猫科の彼 2
「・・ぉ・・・犯された・・」

ロ−ガンは次の日、目覚めるなりズキズキ痛む頭を抱え呟いていた

そして見れば、そのヒリヒリする全身の肌には無数の引っ掻き傷とクッキリ残る噛み痕が残り、彼がいるベットはシ−ツもグシャグシャで枕も数メ−トル先に飛び、横に置かれていたスタンドも床に転がって電球が砕け破片が散らばっている有様だ

事情を知らない人が見れば取っ組み合いの喧嘩か殺し合いでも有ったと思うこの状況を、ローガンはそうであったならどんなにか良かっただろうと落ち込み、項垂れていた

「・・・・アレック・・・・」

ロ−ガンはこれまで正常でノーマルだった自分の性体験の歴史に無理矢理割り込み、唯一の汚点を残した男の名を無意識のうちに口にすると、昨夜のことを思い出してガリガリと頭を掻き毟った






昨夜ローガンは掠われそうになっていると勘違いして、アレックを助けこの部屋に入れた

だが彼は何時もとは明らかに違う生き物になっていて、その原因は猫の遺伝子を見組み込まれているが故にどうにもコントロール出来ない生理現象、『発情期』だった

もちろんマックスの例もあるからローガンも少しは理解が有るのだが、それにしてもアレックの場合は対処法を冷静に考える暇も余裕も与えてもらえず、力ずくでローガンを押さえつけ、一方的にハリケーンの如く肉体を蹂躙し、搾取して立ち去った

行為の最中、肉体的に犯したのはローガンの方ではあったが、精神的にレイプしたのはアレックの方だ

こんなのは、余りにも酷い

それでもやがてベッドからヨロヨロと立ち上がったローガンは、落ち込んだまま一人寂しく滅茶苦茶になった部屋を、猫科には今後注意しよう、とブツブツ呟きながら片付けるしかなかった

アレックとの行為がローガンに齎したもっと残酷で恐ろしい事実には、この時はまだ気付いていなかったからだった





























『クラッシュ』

この酒場に配達人達は夜な夜な集まり、酒を酌み交わす

あの夜から一週間、発情期がすっかり収まって落ち着きを取り戻したアレックも、その夜何時ものメンバーと此処に繰り出していた

酒を飲み馬鹿な話をして、擦れ違いざまの女の子に色目を使える自分が漸く戻って来たと、アレックは心の平穏を噛み締めながらこの時間を楽しみ、久しぶりのビリヤード台へと歩いてい行く

「ようアレック、暫く見なかったな・・・やるか?」

「・・ああ」

馴染みの顔が声を掛けて来るのに頷き、キューを握る

やっぱりこんな自分が落ち着く、とアレックは内心ホッと安堵の息を付いた

発情期の、自分で自分のコントロール出来ない異常な状態はアレック自身も酷く不安で不愉快なもので、それが他人の肉体を利用してではないと解消できないという事も、又その衝動に突き動かされている間の自分の意識が朧気だという事も何時か正体を知られる原因になりそうで怖かった

今はまだ首のバーコードもいかれたタトゥーと言い訳すれば済むが、いずれジェネティックの存在が知られれば自分達は逃亡する身で、そんな時肝心なタイミングで発情で色ボケした状態のせいで捕まる、など考えたくもない

「・・ナイスっ!」

コンっとアレックのキューが白い玉を突き、2つが同時にポケットに落ちる

「・・久しぶりでも腕は鈍ってないさ」

これで今夜の飲み代は賄えたと、アレックは余裕で相手のプレイを見守る

だがその時、人込みを掻き分け遠くからこちらにやって来る、見慣れた顔を見つけて目を留めたのだ

「・・・?・・ローガン?・・」

何かあったのかローガンは硬い表情で真っ直ぐにアレックに歩み寄り、その腕を掴むと自分の方に引き寄せた

「アレックっ・・」

「何か・・有ったのか?、ローガン・・そんな顔して・・」

だが、緊急事態かとキューを置き向き直ったアレックに対して、何故かローガンはその顔を黙ったまま睨み付けて来る

それだけではなく、やがてその視線は顔から下へと、体全体を舐めるように移動した

「・・な・・なんだよ・・?」

「・・・・・・」

アレックもどうやら切迫した事態というわけではないらしいとは感じたが、それにしてもローガンのこの敵意を含んだ視線の意味が解らない

やがてローガンは普段の冷静さとは全く違う口調で、アレックの耳元で小さく怒鳴った

「責任取れっ、アレック」

「・・?・・なんの・・?」

本当に訳が解らないアレックは、キョトンとロ−ガンの顔を見返した

「・・しらばっくれ気か?、アノ事だっ!!」

「・・・・・・・・」

ジ−っとそのまま考えると何やら最近この顔を至近距離から眺めていた記憶が意識の奥底から浮上して来て、アレックはあれは何時だったかと微かな記憶の糸を辿るが、すっかり被害者の顔のロ−ガンはその僅かな時間の間に勘忍袋の緒が切れてしまったらしい

「わかった・・そっちがそんな態度ならこうするっ!」

スゥっと一つ息を吸ったかと思うと、ロ−ガンはアレックの襟首をむんずと掴みクラッシュの片隅にあるスペースに引っ張って行く

「・・なっ・・・や・・やめろって!」

そして凄い勢いで開けたられドアには男子トイレと書かれていて、ロ−ガンはそこに入るなり個室にアレックを突き飛ばし鍵を掛けてしまった

なにやら先客の男に二人個室に入るところを見られた気もするのだが、今のローガンはそんな事お構いなしだ

「・・ロ・・ロ−ガンっ!??」

「煩いっ!」

何が何だか解らないままアレックは冷たい壁に背中を強く打ち付けて言葉を詰まらせ、ガシっと顎をロ−ガンに掴まれ無理矢理顔を向させられる

そして、驚くべき言葉を聞いたのだ



「・・あの夜のせいで・・女に・・
 マックスの事を考えても勃たなくなった・・・どうしてくれるっ!?」



「・・・・・・・」

だが、そんな事を言われても、とアレックは混乱する頭でオロオロとうろたえるだけだ

「あ・・・あの・・夜って・・?・・勃たないって??・・俺?・・・知らな・・」

「覚えていないわけないだろっっ!!」

バンッ、とローガンがトイレの壁を拳で叩き、そのままシ−ンと暫しの沈黙

やがてまさか、とアレックは最近終わりを告げた発情期の間の朧げな記憶を辿り、嫌な予感にそのバサバサ睫を忙しなく動かした始めた

確か最も辛い夜は三人の男を拾ってお持ち帰りした筈だったが、このロ−ガンの言い分ではまるでアレックが彼と一夜を過ごし、肉体関係を結んでしまった事実が有るような感じだ

そしておそらく感じ、ではなく、それは事実なのだろう

ヤバイ、ヤバイ、とその言葉ばかりがグルグルとアレックの頭の中を廻り始め、怒りに血走った目のローガンをどうにか宥めようと両手で彼の腕に触れるが、それは益々力が強くなり苦しさが増すばかりだ

「・・ぅ・・・やめてくれよ・・ローガン・・」

「白状しろっ、本当は覚えてるだろっ!!」

「・・・なんとなく・・・ぼ・・ぼんやり記憶があるだけで・・・
 でも・・もし俺とあんたがヤったとしても・・・どうして女に勃たなくなるんだよ・・」

「っ・・それはな・・」

「・・ぃっ・・」

そういうとローガンは、アレックの髪を強く握り背後の壁に顔を押し付けた

そして背後から拘束するように抱きしめ、耳元に熱い吐息を吐き掛けながら言ったのだ

「お前とのセックスが・・・・良過ぎたからだ」

「・・っ・・・」

その仕打ちと口調に、アレックは初めてローガンに凶暴な雄を感じてゾクリと体に痺れが走るのを感じてしまった

「・・ローガン・・ゃ・・」

「記憶が朧げなら・・思い出させてやる、アレック
 俺をこんな体にしたんだ・・・これから責任を取ってもらう・・」

「・・ぁっ・・」

そのままローガンに敏感な耳に歯を立てられながら背後から胸元に入れられてた手に突起を乱暴に摘まれると、アレックの体からクリャリと力が抜ける

「お前が俺にどんな激しいセックスを仕掛けたか・・全部言ってやる
 全部やり返してやる・・・覚悟しろ、アレック」

「・・ん・・ゃ・・」

アレックはそのままローガンに手がジーンズの前を開いてゆくのにも抵抗できず、トイレの壁に手を付いて必死になって体を支えていたのだった








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