You Are My Sunshine 2
「・・サム・・お前・・なんかやろうとしてないか?」

二時間以上黙々と歩いたところで、ディーンはサムに言ってきた

それもその筈、歩きながら所々に咲く花や植物をサムが少しずつ採取しては、大事そうにバックのポケットに入れているのを見られたからだ

「・・・ん・・ちょっとね・・」

「なんだよ?・・・こんな所で仕事は御免だぞ」

実はそれはサムが昨日ネットで偶然見たナバホ族が聖地で行うある占いの為に必要な物で、ザクロアやモハベユッカ、ビーバーテイルなど、彼らが薬草としても使用している植物だ

もちろん呪術のように本格的なものではなくサムにとってもほんの遊びのつもりだったし、それらは何よりこの土地で一夜を明かす何よりのお守りになるというのだ

「・・仕事じゃないよ、ディーン・・キャンプする場所に結界として置くだけだ」

もう一つの目的は言わないまま、サムはディーンを安心させるように言った

「結界?・・聖地では何も出ないぞ・・・全く心配性だな
 ・・そんな物より毒蛇の生息域だ、草むらに気を付けろよ」

ディーンはそれからもまだ度々立ち止まるのを不満げに見ていたが、やがて熱心にそれらを探すサムが全てを手に入れたと知ると、やれやれという顔で肩を竦めた

そして歩きながら一房づつ4つに分けて袋詰めするのに歩調が緩んだサムを追い越すと、ディーンは先に迫る小山を一気に駆け上がり、手元しか見ていなかったサムは暫く歩いてからその背中にぶつかって、漸くディーンが絶句して立ち止まっていたのに気付く

「・・ディーン?・・」

「・・・・・見ろよ・・サム・・」

言われて初めてディーンの線の先に顔を上げたサムも、目の前に広がる光景に暫し呼吸をするのを忘れる

そこには今まで見た事もないような光景が、どこまでも広がっていた

ウエディングケーキのような岩やハチの巣状ドーム、チョコレートの薄い層を100枚も重ねたような岩

その色もオレンジ、ピンク、イエローと色鮮やかで、二人は岩をひとつ越えただけで別の惑星に来たような気分になった

「・・あれだよ・・ディーン・・」

そしてサムが指差した先に現れたのが、ノース・コヨーテ・ビュートの中でも一際美しい縞模様を描く一帯、ザ・ウェーブと呼ばれる所だ

「・・・凄い・・」

その言葉と溜息しか付けなくなった二人は、やがて我先にとその場所へ向かって走って行ったのだ
























サムが今夜の宿泊場所と決めた岩場の周りの東西南北に植物やサボテンの花の入った袋を配置すると同時に、これまで強烈な強さで照り付けていた太陽が見る見る沈み始め、辺りは急速に夕焼けの色に染まった

紫、赤、オレンジ、その全てがグラデーションを作って溶け合い、それに闇と光が陰影を齎す

二人は何もせずに立ったまま、その全てを見届けた

大地から湧き上がる無限の聖なる力を、何時もは勘ぐって茶化すディーンも確かに感じているのか無言のままで、辺りと同じ色に染まった彼の体も自然に溶け込んで消えて無くなってしまいそうだ

「・・ディーンっ・・」

思わず不安に狩られたサムが呼んだ声で、この神聖な雰囲気に酔っていたであろうディーンは我に返ったようにこちらを見た

そして迷惑だったとサムが後悔する間も与えず、ディーンは何も言わず静かに微笑んでくれた

その笑顔にサムはこのまま二人、ずっとここに居られたらと出来もしない想像をする

まるで地球上にたった二人だけ、苦しみも悲しみも無い世界

そんな空想に取り付かれる程、その日の夕焼けは美しかった























食事を終えると二人は、数メ−トル高くなった岩場に寝るのにちょうど良い緩やかなラインのを見つけ、そこへ攀じ登るとビ−ルを片手に星降る空を眺めた

だが何時もなら饒舌に星座の解説でも求めてきそうなディ−ンも今のサムを案じてか何も言わず、サムも話したいと思っている気持ちを上手く言葉に出来ずに、沈黙が続く

そのうち、隣で岩場に凭れ掛かっていたディ−ンから寝息が聞こえ始めてしまう

「・・ディ−ン?・・」

何時も寝付きの悪い筈のディーンがこんな場所で寝るには早過ぎるし、不自然だと思ったサムが僅かに腰を浮かせディ−ンの方を見ると、唐突にその向こうの岩陰から白くぼりやりとした何かがフワリと姿を現した

「っ・・!!」

思わずナイフをホルダーから引き抜いて身構えるサムだが、それは一瞬で正面に移動して顔を覗き込んできた

『・・ふぉふぉ・・呼び出しておいて刃を向けるか・・?
 暫く来ない間に・・こっちの世界も変わったものじゃ・・・』

見る見るその影は老婆の姿に変わり、サムはまさかと彼女の足元を確かめる

すると月明かりに照らされた岩の上で老婆の影は無く、その上資料に有ったのと同じ色合いのナホバ織のストールを着ていて、彼女の正体が確かにこの聖地に住む精霊であると知らせていた

「・・す・・すまない・・・本当に現れるとは・・」

実はサムが東西南北に置いたあの植物や花はこの精霊を呼び出すのが一番の目的だったのだが、何せネイティブアメリカンの信仰に基いた交霊は今回が初めてで些か戸惑う

『・・思わなんだか・・?
 異教とはいえ・・『そんな事』を生業としているくせにのぅ・・・』

「・・・・・」

『・・さて・・早速占ってやろうと言いたいところじゃが・・・
 ・・この御仁は・・・おなごかな・・?・・』

「・・ぃ・・いや・・」

不思議そうに隣で眠らされているディーンをシゲシゲと眺める精霊の視線に、思わずサムの声も小さくなる

『・・わしの婚礼の占いは男と女・・その間を視るのが目的であろうに・・
 最近はどうも不思議なことが多いものじゃのぅ・・・』

「・・駄目か・・?」

『まあ・・よかろう・・この男とお前の間にあるもの・・只事ではないようじゃ・・』

老婆はそう言うと、サムの前に重そうな皮袋をガシャリと置いた

『ここからまず2つ・・中を見ずに石を取れ・・それがお前の過去じゃ』

「・・・」

サムは言われるまま、革袋の中に手を入れると無数の石の中から2つを選び出した

『・・これは・・・愛と・・死・・・心当たりは?・・』

「・・・・有るよ」

説明は要らないと言うようにサムが首を振ると、老婆は頷き再び2つの石を取るように言った

現在を表すという石をサムは選び、老婆の前に差し出す

『・・・ふむ・・・混沌・・・戦い・・・じゃな・・』

「・・当たってる・・でも、僕が知りたいのは未来なんだ」

『焦るでない、若者・・・・・ほれ、では未来を選べ・・但し石は一つじゃ
 ・・もう一つを選ぶのは、そっちの若者の仕事よ・・』

「・・・・・」

サムは途端に袋に入れた自分の手に汗が滲むのを感じたが、何時しか勝手にその手が一つの石を探し出し、握り締めているのに気付いた

他を選びたいと思い離そうとしても、決して自分の手はそれを離さない

『・・運命に逆らうな・・ほれ、出せ・・』

仕方なくサムは手を袋から出し掌を広げてその石を見せると、老婆の精霊は軽く息を飲んだ

『・・・・・・』

「・・なんだ?」

『・・これは・・・これを取る者は・・滅多におらん
 ・・普通は避けるんじゃ・・石の方がな・・』

サムは自分の前に置かれたままの、どこか禍々しい文字の記された石を意味を精霊に問い質した

どんな未来でも聞いておきたいと

だがこれまで穏やかだった老婆の精霊がサムを見る目は、一瞬で険しいものに変わっていた

『・・・この石は我らナホバの終末予言に現れる破壊を司る者を表す
 つまり・・・お前達の言葉で言う・・・『悪魔』、じゃ』

「・・・・・・」

『・・この数百年・・この石を取る者は現れなかったというのに・・・』

そしてその石を袋に戻すと直ぐ恐れるように老婆はサムから少し遠ざかり、次にディーンの前に石の入った袋を置くと眠らせたまま手を取りサムの未来に彼が与える運命を選ばせる

『・・・この石を選んだ者は・・・この世の全てに不幸を齎す・・
 ・・だから・・・この者が選ぶ石次第で・・わしはお前を・・・・』

「・・どうするって言うんだ・・?・・」

無意識のままディーンが袋の中の石を選ぶのを見守りながら、サムはこの岩場の周りに不穏な空気が取り巻いたのを感じた

おそらくナホバの戦闘用の霊達を老婆が呼び集めたのだろう、無数に集まった彼等が乗る霊の馬の嘶きや鞍が擦れる金属音も聞こえてくる

「・・僕を・・殺すのか・・?、『悪魔』になる前に・・」

『・・・・・』


ジリジリと彼等が迫り来る中、静かに精霊と睨み合うサムの前で、やがてディーンの手が一つの石を掴み取った

だが、それと同時にディーンは意識を取り戻し、目の前の人ではない影の存在に気付いたのだ








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