予王×景麒 失道直前
作者574さん

「主上・・・」
半開きになったままの主の堂室の扉をためらうように開けて、景麒はゆっくりと中へと歩を進める。
衣装や装身具が雑多に床に散らばっている。
しかし、もはや片付ける女官は一人とて残ってはいない。
「主上・・・」
今一度景麒は主に呼びかける。
色とりどりの衣のなかに埋もれるように、うずくまっていた彼女がゆっくりと振り返った。
肉は削げ落ち、目ばかりが爛爛と異様な光をたたえた幽鬼のような女こそが、変わり果てた景麒の主、景王舒覚であった。
あのなよなよとした、しかしやさしい微笑みがはっとするほど美しかった彼女の面影はもはや皆無である。
景麒は思わず息を呑んだが、気を取り直して主の元に歩み寄る。
「主上、このような民を闇雲に苦しめるような行いはもうおやめください」
「何故?まだ女はこの国に残っているではないか」
「主上、もはや宮城に女は一人とて残ってはおりません。それだけで十分ではありませんか」
その言葉に、舒覚は眦を吊り上げた。
「女は要らぬ!勅命は変えぬ!」
瘧のように身体を震わせながら、舒覚は言い放つ。
そしてじりじりと景麒の足元に這いよってきた。
つい後じさりをしようとする景麒の足首を、すかさず舒覚はつかむ。
その枯れ枝のようにしなびた女の手からは想像もつかぬような力だった。
痛みに景麒は眉をひそめる。
「妾以外の女に、そなたがいつ眼を移すかとおもうと夜も眠れぬ。
・・・そなたは麒麟。言い寄る女をむげには出来ないであろう?」
そう言いながら、舒覚の手は景麒の脚にすがりつき、這い登る。
やがて腰紐を捕らえるとそれを乱暴に解き始めた。
「誰にも渡さぬ・・・!そなたは妾ただ一人のもの・・・そう、ここも・・・」
肌蹴た裾の中に手を入れ、恭しく押し頂くように景麒の男性自身を引き出すと、舒覚は恍惚の表情でそれに頬擦りをした。
「しゅ、主上!おやめください・・・っ!」
口先だけの抵抗。
しかしそれ以上抗うことは出来ないことは、景麒自身が一番よくわかっている。
「妾だけを悦ばせてくれればよいの・・・」
ゆっくりとした動作で舒覚はそれに舌を這わせる。
袋の部分を巧みな指使いでもみしだきながら、竿の部分を舐めあげた。
「しゅ・・・じょうっ」
自分の意思とは裏腹に景麒の逸物はゆっくりと硬さを増してゆく。
それをまたいとおしげに舒覚は口に含んで吸い上げる。
その巧みな舌技に景麒の思考に霞がかかる。
このような行為がさらに主の命数を縮めることだというのはわかっている。・・・しかし・・・。
景麒は夢中で自分をむさぼる主を見下ろす。視線に気づいて見上げる舒覚の瞳は、既に正気の色を失っている。
諦観とも悲哀とも付かぬ、複雑な思いが込み上げて、景麒はそれ以上彼女の瞳を見ることが出来なかった。
――もはやどうにもならぬ。
景麒は目を閉じて、与えられる快感に身を委ねるほかなかった。
既に大きく猛った逸物から名残惜しげに唇を離すと、舒覚は急いたように自ら衣服を脱ぎ捨てた。
「景麒・・・はよう!はよう妾を悦ばせてたも!」
骨と皮だけの、無残なほどに痩せこけた身体を晒して景麒を誘う。
その姿が痛ましく、景麒は目をそらして立ち尽くす。そんな彼に焦れた舒覚は景麒に飛び掛り、引き倒した。
「何をしておる!勅命じゃ!妾の言うことを聞けぇ!!」
ヒステリックに叫びながら景麒の衣服を半ば引き裂くように乱暴に乱してゆく。
景麒は抗うことなく、ただされるがままに身を任せていた。
おもむろに舒覚は景麒の顔の上に跨り、その唇に自分の秘所を押し付ける。
「舐めよ、妾を悦ばせよ」
「仰せのままに・・・」
潤いを失った肌とは対照的に、滴るほどに濡れそぼったそこに景麒は舌を差し入れる。
むせ返るような女の匂いと、押し付けられる息苦しさに景麒は眉をひそめたが、主の命に逆らえるはずもない。
秘裂を押し広げ、溢れる蜜をすすり、既にむきあがって姿を現している花芽を舌で擽る。
舒覚は奇声に近いような声を上げてよがり狂った。
さらに腰を動かして秘所を景麒の顔にこすりつける。
窒息しそうなほどに押さえつけられ、景麒は息を継ごうと頭を捩る。
それが更なる刺激となってか、舒覚が身を捩ってまた叫ぶ。
このあり様が柔柔と儚げで慎み深い性質だった女と同じ人物であると、だれが想像つくだろうか。
それほどに、狂気に侵され、我を失ってしまったというのか。
ふとそんなことを脳裏によぎらせながらも、景麒は舌と唇を駆使して舒覚を責めたて、絶頂へと誘う。
花芽をきつく吸い上げたところで、舒覚の背がぴんと伸びて一瞬硬直する。
「ひゃああああっいくっ!いくぅ!おぅっおぅっ!!」
叫び声はさらに大きくなり、獣のような咆哮をあげて舒覚は達した。
しばらく突っ伏した後、肩で大きく息をつき、ゆっくりと身体をずらして満足げに微笑む。
口の端からつ、とよだれを零しながら微笑む様はまさに狂人のそれ。
景麒はただ黙したまま見つめていた。
だがその紫紺の瞳は喩えようもないほどの哀しみに満ちていることを、最早舒覚が気づくことはなかった。
舒覚はそんな景麒の白皙を両手で包み込み、自らの愛液にまみれた唇に頓着なく口付ける。
「ああ、やっぱり景麒はいい・・・妾をこんなにも悦ばせてくれる・・・」
うっとりと景麒を見つめ、その頭をかき抱く。
「誓え、まこと妾だけがそなたの伴侶であると・・・景麒・・・」
「誓い・・・ます」
躊躇いがちにそう答えると、舒覚は表情を一変させた。
「まことか?そのことばにいつわりはないか!?」
そう叫んで景麒の首をぎりぎりと締め上げた。
「・・・っい・・偽りなど申し・・・ません・・・!」
締められる苦しさにあえぎながら景麒が答えると、舒覚は再び表情を崩した。
「ふふ・・・そう・・・そなたは妾のもの・・・ふふ・・・景麒・・・くるしかったであろ・・・?」
締め上げる手を緩め、すまなそうに首筋をさする。
景麒の首には舒覚の手のあとがくっきりと残されていた。
景麒は開放された安堵感に大きく息を継ぐ。
しかしまだ先は長いのだ、とも思い、ひそかに溜息をつく。舒覚は気づくことなく、微笑んでいた。
「さあ、景麒、そなたも共に・・・妾の中で・・・」
舒覚は身を起こし、力を失いかけていた景麒の逸物に手を伸ばし、擦りあげる。
与えられた刺激に、景麒はくっと小さく呻いた。
みるみる硬さを取り戻すそれに手を添えて、舒覚はゆっくりと身を沈めていく。
自身を包むぬめりを帯びた暖かさに、思わず景麒はほう、と息を吐く。
その様を満足げに見つめながら、舒覚はゆっくりと腰を蠢かした。

獣じみた喘ぎとみだらな水音と互いの吐く息で凝った空気のなかで、景麒は自分に跨って乱れる主をぼんやりと見つめた。
既に官能の渦に巻き込まれ、我を失って髪を振り乱しながら激しく腰を振る女。
その目には何者も映ってはいない。
「景麒!景麒ぃ!!おぅっおぁぁっ」
喘ぎながら自分の名を呼んではいても、女は自分自身を呼ぶのではない。
それは彼女の心のなかに作り上げられた儚い幻に過ぎぬ。
それが判っていたとしても、もう景麒にはどうすることも出来ないのだ。
ただ、彼女に与えられた役をこなすだけ。
自分は麒麟だ。
最早主に省みられなくなった麒麟だ。
それ故に泣きたくなるような苦しさに身を裂かれそうになっても、主からは離れることの出来ないのが定めなのだ。
それでも主を厭う事は出来ない。たとえ愛情が消えたとしても、代わりに憐情が湧き上がってくるのだから。
その苦しみを振り払うかのように、景麒は舒覚の腰に手を添えて、腰を激しく突き上げた。
舒覚が叫ぶ。その内壁が、景麒をきつく締め上げる。
そろそろ互いに絶頂は近い。景麒は容赦なくさらに腰を突き上げる。
「景麒!景麒ぃ〜!!あうっあああああああああ!!」
舒覚が達して、続けて景麒も欲望を吐き出す。
そのまま崩れ落ちるように景麒の上に、舒覚は突っ伏した。
「主上・・・」
労わるように、景麒はいまだ苦しげに喘ぐ舒覚の背をさすってやった。
もう、それくらいのことしか出来ない自分にもどかしさを感じながら。

「景麒・・・景麒・・・私の綺麗な景麒・・・」
白磁のような滑らかな肌を、しわがれた指が這い回る。
「妾だけのもの・・・だれにも渡さぬ・・・ああ、景麒・・・」
舒覚はうわ言の様につぶやきながら、蕾のような乳首に舌を這わせ、きつく歯を立てる。
刺す様な痛みに耐えながら、それでも景麒は舒覚のもつれた艶のない髪をなでてやる。
「主上・・・」
努めて優しい声で囁いて、その骨ばった身体を抱きしめた。
――そう、狂わせたのはほかならぬ自分。
自分が与えた不器用な優しさと、半端な愛情が、結果この心弱い主を溺れさせ、破滅へと導いてしまった。
その責を償うにはもう遅すぎた。いまは最早、主の心をこれ以上乱すことなくわが身を与えるしか術はないのだ。
「最期まで・・・貴女一人をお慕いしております・・・」
自分は麒麟だ。主を厭うはずもない。たとえどのような姿となっても。
そしてたった6年という歳月でもうじきこの国は沈む。
王を狂わせた麒麟にはふさわしい最期ではないか。
自嘲しながら景麒は狂気に侵された王を胸に抱いて、目を閉じた。一筋の涙を零して。


――その数日後、各国の鳳が、景麒失道を告げた。

(了)

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