おんなのこの事情
作者768さん
「全く、どう責任取ってくれるのよ!」
珠晶はイライラと吐き捨てて、褥の上をゴロゴロと転がった。
怒りで発散しようとしても、躰の内に篭った熱は消えそうに無い。
――寝れないじゃない……。「あれ」をしないと……。
悔しそうに唇を噛む。
だが、そんなことでこの悶々とした躰は収まるわけはなかった。
珠晶は何かに引き寄せられるように自分の胸に手を遣った。
紗で仕立てられた薄い夜着の上から、かすかに膨らんだ胸を柔らかく揉む。あの男がいつもそうするように。
じわじわと「あの時」と同じような感覚がしてくる。
さらりとした夜着が敏感になり始めた肌に触れて、くすぐったいような焦れた感覚がしていた。
んっ、と鼻に掛かった声を上げて、珠晶は自らのもたらす快感に耽溺していった。
――あの男が悪いのよ……。あたしをこんなふうにしちゃったから……。
もどかしくなって、珠晶は一気に夜着をはだけさせると、直に愛撫を始めた。すでに固く張り詰めた胸の頂きを摘むと、そのたびに腰の奥が疼く。
右の手でそれを繰り返しながら、左手は露わになった肌の上を滑った。
ぞくぞくと肌が粟立ち、さらに熱を帯びた。
『綺麗だよ、珠晶』
何時だったか、あの男がこんな風に愛撫している時に囁いた言葉が珠晶の耳の奥に響いた。
「あんっ……」
これはあの男の手ではないけれど。でも確かに同じ快感だった。
珠晶の手は、あの男がそうするのと同じように動いていた。
時折形が変わるほどきつく揉みしだき、または肌に触れるか触れないかのところで指を這わせた。
「あぁ……」
もっと欲しい。
躰はそう言っている。
――あたしが欲しいときに、側にいないのが悪いのよ!
朦朧としてきた意識の底で、珠晶は言い訳めいたことを思っていた。そんな言い訳がないと自慰をすることを正当化できないのだ。
珠晶は身体を起こすと纏っているものをすべて脱ぎ捨てた。
露わになった白い肌を一撫でして、衝立に凭れると薄い茂みの奥に手を伸ばした。
くちゅ。
淫靡な音を立てて、そこは珠晶の小さな指を迎え入れた。
「はぁん……」
最初は躊躇いがちに動かす指。
『もうこんなに濡れてる』
からかうような口調にはいつも悔しくなる。
だけどもっと濡れてくるような気がするのはどうしてだろう?
くちゃくちゃと、溢れた蜜が珠晶の指に絡みつく。
あの男ほど、大きくもなければ技巧もない。
けれど、目を閉じれば耳元で囁く声がする。
『気持ち良いかい、珠晶?』
あの男の指だと思えば、ますます快感は高まって。
その指はさらに激しく秘所を掻き回す。
「……あぁん……」
『……良い声だね』
誰に聞かせるわけでもない甘い吐息が漏れた。
何時の間にこんな声が出るようになったんだろう。
――それもこれもあの男のせいよ。
何もかも、初めから。
絡められた舌の心地良さも。
愛撫する手の優しさも。
痛みの奥にある快感も。
躰が溶けるような絶頂も。
そのすべてを珠晶の躰に刻み込んだあの男のせいだった。
「あっ、あ、あ、あん……」
空いた方の指で、固く立ち上がった肉芽を撫でる。溢れた蜜を絡めてねっとりと。
腰の方までびりびりとした刺激が立ち上ってくる。
「あっ、はっ……もっと、もっとぉ……」
『可愛らしいおねだりには敵わないなぁ……』
珠晶は手を止めるとうつ伏せになり、愛らしいお尻をぐいっと天井にむかって突き上げた。
ぐっと深く指を差し入れる。
こんな指じゃ足りない。
でも、止まらない。
指を鉤状に曲げ、狂おしいまでの快感をもたらす場所を刺激した。
「ああっ……!」
知らず知らずのうちに腰が揺れる。
溢れた蜜は、つつっと太腿を伝わって滴り落ちた。
『可愛いね、君は……』
熱っぽく囁く男の声が心地良い。
飄々としたあの男をそうさせているのが自分なのだと思うと、誇らしくも嬉しい気持ちだった。
さらに躰が熱くなる。
腰の辺りに灯った火が全身に回って、そして躰全体が弾ける瞬間がやってくる。
「あ、あ、ああああぁん!」
『珠晶、イっても良いよ?』
こんな時まで、あの男の言葉は意地悪で。余裕げで。
にっこり笑ってそう言うのだ。
――一緒にイきたいのに。ああ、でももう我慢できない!
「ああ、ダメ!イっちゃう……!」
乳首が痛いほど張り詰めて、細い指が締め付けられた。
身体全体を柔らかい褥に投げ出す。
「ああっ、利広ぉ……」
珠晶は愛しい男の名を呟いて果てた。
荒い息を吐いて、気だるい余韻に浸る。
耳の奥には、利広の乱れた息遣いが聴こえてくるような気がしていた。
頭がぼんやりとして、目の前にちらちらと星が散っているのが見えた。
本物の星は見えるかしらと、珠晶は大きく開いた天窓に目を遣る。
「!」
……そこには、先ほどまで脳裏で珠晶を犯していた男が呆然とこちらを見ていたのだった……。
<了>