You Are My Sunshine 3
岩場で星を見ていた筈のディーンは、何時しか過去に旅立っていた
だがどこか違和感を覚え、そのまま夢の中に意識を埋もれさせたまま、ディーンは自分でもこれが夢だと認識する
そして夢は時間も距離も関係なく、その時のディーンの感情をもう一度彼の前に再現して見せた
夢の最初はエレンの酒場から出た直後
インパラの中で、たった今サムから告白された余りに幸せな出来事が信じられず、何度もこっそり隣の様子を窺っていた自分がいる
そしてその気恥ずかしさを誤魔化す為にわざと音楽のボリュームを上げても、サムは何か考え込んでいる顔で何も言ってくれなかったのを覚えてる
だから、唐突にこれから休暇を取ろうといわれた時、嬉しさよりも不安が先に立った
浮かれた気分でいたら又、手痛いしっぺ返しがあるかもしれないとさえ思えてきて、考えれば考えるほど会話はぎこちなくなった
次は観光客に囲まれた観光地
家族連れを見て急に暗い顔になったサムだが、多分自分と同じ気持ちだったに違いない
それはそうだろう
ずっと自分達は兄弟で、大切な家族だった
それが愛を囁き合った途端、他人になって恋人同士になれる筈もない
彼が自分を好きだと言った言葉が真実なら、自分がずっと昔から苦しんでいた罪に、今サムも気付いたのだ
夕日を見ているフリでそんなサムを見つめたが、彼は一度もこちらを見ようとはしなかった
最後はモーテルの一室
ベッドの上にいる自分と反対側の机には、パソコンと向かい合ったサムが居る
自分が何かをする度に、こちらを窺って緊張するサムの気配を感じていた
そしてどうにも堪らなくなり今まで通りの芝居をしてやると、やっと安心した顔でサムは眠りにつき、後は暗闇の中その背中を見つめる自分がいるだけだ
「・・サム・・・」
ディーンは夢だと分かったからこそ、その背中に向かって名前を呼んだ
あの時アッシュの部屋で、心がグチャグチャで苦しいままは嫌だとサムは言ったが、こんなのも楽じゃないとディーンは感じた
だけどサムが今まで通り、何事も無い芝居をする自分を望むなら、ディーンはそれでいいと思った
それで彼の傍に入れるのなら
いいと思った
不意に手に触れる、何か
酷く冷たい
「・・・サム・・?・・」
違う
サムじゃない
それどころか、人でもない
これは
「・・・っ!!」
「駄目だ、ディーンっ!・・彼女はっ・」
サムが咄嗟に止めるのも間に合わず、完全に覚醒したディーンは銀のナイフを抜くと目の前に影に向けて横に振るっていた
『・・・・そ・・その石はっ・・・・』
その刃が身を掠めたのか目の前の老婆の霊らしきものは、何故かディーンの手に驚いた視線を向けたままそう言ってあとずさると、次の瞬間には立ち上がったディーンから逃げるようにその姿を消した
そしてそれと同時に、二人の居る岩場の周りを取り囲んでいたらしき無数の霊の気配も消え失せる
「・・・サム・・・今のはっ・・今のはなんだっ!?」
目が覚めたらいきなり顔の前に老婆の霊、そして無数の殺気立つ霊体に囲まれていたなど冗談じゃないと、ディーンは傍に立っているサムに訴えるような視線を遣った
「・・・・ディーン・・・・」
だがサムは焦った様子で何かを探すように、辺りに視線を動かしている
「・・まさか・・・俺が寝てる間に何かしたのか・・?
それに・・・何だ?・・これ・・」
いつの間にか自分が手に持っている石を気味悪げに見るディーンだが、サムは何も言わずに近づくとその石に刻まれた文字を見た
しかし文字が一つ浮かび上がっているだけで、ディーンには眠っていた自分がこれを持っている意味が分からない
「・・・・ごめん、ディーン・・ちょっと・・
深くは考えてなかった・・未来を知るナバホの占いをしたんだ・・」
サムは諦めの溜息らしきものを一つ付くと、じっと睨むように見ていたディーンに言った
「聖地でわざわざ霊を呼び出してか?・・なんでこんな事したっ?」
「・・・・・・・」
まだ驚きと怒りが治まらないディーンの傍らにサムは腰を下ろすと、頭を抱えこんな事をした理由を口に喋り出す
「・・・・・なんていうか・・昨日から・・ずっと・・
・・頭の中がグルグルしてて・・・」
「・・ぐるぐる?」
「・・するだろ?、当然だ・・・ディーンは平気なのか?・・」
「・・・・・・・それは・・・その・・」
「そうだよ・・・あの事で・・」
「・・・・・・・」
ディーンはそれを聞いて漸く、サムの精神が自分が考えていたよりも酷い混乱状態にあったのだと分かった
ここのところ自分達はずっと自分の事だけで精一杯で、何時もは当然ように分かる相手の気持ちも分からなくなっていたらしい
ディーンは仕方なく手の中の石を弄びながら、再び元の位置の岩に凭れ掛かって座った
「・・・答えてくれよ、ディーン・・平気なのか、どうか・・」
ずっと弟に片思いした挙句強姦されて、その数日後に愛を告白されて平気な人間が居たらお目にかかりたいと、ディーンはこんな事を真面目な顔で聞いてくるサムを何故かふと可愛いと思ってしまった
「俺は・・もう何年も前からグルグルしっぱなしだからな、もう慣れた
それに・・なんでもないフリをする芝居も・・お前とは年季が違うんだよ」
「・・・・・芝居・・?・・」
「・・ずっと前から好きだったと・・もう知ってるだろ?、サミー」
「・・・・・・」
「ずっと・・お前の前で芝居をしてた・・何年も・・」
言いながらディーンは、サムの前でこんなふうに自分の気持ちを正直に話すのは初めてだと気付いた
アッシュの部屋の時は余りに動転し、気恥ずかしさとどうにもならなくて逃げ出した
だけど今は、ちゃんと向かい合って話すべきだ
「だから・・・お前が何を悩んで・・何に苦しんでるのかは分かるよ・・」
静かにディーンがそう言うと、サムは泣きそうに顔を歪めた
「・・これを・・・一人で背負ってたなんて・・馬鹿だよな、ディーン・・」
「・・ああ・・そうだな・・・・でも、もう一人じゃない」
ディーンはそう考えればこんな罪悪感も混乱もたいした不幸ではないという気持ちにさえなってきて、潤んだ目で遠くを見つめるサムを冷静に見つめてやることが出来た
「・・好きだけど・・・兄貴だ・・・」
「・・・・」
「でも・・好きなんだ・・っ、ディーン・・」
それならそれでいいじゃないかと、ディーンはサムを抱きしめたくなる
それに自分が今まで見たことがあるのは悪魔だけで、例え神の前に出れなくなるような恋にサムと堕ちたとしても、神と合う予定は無いのだから構わない
「・・ああ、分かってる・・・・まだちゃんと確かめてないけどな・・」
「・・ぇっ・・??・・」
どうゆう意味かと振り返ったサムに肩を竦めてやるとディーンは、無理矢理話題を変えるようと手の中の石を翳して見せた
「で?、結局これは何なんだよ、サム・・まだ教えてもらってないぞ」
「・・っ・・それは・」
「ナバホ文字だけどな、酷く古い方の形式の」
「・・えっ・・分かるの?」
上手く誤魔化す気かと睨んで来たサムだが、ディーンが何気なく文字を判別したのに驚いたのか目を見張っている
「分かるさ・・普通わかるだろ?、この文字は・・・『太陽』だな
ナバホ族の祭事や占いで使う用いる時の意味は・・キリスト教で言うところの『救世主』
闇に迷う怒れる破壊者を救う・・唯一の者だ
・・昔、ナバホ古代文字は親父に無理矢理覚えさせられたからな、確実だぞ?」
「・・・・・」
ディーンはサムがそれを聞いて呆然と立ち上がるのを見ながら、もう一度その石を手の中で転がして言った
「でも、なんで俺がこんな物持ってる?」
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