氾王×氾麟
作者5312さん
「あぁぁ…疲れたぁぁぁ……」
心底そう呟きながら梨雪は淹久閣の廊下を歩いた。
泰麒捜索にのために蓬莱に渡る。帰ってきては地図を開き、探す場所を検討し直してはまた蓬莱へ渡る。呉剛環蛇を使ってのこととはいえ、精神的にも体力的にも堪えるものがあった。
「ただいま帰りました。」
金波宮の一廓、淹久閣に用意された王の私室の扉を開けると、梨雪の主・呉藍滌が長榻に横たえた体をゆるりと起こして迎えてくれた。
「ご苦労だったね、疲れたであろ。」
左手で手招きをしながら、右に持った扇子で己が膝を軽く叩く。
いつもは素気ないところのある主の優しい仕草と微笑みが嬉しく、梨雪は吸い寄せられるように主の横に腰をかけた。
「そんな…わたしには側に主上が居て下さいますもの。」
体を傾けると藍滌が梨雪の膝裏に手を入れて自分の脚の上に置き、肩を抱いて体勢を変えてくれた。
――これは甘えていいってことよね…
「景台補は御政務の合間を縫ってのことですし、廉台補はお一人でいらっしゃってますもの。」
指を主の指に絡ませて、男にしては少し薄めの胸に頭を預ける。
落ち着きたい。王気を感じたい。自室には向かわず、真直ぐに王の部屋に来たのは挨拶のためだけではなかった。
「廉台補はとても心細くて、不安でいらっしゃると思います。」
延台補は…と言いさして、梨雪は言を飲み込んだ。いつになく優しい主を、わざわざ怒らせる必要は無い。
「わたくしは主上と来れて、本当によかった…」
絡んだ指が、鬣を撫でる掌が温かい。
――あぁっ幸せ!!
梨雪は心の中で叫んで目を閉じた。
「部屋に戻らないのかえ?」
指を解いて、梨雪の頬を擦りながら藍滌は確認を取るように訊ねる。梨雪は何も言わす目を閉じたまま僅かに首を振った。
「…明日が辛くなってしまうよ?」
笑い含みに甘く問いかけながら、優しく梨雪の体を倒しにかかる。
「平気です…」
主の首に手を回して、誘うように梨雪も重心をずらす。
見つめあうこと暫し、ゆっくりと体重をかけ半分まで体を倒しかけたところで藍滌が梨雪の首筋に顔を埋め、ピタリと動きを止めた。
「……臭う…」
どうしたのかと主の顔を覗き込む。先程とは一変した冷ややかな目をした主と視線がぶつかった。
「…主上?…ぁっっきゃ!!」
乱暴に長榻から落とされる。急にどうしてしまったのか、梨雪はぶつけた腰を擦りながら榻上の主に顔を向けた。
「猿の臭いがするよ」
藍滌は方眉を吊り上げ、爪先で梨雪の胸を突いた。
「…え…」
――まさか!…そんなはずは…
六太と睦みあったのは昨晩の事。湯も浴びたし、勿論襦裙も替えてある。
――あのとき主上は蘭雪堂には居なかったはずだし…
未だ崩されない襟元から情事の痕が見えるわけもない。
――知っているはずがない…分かるはずがない…
「やだ主上ったら、なにかの…」
気が動転するのを抑えて、弁解しようとする梨雪を藍滌が遮った。
「馬鹿にするでないよ、気がつかないとでも思うたかい?…差し詰め小猿の方であろ」
「―!!」
驚きで顔を上げて、すぐさま目を逸らす
――なんでばれてるのよ!?
腕を伸ばし、強引に梨雪の前を割る。露わになった白い肩や幼い胸元には、薄い、しかしはっきりと見て取れる紅色が散っていた。
「いい度胸だ」
一点一点を親指で強く擦る。そのたびにチクリと痛みがはしるが、梨雪は剥がされた襦裙を握ってそれに耐えた。
「こんな体で主の私室に入るなんてね…」
この状態で白を切るのは得策ではない。梨雪は跪き手をついて、藍滌の足元に深く深く頭を垂れた。
「…申し訳…ありませんでした」
「どういうことだい?」
静かに、しかし強い怒気を多分に含んだ主の問に梨雪は震え上がった。
「範国の麒麟はいつからそんなに淫乱になったんだい?延麒に迫られたかい?いや、あれはああ見えて、そうそう強引に事を運ぶ男ではあるまいて…」
目を細めて梨雪を見下ろす。ああ嫌だ嫌だ、と呟くとツイと目を逸らせて眉根を寄せた。
「あの…でも。六太つらそうで…全然眠れてないみたいで…尚隆は男だし…私が何かして上げられたらって思って…」
主を見上げて弁明を試みる。しかし藍滌はいっそうに眉を寄せてこちらに向き直った。
「笑わせるでないよ」
ぴしゃりと言われて梨雪は黙った。
梨雪の顎を爪先で持ち上げ、身をかがめて梨雪の顔を真正面から見つめる
「それは麒麟の憐れみかい?女官もいれば、女怪だっている。それに男には男同士の楽しみ方だってあるんだ…」
閉じた扇子で梨雪の頬を擦りながら藍滌はゆっくりと話し続けた。
「お前が…わざわざ情けをかける必要なんか、ありはしないのだよ」
言い切ると、梨雪の頬を強かに扇子で打った。
陶器のように白く滑らかな頬に薄紅色の一筋がはしる。紫の瞳に涙を溜めて、それでも梨雪は主から視線を逸らさなかった。
「申し訳…ございません」
はらはらと涙を零しながら俯いて主の足指に口をつける。許しを請うように親指を口に含んで、音をたてて吸うが、素早く足を払われ横っ面を叩かれた。
「ぃたぃっ…」
藍滌は至極不機嫌そうに横倒しになった梨雪を見下ろす
「せっかく可愛がってやろうと思うていたのに…興醒めじゃ」
扇子を弄んでいた指を胸元に差し入れ、懐から美しく細工を施された筆のような棒を取り出した。
「綺麗じゃろ?何だと思う?」
そう言うと棒を梨雪に投げやった。梨雪はおずおずと手にとってその棒を観察する。
――綺麗…ここまで細かく彫物ができるのはうちの冬官しかいないわよね。筆かしら?でも毛が無ければ書けないし…この先っぽに付いた玉は瑪瑙かしら
ここで主の機嫌を損ねるわけにはいかない。よくよく観察して、正しい答えを導きたいが
梨雪にはこの棒が一体何のためのものなのかさっぱり分からない。
――片方にしか付いてないのね。戴からのものかしら…あ…動くのかな
玉の留めつけ部分には遊びの部分がある。つるりとした玉を撫でると、くるりと回転した。
――あぁもう何なの?
棒を握ってもう一度玉を撫でる。すると
――!!
梨雪の掌の中で棒がカタカタと音をたてて動いた。その瞬間、分かってしまった。この棒
が何のためにあるのか。頬を染めて、ゆっくりと主を仰ぎ見る。予想したとおり、意地悪
く目を細めて笑っていた。
「お分かりかい?なら使って見せておくれ」
「な…そんな…」
藍滌はため息をついて、扇子を広げた。棒を握ったまま俯いて動かない半身を見やって冷
たく言い放つ。
「おや…主命に背くのかい?」
口元を扇子で隠し眉をひそめた。
「私は大いに傷ついたのだよ…自分の半身があんな小猿と…あぁ考えるだに忌々しい」
大仰に顔をしかめてちらりと梨雪に目をやる。
「罰だ。さ、使って見せておくれ。」
藍滌はクククと喉奥で笑い、脚を組替え扇子を閉じた。
「脚を開いて」
命令を聞いて、梨雪はゆるゆると動き出した。肩幅に膝を割り、手を伸ばす。何の刺激も受けていないはずなのに熱を帯びた花弁に棒の先をあてがった。
「そう…」
「ふ…くぅ…ン…」
湿り気が足らず、なかなか胎内に進まない。主からの視線に煽られて体は火照る一方だが、焦りと羞恥で手先が狂い、快感を与えてくれるはずの玩具は鈍い痛みをもたらすばかりである。
「…ン…」
眉を寄せて唇をかみ締める。いつも主がしてくれるように自分の胸に手を這わせ、ゆるゆると辺りをまさぐってみても何の変化も起こらなかった。
「しゅ…じょっ…」
もう自分ではどうしようもない。紫色の瞳に涙を溜めて主に助けを求めた。
「何も無いと、辛いかえ?」
長榻から降り、藍滌は梨雪の前に膝をついた。
「なぁに…」
梨雪の脚の間に手を伸ばす
「小猿を思い出せばよかろ?」
「ひいっ!…たぃ…」
梨雪の手放した玩具を強引に入れ込んだ
「あの小猿と何回した?」
引き戻し、先で花弁を嬲らせる
「…何をした…?」
「はぁ…んっ…申し訳…あり…ませ…あっ!!んんっ!」
――カタタタタ…
卑猥な水音と共に胎内からくぐもった音がする。腰が引けて体重が支えきれず、梨雪は両腕を藍滌の肩に置いてしな垂れかかった。
「あ…んは…っく!!…はぅ…」
耳元で喘ぎ続ける梨雪の腰を片腕で引き寄せ、さらに置くまで棒を押し込む。
「ひうっっ…んぁあ…」
仰け反って、梨雪はいやいやをするように首を振る。突き出された胸の飾りをチロリとなめると、涙を流しながらいっそう高く鳴いた。
「随分良かったとみえるね」
藍滌も限界が近い。自らの手で腰紐を緩め、猛った自身を露わにする。背中に手を回して梨雪を倒しにかかった。
「お前は私以外のことを考えてもこんなに濡らしてしまうのかい…」
「ち…ちが…」
涙を浮かべて主を見るが、快感に溺れて視点が定まってない。
「何が違う…」
前をあけて袖を抜く。入れたままにしていた玩具に手をかけた。
ズルリと玩具が引き抜かれる。
「……ほぅ…」
「……あ」
主の視線の先を見て、梨雪は凍りついた。
玩具にたっぷりと絡みついた梨雪の愛液には、昨晩の、六太の残滓が混ざっていた。
「あ…その…しゅじょ…」
恐る恐る主の顔を覗き込む。玩具を放り投げ、藍滌は再び袖を通してしまった。
「もぉよい」
「主上っ…」
「よいと言うておろう。下がれ」
「そんな…」
背を向けようとする主に必死にすがりついた。ここで下がってしまっては、もう二度と名前を呼んでもらえなくなるような気がする。
「主上っ!」
腰に腕を回して全力で抱きしめる。
「下がれと言うておろうに!!」
腹に顔を埋めてしがみつく半身を引き剥がそうと、藍滌は語気を荒げた。
「謝って欲しい訳ではないわ!放せ!顔も見とうない!!」
「いやっ!いやです!」
王が麒麟に背を向けるようになってしまっては国が揺らぐ。
王と台補が揃って国を空けることができるほどに範を安定させられるこの王を、自分の不貞で失うことはできない。
全力で藍滌を止め、乱れたままの主の襦裙をさらに肌蹴させる。ここで振り向かせ、留まらせる方法は一つしか思い浮かばなかった。
「放せ!な…何をする……!!…」
梨雪は蓬山で育った麒麟だ。幼い頃から王を喜ばせるための最良の教育を存分に受けている。唇を湿らせ主の萎えてしまった中心に舌を這わせた。
「ちゅ…ちゅぷ…くちゅ」
わざと音が立つようにぺろぺろと嘗めまわす。これは女仙ではなく、「その方がそそるんだ」と六太から教えられた事だった。
少しずつ起ち上がってきたそれを、唇を窄め、先端からゆっくりと口に含んでいく。
「んぅ…ふ…ちゅ…ちゅぷ…はぅ」
上下に頭を動かし、まんべんなく刺激を与える。緩急を吸い込んでは、形のはっきりしてきた先端を甘噛みしてみたりもする。
「…ん……っ…あぁ…」
頑張った甲斐がある。やがて頭上から主の吐息が漏れ聞こえてきた。
鬣をやんわりと撫でてくれる。
「さすが…蓬山育ちだね…延台補もよろこばれたであろ…」
口を離して目線を上げる。チラリと主を睨んでから、もう一度唇を先端に寄せた。
「六太には…してません」
「昨日は」という条件は伏せておく。嘘ではないのだし。クク…と藍滌が喉奥で笑った。
奥まで呑み込んで、何度も舌を這わせてみる。袋に手を添えてやわやわと揉みしだいた。
「く…ちゅ…んむ…っ!けほ…っ」
苦しくなってまた口を離す。少しむせた。
――獣形になれれば、もっとできるんだけどな
麒麟になれば、舌は幾分長くなるし、口内も広くなる。そんな梨雪の思惑を知ってか知らずか、藍滌は極さりげなく梨雪の額に手を当てていた。
「主上…」
涙目のまま、当てられた手にそっと手を触れる。舌を伸ばして露わになった先端のくびれをなぞると、つん、と鬣を引っ張られた。
「……?……ひぅっ!!!!!」
勢いよく放たれた藍滌のものを、梨雪は顔面で受け止めた。生暖かいものを顔面に浴び、あたりはすえたような男の臭いに包まれる。
「しゅ…」
藍滌は仰ぎ見た梨雪の頭を両手で持ち、指を入れてくしゃくしゃと鬣をかき混ぜた。
促されるまま、立ち上がって主の脚に座る。
「残さずに舐めるんだよ」
頬に付いたものを指で掬って唇に塗りつける。梨雪は主の指ごと口に含んで藍滌の精液を飲み込んだ。
「…うまいかい?」
顔中の精液を指で拭っては舐めさせる。半身は、目をとろりとさせて舐め続けた。
「…にが…いです」
口の端に付いた最後の雫は藍滌が舐めてとってやる。いまだおびえた素振りの半身と視線を合わせ、薄っすらと笑ってやった。
「ほんとうだ」
梨雪を膝立ちにさせ、脚を跨がせて閉じないように固定する。
「もうしないと、約束できるかえ?」
肩に手を置かせて腰を引き寄せる。
「二度と…いたしません…」
胸の間に口付けを落とす。細い指を二本呑込ませて、不規則に蠢かせた。
「あ…うぁん…」
肩に置かれた手に力が篭もる。
「うあ…ぅ…ひぅ…」
ぐちゅぐちゅと淫らな音に梨雪の悲鳴が重なった。ほんの僅か、内股に残滓が流れる。
「…二度目は無いからね」
掻き出したものを手近な布で拭い取る。遠く、見えないところまでそれを投げやって、藍滌は自身の中心を梨雪の胎内に深く沈めた。
「本当に、申し訳ありませんでした。」
藍滌に抱き上げられて臥牀まで移動した。主の腕に包まれて横になると、本当に暖かく安心し、自分の居るべき場所はここなのだと実感した。
「明日も忙しくなるであろ…もうお休み」
藍滌は目を閉じて、静かに梨雪の背を撫でていた。
「でも…あの…」
まだ、はっきりとした許しの言葉を貰っていない。何か一言いってもらいたくて梨雪はまぶたの重さを感じながら藍滌の返事を待った。
「さっきも言うたろ、二度目はないよ、それに…」
背に回された手を止めて、藍滌が梨雪をひしと抱きしめた。
「あまり、あまりお前に奔放に振舞われたのでは私は道を踏み外してしまう…」
道を踏み外す、これ以上にない重い言葉に息を呑みつつ、梨雪は主からの愛情をたっぷり感じた。
――次からはばれないようにしなくっちゃ…
自戒しつつ、梨雪はそっと瞳を閉じた。
< 了 >