獣の目(前スレ509・>428・>429・>430・>431・>432・>433の続き。)
 作者419さん

正寝の驍宗の執務室に呼ばれた李斎は、気付くと榻に押し倒されるような格好で驍宗と対峙していた。
「李斎……」
 常には冷たいまでの視線が熱を帯びているように李斎には見えた。
 だがそれは獣が獲物を狙う眼だ。
「主上……?台輔のことでお話があるのでは……」
「それは口実だ。お前を呼び寄せるための……」
 驍宗は囁きながら李斎の胸元に顔を寄せた。
 罠――。
 それに気付くとぞっ、と恐怖が背筋を這い登った。
 慌てて身を捩るが、すぐに腕を押さえつけられる。足をばたつかせてものしかかってくる身体は揺らぎもしない。
 唇を噛み締めながら李斎はきっ、と驍宗を睨みつけた。
 それが、李斎に出来る最後の抵抗だった。
「良い貌だ。お前にはそんな貌が良く似合う……」
 驍宗は口元に笑みを浮かべて李斎を見た。
「初めて見たときから、欲しいと思っていた……」
 そう言って驍宗は李斎に口付けた。固く閉ざした唇をこじ開けて、驍宗の舌が滑り込む。
 熱く、激しく絡められたそれに、李斎は抵抗できないまま引きずられていった。
 躰の奥、脳の奥が蕩けていく。
 ――喰われる。
 そう、思った。


「んっ……ふっ……」
 濃厚な口付けを交わしながら、驍宗の手がやや性急に李斎の長袍を剥ぎ取る。
途中、布地が裂けたことも驍宗はお構いなしだった。
「人が……来ます……」
 そう口にした。その身を被うものが無くなる心細さで。
「誰も来ない。蒿里以外は入れるな、と言い置いてある」
「では、台輔が……!」
「来るやもしれぬな」
 素っ気無く驍宗は言い捨てて、性急なそぶりで李斎の身体に残る襦裙の胸元をこじ開ける。
 李斎は血の気が引くのが分かった。
 台輔がここに来るかもしれない。
 あの幼く、汚れのない麒麟にこんな場面を見られるかもしれないと思うと、身震いがした。
「怖いか?」
 驍宗が手を止めた。笑みも何もない、射抜くような眼。
「……いいえ!」
 それを真っ向から跳ね返して、李斎は驍宗を睨みつける。

「そうだろうとも。お前なら、そう言うと思っていた」
 驍宗は軽く口の端を上げて笑った。李斎のそれが、虚勢に過ぎないと気付いたのだろうか?
 李斎の胸元に顔を埋めようとした驍宗は李斎の胸を押さえつけるさらしに気付いて苦笑した。
「……無粋だな……」
 李斎の首筋に噛み付くような口付けを落として、そのさらしをも外そうとした。
 李斎は唇を噛み締めて胸元に伸びる手を振り解こうともがく。
 あっさりと手首を掴まれ、それは叶わない。
「残念だな。わたしはお前が欲しいのだ。諦めてやる気はない」
 ぞくっ。
 また鋭い視線に捕らえられる。身動きが出来ない。
 李斎は小さく息を吐く。
 この躰ひとつ差し出して済むのなら、それで良い。心まで奪われるのでなければ。そう覚悟を決めて驍宗から視線を逸らした。
 ただ、どうか台輔がこの房間には来ませんように……。
「李斎、何を考えている?別の男のことか……?」
「だとしたら、どうだというのです?」
「妬けるな」
 短くそう言い切った驍宗の手は荒々しい。
 強引に両手を頭上に押さえつけて、露わになった白い胸にむしゃぶりついた。
 日頃押さえつけられてはいたが柔らかさを失っていない胸を、痕が残るほどきつく揉みしだき、紅く色付く蕾を噛む。
「……っ……」
 痛みで、李斎がわずかに声を漏らした。
「すまないな、わたしは優しくは出来ない」
「…………」
 今更、何を言うのだろう?
 優しかろうが冷たかろうが、無理矢理奪われることには変わりがない。
 覚悟を決めた李斎には、もうどちらでも構わないのだ。
「李斎……」
 驍宗の囁く声に熱が加わった。
 肌に触れる息が熱い。
 李斎はぎゅっと目を閉じた。
 ――怖いのか、わたしは……。生娘でもないのに。
「李斎、李斎……」
 驍宗の唇が李斎の名を囁きながら、首筋、胸元、脇腹、太腿といった柔らかい場所を這う。
 触れられた場所が痺れるような気がしてくる。
 驍宗の手は飽きもせず胸の突起を弄っていた。痛み以外のむず痒さのようなものを感じる。
 それを振り払うように李斎は身を捩る。
 心は冷えているというのに、じわじわと躰が熱を帯びてくるのが分かった。
 ――駄目だ……!
 声を上げそうになって、李斎は唇を噛み締めた。
 意識すればするほど、感覚が鋭くなっていくことに李斎は気付いていない。
 李斎の意識とは別に、躰が勝手に反応を始めていた。
 驍宗の手が、唇が蠢くたびにその肢体がぴくり、ぴくりと震える。
「声を、出さないのか……?」
 驍宗が耳元で囁く。
 李斎はふるふると首を振って拒絶した。
「……強情なことだ。それでこそ、なのだが……」
 驍宗は忍び笑いを漏らしながら身体を起こした。身体をこわばらせている李斎を抱き上げ、自分の足元に座らせる。
「舐めてくれ」
 驍宗は李斎の手を自分の逸物に導く。
 軽く勃ち上がったそれに触れた李斎がぴくりと震えた。
「出来ないわけはないだろう?」
 李斎はしばらく唇を噛み締めたままじっと手元を見詰めていたが、意を決したように唇を寄せた。

長袍に隠れたそれを取り出すと、あまりの大きさに驚いた。
 しなやかな指で一撫でして、先端に口付ける。そのまま口に含んで舌を絡めた。すると、それが大きさを増す。
 それに戸惑いながら、茎を舐め上げるようにする。
 口腔愛撫というものの経験がないわけではなかったが、慣れているというほどの数をこなしたこともないので、どうしていいのか、李斎には分からなかった。
 ただ、たどたどしく舌を動かし、その下にあるふくらみを柔らかく揉む。
 驍宗が、括ることもなく流されたのみの李斎の髪に触れた。
 李斎は愛撫を続けながら上目遣いに驍宗を盗み見た。
 ――また……、あの眼だ……。
 鋭い視線がまた李斎を射抜く。その瞬間、かっ、と躰に火が点いたように熱くなった。腰の奥が疼き始める。
 李斎の気が緩んだのを見逃さず、驍宗は李斎の顎を掴んでさらに深く、自らのモノを飲み込ませた。
「……んっ……!」
 喉の奥を貫かれ、眉根を寄せて李斎は思わず声を上げていた。
「こんな貌も出来るのだな」
 驍宗の声もやや上擦っている。
 李斎の頭を掴んで、さらに激しく動かす。
 じゅぷじゅぷと淫らな音を立てて、李斎の愛撫は続いた。
 その口の中で、驍宗のモノは大きさと固さを増していった。
 ――口の端が切れそうだ……!
 李斎は必死になって驍宗の動きについていく。口一杯に押し込められるものは苦しいが、止められない。躰の奥が熱い。その熱に浮かされているようだ。
「……なかなか上手いな……」
 驍宗の手が李斎の耳朶に触れた。
 李斎の躰が跳ねる。
「そろそろ感じてきたか……?」
 驍宗は李斎を胸に抱き寄せると、腰にまとわりついたままだった袍を取り去る。ゆっくりと腰を撫で、先ほどから熱くなっている秘部に触れた。
 くちゅ。湿った音が響いた。

「かなり溢れているな」
 驍宗の肩に顔を凭れかけていた李斎は羞恥でかっ、と頬を染めた。
「……李斎……」
 驍宗は強引に李斎の唇を奪った。
 逃れられないように、頭の後ろを押さえつけ、歯と歯がぶつかるほど激しく舌を絡める。
「んっ……っ……」
 堪らず李斎は声を上げていた。
 驍宗はさらにきつく李斎の舌を絡め取り、吸い上げる。あまりの激しさに、口の端から唾液が滴る。
 驍宗の手は休むことなく李斎の秘処を弄っていた。
 上と下、両方を同時に愛撫されて、李斎の躰が震えた。腰が砕けるような快感が突き抜ける。
 溢れ出た蜜は驍宗の手を濡らしていた。
 驍宗は無骨な指を差し入れ、ぐちゅぐちゅと音を立てて掻き回す。
「…………!…………」
 李斎は息を止めて必死に声を押さえる。
 声を出せば終わりだと思った。
 躰だけではなく心のすべてまでも、奪われてしまう。
「李斎……」
 唇が離れると、驍宗が熱っぽく囁く。
 こんなことだけでも、躰の芯が蕩けるようだ。
 ――駄目だ……!
「李斎。声を、聞きたい……」
 李斎は激しく首を振る。
 一声でも上げてしまえば、きっともう、止まらない。
「頑固だな。そこが良いんだが……」
 驍宗は李斎を押し倒すと、大きく脚を開かせた。
 露わになった秘処に口付ける。
「……っ!」
 李斎の腰が跳ね上がる。
「李斎。気持ち良いんだろう?」
 ぷっくりと紅く膨らんだ肉芽を舌で突付き、蜜に濡れた花芯に指を差し入れて内壁を擦り上げる。響く淫らな水音。
 李斎が噛み切れるほど唇を噛み締めた。きつく握られた手は血の気が引くほど白くなっている。
「全く……、躰はこんなに悦んでいるというのに。可愛いな……」
 驍宗の言葉に笑みが混じる。
「どうしたら、お前がわたしのものになるのだろうな」
 驍宗が手を止めた。下から李斎を見詰める。
 李斎は戸惑ったように首を傾げた。
「わたしのものになれ、李斎。――もう、逃がさぬ」
 紅い瞳が李斎の心を貫いた。
 目線を逸らすように仰け反らせた白い首筋に、驍宗が顔を埋めた。
「……あぁ……」
 ついに、李斎の唇から喘ぎ声が漏れた。
「それで良い……」



 驍宗は満足げに笑った。
 李斎の脚を抱え上げ、屹立した宝重で最奥まで一気に貫いた。
 しとどに濡れた李斎の花芯はするり、とそれを受け入れる。
「あっ……!」
「……っ……、熱い、な……」
 息を詰めて驍宗は呟く。
 李斎を見詰める驍宗は楽しそうだった。結い上げた髪が解れ、汗ばんだ顔に掛かっている。
「李斎、李斎……」
 譫言のように囁きながら、驍宗は律動を続けた。
「あんっ、はっ、あ、あ、ぁ……」
 熱い吐息を吐き、激しく揺すぶられながら、李斎は快楽の底へ引きずり込まれていく。
 知らず知らずのうちに腕を驍宗の首に絡め、その逞しい胸に縋りついた。
 そうせずには、いられなかった。
 そんな李斎に目を細めると、驍宗は李斎の腰から背中を撫で上げた。
 鍛え上げられているものの、まろやかさを失っていないその躰こそ、驍宗が求めてやまないものだった。
「やはり、思ったとおり、だった……」
「……んっ……、なにが……ですか……、はぅっ!」
「……良いな、お前の躰は……」
「……っ!!」
 李斎がきっ、と顔を上げた。
「躰だけなら、それに相応しい者がおりましょう!」
「躰だけならな。わたしが欲しいのはお前だ、李斎」

驍宗は李斎に口付ける。
 李斎の口に唾液を流し込んでおいて、唇を離した。
「気丈で冷静で……、想像していた通り、好い女だった」
 二人の視線が絡み合った。
 睨む者と睨まれる者と。
 もうすでに、獣と獲物ではなかった。ただ、男と女が居るだけだ。
「ずっと気になっていた。……だから蓬山で出逢えたときは嬉しかった」
「…………」
 驍宗が一度動きを止めた。
 汗ばんで張り付いた李斎の髪を驍宗がぶっきらぼうに払いのけた。
 どちらからともなく二人は唇を重ねていた。
 李斎の心に、言い様のない想いが浮かんで、じわじわと広がっていく。
 甘い。
 すべてを奪われるというのに、胸は甘く疼いている。
 ――驍宗さまがわたしを……?
 李斎にとっても、驍宗は憧れであり、敬愛すべき主君だった。
 その覇気も、苛烈さも、人を惹き付けてやまない人柄も、そのすべてが李斎には眩しかった。
 それ故、ただ女としての躰を求められることは屈辱だった。
 だが、今、驍宗の腕の中で求められているのは、将軍である自分だ。
 そのことが、少しだけ誇らしかった。

 繋がった場所からは止めどなく蜜が溢れている。
 お互いの口腔を貪りながら、再び律動が始まった。
 耳に淫らに響く音が更なる興奮を呼び、快感を呼び、動きは止まらない。
「んっ……はぁっ……ああっ……!」
 堪らず李斎が声を上げた。
 突き上げてくる驍宗は激しい。躰の奥の奥まで貫かれて、崩れ落ちそうだ。
「良いな……、お前の中は……」
 耳元で囁く驍宗の息も荒い。耳朶に触れる吐息が、李斎の肌を粟立たせた。
 驍宗はそんな李斎の肌を撫でる。滑らかな背中はじっとりと汗ばんでいる。
 李斎の躰はぴくぴくと素直に反応した。下半身に熱が篭る。
「……絡み付いて、離そうとしない……」
 驍宗は一度、己を引き抜くともう一度ゆっくりと挿入する。
襞はしっかりと驍宗を締め付けて、熱く絡んだ。
 驍宗は息を止めて、大きく腰を回すようにして、李斎の内部を掻き回した。
「……あ、あぁっ……!!」
 感じやすい部分を刺激され、李斎は背中を仰け反らせて榻に倒れこむ。
 うっすらと涙を浮かべて喘ぐ李斎に、驍宗は笑みを浮かべて李斎の腰を引き寄せた。
 顕著な反応を示すその場所を、何度も何度も刺激する。
「……もっと乱れてもいいのだぞ……?」
 ただすすり泣くような喘ぎ声を漏らすのみの李斎を、驍宗が煽った。
 固くそそり立った胸の先端を舐め、赤く充血した肉芽を弄る。
「……はぅっ……ん!」
 李斎の手足がぴん、と伸ばされる。そろそろ、限界が近かった。

 その時だった。
「――驍宗様?」
 遠慮がちな声と共に扉が叩かれた。
「!」
 李斎は冷水を浴びせられたかのように凍りついた。
 その声は紛れもなく自国の麒麟、泰麒のもの。
 反射的に驍宗の顔を窺う。
 狼狽する李斎とは対照的に、驍宗は口の端を上げて笑った。
「あぁ、来たようだな……」
「……そんな……!このようなところを……」
 李斎は身体を起こし、驍宗から離れようとする。
 だが、驍宗はそれを許さず、腕を伸ばして李斎の腰を抱いた。最奥まで貫く。
 顔をこわばらせている李斎の胸に顔を埋め、鎖骨から首筋に唇を這わせた。
「驍宗様……、入っても宜しいですか?」
 あどけない泰麒の声が聴こえる。
 駄目だと思いながらも、驍宗が与える刺激は李斎にとっては快感でしかなかった。
「李斎……、気持ち良いのか……?」
 小声で囁きながら驍宗は柔らかい乳房を揉みしだく。
 李斎は唇を噛み締めて漏れそうになる声を押さえた。
 驍宗を止めなければ。こんな場面を見られるわけにはいかない。
 すっかり敏感になった躰は、李斎の理性を以ってしても抑えきれそうにない。
 ――欲しいのに……!でも……駄目だ!
 必死で自分を押さえようとする李斎を、驍宗は満足げに見ていた。

「蒿里――」
 驍宗が扉の向こうに呼びかけた。
「今取り込んでいる。出直してきてはくれぬか」
「……はい。わかりました」
 残念そうな響きを含ませた返事を返して、泰麒は自室へと戻っていったようだった。
 だんだんと足音が遠くなる。
 それを李斎は息を詰めて待っていた。躰の奥がじりじりと焦れている。
 それは随分と長い時間のように感じられた。
「――行ったな」
 泰麒の足音が完全に消えると、驍宗が李斎の耳元で熱っぽく囁いた。
 ほっと息を吐いた李斎を抱え上げ、榻に座った自分を跨がせるようにした。
「自分で動いてみろ。欲しいだろう、これが――?」
 李斎の蜜でテラテラと光る宝重の先端で李斎の肉芽を刺激する。
 李斎は息を呑んで驍宗を見詰めた。
 与えられる快感に負けるように、李斎はゆっくりと腰を沈めた。
 ぐちゅ、っと淫らな音を立てて、そそり立つそれを李斎が飲み込んでいく。
「……あぁ……」
 李斎の内部が驍宗のモノで一杯になる。
 待ち望んだ快感に、李斎の躰が震えた。躊躇いがちに腰を動かす。
「我慢しなくて良い。乱れてみろ……」

「でも……」
 そう言いながら、動き始めた腰は止まらない。
 固く屹立した肉芽が擦れて、李斎は首を振る。うねるように快感が腰のあたりから広がってくる。
「あ、あ…っ、ぁああ…!」
 驍宗は激しく下から突き上げた。
 そのたびに、きゅっ、と李斎の内部が狭くなる。
「……あぁ、良いな……」
 溜息混じりに驍宗が言った。
 柔らかい胸に触れ、その先端をこりこりと摘んだ。
「あん、あ……っ!」
 甘い反応が返ってくる。
 荒い息を吐きながら李斎が手を伸ばす。驍宗の首を抱き寄せて口付けを強請った。
 ねっとりと舌を絡めて、絶頂へと駆け上がる。
「あ、ああああぁぁぁぁ……ん!」
 李斎が高く啼いて、きつく驍宗を締め付けた。
 驍宗もそれに負けるかのように精を放ったのだった。


 李斎は驍宗の胸に凭れて、荒い息を静めていた。
 驍宗がそんな李斎の背中を撫でている。
 我に返った李斎がそれに気付いて、慌てて身体を退けようとした。
「……良い。もう少し、このままで……」
 驍宗がそれを遮った。
 逞しい腕できつく抱きしめる。
「主上……」
 少し困った顔で、李斎は驍宗を見た。
 紅い瞳がまっすぐに李斎を見ていた。
 ――完全に、捕らえられたのだ。この眼に……。
 李斎は小さく息を吐いて、気だるい倦怠感に身を委ねた。



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