【長い夜】 尚隆×陽子×景麒
作者650さん
「駄目。景麒、駄目だ!」
主が必死に押し止めようとしている。
しかし景麒も必死だった。このままではとんでもないことになってしまう。まだ何とか理性を保てる内に、厩に行って騎獣を探さなければ。
「そんなこと、お前にさせない!」
主の声が耳の中に響く。
同時に歯がぶつかるほどの勢いで唇を塞がれ、その感触にたちどころに全ての意識が断ち切られた。
その後の記憶は、何も、ない。
― 1 ―
「では、国境の義倉を管理する件はそのように計らおう」
低く落ち着いた男の声が、会談を締めくくった。
ここは雁国の王城・玄英宮の最奥部にある正寝。延王・尚隆の私室。
本来なら私室で話し合う内容でも無いのだが、麾下に計る前にそれぞれの国の頭領同士が了解しておかないと、まとまる話も通らなくなるというのがその部屋の主の意向だった。
「よろしくお願いする」
応えた声は凛とした若い女のもの。
地味な男物の官服をまとっているものの、輝く紅い髪が身分を明かす、景王・陽子。
「堅い話が終わったところで、酒でも飲むか」
尚隆は気軽に言って、酒肴の用意された卓子に陽子を誘う。
「こんな時間からですか?」
窓の外、雲海の上はまだ陽光の残滓が煌めいている。
「こんな時間でも構わんさ。今夜は泊まっていけるのだろう?」
あけすけに言う尚隆に対して、一瞬陽子の肩が強ばった。
「一応、その予定にはなっているが……」
妙に語尾を濁らせる返答に、尚隆は怪訝そうに片眉を上げた。
「お前とこうして会うのは半年ぶりだし、今日の予定は2ヶ月も前から組んであった筈だが」
こうして会う、という言葉に陽子は反応してしまう。
半年前、こうして会った時にも尚隆は陽子を抱いた。媚薬を使い、互いに獣のように激しく交わった。
その時のことが二人とも忘れられずに、またの機会を求めていた筈だったのだが。
「陽子……」
名を呼びながら尚隆は背後から抱きすくめ、耳朶をそっと噛んだ。
駄目・・・、と押し止めようとする娘は、男に唇を塞がれて、ついそれに応えてしまう。
待ちわびた逢瀬だった。尚隆の少し強引で巧みな舌使いに、陽子は一瞬意識を委ねてしまいそうになる。
「いけない、延王。延台輔だっていつお戻りになるか」
「あいつはあと2日は戻らん。今、障りがあってな」
合わせた唇の隙間から答える尚隆の、言外に含みを持たせた言い様に、陽子は自国の麒麟を思い出す。
ーーーあいつと同じか・・・。
「でも、駄目」
そう言って、男の身体をぐっと押しやった。
決して駆け引きなどではない。
陽子には、駄目と言われると余計に欲しくなる男の生理が判っていない。この拒否が、酒でも飲んでからゆっくりと、と構えていた尚隆の気分を、まずは一戦、と切り替えさせてしまったのだ。
そもそもが陽子もその気で来ていると了解している。
尚隆は改めて陽子の唇を貪りにかかった。ねっとりと舌を絡めると陽子の舌がそれに応える。
官服の上から乳房をまさぐると、ころころとした感触が厚い布越しでも感じ取れる。
陽子の身体を壁に押しつけ、太股を脚の間に割り込ませた。
陽子の反応を窺うと、表情の読めない翡翠の瞳が下から見上げてくる。
両腕を肩幅に開いて正面の壁に突き、可愛い女を檻の中に囲い込むと、額、瞼、鼻の上と口づけを落とす。
相手が抗わないのを見定めると、
「これでも駄目だというつもりか」
囁くようにそう問いかけながら、尚隆の指は既に裾を割って陽子の熱い秘所を直に探っている。布の陰からは粘性の高い吸い付くような水音が漏れてきていた。
「いけない……、お願い、尚隆……」
そうは言っても、再び口中に押し入った舌を拒めない陽子の言葉に力は無かった。
尚隆の指が官服の襟元を緩める。
陽子が警戒してわずかに身を竦めた。
尚隆の舌が首筋から鎖骨へと降りてゆく、そして。
「これは、なんだ?」
房室の空気が一瞬で凍り付くかと思われるほどに冷たく厳しい声がした。
- 2 -
広い牀榻の上には官服を纏った女が横たわっている。
その腕は両手首を合わせて細紐でぐるぐると戒められ、万歳をするように頭上に上げられている。
服の胸元をはだけ、形の良い乳房が剥き出しにされている。裾も割られて股間が奥まで見えているが、着衣そのものは身につけたままだった。
首筋から薄く盛り上がった乳房にかけて、女の小麦色の肌には赤黒い花びらが一面に舞っているように見える。
その花びらが同じく小麦色の太股の内側に散っているのも目に入る。
身動ぎをするたびに花びらも動き、それが直接女の肌につけられた跡だと知れる。
「どういうつもりだ」
牀榻の脇に仁王立ちした男が、女を見下ろして低い声で問い質す。
「俺と半年ぶりに乳繰り合おうというのに、他の男の徴を体中につけてやってくるとは。
一晩たりとも男なしではいられない程に淫らな身体だったか」
しかし女は天井を睨みつけたままで応えない、否、答えられない。
それを言ってしまっては、自分の昨夜の行為の意味が無くなる気がしている。
女の股間からは妙な角度に棒が突き出していた。
よく見ると美しい細工を施された銘木製で、恐らくは何かの道具だろう。
その棒を太股に夾み、女の腰は微かに蠢いている。
男は女のそんな様子を黙ったままで暫く見つめていた。
やがて
「お前が答えないのなら仕方がない」
そう言うと長く残した細紐の端を取って、女の手首を壁から突き出した大きな環に繋いだ。
本来は燈籠を掛けるためにあるその環と、更に右の足首にも紐を結んで牀榻の足下の柱に繋ぐ。
そうして陽子を動けないままに放り出し、尚隆は臥室を出て行ってしまった。
陽子は疲れた頭でぼんやりと考えている。
尚隆の怒りは尤もだった。然し、どうしようも無かったのだ。
尚隆との約束の日に向けて、陽子は国境の義倉の管理について話し合うためにひたすら勉強していた。
同時に、久しぶりに尚隆と共に過ごす一夜を大切にしたくて、一週間以上前から台輔に限らず誰とも枕を交わさずにいた。
その為に気づくのが遅れてしまったのだ。生真面目な台輔が、発情期を迎えているのをひた隠しにしていたことを。
判っていれば、早い内にこの身を与えて穏やかに宥めてやることも出来たものを、融通の利かない不器用な男は、ぎりぎりまで耐えた揚げ句に王宮の厩の騎獣を使い、麒麟の姿で獣欲を満たそうとしていたのだった。
いや、気づいてやれなかった自分が悪い。気づいてしまったからには捨ててはおけない。
とどのつまり、我慢に我慢を重ねていた景麒は我を失って陽子を陵辱するかのように犯し、体中に交接の跡を残したのだ。
それが昨夜のこと。最悪の成り行きだった。
一晩経って、よりはっきりしてきたこの跡を見れば、尚隆が怒るのも無理はない。
尚隆とは別にお互いだけだと約束し合った仲ではない。事実、陽子は普段は台輔や他の男とも身体を重ねているし、尚隆にも行きつけの妓楼にお気に入りの遊女がいるのだ。
しかし、この日は以前からお互いのものと定めた日だった。互いに忙しい王の身であればそう易々と予定を変える訳には行かない。
尚隆が陽子と充分に睦み合うために妓楼通いを休み、あまつさえ延麒の予定さえ計算に入れて所払いをしてくれたというのに、陽子は己の下僕が発情期を迎え、しかもそれをひた隠しにしていたことにすら気づかなかった。
中途半端だった。王としても、愛人としても。
だからそれを尚隆に言うわけにはいかなかった。言えば只の言い訳になってしまう。
言い訳を口にしたら、限界まで耐えた景麒の思い、それを受け入れた己の矜持は基より、自分を求めてくれた尚隆をも愚弄することになってしまう。
だが・・・、股間にねじ込まれた棒からはじんじんと甘い痒みが広がってきていた。
たった一人で取り残されているために、却ってそのことばかり考えてしまう。
景麒とのことを考えても、尚隆のことを思っても、全ての感覚はその棒が与える刺激に帰結する。
陽子の太股をすり合わせる動きは止むことがない。
そこへ尚隆が戻った。
冷たい目で陽子をねめつける。股間が溢れた蜜で濡れているのが見えた。自分が部屋を空けている間にこの女は何をしていたのやら。
「言う気になったか」
陽子の気が変わるはずが無いのを知っていながら尋ねる。
案の定唇を噛みしめた陽子がきっぱりと横を向くのを見て、奇妙な満足を覚える。そんなに易々と気を変える女など、初めから抱く気にはならない。
「その強情がどこまで続くことか」
言いながら牀榻に横座りし、股間の棒を抜き差しし始めた。
その棒、一見して紫檀細工の工芸品だが、思いのほか重量がある。
美しい木目の表面に微妙で繊細な彫刻を施し、内部に鉄棒を仕込んで文鎮としての重さを確保してある。匠の国・範が近頃力を入れている細工物だった。
氾王が尚隆に宛ててわざわざ直接に贈ってきたもので、文鎮としては勿論だが、両端の丸みのある形といい手に持ったときの平衡といい、他の目的にも使えるように考えられたものであることは明白だった。
第一、山客渡りの秘薬とかいう軟膏も一緒に送られてきている。それが単なる潤滑油などではないことは、陽子の様子を見れば一目瞭然だった。
事実、眼前の陽子は堪えることに必死だった。
目をきつく閉じ、歯を食いしばって耐えているが、股間のひくつきは押さえようがないらしい。
棒をくわえ込むように両股をすり合わせ、淫らに腰をうねらせている。口を閉じているせいで鼻から漏れる声が、余計に扇情的に聞こえる。
じれったそうに身を悶えさせているのは、今日はまだ触れて貰えていない乳房へも愛撫を欲しがっているからに他ならない。
角度を変えながら陽子の花芯を抉ると、見ている前で乳首の色が濃くなり固く屹立してゆく。
その様子を冷徹な目で見計らった揚げ句に、尚隆は尖った乳首を爪で弾いた。
たったそれだけのことで陽子は達してしまった。
その有様を見て尚隆はむらむらとする。
本当なら陽子の膣内(なか)を思うがままに突いて、二人を高みに押し上げるのは、自分の怒張の筈だった。
陽子の乳房を弄り回し、乳首を吸うのは自分の口の筈だった。
しかし、首筋についた赤い跡を見て、胸乳と股ぐらを改めて。見ただけでそれ以上どうにかする気が失せた。
恐らくは丸一日も経たない前に他の男が使った女を抱くほど不自由はしていない。
なのにこの女は文鎮を咥え込み、乳首に触れられただけで簡単に気をやってしまった。
陽子との交合いを心待ちにしていた分、尚隆の中には今、可愛い女への憎しみにも似た感情がある。
やがて尚隆の口元に暗い笑みが零れた。
ならば、他の男が使っていない場所ならどうだ?
尚隆は文鎮を引き抜いた。
陽子のまとわりつく花芯から引きずり出すと、ぢゅぷっとじめつく音がする。
表面に施された彫刻のせいで半濁した蜜がべっとりと絡みつき、ぬらぬらと光っている。
滴るほどに蜜がまとわりついたそれをしげしげと眺める。こんな細い棒一本でこんなに濡らすのか。なんと淫らな女なのだ。
無意識のうちに文鎮に顔を近づけていた。舌を伸ばし、そっと舐め始める。
半年ぶりに味わう陽子の蜜は、今夜も甘露の味わいだった。ひと滴も残さぬように舐め取るにつれて、舌の表面が文様に刺激され、高まった性欲を吐き出せていない尚隆はますます凶暴な気分になる。
男に抱かれたばかりの身体でやって来た陽子自身を責めるように、尚隆は舌で文鎮を犯した。
陽子の掠れた視界の中には、こちらを向いて文鎮を貪る尚隆が映る。
冷徹な瞳の奥に熱っぽいものをちらつかせながら陽子をひたと見据え、舌を長く伸ばしてぞろりと棒を舐めあげて見せる。
その様を見ているだけで陽子の股間は熱を帯び、乳首が再び固く頭をもたげる。
陽子の頭の中で、尚隆の舐める棒と己の身体が同調した。
尚隆の舌が、自分の首筋から鎖骨を通り、乳房をねっとりと舐めあげる。
乳首を甘噛みしてからきつく吸い上げる。
乳房に満足するとわき腹から臍へと下りて、きれいに生えそろった茂みを撫でつけるように何度も往復する。
そして尚隆を待ちわびている秘所へと、熱い舌が生き物のように蠢いて入ってくる。其処を存分に味わった後で陰核を吸い、ついには誰も受け入れたことのない菊座にまで・・・!
・・・とぷり、と音がして、陽子の股間は再び透明な蜜を溢れさせた。
文鎮の表面をすっかりきれいにした尚隆は、改めて秘薬を塗り込め、今度はもう一つの穴を責める。
しかし菊の蕾のような其処は固く窄まって、美しい道具を受け入れようとしない。
「やはり、ここは使ったことがないか」
尚隆はおもむろに陽子の左脚を肩に担ぎ上げ、溢れた蜜を掬って後門に塗り込めると指で捏ね始めた。
再度達して惚けていた陽子が我に返る。
「其処はいやだ、駄目! 尚隆!」
「お前は自分の要求を言える立場ではないのだ」
嗜虐心に煽られ、尚隆は陽子の菊座を揉みほぐす。
「嫌! 嫌、やめてぇ」
腰を捻って逃れようとするのを押さえ込むために両手が必要になり、尚隆は菊座を口で解すことにした。
唾液をたらし込むようにこぼし、舌を尖らせて舐め、口をすぼめてきつく吸い上げる。
そこは少しずつ柔らかくなり始めている。
「はっ、ん、・・・ん・・・くっ」
菊座を嬲られながらも感じているのか、陽子の秘所からは淫らな蜜が恥ずかし気もなく溢れている。もしも手が自由になっていたら、間違いなく自分で秘所を弄り、乳首を抓んでいたことだろう。
「しょ、しょう、りゅう……」
さっき蜜にまみれた文鎮を舐めた上に、菊座に口を付けてしまったことで尚隆の意地も挫けかけていた。とうとう陽子の秘所に直接しゃぶりつく。
「はぁぁっあああああっ」
高く細い声で陽子が達した。
もう陽子は抗わない。それをいいことに右手で花びらを掻き分けながら舌で貪り、左手で取り出した己の怒張を扱く。
ーーー畜生、畜生、畜生! この女と交わりたい。意地も誇りも捨てて抱いてしまえたら!
お互いに相手が欲しいのに、陽子の全身に舞い散る花びらが、頑としてそれを阻んでいた。
口の周りがべとべとする。
秘所からにじみ出る愛液のせいなのか、そこを舐める己の唾液のせいなのか、尚隆にはもう判別がつかない。
動きの鈍くなった陽子の様子を見やると、執拗な責めを繰り返されてもうほとんど意識を手放しているようだった。
それに構わず、女の足を両肩に担ぎ直すと、再び股間に口を当てる。さらに深いところを舌で抉るように舐め、小刻みに震わせてやる。先刻すでに気をやっている女はもはや微かなうめき声しか出せず、男のなすがままだった。
舌の腹で剥け上がった陰核をぞろりと舐めると新たな蜜が湧いてくる。舐めれば舐めただけ、新しく透き通った蜜が溢れてくる。その湧き出す源に唇をぴたりとつけてすすり上げた。
女の両脚がぴんと張ったと思うと微かな声で名前を呼ばわり、そのまま気を失った。
尚隆はゆらりと立ち上がる。
「この期に及んで、呼んだか」
自嘲するかのように言葉を吐き捨てた。
先刻一旦手に取った美しい文鎮の、丸みを帯びた一端に改めて軟膏を塗りつけると、手足を繋がれたままの女を俯せに返し、その尻たぼをくつろげて隠された穴にあてがった。
丸い先端でつつくように抉ってやる。弛緩した女の身体が微かにうねり、見るだに小さなその穴に文鎮が飲み込まれてゆく。およそ3分の一ほどが入った辺りで、女の腰が淫らに蠢き始めた。催淫剤の効き目は意識を失っていても反応してしまうほどであるらしい。
文鎮をかき回すような動きで出し入れしながら、再び己のものに手を添える。
怒張は痛いほどに反り返っていたが、この夜はまだ一度も精を放っていなかった。
誰かのお下がりの膣は願い下げだが、後の門は試してみたい。しかしようやく入るようになったばかりの文鎮に比べて、尚隆のものはいかにも太かった。
このままでは壊してしまう。
失神した女の身体を見て、その尻の上に吐精してしまおうかとも思ったが、これから来る筈の客のことを考えれば無闇に刺激することは得策ではあるまいと思い直し、手早く手巾に吐き出すように処理をする。
尻の穴から文鎮を抜き取り、それも手巾できれいに拭き取って書見台に戻す。
それでぎりぎりに間に合ったのだった。
- 3 -
臥室の扉を半開きにしたままで居室に戻ったところへ、ほとほとと扉を叩く音がし、外から取り次ぎの官が来客を伝える。
「景台輔がお見えになりました」
「お通ししろ。そして人払いを」
言いながら緩んだ袴の紐を締め直す。
そこへ、玲瓏たる面差しの、白銀に見えるほどに淡い金の髪を持った慶国の台輔が、奥の牀榻に気を失ったまま捨て置かれている女の下僕(しもべ)が、静かに入ってきた。
「景台輔みずからが、こんなに早く出向かれるとはな」
尚隆は微笑みさえ浮かべて景麒に椅子を勧めた。自分の舞台に相手を引き込んだ延王には余裕がある。
対する景麒はいつもながらの感情の読めない表情だった。
「致し方ございません。あの鸞(らん)の知らせを聞いたからには」
先刻、陽子を繋いでから青鳥を飛ばしておいたのだ。返事が来るとは思っていたが、まさか慶国の台輔本人が直接来るとまでは想像しなかった。
景麒を見据える尚隆の瞳に力が入る。
「というからには心当たりがあるか」
「延王君からの鸞の伝える言葉の意味を読みとった者は、金波宮では私一人かと」
静かに答え、濃紫の瞳が延の顔を正面から見返した。
ーーーこやつ、なかなか。
「つまり景王の昨夜の行状を問い合わされる理由に察しがついているということか」
「恐らくは」
「主が俺と乳繰り会うのを知って悋気に逸り、痕をつけて所有欲を示した、と受け取って良いのかな」
いきなりの本題、乳繰り合うという言葉に僅かに景麒はたじろぐ。
そういうことだろうと薄々察してはいたが、当の相手からこうもあけすけに語られると、自分でも意識していない部分で堪えるものがあった。
ーーー痕を……
口の中でつぶやくと、改めて尚隆の目を見る。
「所有欲、というお言葉の意味が解りませんが」
「そうか? お前になら通じるかと思ったが」
さあ・・・、と麒麟は受け流した。
「とにかく景王陛下には、俺の問いには一言も答えては下さらん」
そう言って尚隆は景麒の反応を見る。
「しかし相手が誰であろうと、他の男の徴を体中に刻み込んだ女など、抱く気にはならん」
抱く、という言葉を、景麒は微かな痛みと共に受け止めた。
「延王君には、その相手をお知りになりたいのですね」
「相手と、その理由とを聞かせてもらいたい」
その語気からは、知らずには置かないという気負いが滲んでいる。
「主上が仰らないことを、下僕の私がお応えするのは憚られます」
「俺には誰かを庇ってのことと見えたのだ。その誰かは鸞の伝言の意味が判るに違いないともな」
尚隆の言葉が刃のように景麒を追いつめる。
「それでは、主上は今、どちらにおいでなのでしょうか」
密かに眉を顰め、あくまでも平静を装った景麒が問う。
「牀榻の上に放ってある」
「聞き捨てなりませんが」
「抱いてはいないが、気をやって失神している」
「それは……」
ーーーどういう意味だ。
「感じやすい身体になったものだ。俺の手と口だけで気をやった」
景麒の沈黙を読み取って、尚隆は言葉を継いだ。
「強情に口は噤んでいたが、最後に」
「なにかおっしゃっていましたか?」
案の定、景麒が食いついた。
「お前の名を」
「は?」
「最後にお前の名を呼んで果てた」
「それは……」
表情の薄い男の口元に、明らかに満足の笑みが浮かぶ。ちらりと。
「説明して貰えるのだろうな」
僅かに間が空いた。
「こちらまでまかり越しましたからには、言い繕っても意味がありますまい」
そして景麒は真っ直ぐに尚隆の目を見た。
「この一週間というもの、主上は雁で大切な話し合いがあるのだからと仰って、誰も寝間に入れず、毎晩遅くまで調べ物をなさっておいででした」
どういう順序で語れば筋道が通るのか、考えながら景麒が切り出す。
「それと前後して私は発情期に入っていましたが、主上のお邪魔をする訳にはいかないと、なんとかひとりでやり過ごそうとしていたのです」
そこで、視線が逸れた。
「しかし、昨日は主上が発情期の牝の匂いを発せられていて、うっかりとそれを嗅いだ私は反射的に盛ってしまいました。そうなるともう、誰かと番わずには収まりがつかなくなります」
尚隆が、ほう、と言うように片眉を上げた。
「すぐにもなんとかしなければならないと焦ったものの、他に手だてを思いつけず、厩の騎獣で手頃な大きさの牝を探そうとしていたのです。麒麟は、発情期の最も盛んな時期は、獣の姿で妖獣と交尾することも厭いませんから。
けれど夜陰に乗じて厩に向かう所を主上に見咎められ、主上は私にそれをさせまいと、ご自分の体を投げ出されたのです」
景麒は改めて尚隆の顔を見た。
「それが昨夜のことでした」
尚隆は一度たりとも景麒の表情から目を離してはいない。
「発情期の牝の匂い?」
その例えが興味を引く。
「麒麟なら、いえ獣なら判ります。主上は……」
ここで一旦口ごもり
「今にして思えば、延王君とのことを脳裏に思い描かれて発情しておいでだったのかと」
しばしの沈黙が落ちる。
相変わらず生真面目で不器用な主従だ、と延は心の中でひとりごちた。
しかもこんな、尚隆からすれば青臭いとさえ感じるような理由を大真面目に聞かされては、それに拘っている自分の方が悪役に思えてきてしまう。
「うちの台輔とは随分違うようだ。あれは女怪と2〜3日一緒にいれば治まってしまうようだが」
それには景麒は薄く微笑んで応えた。
「身体の成長の度合いが違います。見かけだけなら私は延台輔の倍の年頃でしょう」
そう、六太とは違う。景麒は成熟した牡の麒麟なのだった。
本来ならば他人に明かしたくなど無かったであろう秘め事を語り終えて物思いに沈んでいるらしい麒麟を視界の隅に入れながら、尚隆は考えを巡らせていた。
「ひとつ趣向を思いついた。景台輔には是非ともおつきあい頂きたいのだが」
「趣向……で御座いますか?」
景麒が警戒するように聞き返したその時、奥の部屋から気配がした。
男たち二人、それぞれに異なる緊張感でそちらを窺う。
「景麒、五十、……いや百、ゆっくりと数えたら部屋に入ってこい」
相手が従うことを疑いもしない言い方で命じると、景麒を扉の手前に足止めさせて、延王・尚隆がひとり臥室の中へ入ってゆく。
否応なしに、薄闇に包まれた居室でひとり、景麒は隣室の気配に耳をそばだてることになった。
ーーーいち・・・
「しょうりゅ……」
掠れた声がする。確かに主のものだが、今までに聞いたことのない声音。
「気づいたか。今明かりを点けよう」
尚隆の声は限りなく優しい。
それと前後して隣室から景麒の待つ部屋へ、扉で縦にくっきりと切り取られた光が差し込んでくる。
光の当たらない扉の陰に立ち、男の声に含まれた紛れもない情愛の念を聞き取って、景麒は黒く重い気持ちが腹に蟠るのを感じた。
「陽子」
呼びかけて尚隆は陽子を改めて見る。
事情を知ってしまった今となっては最早身体の痕に拘る理由がなくなり、ただ陽子を愛おしく思うばかりだ。たまらずにその朱唇を吸う。牀榻の脇に跪き、繋がれて身動きのならない陽子の頭を抱え込んで丁寧に吸い上げてゆく。
ーーー六
ようこ、と呼ぶなら、隣室にいるのは確かに景麒の主人(あるじ)だ。
もっと声がしないかと聞き耳を立てる景麒に聞こえてきたのは、唇がついては離れる密やかな音。
舌を絡め唾液を交わす湿った音が続き、口を塞がれて鼻に息がまわる、んっんっと短く区切る甘い声が混ざる。
景麒は両拳を握りしめ、隣室に背を向けて壁にぴたりと身体を押しつけた。そうしていないと臥室に飛び込んで行ってしまいそうな自分がいる。
ーーー五十・・・
長い長い口づけが終わり、尚隆が顔を離した。
まずは壁の環から紐を外す。ついで陽子の目を真っ直ぐに覗きこむ。翡翠の色をした瞳に己の姿が映っている。
見つめ合ったまま自分の衫の細帯を解くと、それを陽子に見えるように掲げた。
「尚隆?」
「お前を可愛がりたいのだ」
低い低い声で尚隆が言い聞かせる。
「お前がとろけてしまうまで、身体中可愛がってやりたい」
それを聞いて、陽子の瞳が欲望に煙る。
「だが、他の男の印をつけているおまえの身体を愛撫するところを、当のお前に見られたくない。
お前はただ身体だけで感じていればいい」
「そう…なのか?」
「そうだ、陽子」
そしてしっかりと目隠しをした。
「あ、しょうりゅう……」
ーーー七十二
「陽子、これを…」
衣擦れの音、微かに乱れる息づかい、再び聞こえるぴちゃぴちゃと鳴る音。
「しょうりゅ……んっ」
ーーー百!
初めて立ち入る他国の王の臥室。景麒は瞬時に部屋の様子を見て取った。
尚隆は扉に背を向けて広い牀榻の脇に膝立ちしている。頭は延王の陰に隠れて見えないが、主の身体が斜めに横たわっているのが判る。
入り口で立ち止まった景麒を振り返ると、口に指を立てて見せ、尚隆は無言で手招きした。
その意図を汲みかねながら、室内に入って臥室の扉を後ろ手に閉じる。
そして初めて目にしたのだ。主の乳房一面に鏤められた赤黒い花びらを。
あれをつけたのが自分なのだろうか。昨夜のことは、本当に全くと言って良いほどに覚えていない。
厩へ向かおうとしたところを主が身を挺して留め、多分そのまま二人、執務室にもつれ込んだ。
主の方から唇を重ねてきて、それが引き金となって歯止めを失い、床の上で犯した。
それは、今日の午後、鸞の伝言を受け取って、取る物もとりあえず雁に向かう道すがら考えて導き出した状況だ。
景麒にとっては他の女も牝獣も、ただ一人の女(ひと)の身代わりに過ぎない。あれほどに切羽詰まれば身代わりを考える余裕すらない。
五感の全てが主一人を欲し、繰り返し繰り返し貪ったように思う。何度精を放ったかも覚えていない。意識をなくして尚、女の腰を穿ち続けたのかも知れない。
性的に成熟した麒の発情期の性欲とは、それほどに凄まじい。
そして今朝早く気づいたときには主の姿は既になく、全裸で床に横たわっていた景麒は、慌てて身繕いをし、散らかった室内を整えたのちに朝議に出たのだった。
下官に確かめたところでは、王は予定通りに雁へと向かったという。それでは主上は無事だったのだ、自分はあの女を抱きすぎて壊しはしなかったのだと胸をなで下ろし、安堵していたのだ。
延の声で語る鸞の知らせを聞くまでは。
つまり景麒にとってはそれ以来目にすることになる主だが、それが鮮やかな緑の細帯で両手の自由を奪われて、仰向けに横たわっている。
見慣れているはずの官服が、乳房をさらけ出し股間を剥き出しにすることで、目を疑うほどに淫靡な衣裳に見えてしまう。
数歩進んで、さらに目を疑う有様が目に入った。
牀榻から乗り出すように頭を仰け反らせ、男物の青灰色の細帯で目を塞がれている主。
その傍らの延は既に袴を脱ぎ捨て、衫一枚を肩から緩く羽織っている姿。
そして主の口には尚隆の牡の印がしっかりと咥えられていた。咥えているだけではない、唇が妖しく蠢き、男の器官にしゃぶりついている。手が使えない分、口だけでしゃぶらねばならない陽子は、みっともないほどに大きく口を開き、口角から零れた涎が耳に向かって流れている。
その光景から目を離すことが出来ない。まだ発情期のただ中にある景麒は欲情していた。
- 4 -
尚隆がまだ半立ちの己の物に手を添える。
軽く揺り動かされるそれを追って、陽子は親鳥の餌を待つヒナのように首を振る。
桃色の舌が尚隆のそれを熱心に舐る様を、景麒はその場に立ちつくし、ただ見つめていた。
「そうだ、陽子。上手くなったな。自分の王宮で研鑽を積んだか」
尚隆の言葉嬲りに、陽子が首を激しく振って否定する。
ーーーそうだ、少なくとも自分のものにはされたことがない。あの王宮で他の男たちにしているとも考え難い。まず間違いなく相手が尚隆だからこその痴態から、目を逸らすことができない。
尚隆は陽子の口だけを構って身体をがら空きにしていた。それが意図的なものだということが景麒には判る。
陽子は魔羅しか与えない尚隆にじれて、手首を縛られたままで自分で胸を弄り始めた。
自由にならない手で何とかして快感を得ようと、徒に乳房を擦っている。
そんな陽子を尚隆は情欲に満ちた視線で眺め、そして再び景麒に視線を走らせた。
そこに至ってついに景麒の中の何かがはじけた。
つかつかと近寄り、延王の許しも乞わずに牀榻に上がり込むと陽子の腹の上に跨る。
視覚を奪われている陽子は突然の第三者の登場に驚愕したが、尚隆が頭をがっちりと押さえているので身動きが出来ない。
思わずうなり声を上げる陽子に「歯を立てるな!」と尚隆の叱咤が飛んだ。
戒められたままの陽子の両手を上に上げ、景麒は乳首にいきなり食らいついた。
赤く色づいた愛らしい乳首。いつもなら散々に焦らして周りからねっとりと責め上げてゆくそこを、初めから舌で転がし、前歯できつく噛む。
もう片方の乳房をひんやりした手で形が変わるほどに強く握り、一番感じ易い先端を親指の腹で刺激した。
「け……けい・き…!?」
陽子の顎に力が入ってしまうので尚隆が魔羅を外した、その瞬間に、あり得ない事実を確かめる声が挙がる。
「ほう、さすがだな。乳を吸われただけで、愛しい男の愛撫だとわかるか」
愛しい男、という一言が、三者三様微妙な波紋を投げかける。
「数え切れないほどに身体を重ねておりますから」
冷然と景麒が言い放つ。
「え…、いやっ、いやぁああーーーーーーーっ」
その声に事実を現実と認めた陽子が絶叫した。
「大きな声を出すな」
尚隆の掌が陽子の口を塞ぐ。
景麒は黙ったままで両手で包み込むように陽子の左右の乳房を愛撫した。固く立った乳首を掌で転がしてその感触を味わう。
次いで帯を解き、大きくはだけさせて陽子の身体を露わにする。全身に加えられた陵辱の跡が痛々しい。
分別をなくしていた自分が着けた跡を、冷静さを取り戻した自分がなぞってゆく。
一つ一つの花びらに慌ただしく口づけを落としながら、癒されてくれ、赦してくれ、と願う自分がいる。
そして景麒は陽子の股間に顔を埋めた。
いつもならこんなに性急な愛撫はしない。徐々に高めて高めて頂上まで押し上げてゆくのが普段の愛し方だ。
しかし昨日、今日の景麒にそんな優しさはなかった。
目の前で他の男の愛撫を受け入れ、あまつさえその器官を口で愛撫していた主に向かって、今までに感じたことがないほどに欲情している。
秘所を包む襞を一枚ずつなぞり、上下の合わせ目に舌を這わせた。更に舌で陰核を剥き上げる。
ころりとした陰核を探し当てて唇で吸った。
刺激が強すぎるのか、陽子が腰を振って逃れようとする。
それを無視して、今度は陰芯に尖らせた舌を差し込んだ。
啜っても啜っても溢れてくる淫らな蜜を、喉を鳴らして飲み込む。更に奥を探って陽子の柔肉が舌を押し戻そうとするのを無理矢理かき混ぜた。
愛液にまみれてテラつく顔を上げると、尚隆が再び己の物を陽子の上の口に突き入れているのが見えた。
二人の目があう。
尚隆の手が陽子の乳房を掴み、絞り上げた。
身を乗り出して、絞り出され充血した乳首に吸い付く。いや、噛みつく。
尚隆が乳房を揉みしだき、景麒が乳首を吸う。
間に有る陽子は泪を流しながら尚隆のものを咥え、両脚は未だ着衣を解かずにいる景麒を蟹ばさみして腰を振り始めていた。
「淫らな女だ」
「本当に」
「そそられるな」
二匹の牡が視線を交わし、ふっと笑み交わす。
尚隆が如何に女好きとはいえ、一人の女を他の男と同時に乳繰り合うなどは、したことは愚か、考えたことすらなかった。
それがこの夜こうなっているのは、その女と相手の男との分かちがたい関係故だ。
尚隆はこの女が欲しい。しかしこの女と交わるたびに、彼岸に相手の男の陰が見え隠れする。
今夜三人が揃ったのは偶然だが、有る意味では必然に導かれたのかも知れないと思う。二人の関係を気にしているくらいなら、いっそ共に女を抱いてしまえばすっきりするかも知れないと、半ば自棄になっての思いつきだった。
不意に景麒が陽子から離れた。
「延王君におかれましては、今宵はまだ主上の膣内(なか)を味わっておられないのでしょう。
どうぞお使い下さいませ」
「ずいぶんと温情のあることだな」
応えて羽織っていた衫を床に落とすと、尚隆は一糸まとわぬ姿になる。
股間にそそり立つ唾液でぬれぬれとした赤黒い凶器を見て、景麒の意識の隅に、あれを主が受け入れられるのかと一瞬の危惧が浮かぶ。
「なら、景麒。お前この女に魔羅を舐らせたことはないのだろう?
それを試してみるがいい」
ーーー先ほどの自分の反応を見透かされていたか。油断のならないお方だ。
景麒も自分の袍衫を脱ぎ捨て、細く引き締まった体躯を露わにする。
その間に尚隆は牀榻に上がり、陽子の右足の戒めを解いた。
陽子に大きく脚を広げさせると身体の上にのしかかり、充分に潤い、男の器官を味わうのを心待ちにしている女の強欲な女陰に、一気に突き入れる。
一方景麒は先ほど尚隆がいた場所に位置を取り、目隠しをされた陽子の頭を押さえ込む。
「景麒?」
「主上」
認識のためだけに名を呼び合う。
今し方まで延王の器官をしゃぶり、そのすぐ前には延の舌と唾液を貪っていたその口を、景麒は乱暴に貪る。
口の中をきれいにすると、天を向いた怒張を押し下げて、まあるく開いた主の口に押し込んだ。
罠を張って待ちかまえていた牝蜘蛛の巣のように、陽子の口が景麒を呑み込もうとする。
尚隆に仕込まれた舌技で景麒を搾り取るように吸い上げる陽子。
昨夜、あれほどに交合っていなければ瞬時に達してしまったであろう快感に、景麒の頭の芯が痺れた。
一方の尚隆も、先程一回抜いておいたからこそ、何とか耐えられる締め付けを味わっていた。
半年ぶりだ。何度も反芻した記憶の通りに女はきつく、搾り取るような蠕動が尚隆を直に刺激する。
「ぁあ。良いな、お前の道具は」
満足そうに言う尚隆の言葉に、陽子の膣が締め付けを増した。そして尚隆の眼前では、景麒が己の物を陽子に咥えさせていた。
視るともなしに、その動きが目に入る。
尚隆は色白な景麒の金色の陰毛と、其処から突き出した赤みを帯びた器官が陽子の口中を嬲る様を見た。
正丁ともなれば他の男の逸物をおいそれと目にする機会はないし、ましてやそれが怒張を張って女と番っているところはそもそも他人に見せるべきものでもない。
故に、景麒の細身の剣のようにしなやかで長いものと、普段見慣れた己の、喩えるならば段平のように太くて逞しいものの対照が新鮮だった。
これなら自分のものでは馴らしきれない陽子の菊座も受け入れられるのではないかと思いつく。
嫉妬はない。
同じ女をそれぞれのやり方で愛することが楽しいと思う。この女を悦ばせることができればそれで良いと思う。
相手の男がどう感じるかは知らず、思いついたからには図らずにはいられない。
そうだ、と思い出したように言ってみた。
「おまえ、後ろを試してみるか?」
自分に話しかけられたのかと気づいて、陽子の口内の感覚に陶然としていた景麒が尚隆を見た。
「後ろ?」
「そうだ。まだ馴らし終えていないが、お前のモノなら使えるかも知れん」
「後ろと申しますと……」
「何を言っているか判らんか?」
此処まで来たからには既に退路は断たれている。
思わせぶりな尚隆の笑みに、景麒は更なる深みに引きずり込まれる気がした。
尚隆の熱く太い物に半年ぶりに女陰を突かれ、尚隆以外では初めて味わう景麒の物の感触に溺れ、陽子の意識は朦朧としている。
陽子の意志の及ばないところで、男達は話を進めてゆく。
- 5 -
「いたしましょう」
覚悟を決めた景麒は淡々と答えた。
尚隆は陽子の手首の戒めを解いた。袖だけで身体にまとわりついていた服を取り去り、ようやく一糸まとわぬ裸体になった陽子を抱きしめて仰向けに寝返りを打つ。繋がったまま腹の上に乗せた。
「主上、尻を持ちあげて頂きたく」
「え……?」
陽子はまだ事態が飲み込めていない。男たちが結託して自分を貫こうとしている事実が見えていない。
尚隆が陽子の背中に手を回した。頭を押さえ込むように抱きかかえられ、自然と腰が突き出されてしまう。
景麒は陽子の背後に立つと尚隆の足を跨ぎ、片膝をついて位置を取った。前屈みになって陽子の菊座に舌を這わせ、更に中指を舐めて濡らすと穴の中に突っこんだ。
「あぁうっっ」
陽子が頸をそらせて声をあげる。尻の穴がきゅっとつぼんで景麒の指を咥えこむ。同時に尚隆の怒張がぐぐっと締め付けられた。
「ぅぉおおおっ」
尚隆が吠えた。
反射的に下から思い切り大きく女陰を突き上げる。跳ね上がる陽子の身体に、景麒は指ごと持って行かれる。
そして尚隆のものが深く刺さる速さを、ぬめる粘膜越しに指で感じ取った。その指を陽子の後ろの穴が万力のように締め付けている。
「延王君、しばしお待ちを」
言って尚隆の腰を落とさせて、景麒は指を抜く。
陽子の口からほっとしたような声が漏れた。それが限りなく愛おしい。
今度は二人の繋ぎ目から滴っている蜜を掬って菊座の中心に塗りたくると再び挿れた。先程よりも柔らかさを増しているその場所を、更に指を増やして捏ねる。先に文鎮と催淫薬とで馴らされたそこは、二本目、三本目の指も難なく呑み込んでゆく。
指の腹が、粘膜の内部の吸い付く感触と、薄い肉壁を通して形をなぞることの出来る尚隆の逸物とを探る。
陽子の滑らかな肉壁がうねるような蠕動を繰り返している。
今一度指を抜き、陽子と尚隆とで混ぜ合わせた淫らな蜜を己のものと陽子の菊座に塗り込める。動かないように尻たぼを掴み、片膝立ちの体勢から景麒は一気に押し入った。
「あっ、ぐっ…ぅ……」
歯を食いしばる陽子の口から獣のような唸りが漏れる。
陽子の粘膜が、根本まで埋め込んだ景麒を締め付ける。かつて味わったことのない締め付けに、景麒が認識できる感覚の全ては、今繋がっているその場所に集約する。
そしてもうひとつ。これも今までに味わったことのない、異物感。
尚隆もその異様な感触に気づいていた。もとからきつい陽子の膣圧に加えて、誰かが僅かでも動くと、ぐりぐりとした感触が肉棒に伝わってくる。
二本の肉棒を貪欲に呑み込んだ陽子を夾んで、二人は動けなかった。
薄い肉壁越しに、互いのものが腹を合わせている生々しい感覚。
それは二人で同時に一人の女を愛しているという実感。
どちらもが分かちがたくこの女を大切に思っていることの証左。
女は二人を同時に受け入れてくれたのだった。
しかし何時までもそうしている訳にはいかない。
景麒はやっとの思いで意味の通りそうな言葉を紡いだ。
「同時に動けば、主上のこの淫らな穴が裂けるやも知れません。延王君におかれましてはどうぞお先に……」
二度に亘って尚隆に先を譲ったのは、昨夜の己の行状を償いたい気持ちと、王と台輔という、陽子と自分との関係に生じる分かちがたい優位性に他ならない。
「よかろう」
尚隆にとっては景麒の胸の内はこの際どうでもいい。陽子の身体を味わうことが全てに優先する。
答えて、突き上げるのではなく大きく水平に回転する動きで膣内(なか)を捏ね始めた。陽子の腰を掴んで、位置がずれないように抑えている。
―――これは。この感覚は・・・。尚隆が動くたびに締め付けを増す陽子と、もう一つ感じるこの動き。
景麒は直にそれを感じ取り、陽子の尻を掴んで身体を支えながら動きを合わせた。
二人に夾まれた陽子自身に、自ら動く自由はない。既に身体の大半は牀榻から離れている。尚隆の腹に乗って支えられている部分と、上から景麒に押さえ込まれてなんとか落ちずに済んでいる部分とで、ようやくその場に留まっているだけだった。
さらに胎内を大きく攪拌される感覚に翻弄される。
尚隆の肉棒が膣内を強く抉って次々に快感を送り込んでくる。
それを受けるだけで、陽子はもう精一杯だった。
景麒が陽子の髪を掴んで肩越しに大きく仰向かせ、だらしなく開いた唇を貪った。腰の動きに引かれてともすれば離れそうになる唇の替わりに、視界を塞がれたままの陽子が大きく舌を突き出して相手を求める。景麒が舌を伸ばしてそれと絡めようとする。
一方で、陽子が振り向かされている分、反対側の肩と乳房が前に突き出される。
半身を起こして、それを尚隆は頬ばった。この体勢で微妙な力加減など出来るものではない。大きく充血した乳首に噛みつく勢いだ。
男たちの頭を掴んで辛うじて宙に浮く体勢を支えているが、口と乳房と女陰と菊座とを同時に犯された陽子の意識は既に飛んでしまっている。誰がどこを犯しているのかも判らない。
男たち二人も、己を咥え込む陽子の媚肉の感触を感じとり、手や皮膚から感じる肌の滑らかさに酔い、それぞれの堅さと動きとを直に感じ合ってしまうこの不可思議な状況に、常ならぬ昂奮を味わっていた。
まず尚隆が達した。陽子の膣内(なか)におびただしい量の精液を撃ち込む。
怒張から迸る粘液の脈動が生々しく伝わり、景麒のものが嘗て感じたことのない感覚で刺激される。
そして尚隆のものが勢いを失わずに繋がっているままで、待ちきれずに景麒は動き始めた。
まだ馴らし終わっていないゆえに、少しく手加減をしながらも後門を犯す。
きつい。
女陰のようにくるみ込む柔らかさはなく、ただただ環のように締め上げる肉の穴。それがまた新鮮だった。
陽子の肉が妖しくくねり、感じていることを示している。
景麒の喉から声が漏れる。景麒を搾り取ろうとする陽子の後ろの口の欲深さに腰が抜けそうになる。
景麒が尻に集中している隙に、達したばかりの余勢を駆って尚隆は陽子の口を貪った。顔を抱きかかえ、口中を舐めまわす。
陽子のあまりのきつさに、景麒は激しく動くまでもなく達した。
そのまま陽子の上にのしかかる。今度は尚隆が景麒の迸りを感じ取る番だった。
二人は陽子の肩越しに目と目を見交わす。
互いに涎にまみれてテラつく口元、達して満足した直後のどこか放心した眼差しが、言葉よりも雄弁に互いの思惑を語り合う。
先に景麒が抜いて陽子から離れ、ついで尚隆が離れた。
広い牀榻の上で、ぐったりした陽子を夾んで川の字に横たわる。
荒い息を整え、体内に籠もった熱が冷めるに任せる。
- 6 -
どれほどの時が経ったものか。牀榻を照らしていた明かりがふっと消えた。
人工の明かりが消えると、雲海に向かって張り出した窓から差し込む月光が冷たい光を降り注いでいるのがわかる。その光が牀榻に横たわった三人を照らし出す。
陽子が身動ぎをした。
「……ぉい……な…」
「どうした、陽子?」
「ひどい…な…。二人、とも」
「主上?」
「二人…で、示し合わせて、いた…のか……こんな、ことを」
陽子の手がだるそうに動いて、目隠しをはぎ取った。
「そんな…」
その言葉を景麒は誤解だと否定したかったが、この半日の出来事をどうすれば主に釈明できるのか自分でも判らない。
しかし尚隆は傲然と言い放った。
「お前がそう考える方が納得できるというなら、それで構わん。なにがどうあれ、したことに変わりはない」
「延王」
「違うか? 景麒」
尚隆は落ち着き払って問い返した。
「俺たちは二人とも陽子と乳繰り合いたかった。陽子と交合って精を放ちたかった」
そう言って陽子の方を向く。
「そうだろう、陽子。お前も俺たち二人を受け入れたのだから同罪だ。それに」
と、尚隆は言葉を継いだ。
「景麒は盛っていたときに、その気になれば金波宮の女官と番うことも出来たのだ。どこの城でも台輔の情けを欲しがる女官はいるものだからな。
それを敢えて騎獣でいたそうとしたのは、お前以外の女と交わりたくないからだということぐらい、お前、わかっているんだろう?」
それには答えず、陽子は寝返りを打って天井を見る。
雲海に照り返す月光の移ろいが、高い天井に映ってちらちらと揺らめいていた。
「乾いた…」
天井の影を見て陽子がつぶやく。
「水を取ってこよう」
気軽に言って尚隆が牀榻を下りた。下りて己の腰の重さに気づいて苦笑する。
隣室の水瓶から大ぶりの碗に水を汲んでくると、尚隆は己の口に水を含み、陽子の上に覆い被さって口移しに飲ませた。陽子の全身に芳しい潤いがしみ通る。
「もっと」
甘えた声で言う陽子に再び与えると、陽子はそれを含んだ口で景麒の上に寝返りを打った。
合わせた唇の隙間から水を落としてやる。
「主上……」
ぼんやりと麒麟が呼ぶ。
今度は自分で碗の水を含み、半分を飲み下して残りを景麒に与えた。景麒の舌が陽子の唇をそっと舐めた。
「正気づいたか」
言って、再び仰向けに横たわる。
「示し合わせていないとしても、そもそもどうしてお前が此処にいるんだ」
核心を突かれて景麒は言葉に詰まった。
「俺が呼び出したのだ」
延が助け船を出す。実際、此処は尚隆が返答するしかない場面だった。
「それにしたって自分たちばかり良くなって……、私一人が取り残されているようだ」
つい不満そうな口調になってしまう。
「可愛がり方が足りないと抜かすか」
「そういうつもりじゃないが」
此処まで酷使されると、正直これ以上の愛撫は面倒くさい。
かといって、二人の男に文字通り「使われた」気のする身体は、本当に欲しかった愛撫を未だ与えられていないと感じている。
尚隆が碗に残った水を飲み干した。
「景麒、回復したか」
「何とか」
陽子の身体越しに二匹の牡が目を見交わした。
それを合図に、二人は陽子の左右の乳房に覆い被さった。
「あふぅ……」
微かなため息一つを漏らして、陽子はそれを受け入れる。
牀榻の上に広がる紅い髪とのびやかな褐色の身体。
その左の乳房に淡い金の髪、右の乳房に豊かな黒髪の男が取り付き、舐め、しゃぶり、吸い上げる。
力強い大きな掌と、繊細な長い指とが、それぞれに己の取り分の乳房を揉みしだき、愛撫する。
陽子の手足はそれぞれの男の手足で押さえ込まれてしまっている。
牀榻に磔になって、陽子はただ愛撫を与えられるばかりだ。
尚隆の舌がぞろりと乳首を舐め上げる。
景麒の歯が尖りきった乳首をこりこりと甘噛みする。
男たちの手が陽子の身体の上を這い回り、やがて股間へと到達する。
景麒の指は先刻尚隆のものを咥えていた穴にぬるりと滑り込み、中に溜まっている尚隆の残滓を掻き出した。
尚隆の指が先刻景麒のものを受け入れたきつい窄まりにあてがわれ、昼間は入れられなかった指を根本まで捩入れる。既に柔らかくされた上に景麒の残滓で滑りの良くなっているそこを、指を曲げて出し入れすることで更に馴らしてゆく。
陽子は天井のたゆとう影に意識を委ね、繰り返す波に身を任せている。
全身が快感を感じる受容器となって、貪欲に愛撫を吸収してゆく。
身体の重みが消え失せて、どこか高いところをたゆたっている。
誰かが脚を抱いて指先から指の股まで一本ずつ丁寧に舐めしゃぶっている。
誰かが顔を押さえて口の中に指を差し入れてくる。
ぬるぬるとした粘液の着いた指を陽子は夢中になって舐めた。
口から遠ざかる指を追って舌を伸ばすと、そのまま誰かの口中に吸い取られた。
じゅぷじゅぷと水音を立てて舌が吸われる。
身体が更なる高みへと追い上げられてゆく。
腰から下を捻るように裏返されて、脹ら脛、膝の裏、太股の裏と誰かの愛撫が少しずつ上がってくる。
両肩を牀榻に押しつけられて無理矢理上を向かされている胸を独占して、誰かが顔を埋めている。
上側の足を前に上げられ、尻たぼが割られて横様に菊座が剥き出しにされる。
誰かの舌が其処を責める。既に肉棒に犯されている其処が易々と舌の進入を許す。
腰から上も俯せにされながら、鎖骨、項、肩胛骨と愛撫の範囲が移動してゆく。
艶やかな赤毛を弄ばれて、それが背筋を震わせる程の快感を呼ぶ。
完全に俯せになった陽子の腰の上で男たちは出会ったようだった。
上昇と下降、それぞれの位置が入れ替わり、荒い息づかいとちゃぷちゃぷと鳴る舌の音が陽子の身体を埋め尽くして行く。
上へ、追い上げられてゆく、快楽の極みに。ようやく上りついたと見れば、そこから更に上に向かう道がある。
これ以上昇ったら墜ちてしまう・・・。
敷布を掴んで陽子が耐える。
再び表に返され、今度は両手首を軽くまとめて頭上に上げさせられた。
脇から乳房の付け根を責められる一方、先刻とは別の舌使いの牡が陽子の口を貪る。
口中に押し入った舌を陽子は夢中になってしゃぶった。
乳房の付け根から臍へと向かった愛撫が陽子の緋色の恥毛を撫でつけ、そこから指が独立した意志を持つ生き物のように陽子の秘所を襲う。
脚を割られ、花芯に熱を感じる。
視られている。
思うだけで蜜が溢れる。
獣じみた舌が蜜を啜り、剥けきった陰核を包むように舐める。
陽子に舌をしゃぶらせている誰かの暖かい掌が乳房を緩やかに揉み込んでいる。
陽子の花芯に熱い舌が進入してくる。
乳首の一番敏感な所が指先で転がされる。
思いも寄らない吐出感に押し止める間もなく半濁した液が勢いよく噴き出し、陽子の股間を責める景麒の顔にもろにかかった。
景麒は落ち着いて口の周りに着いたそれを舐め取り、目にかかった分を指でぬぐう。
おもむろに粘つく指間を広げて見せた。
「主上が淫らだということの証です。味わわれますか?」
尚隆が無造作に景麒の手を取り指を陽子の口に宛うと、尚隆と陽子、二人の舌が同時に舐めた。二枚の舌に指の股まで舐めあげられて、景麒の股間がひりつく。
「頼む……」
この愛撫が始まってから、初めて陽子が人の言葉を発した。
「主上?」
「欲しいんだ、お願いだから」
人の、牝の、鳴き声。
「何が欲しいのだ」
「どっちでもいい、熱くて太いの、堅いのを私の中に挿れて」
陽子の脚が餓えを満たしてくれるものを求めて物欲しげに蠢いている。
「どこに?」
「脚(ここ)の…間……、彼処(あそこ)、…突いて……」
―――今度は先を譲ったりしない。
「延王君、お先に頂戴つかまつる」
どこか切羽詰まった様子の景麒に、尚隆は鷹揚に先を譲って牀榻から下りた。
「昨夜みたいなのは願い下げだからな」
陽子がそう嘯いて、男たちが全てを了解し合っているのに気づいていることを知らせる。
その言葉の意味を理解しながら景麒は陽子を裏返し、既に猛っている怒張を後ろから陽子の女陰に文字通りぶちこんだ。ぬめりを湛えて少し緩くなっている其処は何の抵抗もなく景麒を呑み込む。
尚隆のものの太さには景麒は及ばない。しかし長さでは勝る分、もっと奥まで抉ることが出来る。
高く張った尻たぼを鷲掴みにして、景麒はゆったりと腰を使い始める。
その切先が陽子の新たな頂点を掘り起こし、更に奥の器官への入り口までをも穿ってゆく。
「ああっ、景麒、もっと!」
堪らずに仰け反った陽子の身体をそのまま引き起こした。
尚隆から見えるように胡座をかいた景麒の上に己の体重で刺さってしまった陽子は、その怒張の長さに臍の上まで貫かれたように感じている。
陽子の両脚は左右に開いて座った景麒の膝よりも更に外側に広げられ、為に陽子の秘所は全開になって、そこを出し入れする景麒のもの諸共に隠しようもなく尚隆の視線に晒される。泡だって白濁した液体が繋ぎ目からこぼれ落ち、敷布に染みを作ってゆく。
前夜とは違う、いやいつもともまるで違う景麒の仕口に陽子の官能が昂ってゆく。
手を肩越しに回して景麒の頸に掴まった陽子が、そのまま頭を仰向けに景麒の肩に預けた。双つの乳房が尚隆に向かって高く突き出される。景麒の手が陽子の腰を支え、緩やかなうねりを描いて二人の動きが同調してゆく。
終章
「今は一対一で思うがままに抱くがいい」
見物に回った尚隆は、誰に聞かせるともなく一人ごちた。
気に入りの椅子でくつろいでしまうと、牀榻の上で睦み合う二人は舞台の上にいるようにも見える。
陽子のしなやかな身体は景麒のどんな要求にも見事に反応し、その様は奉納の舞にも似て厳かですらあった。
だが今はもう、二人とも尚隆がそこにいることなど忘れてしまったかのように互いに没頭している。
陽子のあられもない啼き声は、尚隆と景麒、二匹の牡にそれぞれ異なる作用を与えている。
もっと欲しい、もっと善がらせたい、もっと啼かせたい、自分の愛撫で狂わせたい。
景麒のそんな思いを全身に受けて、陽子が淫靡にとろけてゆく。
二人の喘ぎが尚隆の官能を刺激し、腰裏が痺れるような感覚を呼び起こす。
景麒が耳とうなじを執拗に責め、陽子が細い声をあげて啼く。
―――あそこはまだ責めたことはなかった。後で俺も試してみようか。
――自分の番が来たらどんな陽子を景麒に見せつけてやろうか。
考えを巡らせながら尚隆は二人を眺め続ける。
月光の中、紅い髪、褐色の肌の少女と、金の髪、白い肌の青年との交合いは美しかった。
そこに黒髪で日に焼けた肌の自分が加わった構図を思い浮かべてみる。
その機会を窺いつつ、尚隆は体力を養っている。
長い夜の終わりはまだ見えない。
《 了 》