作者:910さん  >910-914



霜楓宮の奥深く。正寝の臥室の外、一騎の騎獣が降り立つ。
月のない暗い夜、騎獣は滑るように闇に同化してその判別さえ難しい。
騎獣の宮中への出入りは御法度だが、ここ霜楓宮の主人は騎獣がお好みだ。
すう虞の顔を見れば、彼女の機嫌を取ることは容易いだろう。
いや、騎獣より何より、彼女は自分の来訪を厭うたりはしないだろうことを、利広は知っている。
たったひとつ灯りの点った房室の前、利広は騎獣を降りて玻璃を叩く。
「珠晶」
小さな声で呼び掛けると、程なくして玻璃越しに小さな影が浮かんだ。
細い指で開かれた窓に、利広は滑るように体を潜らせる。
「吃驚した。女性の房室に来るには随分なお時間ね」
鈴を転がすような、幼い響きの声。吃驚した等と言いながら、 その実驚いているようには見えない酷く落ち着いた物腰が、その外見にそぐわない。
声音は呆れているかのようだったが、 実際には彼女自分の来訪をが嫌がってなどいないことを、利広は理解している。
かつ、彼女が利広を頼りにしていることも、利広は当然のように知っていた。
珠晶登極から九十年ばかり。既に奏の後ろ盾など彼女は必要としてはいなかったが、 利広から得る各国の情勢、騎獣と旅路の小話は、彼女の興味を存分に惹くらしく、 珠晶は利広との深夜の逢い引きを拒むことは決してない。
珠晶はひとつため息をついてから、にっこりと微笑む。
「今日はどんなお話を聞かせてくれるのかしら?すぐにお茶を用意させるわ」
「いいよ、気を遣わないで。それより」
珠晶の朱唇を自分の唇で塞ぎながら、利広は立ったまま珠晶の襦裙の帯を解き始めた。
もう百年近くも、彼女の声は子供のまま変らない。
だからこそ、その響きは利広の中の罪の意識を増幅させた。
昇山の旅を共に送った所為か、それとも櫨家の後ろ盾を以てして、この少女の登極を成功させたという自負からなのだろうか。
その成長の停まってしまった、少女のままの肉体を抱えたひとりの女性に対して、 利広には愛しさと共に、奇妙な罪悪感がある。
そしてその疼くような痛みこそが彼女への未練となって、自身の何かを掻立てていた。
恭に立ち寄ると、必ず霜楓宮を訪ねずにはいられない。
彼女の、その幼いながらも妖艶な容貌を支配する瞬間に感じる疼き。
それこそが、この世に半ば飽いている自分への刺激だ。
唇を解放し、耳元で囁く。
「静かに。大人しくしてるんだ」
そんなことを言わなくても、初めから珠晶は抵抗しない。
寧ろ脱がされるのを当然だとでも言うように、 堂々とその細いしなやかな腕を利広の背に回してきた。
自分の帯もまた珠晶によって解かれ、ゆるゆると袍が肩から落ち始める。
北国に住まう少女の真っ白な胸が、利広の視界を充たした。
「あ」
甘い吐息と共に揺れる少女の撫子色の乳首をついばみながら、利広は少女の細い喘ぎ声を聞く。
その死が訪れるまで永久に変ることのない、甘い芳香を放つ幼い躯。
いつかこの少女も堕ちるのだろうか。堕ちるなら、どのようにして堕ちていくのだろう。
肉欲に溺れ、自分以外の人間にこの肉体を与えるのだろうか。
そんなことを考えながら、利広は悩ましげな表情の少女の、 薄い毛の少しだけ生えた恥丘に手を滑らせた。
こうして少女が女性として目覚める度、この少女が斃れる姿を観たいと、利広はいつも思う。
「灯り、消して」
途切れ途切れに要求する珠晶の声に、利広は手近な灯りをひとつふたつだけ吹き消す。
「もう見えないよ」
そう言いながら指先は珠晶の秘所を探り当て、その割れ目に添って人指し指と中指を這わせた。
珠晶の膝から一気に力が抜け、全身を利広に預けてくる。
そんな珠晶の背を片手で抱き上げ、もう片方の手で蜜壷に指を抜き差しする。既に熱く濡れた内壁。
出入口のすぐ傍の上壁に触れると、珠晶の悩ましげな声は一層高まった。
少女の芳りに混じる、雌の匂い。
「ああ、イヤ。やめて……あっ」
「本当に止めてほしいなんて思ってない癖に」
利広は指を抜いたまま、珠晶の瞳を見つめた。
その瞳は潤んでいるのにも関わらず、それでも勝ち気な視線が利広を捉えている。
「……意地悪ね。いつも」
明らかに劣勢な立場にあっても、まるで彼女の方が優位に立っているように感じてしまう、 その大人びた物言い。
仰け反った背中。
こちらを見据える為に、仰向いた頸。
自分のものが、屹立してゆくのを感じる。
柔らかな耳朶を、甘噛みする。
少しずつ唇の位置を下げて。頬に、頸筋に、接吻の跡を残して。
そうしながら、もう片方の手は再び蜜壷への挿入を再開していた。
「珠晶は、悪い子だね」
「百歳のお婆さんに言う言葉じゃないわ」
含み笑いと共に返って来た言葉に、利広は苦笑する。
「嫌な女だ……っ!」
言葉が途切れたのは、珠晶の馬手が利広のものを握ったからだ。
「そう……私は、成人君子じゃ、ないの。いつも、そう、言ってるわ」
言いながら亀頭を小さな掌で包み込み、震わすように揺する。
「お願いだから、焦らさないで」
流麗な眉が、更に歪む。
「早く、挿れて」
珠晶は更に陰茎を弓手で握って、指の腹で摩擦を与えてくる。
「堪えられないのは、こちらの方みたいだ」
利広は薄く微笑って、躯を珠晶に密着させる。
熱く湿った皮膚の感触が、利口の背筋をぞくりと震わせた。


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