妖蟲  4
昨夜はディーンの話に納得してしまったサムだったが、よく考えればおかしな点があった

「ディーン」

二人で役場を訪れ、親類と偽って大量の書類を捲り男の墓の場所を調べている間、サムはディーンに話しかけた

「・・・なんだ?」

「どうしてあの子供の母親に話を聞いた時
 巨大なミミズってキーワードだけで、あんな気分が悪そうな顔をした?」

「・・お前はそんな言葉を聞いて気持ちいいか?・・変態だな」

自分を振り返って馬鹿にしたように口角を上げて見せたディーンに、サムは急いで目を背けるとフウっ、と一つ息を吐き出した

何時ものようにこんな挑発に乗り、腹を立てて怒鳴ってもディーンの術中に嵌るだけだからだ

「・・っ・・兄貴は以前にもあのミミズ野郎を見た事が有るんだろ?
 そうでなきゃ、男と巨大ミミズを繋げて考えるのは無理が有る」

「有ったら何だって言うんだ?・・・・・・・・ほら、見つけたぞ、男の墓は此処だ」

サムは顔の前にグイっと差し出されて来た書類を受け取って墓地の位置を記憶すると、改めてディーンに向き直った

「・・っ・誤魔化すなってっ」

「・・何だって言うんだよ、サム
 昨日は化け物の他に、あの黒い影に男の気配を感じた・・・確かだ、骨を焼けば終わる」

「ディーンが最初に巨大ミミズを見たのは?
 ・・その時は無事だったのか?、まさか昨日みたいに・・」

「お前ってしつこいな・・それにデリカシーってもんがない・・」

「・・・・・」

ディーンは出口に向かって歩きながら、嫌々サムにその続きを話し始めた

「・・男の家が解体された夜、昨日来たのと同じ化け物が家の周りをうろついてた
 その時丁度親父が居てくれて・・・でも倒しきれなかった、それだけだ」

「嘘だ」

「・・何が嘘だ??、お前だって昨日倒せなかったくせに」

「・・っ・・」

「その後・・・親父は別件で家を長く留守にした
 俺は俺で餓鬼だったから、当時ミミズと男、二つの関連性なんか気付いてなかった
 それに親父が敷いた結界のお陰か二度と現れなかったし、他に犠牲者も出なかった
 だから・・・あの殺された子供の話を聞くまで、あんな変態男の事は忘れてたんだよっ」

「・・本当に?・・」

サムが尚も疑いの目を向けると、ディーンは車のエンジンをかけながら小さな声で呟いた

「・・俺だってもっと早く・・・こう出来れば良かったと思ってる・・
 あの時に気付いて奴を倒してたら・・あの子は死なないで済んだって・・」

「・・・・・」

「・・お前だってそう言いたいんだろ?、俺のせいだって・」

「違う、ディーン・・・・・・・いいよ、分かったから・・もう行こう」

「・・・・・さっさと奴の死体を焼きに行くぞ」

サムはまだ納得出来ないディーンの話に、仕方なく頷いた

そしてディーンは猛スピードで車を走らせ、その男が埋葬されているという墓地へと急いだ

























隣の州に入って直ぐの、ある寂れた墓地に男の墓は有る筈だった

だがそこまで結構な距離を走った為、街を午後になって直ぐ発ったというのにもう辺りは真っ暗で、二人は懐中電灯の光を頼りに男の墓を探すことになる

幸い小規模な墓地だったお陰で直ぐ男の墓は見つかり、サムは持ってきた墓掘り用スコップを真上に突き立てた

「・・コインで決める?」

誰だってやりたくは無いこの仕事は、何時もコインか小さな掛け事で決めていた

だが何故か今夜に限って、ディーンはスコップを掴むとサムに手渡して来る

「・・?・・なんだよ・・」

「いいから、お前が掘れ」

「・・はぁ?」

「元は知り合いの墓だ、掘りたくない」

「・・変態だし?」

「・・・・・そうだ」

ディーンは早々に魔物を鎮める薬草や呪文を記した紙、香木、そしてガソリン等を準備する体勢になっていて、サムは仕方なくスコップを手に勢い良く土を掘り返し始めた

「それにしても・・・・なんで今まで兄貴を襲わなかったんだ?
 イタリアの呪術まで使って・・蟲を操る程、執着してたんだろ?」

何時やっても気分の良い行為ではない墓荒らしに、サムは何か話でもしてないとやっていられないと、ディーンに話しかける

「・・今になって考えれば・・・あの直後俺たちは引越しした
 この墓地が拠点なら、それほど広範囲には移動出来ない・・土属性の呪術だからな・・」

「なるほど・・・近くまで来たから喰いついた・・ってことか
 ・・じゃ・・今になって犠牲者が出たのは?、他にこんな事例は無い」

「・・・さあな・・・・気に入ったんじゃないのか・・」

「・・?・・あの子が?」

「食べたい程可愛いって・・言うだろ?」

サムは背中を向けているディーンに、少々腹を立てて言い返した

「それ笑えない・・・酷くないか?、ディーン」

「・・・笑わせようと言ったんじゃない・・・本当の事だ
 調べたら、カンセル・イングリセンシスは気に入った子供を食べるらしい
 ・・・しかもほぼ200年に一回・・・だからこれは記録してない文献の方が多かった」

「・・・・200年かよ・・そんなに居た記録が有るのか・・」

「被害が少ないから、その分ハンターに狙われないって事だ
 ほら・・・・・喋ってないで、さっさと掘れ」

だったらずっとこの土地に居たらディーンも食べられた可能性が有るのかと、サムがヤケクソで腕を動かしていると、直ぐに穴は胸の辺りの深さにまで掘り進んだ

不思議な事に、この墓地の土は酷く柔らかい

まるで何時も何かが土の中で動き回っているかのように

「・・・変だよな・・ここの土・・」

「シッ・静かに」

顔を上げれば、ディーンが何かの気配を感じたのか四方を警戒して身を低くしている

「なんだよ・・?」

「・・何か居る・・・サム、早く掘れっ・・来るぞ」

「・・冗談だろ・・」

何か、ではなくあの巨大ミミズだと、サムは確信した

不自然にここの土が軟らかいのは、あの化け物がこの墓地を棲家にして何時も土を掻き混ぜているからで、こんな所で遭遇すれば魔物の方に圧倒的に有利な闘いになる

「サムっ・・奴らが・・」

「・・もう少し・・もう少しだっ!・・」

サムは狂ったように腕を動かし、槌の中から棺おけの蓋が見えるとスコップを振り上げそれを叩き割った

「・・っ・・よしっ・・・・・・・いいぞっ!・・ディーン、ガソリンを・」

「・・サム・・」

だがサムが顔を上げると、丁度目の位置にくる側の地面の上のディーンはこちらに背中を向け、まるで穴の中の無防備な自分を守るように立ち塞がっている姿だった

「・?・・ディーンっ!・・」

そして急いで穴から上がったサムが見たのは、宙に漂う黒い影がはっきりと人の形になり、ディーンに襲い掛かる瞬間だったのだ









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