『陽子の出張おもてなし・延王編』
作者184さん


「景麒ちょっと見て、わたし変じゃないかな?」

ここは雁国、慶国との国境、高岫山にほど近い豪奢な温泉宿。延王が選び、最上階を借り切った
その宿に景麒と共に赴いた陽子。

当初は拒否の姿勢を崩さなかった陽子だったが、あの時――景麒の謀略に嵌り、思い出しても顔か
ら火が出る程の痴態を晒してしまった――あの出来事以来、本当のところは陽子自身にしか分から
ないのだが、陽子は件の宴を特に嫌がる素振りも見せず、以前と変わらない様に見えた。

そしておよそひと月を経て延王との約束の日は来たのだった。

――陽子は蓬莱の制服姿に身を包み、少しばかり上気した顔で景麒の前に立っている。
自分は変ではないかと聞いた陽子は応えを待たずにくるりと身を翻す。
制服の裾がふわりと広がり、よく引き締まった太腿がちらりと覗いた。

「主上…困った御方だ」
普段は凛々しく朝を律する主君を思えばその罪作りな挙動に景麒の邪念が膨れ上がる。
そんな下僕の悶々とする様などには目もくれず、陽子は壁際に据えられた鏡台に姿を映している。
景麒の言葉は自分の見た目の何処かがおかしいことを指摘したのだと思い、陽子は問い返した。
「え?やっぱり変かなぁ?服?髪?……あっちの部屋に鏡がなくって…んっ、と……自分で髪の毛
やるのって久しぶりだな……」
陽子は鏡に向かって独りごちながら結いを解いただけの緋色の髪を掻き上げる。
「…この前みたいな三つ編みの方がいいだろうか?……」
鏡越しに見えたのは宛ら何かに憑かれたような形相でするすると歩み寄る景麒。
「これから大事な宴と言うこの時に、何ゆえ私を挑発なさるか」
「へ?景麒?ちょっと…なに?」
「ここひと月の主上の私に対する当り様、そしてその果てのこの振舞いか」
振り向こうとする陽子を強く抱き締め、景麒は未だ纏らぬ髪に顔を埋め深く息を吸う。
「芳しい……もはや辛抱堪りません」
藻掻く陽子の腰の辺りに何やら長くて熱いものが押し当てられ、むくむくとその容積を増してゆく。
「ちょ、や、離れろ馬鹿!変なことしたら六太くんは絶対気付くぞ、いいのか?」
その言葉に我に返った景麒は未練たっぷりな己の身体を無理矢理引き離した。

「……我ながら迂闊、危うく宴を台無しにするところ…しかしこの思い、如何とも…」
「ったく、自分で企んでおいて馬鹿じゃないのか?」
陽子は腕を組み、情けない己の下僕を蔑む様に横目で見ながら言い放つ。
「それ程までに今日の主上は扇情的でいらっしゃるという証」
どうにか平静を取り戻したらしい景麒は真顔で言い訳する。
「扇情的って…これは蓬莱じゃ普通の格好だよ…景麒だってあっちで見ただろ?」
同意を請う陽子に景麒は涼しい顔で言って退ける。
「いえ、私は主上の御姿以外はぼんやりとしか見えませんでしたので。大体あちらの基準で申され
ても困りますが、何より扇情的か否かは着ている御方の資質によるものかと」
「それは私がそういう女だって意味か?」
陽子はじろりとねめ付ける。
「畢竟賛辞と受け取って下されば」
「受け取れないよ、女の子にそんな言葉吐くな、ばか!」

――寄って集って男みたいだとか慎みがないとかもっと淑やかにとか化粧くらいしろとか言う癖に、
いざ女の子らしくしようとしたらこれだ――陽子は心の中でぼやく。
結局陽子は髪を学生だった頃のように三つ編みにした。鏡を覗くと何か懐かしささえ覚える。
そんな鏡の中の自分を見て陽子は少しだけ微笑った。

「せめて主上の芳しい匂いだけでも、いま少し嗅がせてはくれまいか」
気が付くと景麒がまたもや背後から躙り寄っている。陽子はひらりと身をかわした。

「お、こ、と、わ、り、」
「何と冷たいことか…」
落胆の色をあからさまに声で示す景麒を押し退けながら陽子は訝しげに訊いた。
「ところで、この前から言おうと思ってたけど、どうして六太くんが…知ってるんだ?……つまり、
服はともかく…その…わたしの胸の大きさ!…何故知ってるんだ?誰がどう伝えた?」
「どうと言われても…私が手でこう、このくらい、と」
景麒は手振りで示した。

「そうか…そうやって…伝えたのか…」
「如何にも。この手の記憶は確かですから。延台輔は蓬莱の店で寸法を訊かれて、少し小さめの物
をくれ、と言ったとか」
ふるふると肩を震わせる右手を挙げる陽子に景麒は不思議そうに尋ねる。
「主上、何をそんなに怒っておられるか。主上の心持ち、どうにも私には計りかねる」
「もういい…怒るのもなんか疲れてきた……」
陽子は深い溜息をついた。

「それにしても…やっぱり、延王も六太くんもその……その気なのかな?」
陽子はこの期に及んで怖気づいたように景麒の顔を窺う。
「その気、と仰るのが主上のお身体を吟味されると言う意味ならば、恐らく主上のお望み通りに」
「望んでないってば!もう!」
陽子は苛立ちを覚え足を踏み鳴らす。

そうして主従顔を付き合わせて実にもならない言い合いをしているうちに宿の者が扉を叩いた。
「主上、延王と台輔があちらの部屋でお待ちです」
「――来たか。じゃ、行って来る」
「どうぞごゆっくり」
敢えて澄まし顔で見送る景麒を陽子はきっ、と睨み付け出て行った。


豊かな雁国に相応しい絢爛たる客室だった。玉を施した柱、見事な細工の硝子窓、磨き上げられた
黒御影の床――細部にまで贅を尽した部屋の中央に置かれた円卓の向こうに二人は座っていた。

「此の度は、我が慶東国に多大な――」
「陽子、堅苦しい挨拶など要らんぞ」
膝を突いた陽子の口上を延は制した。そうして立ち上がった陽子を上から下までまじまじと眺める。

「うーむ、奇妙な格好だ…だが不思議と清楚でもあり、そして得も言われぬ色香を醸し出している」
――何を言いたいんだか良く分からないんですけど…そう口に出して言いたかった。
それにしても杯を手に上機嫌の延とは対照的に延麒は何やら不機嫌そうな複雑な表情だ。
「わざわざ蓬莱から持って来させた甲斐があったな…」

寛いでいる延の前に陽子はつかつかと歩み、努めて無表情に言う。
「まどろっこしい事は抜きで、どうぞお好きな様になさって下さい。覚悟は出来てますから!」
延はそんな陽子をちらりと見遣りふん、と鼻で嗤う。
「覚悟とは?何をそう捨て鉢になる?俺は景王自らのもてなしをと所望しただけなのだが……」
「それは……」

陽子は答えに詰まり俯いた。何も出来ない少女に過ぎない陽子に要求されるもてなしなど知れてい
るではないか。それを白々しくもこの男は――

「まあ其処まで期待されているのならこちらとしても応えねばならんな…」
「何言ってるんですか!わたし期待なんかしてません!わたしが望んでここへ来たとでも!」
――本当にそう言い切れるのか?陽子は自分の胸の奥を探る。
わたしは、心の何処かで期待してはいなかったか――

「その服のせいか、俺にはそのように見えるのだが…まあいい、好きな様にせよと言ったな?」

じっと陽子の瞳を見詰めて言う延に陽子は心の中を見透かされているような居心地の悪さを感じた。
「……はい」
「ではこうしよう、裸のそなたを六太が街中連れ回す」「おい!」
「ふざけないで下さい!…出来ることと出来ないことがあります!」
陽子の剣幕などお構いなしに僅かの間を置いて延は更に言う。
「そうか、では…その格好で道行く男に声を掛ける」
「それもできません!」
私をからかって一体何が楽しいのだ、この男は。
陽子は顔を真っ赤にして延を睨む。延は俯きがちに笑いを噛み殺している。

「さてどうしたものか…では一体陽子は何が出来るのだ?言ってみよ」
「え?…何がって………それは……」
その問い掛けに陽子は口を噤んだ。それを口にすることは自ら身体を開くことに等しい。
陽子は何とかその場をやり過ごす答えを探す。
「ええと………お酌、とか…」
延は高らかに哄笑する。
「酌か、それはいい。では陽子、掛けなさい」
「え?!…でも…そこは……」
どっしり座っている延の指先は己の膝の上を指していた。不躾な命令に戸惑う陽子。
「いいから座りなさい。酌をしてもらう」
仕方なく陽子は戸惑いながらも尚隆の指差す膝の上に横座りする。左手が陽子の肩に廻された。
見上げる陽子は不平を呟く。
「こんな格好じゃ…うまく出来ません…」

「では酌などしなくて良い」
言うなり尚隆は荒々しく陽子の唇を奪う。
「ん!……」

咄嗟の出来事に陽子は虚を突かれたが反射的に口を固く閉じた。
唇だけでなく全身を硬直させて拒む陽子の胸を尚隆の右手が強く鷲掴みにする。
「ぅんっ!……」
痛みに思わず小さく悲鳴を上げてしまい、刹那に舌が侵入者となって陽子の口中を侵して行く。
――いや!
逃げようにも椅子に座った尚隆の膝の上で横抱きにされている格好では身体の自由が殆ど利かない。
元より逃げ出すことなど許されないのだ。
それでも小さな抵抗を試みる陽子の舌に尚隆の舌が絡み付き、捩じ伏せる。
舌がじゃれあっているのと何ら違わないその動きに意識が引き付けられているうちに、陽子は制服
の胸元に右手の侵入を易々と許してしまう。
尚隆の手が制服の中、下着越しに陽子の乳房をまさぐっている。やがて下着の構造を理解した右手
が花びらの刺繍に飾られた縁取りと柔肌との僅かな隙間から指先を滑り込ませる。息づく小振りな
蕾が転がされ、陽子の拒絶の意志とは関係なく素直に反応し、見る間に固く屹立する。
「んんっ…ん……」
唇を塞がれた陽子は苦しそうに喘いだ。尚隆の手がすっと退いた。

「どうした?苦しそうだな…」
唇を離した尚隆が言う。濡れた唇を震わせて陽子は息を整えた。
戒めを解かれた唇が何故か切ない物足りなさを感じる。
「今の蓬莱ではこのような胸当てを着けるのか。良い出来だが身を護るには何とも脆弱だな」
薄く笑う尚隆は言いながら再び右手を制服の中に忍び込ませた。
「い、いけません……や、…止めてください…」
覚悟など何も出来ていなかった。頑なに拒絶する意志も、甘んじて受け入れる意志も持てなかった。
陽子は胸を弄る右手を弱々しく掴み、紅潮する顔を背ける。背けた顔を左手が捉え、尚隆は再び唇
を奪う。それは今まで陽子が経験してきた口づけとは明らかに異る、ただ甘美な快楽だけを求め
合う儀式。定まらぬ意志が綻び始めた陽子はそっと唇を開いて舌を迎え入れてしまう。
言葉とは裏腹にその行為に陽子は酔いしれ、気が付けば自ずと尚隆の舌を貪っていた。


「さて、…いま一度訊こう。この延に抱かれることは出来ぬ相談か?」
問う尚隆を陽子は口づけの余韻の溜息と熱を帯びた虚ろな眼差しで見上げる。
「…言わせたいのですね?わたしに……でも…」
陽子は困ったようにふと延麒に視線を流す。その意を尚隆に伝えたいから。

「六太、命あるまで別室にて待機せよ」
「おい!尚隆――」
「ごめん六太くん……あとで、ね?」
ふっと向けられた切なげな瞳。その誘うような翠色の瞳、そしてその詞に六太は思わず身震いする。
「ぉ、…ああ……陽子、無理すんなよ…」
六太は慰めとも励ましとも取れる言葉を口にしながら退室した。

「答えは?陽子」
――その気になってしまった。だから六太を退がらせたのだ……だけどそれを口には出せない。
「……あなたがそれを望むのなら…」
俯いて消えそうな程か細い声で陽子は答えた。
「気を持たせた割に随分と逃げ腰な言い回しだな。つまり、俺が望むから仕方なく身体を許すので
あって、決して陽子自ら望んではいないと?」
陽子は俯いたまま小さく頷く。
「王は一人の男に操を立てる義理などないのだぞ…」
まるで陽子の心を読んだかのように尚隆は言った。
「けど…だけどわたしは、好きなひとの前では…王ではなく只の女でいたいのです…」
「そうか、だが今は慶の国を代表する者として止むを得ずここにいる…そう言うことにしておくか」
膝の上に抱かれたまま、陽子は固く目を瞑る。
尚隆は三つ編みに結った髪を解く。ふわりと広がり煌く緋色の髪を撫でる。
「陽子は美しいな…本当に、美しい…」

耳許で囁き、優しく髪を梳き、肩を抱き寄せる尚隆のその全てが憎らしいほどに心地良い。
いけない、聞いてはだめ。感じてはだめ。耳を塞がなくては、目を閉じなければ……
薄く開いた瞼、揺れる瞳のように心は揺れ動く。

――私は決して望んでなどいない…
頑なに心を閉ざそうとする陽子の意志。それは他ならぬ自分を欺こうとしているに過ぎないのだと
分かっていた。ただそれを認めるのが怖かった。
――怖い、きっと目覚めてしまう、…優しく私を抱いて、私に愉悦の時を与えてくれるこのひとを、
そんな誰もを求めてしまうもう一人の私、そう、本当のわたしが……だから、だから願わくは欲望
に駆られ荒々しい獣となった延王に…そう、獣のように犯して欲しい…わたしはこの身を擲って
ただ犯されるまま……まるで心を持たない、何も感じない人形のように横たわりたい……
陽子は逞しい胸板にそっと頬を寄せ小衫の袖を握り締める。
それは自分を怖れる心、そして尚隆に惹かれてゆく心。

「今ここで、本当に嫌だと申すのなら止めても構わんのだぞ……それが陽子の本心なら」
尚隆は胸に抱いた陽子にそう問い掛ける。陽子は押し黙る。
このひとは、どうして今ごろになって言うのだろう。もっと早く言ってくれたなら……
その答え、陽子は目覚めてしまった本心を告げる。
「…優しく…どうか優しくしてください……」
「乱暴にされるのが陽子の好みだと訊いていたがな」
景麒だ――陽子は首を振る。
「いいえ、違います!わたし…わたしは……あなたに……ん…」
尚隆は優しく陽子の唇を塞ぐ。
――もう、引き返せない。
そして愛する人を想う気持ちが消えてしまいそうで私は怖い――



「あん……い、いや……はぁ…」
勃起した乳首を弦を爪弾くように弄ぶ尚隆は言う。
「陽子は随分と感じ易いようだな…」
「そんなこと……ありません…」
陽子は首を振る。どうしてこんなにも身体は応えてしまうのだろう。
乳房や腋、背中、そして指先へと愛撫を施すほどに歓喜の旋律を奏でる陽子の身体。
早くも熱い滴りが身体の外へと向かって溢れ出すのが分かった。ショーツなど穿かなくなって久し
いと、それがどうにも欝陶しいものだと感じる。然もそれは濡れて肌に張り付き殊更に心地が悪い。
だからと言って女の口から脱がせてなどと言える筈もない。
「あ…や、だめ……」
尚隆の手が制服の裾を捲り、膝をくすぐり、引き締まった太腿を撫で上げながら、白い下着に覆わ
れたふっくらと盛り上がった丘を目指す。行く手を遮るように脚を擦り合わせる陽子。

尚隆に淫らな女だとは思われたくない。
だから下着を濡らしてしまうほどに感じている様を覚られたくなかった。
だが脚は思いがけず強い力で開かされてしまった。
すかさず指先が秘められた花園を目掛けて分け入って行く。尚隆は陽子のそこを目の当たりにする。
「しかもこの溢れ様……」
「い、いや……見ないで…ください」

――見られている。耳まで真っ赤にして陽子は俯く。
下着に付いた歓びのしるしを見られるのは、自分が感じているとあからさまに示しているようで、
直に見られるより恥ずかしかった。その量を指摘されても陽子自身、知識がないから自分の量が
多いのかは判らない。けれど経験豊富な尚隆が言う程なのだから、と思い当たる節もあるのだが。

「ん………」
むず痒いようなもどかしさに陽子は身を捩る。

いっそ勢いに任せて脱がせて欲しい程なのに、尚隆はそこを執拗になぞったりくすぐったりしては
一層染みを広げてゆく。まるでその様を見て愉しんでいるかのように。もはや液体を吸収し切れな
い布地はぐずぐずになり、下着の上から秘裂をなぞる尚隆の指さえ濡らしているに違いない。
「…はぁ、ぁ…ん、…いや……」
生地の上から戯れる指先がもどかしい。微かに浮き出る秘密の真珠を爪の先が引掻く。
「んっ…あ、ぁん…」
戯れる指先が布地越しに真珠をくすぐる度に、陽子は尚隆の袷を握り締め、噛んだ唇から切ない吐
息を洩らし続ける。溢れた滴が後ろに伝い、濃紺の蓬莱の裳裾までも湿らせる。

散散弄んでから漸く尚隆は陽子を床に立たせ、こう言った。
「服を脱いで見せてくれ」
「……今ここで、ですか?」
未だ日も高く明るいこの場所で自らの手で身に纏った物を脱げ、尚隆はそう言っている。
尚隆の背、衝立の向こうには帳を下ろした仄暗い牀榻があるのに…

覚束無い足許を気にしながら陽子は上衣に手を掛け身体から抜き取った。
靴を脱ぎ、腰の留め金を外して下も脱ぐと靴下も脱いでそこで手が止まる。
赦しを請うように目を向けると尚隆はただ黙って頷いた。

陽子は背に手を廻し留め金を外す。肩紐を腕から抜き取るとそれを卓子の上に置いた。
露わになった程よく成長した乳房に尚隆は見入っている。
陽子はのろのろと下着の縁に指を掛ける。多分横を向いても尚隆に咎められるだろうから、諦めて
真正面を向いてゆっくりとそれを引き下ろす。濡れて貼り付いていた底の部分に大きく染みが広が
っている。陽子はそれを丸めて畳んだ制服の下に押し込んだ。
「本当に綺麗だな…」
真昼の陽光が射し込む部屋の中に一糸纏わぬ姿で立つ陽子を見て尚隆は絶賛した。
恥ずかしそうに俯く陽子を眺めつつ、袍を脱ぎ捨て衫の帯を弛めた尚隆は再び椅子に腰掛けた。
「ここに……」
がっしりした体格の尚隆が座ってなお幅には十分な余裕のある玉座の如き椅子。
そこに陽子は促されるまま尚隆に向き合って跨る格好になり、腿の両脇に膝を付いた。
膝立ちした陽子は尚隆の両肩に手を掛ける。

開かれた脚の間、尚隆はしとどに潤っている陽子の狭間へと手を伸ばす。手前にうっすらと茂る、
髪よりはやや濃い赤茶の叢を軽く撫で、その奥に隠された至宝を求めて。その指先が触れるか触れ
ないかの僅かな接触。
刷毛で撫でるように指先が陽子の花園を草原を後の蕾を行き来する度に陽子は甘い吐息を洩らす。
「は……ぁ…」

尚隆は中指を僅かに折り曲げて花びらの中へ潜り込ませる。ずっと待ち焦がれていたその愉悦に、
ぶるっと陽子の身体が震える。
「ぁ…だめ……」
漸く扉を開いて訪れてくれた指先を陽子の花園は蜜を湛えて歓迎する。潜ってゆく指先を熱い柔肉
が圧し包み、つっ、と指を伝って透明な蜜が掌に滴る。
指先が掬った潤みを隠れて小さく息付いている薄桃色の真珠の粒に塗り付ける。
「ぁ……や」
陽子は敏感な真珠を探り当てられて小さく跳ねる。指の腹がそれを円を描く様に弄ぶ。
「ひぁっ…あ、そこ……だめ…やめ…あぅ」
「駄目ではなくここが良いのだろう?」
向き合って膝立ちする陽子の身体は痙攣する。尚隆の肩に爪が食い込む。
真珠を弄ぶ指が細かく震え続ける。
「…だめ…いやぁ………あ、あ、あ……いや!」
最も敏感な部分を間断なく責め続けられ、陽子は程なく達してしまう。

息を荒げて尚隆に抱き付く陽子を尻目に尚隆は中指を溢れる蜜を湛える泉の奥へ沈めて行く。

「く…ぅん……はぁ」
一度達して緩やかに下り掛けた陽子の感覚を内奥を進む指先が呼び戻す。

尚隆は陽子の内壁の感触を堪能しながら指の腹で陽子が強く反応する場所を探る。
中指が半分ほど没した辺り、其処を強めに何度も擦り上げると陽子は泣くような声で哀願する。
「そこはだめ!お願い…だめ…あぅ…だめなの……」
「何故」
液体を乱暴に掻き回すような音を立てているのは紛れもなく陽子の身体。
陽子は尚隆の腕を掴んで弱々しく制する。
「だって……変になりそう…お願いですから…」
「それは是非見てみたいな」
尚隆は薄く笑ってそう言い、更に指を激しく繰り出し、空いた片手で剥き出しの真珠の粒を擦る。
「いやぁっ!だめ…だめぇ……お願い、やめ…あ、あ、ああぁーっ!」
陽子は髪を振り乱し、涙さえ流して再び昇り詰めた。

「随分と派手に散らしてくれた…それ程までに良かったか?」
手だけでなく膝の上にまで飛び散った愛液の飛沫は陽子の量の夥しさを語った。
或いは己の歓喜の証を指摘され、羞恥心が極まったせいなのか、陽子は泣いた。
尚隆は小衫の袖で未だ頬を伝う涙を拭ってやる。
「恥じることなど無い、陽子が大人の女である証しだ」
尚隆の膝の上に座り込み、くすんと鼻を啜った陽子は頷いた。

こうして見せる稚けなさと自らも快感に酔い痴れ、男を惑わせる妖艶さをも兼ね備えたこの少女、
同じ胎果の少女を尚隆は愛しく想う。尚隆は緋色の髪を優しく撫でる。
「可愛いな、陽子は。王でなかったらこのまま攫って嫁にしたい程に惚れてしまいそうだ…」
「わたしは…」
陽子は戸惑いの眼差しで尚隆を見る。尚隆は薄く笑って言い掛けた陽子の唇に手を翳す。

「戯れ言だ。気にするな………さて、王同士の親睦を深めるとするか」

尚隆は衫の袷をはだけ、既に天を向いて脈打つ刀身を曝け出した。
「この熱り立った物を鎮める手立ては最早一つしかないぞ…」
膝立ちした陽子は一つ頷くと微かに笑った。刀身に片手を添えてゆっくりと腰を落とす。
「はははっ!自分で入れるか、この娘は。望んでなどいなかったのではなかったか?」
「延王の御戯れに唆されて、もう…我慢出来そうにありません……どうか…私にくださいませ……」
見詰める尚隆が無言で頷く。陽子は妖しく濡れた瞳で見詰め返す。
そして自分の中心に先端が触れるのを感じると静かに腰を沈めた。
「あぁっ……きつ…」
濡れた音と共に貝の舌のような花びらが張り切った笠を包み込んで奥へと誘う。狭い道を圧し広げ
る刀身の逞しさに陽子は震え、僅かな怖れを感じながらも陽子は全てを己の秘めた鞘に収めた。
「はぁ、ぁ…」
収めたものを味わうかのように肉襞がざわざわと蠢いている。陽子はゆっくりと腰を浮かせてゆく。
「ひぁっ!…だめ!」
大きく張り出した笠に掻き出される途方もない快感に陽子は腰を落とした。
「むぅ?これは……至宝だな」
覗きの際に楽俊が言っていた、その言葉――陽子の身体は気持ち良過ぎる――
その意味を尚隆も身を以って知ることになった。ざらつく内壁が尚隆の最も敏感な部分を擦るのだ。

脚に力が入らないほど強過ぎる刺激に震えながら陽子は懸命に腰を上下する。
「だめ…強すぎる……すごい…良過ぎるの…」
それは百戦錬磨の尚隆にとっても気を抜くとすぐにも迸らせてしまいそうなほどの快感。
尚隆の額にそれを堪える脂汗が滲む。
「いい…最高だ……」
「…わたしに…出来るもてなしは……これくらいですから…ぁんっ…」
苦悶に堪えながら陽子は微笑う。尚隆は陽子の細くくびれた腰を掴むと自らの刀身を突き上げる。

「あ、あぁっ…すご…いやっ……いいのっ」
陽子は深く打込まれた刀身が奥に当る度に身を震わせ、訳の分からぬ言葉を口走る。

そう長くは保たないと判じた尚隆は陽子を抱いて立ち上がる。
繋がったまま不意に浮き上がった身体に不安を感じて陽子は尚隆の首に腕を廻す。
尚隆は縋り付く陽子から刀身を引き抜く。
「あっ、いやぁ……」
肉襞を引き摺り出されるような総毛立つ程の快感に陽子は哭く。
尚隆はふらつく陽子を床に立たせて背を向けさせた。察した陽子は上体を倒し、目の前の卓子の縁
に手をついて尻を突き出す。空虚になった花芯がとろりと蜜を垂らし、花弁が鮑のように蠢いて
尚隆を誘う。濡れて光る刀身がびくんびくんと脈打っている。
「良い眺めだ、陽子、いや景王…」
――もう恥ずかしくない。本当は分かっていた、こうなること…そう、望んでいた。だけど怖かっ
たんだ、変わってしまうのが。でも分かった…わたしは何も変わらない。愛されれば応える、ただ
それだけのこと……わたしは王なのだから――

「来て…ください…」
尚隆は開かれた陰門に刀身をあてがうと深々と挿し貫いた。
「あぁーっ!」
陽子が悲鳴に近い叫びを上げる。尚隆は容赦なく抽送を繰り返し、陽子の肉襞を掻き乱す。
「いや、いやっ!…許して……だめ、変になる…もうだめぇぇ」
陽子は卓子に突っ伏し我を忘れて緋色の髪を振り乱す。
膝ががくがくと震え、立っていることすらままならない。
「あぁっ、だめ!…もう……だめなの!」
自らの身体を支えきれず陽子は崩れ落ちる。そして冷たい石の床を背中に感じて、身体が裏返され
床の上に寝かされたのだと気付いた。尚隆は壊れよとばかりに腰を振りたて己の限界に向かって突
き進む。泥濘んだ音が部屋に響く。溢れた蜜が白く泡立ち刀身から糸を引いて垂れ落ちる。

「お願い……あぁっ!だめ!…もうっ!…いやぁ!」
無心に差し伸べた両手に熱く大きな掌が重なる。陽子は指を絡ませてしっかりと握り返した。
「陽子!」
絡み付く鞘が刀身を締め上げ、尚隆は大量の精を一気に迸らせる。
「あ、熱い!…あ、ああぁーっ!」
何度も噴き出し叩き付けられる熱い樹液を受け止めながら、陽子は脚を絡めて尚隆を繋ぎ止める。

――なかが、熱い…すごい…まだ、動いてる……
刀身は鎮まる事を知らず、その熱い脈動に陽子は身を震わせる。
漸く息は整ったものの、未だ震えるその唇で陽子は指を噛んで余韻に浸っている。
尚隆は床に落ちた脚を抱え、陽子の尻を浮き上がらせる。
「まだ終わらんぞ……陽子の至宝は男を狂わせるな」
尚隆は不敵な笑みを浮かべた。泥濘んだ音が前より大きく、再び部屋に響き渡る。
「もっといっぱい……ください」
仄かに朱い目許を潤ませ、かの腕をしっかりと握り締め、陽子は震える声で言った。

そして二人は混沌の渦へと呑み込まれて行く……



――前編・終(転)章――

柔らかな褥の感触――どうして牀榻にいるのか、よく覚えていない……ぼんやり霞む視界の中で
尚隆を探したが、陽子が佇む牀榻には居なかった。気だるい身体を起こすとぬるっとしたものが内
奥を伝う。それは夥しい量の、二人が二度溶け合った歓喜のしるし…
狂態を思い出した陽子は顔が熱く火照り、身体に掛けられていた小衫の裾でそれを拭い取る。
小衫を纏い、帳を上げて牀榻から降り立つと、腰掛けて寛いでいた尚隆が振り向いて笑った。
思わず目が合った陽子も俯いて少しだけ笑った……

「しかし…好い手土産が出来た…」
手に取った純白のそれを光に翳してにんまりとする尚隆に陽子はかっと顔が熱くなる。
「そ、それは駄目ですっ!後で洗っておきますから…」
駆け寄って手を伸ばす陽子をかわして尚隆はそれを懐に仕舞った。
「そうはいかん、陽子の甘露をたっぷり吸ったままだからこそ価値があるのだ。それに、これは元々
俺の物だからな…」
「そんなの、変態です!」
「はははっ!誉め言葉として受け取っておこう。どれ、六太を呼んで来るか」
席を立ち、部屋を出掛けた尚隆がふと振り返って言う。
「それにしても陽子は具合が良い。六太の後にもう一度手合わせ願いたいが、如何かな?」
「知りません!」
陽子はぷいと横を向く。だが思う、それも悪くないと。そう思った自分が何だか可笑しい。

笑いながら出て行く尚隆を陽子は見送る。そして一人残された陽子は呟いた。
「あーあ…六太くん、きっとご機嫌斜めだろうなぁ………」
陽子はその様を思い浮かべてくすりと微笑うと湯殿へと向かう。翡翠の瞳が陽光に煌く。

―前編・了―

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