You Are My Sunshine 1
サムはインパラの車内に流れる音楽のボリュームを上げるディーンの手も止めず、不自然な程に助手席を見ないようにして真っ直ぐハンドルを握っていた

先ほどの会話で自分の気持ちを告白した時の度胸はサムの方が上だったが、その後の接し方に関してはディーンの方が開き直りが早いのかもう彼は何時もと同じ様子に見える

そんなディーンに、はっきり言ってサムは何を話せばいいのか分からなかった

そしてアッシュに見送られて酒場を出てからというもの、当然ディーンと車という密室で二人っきりで沈黙が続く中、よせばいいのにサムは頭の中でたった今のディーンとの会話を反芻してしまった

確かに、以前売春なんて事をしたのは身代わりだと、彼は言った

身代わりにする為に商売も兼ねて抱かれたのだと

つまり、本当ならディーンはずっと前から自分にそうして欲しかったと言うことで、サムにしてみれば確かに自分だけがそんな感情を持っていたという結末よりは数倍マシなのだが、どうにも動揺は抑えられない

そしてもう既成事実は有るのだから落ち着けと自分に言い聞かせると、そのせいで不幸にもあんな形でディーンと初めて体を重ねてしまった夜の事まで全て鮮明に思い出してしまう

人間とは好都合な生き物で、そんなサムの脳裏に蘇ってくるのは自分の罵声や彼の涙ではなく痺れる程に気持ち良かったディーンの体で、その本人とはもはや気持ちが通じ合い直ぐ手の届く所に座っている

そんな混乱を隠し、隣で窓の外を見ているディーンに気付かれないようにサムは必死になって平静を装っていたが、こんな気持ちのまま命の危険も有る幽霊狩りになど向かえる筈も無く、エレンの酒場の前から発車して暫く走ったところでサムは、ポツリと呟いてしまっていたのだ

休暇を取ろう、と










だが二人には離れ離れになる気などは毛頭無く、サムはディーンを乗せたまま隣の州ユタの国立自然保護区へとインパラを走らせた

霊関係の仕事する二人は、常に陰の気の溢れる場所ばかり巡っている

だからこそ休暇なら悪魔も近づけない陽の気の満ちる地、先住民ネイティブアメリカンの聖なる場所で心穏やかに過ごしたいと、ディーンが以前から言っていたからだ

そしてどうにか陽が傾く前に到着した二人は世界的に有名な観光地でもあるグランドキャニオンやプライスキャニオンを見て周るが、何処も忙しなく騒がしい観光客でいっぱいで、カメラも持たない軽装の二人は酷く浮いていた

それにサムはまだどう相手に話しかければいいのか迷う程ぎこちなく、おまけに仲の良さそうなトレッキング帰りの家族連れに囲まれたディーンが羨ましそうに彼等をじっと見つめる光景に出くわして、サムはある事に気付き愕然としてしまう

考えてみれば、ディーンとサムは兄弟であり、家族だった

その上男同士で、これでは近親相姦の上に同性愛、二重の罪だ

当たり前の事の筈だが一つの難題が片付いて浮かれていたサムは、そんな自分達の関係の罪深さをその時初めて目の前に突き付けられた気がして、これから互いに相手をそんな意味の対象としてこのままその関係性の中生きてゆくなら、今迄の兄としてのディーンを自分は失う事になると、途端に明るかった気持ちが暗澹たるものに変わった

「・・綺麗だな・・」

空を真っ赤に染める夕日の前で全身をその色に染めたディーンが静かに言った言葉も、黙り込んだサムの耳には届かない

広大なスケールの自然の景色とディーンとの時間にサムがに浸りたいと思っていても、余りにも普通で幸せそうな周りの人々と今更になって乱れる自分の心が、その邪魔をしていたのだ





























「ベッドは・・キングサイズ?」

自然公園近くのモーテルの受付の女の子に又言われて、これまでは笑えたがもう無理だと、サムは急いでそれを否定した

だがディーンは大してこの状況に動揺もしていないのか、何時ものように愛想良く部屋の鍵を受け取ると先に廊下を歩いて行ってしまって、サムは一人自分ばかりが意識し過ぎなのかとも思いながらトボトボと荷物を抱え後ろを付いて行く

そして部屋に着いて荷物を置くとサムはこれまでと同じくテーブルに直ぐノートパソコンを広げ、ディーンは何時もの癖か窓の外を眺めていざという時の退路を確認している

それを見たサムは、変わらなくてもいいのだと思うと安堵する反面、何も変わった様子を見せないディーンに不安が募る

「シャワーを浴びてくる」

「・・う・・ん・・」

液晶画面を睨んだまま鈍い返事を返し、シャワールームのドアが閉まる音がして漸くサムは全身の力を抜いた













「・・サム・・何を見てる?・・」

自分のシャワーを終えてもまだパソコンの前に座り続け一向に隣の一向にベッドに横たわらないサムに、ディーンは不安げに聞いて来た

「まさか・・仕事がしたいのか?、この休暇が嫌で・」

「違うよっ、明日観光する所をちょっと」

「・・・・明日か・・」

ホッとした顔でディーンがベッドから立ち上りデスクの後ろに回り込んで液晶の画面を見つめるのに、サムはたった今見つけた素晴らしいポイントを大きく画像を開いて見せてやった

「・・全世界で一日限定20人・・凄い所だよ、ディーン」

指差したそこには、およそ地球上とは思えない絶景が映し出されている

「っ・・コヨーテ・ビュート?、ここもナバホ族の聖地か・・
 まるで・・・地球じゃないみたいだな・・」

驚きを隠せないディーンに、サムは無理に誇らしげな笑顔を作って言った

「うん・・ここなら本当に、パワースポットだと感じられるんじゃないかな?
 それが目当てだったのに・・・明日も今日みたいじゃがっかりだろ?、ディーン」

昼間行った所は二人が望む清らかな静寂とは懸離れた状態で、サムは二人きりの気不味いこの時間を潰す為にも、どうにか静かな聖地が無いか検索していたのだ

「ぁぁ・・そうだな・・でも限定って?」

「予約しなくちゃ入れないんだけど当然満員・・・でも大丈夫、忍び込めるよ」

サムはパソコンの電源を落としベッドに横になって言うのに、ディーンも自分のベッドに腰掛けて呆れたように笑った

「聖地なのに何時もと同じ不法侵入か?、サム・・・全く俺達のやる事は変わらないな」

「・・・・うん、そうだね・・」

ディーンと表面的にはこれまでと同じように会話が出来る自分に安堵したサムは、急に眠気を感じそのまま枕もとのライトの明りを消して目を閉じた

そしてものの数分もしないうちに、精神的な疲れから深い眠りの淵に沈む

だからサムは自分が寝入った途端、ずっとこちらを窺っていたディーンが暗い表情で溜息を一つ付き背を向けたことなど、思いもしないかったのだ






























次の日二人は早めにモーテルを出て途中4WDをレンタルすると、アリゾナ州境のバーミリオンクリフス国定公園へと一気に車を走らせた

そして公園の中に入っても異様に耳の長いジャックラビットや、ロードランナーという奇妙な鳥が飛び交う悪路を左右に揺られながらガタガタと行き、やがて進む道に道路らしきものが無くなると小さな立看板の前のスペースでサムは車を止めるようにディーンに言った

「・・ここからは・・歩かないと」

狩りをしに来たわけではないのに大荷物を抱えたサムに、ディーンは如何にも嫌な予感がするという顔で聞いてくる

「歩くって・・・・どのくらいだ?」

「・・3・4時間」

「・・ここで3時間と4時間の違いは大きいぞ、サム」

普段3・4時間歩く事などどうということはないが、車を降りて目の前の景色を見ればディーンが渋るのも無理はないとサムも思った

二人の先に続くのはトレイルも無い荒涼とした砂漠地帯の岩山で、真夏に来ていたなら命の危険も有りそうな場所だ

「・・急げば・・3時間・・」

サムの答えにディーンは頷き、積んできた水をもう一本サムに手渡した

「・・水は多めに持てよ、サム」

「・・うん・・」

そして此処まで来たのだから意地でも行ってやると、そんな性格二人は思い荷物を抱え昨日パソコンの画面の中に有った絶景パワースポットへと歩き始めたのだ









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