四月
作者519さん
四月である。おまけにもう長いこと顔も見ていない。
―――我慢できない。
廉麟は王の正寝へ続く道を歩いていた。主は長い間農場視察のために不在だったのだ。
「失礼いたします」
正寝の扉を開けると、そこには既に休む準備をして薄着に着替えた主が座っていた。
「ただいま」
人の良さそうな笑みを浮かべて主−廉王世卓は廉麟を振り返った。手には紅嘉祥の実を握っている。
「久しぶりだね、庭の手入れを任してしまったけど、大丈夫だった?」
「えぇ、つつがなく」
紅嘉祥の実を受け取って、廉麟はピッタリと隣に座る。
濃い王気、強い安堵感。久しぶりの感覚に嬉しさがこみ上げる
「そう、良かった。台輔も忙しいから、もしかしたら頼んではいけなかったんじゃないかと心配してたんだよ」
――あぁ、我慢が…
そう言うと世卓は紅嘉祥の実に噛付いた。果汁が勢い良く飛び出る
「で、こんな夜中にどうしたんだい?」
「あ…あの…」
紅嘉祥の実を弄びながら廉麟はなかなか顔を上げようとしない
――言い出せない…こんな事…
「大事な用?明日では駄目なのかな?」
垂れた果汁を舐め上げながら、世卓は隣に座って俯く廉麟の顔を覗き込んだ
―あ…
主の舌を見て、我慢の糸がプツリと切れた
「あら、主上ったら。そんなにお顔をお汚しになって…」
―もう…
「困った方ね…」
ゆっくりと寄り添って、世卓の口周りを舐めあげる
「んんっ…たっ…台輔?」
自国の麒麟の意外な行動に、世卓は驚いて身を引いた。しかし体が離れると、廉麟は寂しげに瞳を泳がせて、今度は世卓の指に口をつける。
「乾いてもベタベタになってしまうんですよ?」
クチュ クチュと音をたてて一本一本を丁寧に吸い上げる。
――どうなってるんだ?
自国の麒麟は大人しい。控えめで、母性豊かな麟だったはずだ。
なのにこの行動はどうしたことだ。 まるで、誘っているとしか思えない。
必死になって指を舐め上げる舌は熱く、時々向けられる瞳は潤んでいるようにも見える。さっき口元に添えられた手のひらはいつもと違って熱っぽくはなかったか?
―まさか、まさかこの廉麟が?否、そんなことはありえない
「ちょっ…ちょっと待ってよ。拭けば大丈夫だからっ」
勢い良く手を引いて、布巾で指を拭きながら世卓は心を落ち着ける。
「あの、どうしたの?そうだ用事は?用事は何だったんだい?」
自分のしたことに気がついて、廉麟は頬を桜色に染めた。
居住まいを正して主に向き直る。
「その…四月ですし、主上も長い間ご不在でしたので…」
「うん。で?」
で、なんなんだ?
「ですから…四月ですので…色々と……で、」
「四月?」
世卓は考えをめぐらせる。四月は新しい紅嘉祥の植え替えの時期だ。不在の間に済ませるように頼んであるはず。
「で?」
「その、ですので今日だけお体をお貸し願えないかと…」
真っ赤になって廉麟は下を向いた。
――なんだ、そうだったのか。
長い間庭園の世話を台輔に任せていた。確かに植え替え作業は台輔一人では難しかったろう。王が帰るまでに終えられなかったのか。
「なんだ、分かった。でも今からかい?」
パっ と廉麟が嬉しそうな顔をあげた
「はい、今から、直ぐにでございます」
「んーまぁ確かに早い方が良いかな。えーと、何から始めようか、俺は何をすればいい?」
「ありがとうございます、主上は何もなさらずとも…私が全て行いますので」
――ん? それでは意味が無いのでは… っっ!!
質問をしようとして、甘い香りがした。
唇に熱い口付け、こじ開けられた口内には何か別の生き物が存在している。
しっかり閉じていたはずの寝着は前を緩められ、胸板に人肌の温かさを感じた。
「どうぞ、お力を抜いてください…」
ゆるゆると優美な手が弧を描くように世卓の体を愛撫する
「台…補?ぅうあっ…」
いつもは存在も気にしない場所をちろちろと舐め上げられ、世卓の体はビクリと震え上がった。 反応を楽しむようにあちこちに舌を這わせ、所々に痕をつけながら金色の頭は下腹部まで移動する。
「なっ!!…それは…駄目…うぅっ」
金色の鬣の間から見える白いうなじ、さらさらと音をたてそうな金髪が太ももにくすぐったい。
そそり立ちはじめた敏感な場所を咥えこまれて、世卓は声を荒げた。懸命に咥えられ、愛撫される。入りきれない所は手で触れられた。 甘い香りに酔わされて半ば朦朧としていた世卓は、僅かながらに身を捩って抵抗を見せた
「お願いでございますから…」
廉麟は完全にそそり立ったのを確認し世卓を口から開放した。
「どうぞそのままで…」
自らの襦裙を緩めて、世卓の中心に自分をうずめようと腰を浮かせて跨った。
軽くキスをして首に手を回す。その瞬間に廉麟の細腰は世卓にがっしりと掴まれていることに気がついた。
「ちょっ…ちょっと待ってよ!」
「…主上?」
荒い息を整えながら、世卓は廉麟をひざ上に座らせる
「あの…その、俺はとても嬉しいんだけど…なんか納得がいかなくて。その…紅嘉祥はどうなったの?」
「え?」
「だから四月って…」
「えぇ、四月でございますよ」
会話を続けながらも廉麟の指は首筋をゆっくりと撫で回している
「ですからこうして主上にお願いを申し上げているんです…」
植え替えの時期ではないのか?
「分からないよ、そもそも四月って何?」
ピク、と反応して廉麟は下を向いてしまう。
「なんなんだい?」
桜色に上気した頬に手をあてて顔を上げさせる。視線が絡み合い、観念したように廉麟は口を開けた
「ですからっ四月は…発情期でございまして…」
「え?麒麟に!?」
「なのに主上はずっとお帰りにならないし…」
告白する瞳は潤んでいる。自分が不在の間、この麒麟はずっと自分の帰りを待って我慢していたというのか…
「他に頼める人はいなかったのかい?」
愚問だ。自分でもわかっていたが、何故か聞かずにいられない
「俺は今月中に帰ってくるとは限らなかったよ?」
反応が見たくて、意味のない質問を繰り返す。
「それでも台補は我慢して…」
紫色の瞳にまっすぐに見つめられて口を閉ざした。
――まずかったかな
哀しげに歪んだ顔。眉を寄せて、ひざ上の廉麟は今にも泣き出しそうな顔をしている
「…ごめん」
「…」
「ごめん。嬉しくて、調子に乗ってしまった…本当にごめん」
しょげかえる世卓を見やって、廉麟はクスリと微笑んだ。
「二度とそんなこと、おっしゃらないで下さいね」
顔を上げ、視線をあわせる。包み込むような、優しい微笑み
「麒麟は、麒麟は王のものなんですもの…」
言葉に、世卓の中に火が灯る
「代わりなんて…んっ」
唇をふさいで、腰紐を解く。廉麟の襦裙を一気に剥ぎ取った。
華奢な体に大きな胸。光るように白い肌に赤い痕をつけたくて、一気に抱き寄せて組み伏せる。
「主上っ…あうっ」
言葉が発せないほど激しく舌を絡ませた。廉麟とは対照的に、ごつごつと節くれだった指で形の良い胸を揉みしだく。硬くなった頭頂部を甘噛みすると、廉麟の口から甘い吐息が漏れ始めた
「ん…はぅっんっ…」
優しく、激しく、愛撫を繰り返すたびに自分の寝着が大きく乱れる
「かわいい」
脚を割り、先ほど嬲られた指を押し入れる。濡れた音は感じている証拠だ。
「ひっんっ…あぅ」
―クチュ チュ
「うちの台補は本当にかわいい」
音に感じて、更に音が大きくなる。体を離して上から見下ろせば、先ほど自分がつけた痕と唇はほぼ同じ色に染まっている。
更に口付けを降らして、指の動きを早めた
「あっ…く…んっ」
感じる場所を探して、指で大きく円を描く
ビクっと廉麟の体が震えた。刺激から逃げようとして引く腰を、太い腕で捕まえて攻め立てる
「この声が聞けるのは、俺だけ?」
淫らな水音が寝室に響き渡る
「勿論…で…んんっ」
全てを聞き終える前に指の数を増やす。肩に熱い吐息を感じた
「こんな台補が見れるのは、俺だけ…?」
吐息が荒くなるばかりで廉麟からの返答はない
「答えて…」
指の動きを早め、まっすぐに顔を覗き込む
「ひぁっ…主上っ、これ以上は…もう…もう…」
よがり声に煽られる。
下から見上げて懇願する廉麟に優しくキスをして世卓は指を引き抜いた。心なしか廉麟の体が弛緩する。
「欲しい?」
なみだ目の廉麟を膝に戻し、世卓は己のそれを廉麟に握らせた
「下さるのですか?」
細い指で根本からさすり上げ、大事そうに手のひらに包み込む
世卓は微笑みながら答えた。
「台補の好きにして良いよ。…おいで…」
廉麟は手を離して腰を上げ、世卓に体を預けてゆっくりと体重をかけた
「ふっ…くぅぅ…」
「ひぅっ」
ずっ と耳奥で音がして、体中に快感の波が押し寄せる
「あぁう…動きますよ…」
「っ…うん」
結合部から響く卑猥な水音に羞恥を感じながら、それでも廉麟はゆっくり腰を動かした。
中は熱く世卓に纏わりつき、時折大きく締め上げる。
そろそろ終わりが近い。 そう感じた時、廉麟がぴたりと動きを止めた
「台補?…う、うはぁっ!!」
内部の、一番締まる部分。そこに世卓のくびれを当て一気に締め上げたのだ
「だっ…くぅ…」
「良いお声です。主上も、とってもかわいい…」
締め付けて、唇を吸う。指先で先端をつまんでひねりあげる
「はぅっ…ううっ!たっ台補っ台補…」
男に喘ぎ声を上げさせて、廉麟はふっくり笑った。
「私の、私だけの王…」なんてかわいいの…
このまま終わらそうか、でももう少しこの主の顔を見ていたい
逡巡したその瞬間、視界がガクと下にずれた。少し遅れて、大きな刺激の波がやってくる
「あうっ…ひっ…!!」
膝裏に手を入れて世卓が廉麟の脚を大きく左右に割った。均衡を失い、廉麟は一気に下から突き上げられた
「誰に…教わったんだい…あんな…こと」
揺さぶりをかけながら問いただす
「ぁぁっ、んんぁ……っつ……んっ やぁっっ!」
足首を引っ張り、更に激しく突きあげた
「嫌、じゃないんだろ?さあ…次はどうして欲しいの?」
「あ……ふっ、ぁっ、っ、あっ、んぁっ」
耳元で喘がれ続け、世卓も終わりが近い
「このまま…このまま、もう少しお力を…」
「このまま…?こう?」
「あああっ激しっ……!!!」
金色の鬣が舞う。軽く痙攣を起こした後、体はぐったりと弛緩した。
意識はもう、手放してある。
「落ち着いた?」
互いに襦裙を着せあいながら世卓は廉麟の顔を確かめた。
「えぇ、ありがとうございました」
まだ頬は上気しているものの、瞳の潤みは取れている。
「でも驚いたな。」
「何がでございますか?」
腰紐を整えながら廉麟が答える。
「台補にあんな激しい一面があったなんてさ」
おどける王に、廉麟は頬を膨らませた
「もぉ、ですから、四月は…」
言いかけた口をキスでふさぐ
「来年も、こうしていられると良いね」
見つめあい、しばしの間。
――大丈夫。こんなに強い王気だもの
「はい」
にっこりと微笑んで答える。
もう一度、軽く唇を重ねて、二人は朝儀の準備に向かった
<了>