないが、そんな余裕は今の利広にはなかった。
「くっ……」
珠晶が眉根を寄せた。
「ごめん。力を抜いて、くれないか……?」
息を詰めて、ゆっくりと。
利広が奥へ奥へと入ってくる。
「あ、あ、あぁ……」
躰の奥に物凄い圧迫感を感じて、珠晶は小刻みに息を吐く。
躰が更に熱を帯びた。
この感覚が快感に変わることを、珠晶はその身をもって知っていたからだ。
「動くよ?」
利広はひとつ大きな溜息を吐いて、言った。
返答を待つことなく、大きく円を描くように腰を回した。
くちゃくちゃと、淫らな水音が二人の耳に聞こえてきた。
「……利広……っ……」
珠晶が嫌々をするように首を振った。
きつく瞑られた目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「うん?」
利広が目を細めて珠晶を見た。
衾褥をきつく握っている手を取り、やさしく握ってやる。
愛しさが溢れてきて、止まらない。
腰の動きを緩やかにしながら、躰を重ね合わせた。
「珠晶、好きだよ」
「……そんなこと言うなんて、利広じゃないみたいだわ」
珠晶が驚いたように言って、小首を傾げた。
利広が動きを止める。
「そうかな」
「そうよ。あなたは何時だって、何を考えているのか分からないもの」
利広が苦笑した。
緩やかに律動を再開する。
「酷いなぁ……。何時だってきみが好きだって、思ってるのに」
「また、そうやって、誤魔化すんだわ……」
真っ直ぐに見詰めた珠晶に、利広は身体を起こすと曖昧な笑みを浮かべながら抱き寄せた。
珠晶を胡座をかいた自分に跨がせるように座らせ、抱き合ったまま下から突き上げる。
「もう黙って」
小さな珠晶の背中に回した手が、弧を描くように白い素肌を撫でていく。
「集中してごらん。もっと気持ち良くしてあげるから……」
「ん……」
珠晶が利広の首に手を回して抱きつく。
「もっと、自分でするよりもね」
「……っ!」
珠晶の耳元で囁いた利広の言葉に、また珠晶は頬を染めた。
「嫌な人……っ!」
「言ったろ?もう黙って……」
空いている手で、胸の微かな膨らみを包み込んだ。
存在を主張するように屹立した頂きを弄りながら、耳朶を甘噛みする。
「や……あん……っ」
感じるところを次々と攻められ、珠晶は言葉どおりの快感の海に沈んでいく。
「利広ぉ……」
珠晶の喘ぎ声は、未だ幼い子供の声に甘い艶を滲ませていて、危うい均衡を保ったまま利広の胸を揺さぶっている。
滅茶苦茶に犯したいような、優しく愛したいような。
――今日くらいは激しく愛したいものだけど……。
必死にしがみついている珠晶を見ると、それも出来かねた。
壊さないように、細心の注意を払って突き上げる。
「あ、あ、あぁ……」
珠晶のか細い喘ぎ声が耳を打ち、更に利広を高めていく。
愛しさをぶつけるように唇を奪うと、今度は珠晶の方から舌を絡めてきた。
――その必死な様が愛らしい。
そう言ったら、この少女は嫌がるだろうか?
可愛くて、愛しくて。
ただ、それを大ぴらにするほど若くないというだけ。
「あん……っ、……はぁっ……」
「気持ち良いかい?」
利広が上擦った声で尋ねると、こくこくと珠晶が頷く。
くす、と利広が笑う。
「じゃあ、今日は一緒にイってあげるよ……」
珠晶を褥に横たえて、しっかりと腰を引き寄せた。
赤く膨れた花芽を愛撫しながら、腰を打ちつけた。
「や、あ、あん、利広……っ!」
珠晶の躰がぴん、と伸ばされる。
「愛してるよ……」
溜息混じりに利広が呟くと同時に、二人は絶頂の坂を駆け上がっていった。
〜おまけ〜
「利広……」
「ん?」
「早く離して。重いわよ……」
「今夜は離せない、って言ったと思うけど?」
「え……? 利広って、一晩に何回も出来る人だったの?」
「……そんなにわたしは淡白に見えたかな?」
「だって、何時もは一晩に一回だけじゃない……」
「それは前戯に時間を掛けているから時間切れになるだけで……」
「……ふーん」
「もしかして珠晶、もの足りなかった?」
「…………」
「なんだ。それでイケナイ一人遊びを覚えたわけか」
「……違うわ!」
「嘘は良くないよ? 今夜はじっくり愛してあげるから」
「やめてよ! 明日の政務に差し支えるわ!」
「政務は供台輔に任せておけばいいだろう? たまには頼ってあげるのも優しさだよ?」
「やめてよ!!」
「駄目」