妖蟲 7
蒼い焔のような激情をディ−ンの中に注ぎ込み、暗闇の中気を失った体を抱きしめていると、やがてその肌は急速に冷め始める
サムはふと我に帰り、茫然とベットから身を起こした
「・・・・・っ・・・」
そして萎えた性器を引き抜くと同時にシ−ツに広がった赤い染みの大きさと、真っ青なディ−ンの顔色に忽ち自分がしてしまった行いに対する恐怖が沸き起こり、そうなるとサムはもう片時もこの部屋に留まる事が出来なくなってしまった
ディ−ンの手を縛った縄を切ると直ぐ、服を整える余裕も無いまま逃げるように部屋のドアを目指す
何故なら今ディーンが目覚めたら何と言えばいいのか分からなかったし、もしあの長い睫毛に縁取られた瞳で見つめられたら又彼を傷つけてしまいそうだったからだ
辛うじて働いた頭で、酷く体を傷つけてしまったディーンの足を奪う訳には行かないとポケットに入れていた車のキーだけを机の上に置いて、サムは部屋の外に出た
そしてそのまま徒歩で、途中でヒッチハイクでも出来ればいいと思いながら、ハイウェイを歩き始めたのだ
アッシュはその日、親類の葬儀の為に故郷に帰ったエレンとジョ−の留守を一人守り、酒場続きの自室に篭っていた
だが昼過ぎになって外に独特のエンジン音が近付き、やがてCLOSEの看板が架かっているにも関わらずドアに付けたベルが何者かの来訪を告げる
「・・ん?、あの二人組かぁ?・・でも残念、ジョーは居ないぜ・・・」
アッシュはもうすっかり馴染みになった兄弟ハンターだろうと、親子の不在を知らせる為に部屋を出る
薄暗い酒場の中を見渡すが誰の姿も見当たらず、不審に思ったアッシュは思わず足音を忍ばせ腰の銃に手を伸ばしてゆっくりと進んで見るが、ひび割れた硝子窓の外には確かにあのインパラが停まっている
「・・・サム?・・ディーン?・・・居るのか?・・」
そう呼びかけたアッシュだが、意外にも返事は直ぐ入り口近くのテ−ブルから返って来た
「・・・アッ・・シュ・・」
「・?・・・っ!・・・おい、どうしたんだよっ!?」
アッシュは声がした方向に駆け寄り、力なく椅子に座テーブルに突っ伏すディ−ンを発見する
それに答えず低く呻いたディ−ンに、辺りを見回して彼の弟でもあり仕事仲間でもあるサムの姿を捜すがどうやら今日は一人らしく、その上どうも彼の様子はおかしい
「・・すまない・・少しでいいから・・ここに・・」
「もちろん構わねぇよっ・・・・ほら、こっちだ」
アッシュは怪我でもしているのかグッタリしているディ−ンを自分の部屋へと担ぎ込み、床に散乱する物を足を使って隅へと蹴飛ばしながら、サイケデリックな柄のシーツのベットに横たえた
「何があった?・・怪我してるなら手当するぜ」
「・・いや・・いい・・」
見たところでは大きな傷が有る訳では無いがどう見ても普通の状態ではないと、アッシュはベッドの横に身を屈めて調子の悪そうなディーンを覗き込み、窮屈そうな上着を剥がしにかかった
「相棒のサムはどうしたんだよ?・・別行動か?」
「・・・・・・・」
「・・・・まあ、無事ならいいさ・・・だけど・・本当に怪我は無いのか?」
アッシュは、黙り込んだままのディーンに弟と喧嘩でもしたのだろうと深く考えもせず、さり気なくその様子をチェックした
全身の倦怠感、顔面の紅潮に眩暈
殺しても死ななさそうだと思うほどタフなハンターであるディーンに、まさかと思いながらもアッシュはその額に手を当てて酷く驚く
「・おっ・・お前・・凄い熱じゃねぇかっ!」
抱き抱えた時も薄々思っていたがその手は尋常ではない体温を感知して、アッシュは急いで無造作に寝かせただけだったベッドの周りを取り囲むガラクタを遠くへ投げ、本格的な看病の準備を始める
だが当のディーンは起き上がり、そんなアッシュに言って来た
「・・いいんだ・・直ぐ・・出て行く・・」
「馬鹿言うなっ!・・そんなんで歩き回ったら死んじまうぞっ、大人しくしてろっ」
それでも頼りない足で立ち上がったディーンは、壁に凭れ掛って歩き出す
「・・ジャワー・は・・・何処だ・・アッシュ・・」
「・・はぁ??・・・なんでシャワーだよっ!
待ってろって・・・・気持ちが悪いなら、今体を拭いてやるからっ」
「・・結構だ・・俺は・・寝たきりの老人じゃ・・ないん・・だ・・」
「冗談じゃねぇぞっ・・餓鬼じゃねぇんだっ!!
自分の体調くらい分かるだろっ!・・・ここで・・じっとしてろっ!」
アッシュは舌打ちして頑なにシャワールームを目指すディーンを押しとどめると、無理矢理にベッドへと戻してからその下に仕舞ってあった救急箱を取り出した
だが、中から解熱剤を探し出す間もずっと、何故かディーンは抵抗を止めない
「女の子じゃねぇんだろっ、ディーン・・シャワーを浴びてないから嫌よって
そんなん言ってる場合じゃねぇ・・・・なんだって、そんな・」
言いながらディーンのシャツを無理矢理剥がしていたアッシュは、その肌に無数の赤く小さな痕を見つけて固まってしまった
どう考えてもそれはそんな時に付くもので、よく見ればそのシャツのボタンも全て弾け飛んだように千切れて無くなっていて、手首には縛られた痕のような紫色の筋も見える
「・・・・ディーン・・その・・それは・・・」
「・・・・・・・」
そっちの趣味も経験も無いアッシュは、どう言っていいのかも分からずに口篭る
いつものように冷静にこの状況を分析しようと考えるが、これはどう考えてもディーンが誰かにレイプされた事を示していて、彼の体調の異変はそれが原因なのは明らかだった
「・・・アッシュ・・・分かった・・」
黙ったまま押さえ込んでいたアッシュに、ディーンの方が冷静に声を掛けてきた
「・・シャワーは・・諦める
だから・・すまないがタオルを・・体を拭きたいんだ・・・」
「・・ぁ・・ああ・・」
全てを知られて諦めたのか、大人しくすると約束してくれたディーンによく濡らしたタオルを持ってくると、部屋の中では彼が傍らの薬箱に手を伸ばしているところで、どう見ても解熱剤ではないそれにアッシュは首を傾げた
「・・なんだ?・・まだ・・どこか変なのかよ?・・」
「・・・傷薬だ・・・分かるだろ」
「・・・・・傷・・って・」
まさか、とアッシュは思わずジーンズに隠れたままのディーンの下半身をまじまじと見てしまった
レイプされたのが事実なら受け入れさせられた男がどの部分に傷を作りやすいかなど、何も経験の無い者でもそれくらいは察しが付く
だが見つめる前で薬膏の入った容器の蓋を回す彼の指は震えていて、アッシュは堪らずそれをディーンの手から取り上げた
「いいからっ・・俺がやってやる、寝てろ」
「・・アッシュっ・・やめ・・」
「安心しろっ・・俺にそんな趣味はねぇ
・・誰にも言わねぇし・・・・それに男同士だろっ!」
そう言ってディーンの必死の抵抗を阻み下着ごとジーンズを擦り下げて、覚悟を決めて向き合ったアッシュだったが次の瞬間目の前に現れた惨状に思わず呟いてしまった
「・・・・・・ジーザス・・」
そしてこんな時にこそあの弟が居てくれれば助かるのにと、今何処に居るのか分からないサムに心の中で毒付いた
真っ白なその双球に恐る恐る手を伸ばすと、ビクリとディーンの体が緊張するのが分かる
「・・畜生・・サムの野郎は何やってんだよ・・・兄貴がこんな時に・・」
確かにこんな格好を他人に、しかも自分に晒すのは辛いだろうと思わず口にしたアッシュだったが、その時目の前の体は不自然にも反応した
「・・・?・・・」
サム、というこ名前で、ディーンは怯えたように体を強張らせている
そして疑惑の目を向けるアッシュからは顔を背け、やがてまるで泣いているかのようにその肩が震えだす
「・・・ディーン・・まさか・・これ・・」
アッシュは違うと言ってくれと願いながら、ディーンを見つめた
「・・・・・・」
「・・まさか、だよな?・・・・いくらなんでも・・そんな・・・」
だがディーンは枕に突っ伏したまま、静かにこの残酷な行為の主の名前を告げた
実の弟の、サムだ、と
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