金策  1
:S


「朝飯は?、ディーン・・」

その朝、兄が買出しから帰ってきた気配でベッドから抜け出したサムは、何時もしっかり自分だけは食べるディーンがコーヒーだけを飲んでるのに驚いた

「・・食ってきた」

「店で?・・自分だけ?」

食欲が無いと言ったのは自分だが、勝手に食べて来たと言われると腹が立ち朝食の入った紙袋を漁りながら、椅子に座って事件の資料を眺めているディーンを睨み付ける

「昨日の晩飯もそんな事言ってなかったか?、ディーン
 ・・・俺と一緒に食うのが嫌なのか?」

「別に・・俺が何処で飯を食おうといいだろ?」

「・・・・・・」

サムはずっと一緒に食べていたのになんだってここに来て別々に食べたがるのか、ディーンの意図が分からずに黙り込んだ

そしてベーグルに齧り付きながら、この数日間の事を思い返してみる

考えてみれば彼が物を食べているところを見ていないだけではなく、先日買出しに行った大型ストアでもディーンがカゴに商品を投げ込むのを見ていない

自分ばかりがスナックやチョコレートを買い、ディーンは飯の変わりにそんな物を食べるのかと、一言言っただけだ

「・・もしかして・・・」

金が無いのか?、とサムは改めて自分達の経済状態に思い当たる

父親が行方不明になり、兄と二人

この仕事で得られる報酬など、被害者からの善意の寄付のような額しか望めないものだ

サムは途端に既に食べ終わりそうになっていたたった一つしかないベーグルに重みを感じて、一人空腹を堪えているかもしれないディーンを見上げる

「・・なあ、これ・・半分・・」

「食ったか?、さっさとしろっ、もう行くぞ」

だが、差し出した食べかけのベーグルを無視してディーンはバッグを抱えて部屋から出て行き、サムは仕方なくそれを最後の一片まで口の中に押し込んで咀嚼した

そしてこの推測が自分の考え違いであってくれればいいと願って、父の形見の手帳を握り締めるとディーンの後に続いた



























:D


ディーンはその店に入る前から、そんな予感がしていた

このゲイタウンからは少し距離の有る地域にも、『彼等』の集まる店は多い

「・・・マジかよ・・・」

「此処で待ってろ、サム・・・行って来る」

ディーンは、店の中を一目見て嫌悪感を露にした弟を押し留めて、一人中に入って行った

何故なら今回の事件での重要な目撃者がこの中に居るからで、それに弟には言ってない事だがディーンは『彼等』の扱いがよく分かっていたからだ

品定めするような視線を掻い潜り伸びてくる多くの手を振り払い、ディーンは直ぐフロアの隅に座っていた目撃者の男を見つけることに成功すると、手短に話しを聞く

今回の事件は比較的容易いものだったからこれも現場で起きた現象の確認に過ぎず、ディーンは予想通りの男の話に頷いて礼を言うと、足早に出口を目指した

サムから見える所での、余計なトラブルはご免だからだ

「・・なあ、あんた一人か?」

しかしその時不意に後ろから腕を掴まれ、ディーンはヤレヤレと振り返った

見れば好色そうに唇を歪めた大柄の男が数人、ディーンを取り囲むようにして近づいて来る

「・・あまりこのへんじゃ見ない・・凄い美人だぜ」

「どうも」

ディーンはその顔に愛想笑いを浮かべ、さり気なくその手を振り払う

「そうつれなくするなよ・・今夜俺達と付き合わないか?・・いいだろ?」

通常ゲイタウンに暴力沙汰は少なく性質の悪い連中は少ないものだが、この店は違うようだ

男達は小柄なディーンを取り囲み嫌でもイエスと言わせようとその目で脅して来るが、こんな状況に慣れているディーンは不敵に笑って男達を睨み付けた

「嫌だとは言ってないさ・・ただ、俺は酷く高いぜ?」

「・・・っ・・商売かよ・・」

「畜生・・・高いって、幾らだ?」

マフィアが上前を撥ね、同時に保護下にある男娼では無理強いは不可能だと思ったのか、男達は漸く幾分か腰を引く

「すまないが高い上に・・・今俺は仕事をする気分じゃない、だから・」

「ディーンっ!、どうしたんだっ?!!、なんだよ、そいつらっ・・」

そこまで言って、突然聞こえてきたサムの声にディーンは天を仰ぎ、後ろから駆け寄ってくる足音を急いで押し留めた

兄の身に危険が迫ったと勘違いしているサムは、もうすっかり臨戦態勢だ

「サムっ!、入り口で待ってろと言っただろ?」

「・・っ・待ってられるかよっ!、こいつらまさかディーンを・」

もういい、とディーンは無理矢理サムを羽交い絞めにした引き摺り、店から連れ出した


お前は余計な物を見なくていい、と思いながら

























:S


その夜、何故か眠れないサムの寝つきは良かった

だが逆に慣れぬ熟睡で睡眠が十分だと体が判断したのか、真夜中にも関わらず目が覚めてしまう

「・・・まだ3時・・かよ・・」

サムはたまに早く寝付ければもう目が覚めてしまうのかと思い、苛々と頭を掻きながらベッドに座る

そして何気なく熟睡しているであろう隣のベッドのディーンを見て、何かおかしいと感じた

暗闇の中のシルエットには、呼吸の微かな動きさえそれには見られない

「・・・ディーン?・・」

恐る恐る近づいて、毛布を捲る

するとそこには、恰も寝ているように偽装された丸めた毛布の塊

「・・ディーン・・こんな時間に・・何処に・・?・・」

サムは今回の事件は夜中に墓を荒らす事も霊を誘い出す必要も無い筈だと、部屋の中を見渡せば道具の入ったバックはそのまま其処に置いてある

つまりディーンは仕事絡みで外出した訳では無いという事だ

「・・・なんなんだよっ・・・」

サムは女の所に行くにも自分に言ってから行けばいいと、一人ディーンに悪態をついた

そして上着を羽織ると、もう近くまで帰ってきているかも知れない兄を迎えに行こうと、モーテルの部屋を出た


























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その夜部屋から抜け出したディーンは、夕方聞き込みに行ったゲイタウンに程近い店に脚を向けていた

そしてディーンを待ち構えるように道端に立っていたあの男達と再び会い、需要と供給の合ったビジネスの交渉は直ぐに纏まった

今夜のディーンの相手は、二人の男

小柄で見かけよりも華奢な体格のディーンが一度に複数の相手をするのは辛い事だが、これはサムが一緒に行動するようになって以来、彼の目を盗んで金策をしなくてはならなくなったディーンの苦肉の策だった

睡眠薬を混ぜた食事でサムを誤魔化せるのもそう度々は無理だろうし、短時間で手っ取り早く多額の金を稼ぐには複数の男を相手にするしかないと、ディーンは気付いたからだ

今夜も明け方までは弟は眠っててくれると思うが、出来る限り早く帰りたいとディーンは、最初の契約で時間も男達に約束させたのだ










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