Cruelty or Love
ジョン・ウインチェスタ−はその夜も、ある部屋の中に入って行く息子の背中を見送っていた

自分でも親として獣にも劣る事をしていると分かっていたが、これも大きな目で見れば全て彼の、そして家族の為だと自分に言い聞かせる

それでも何時ものようにそのままその部屋のドアの前に立っている事は耐えられず、ジョンは突き当たりの非常階段に出て息子が今夜すべき事を終え、その部屋から出て来るのを待つことにしたのだ





























ジョンが息子のディ−ンにそんな要素が有ると気付いたのは、年齢より大人びて見える彼を情報収集の為初めて酒場に連れて行った時だった

それは些か治安の悪い地域の質の悪い男が集まると聞いた店だったが、もうディ−ンに世間のこんな部分を垣間見せるのが早過ぎるとは思わなかったし、いつ何時自分にもしもの事が起こるか分からない今ディ−ンにはどんな場所でも聞き込みに行く度胸や、又その雰囲気に溶け込んで話を聞き出したりする術を身に付けさせなければいけなかったからだ

まだ様々な職業に就く程の大人には見えぬ彼には、先ずはまともな道から外れた若者という役を演じさせたまたま知り合う隣の男から身の上話でも聞き出せれば合格だと、ジョンは他人のフリであらかた情報を集めると後はディ−ンの様子をさりげなく窺っていた

やがてある年配の男と打ち解け親しげに話込んでいたディ−ンだったが、何やら耳元で囁かれると急に落ち着きを失う

そしてガラスの割れる音とその男を殴り付けるディ−ンの姿に、ジョンは直ぐに立ち上がると息子の腕を掴み逃げるように酒場を出たのだ







その後詳しく聞けば、話をしていた男に口説かれ尻を触られたらしいのだが、同性に言い寄られるという悍ましい体験にもジョンは騒ぎを起こし周りに顔を覚えられるような行動を取ったディ−ンを責めただけで、少しも慰めはしなかった

更にショックを受けている様子の彼に使える手は全て使えるようにしろとさえ命じ、その後も聞き込みに酒場や如何わしい地域に行かせる度に、まるで蛾を吸い寄せる誘蛾灯の如くディ−ンにその趣味の男達が群がるのを放置した

そんな周りの反応は些か不思議だったが、確かにジョンから見ても彼は綺麗な顔立ちをしていたしその上本人は無意識なのだろうが、どうやら彼の上目使いに見る長い睫毛に縁取られた瞳は男を欲しがり、誘っているように見えるらしい

そんな日々が続いたある夜、ジョンはある事を決意する

それは、これまで教え込んだカ−ド詐欺やいかさまポ−カ−の方法では切り抜けられない種類の難局を乗り越える手段に、その事が成り得ると気付いたからだ













決意を決めたジョンは何時ものようにディ−ンを連れある地域の一角にやってくると、道端に立つ暗がりでは一見女性に見える男に話しかけた

「・・幾らだ?」

男娼は瞬時に営業用の笑顔を顔に貼付けて振り返りジョンを見たが、すぐその後ろに硬い表情で立つディ−ンに気付き怪訝な声音に変わる

「・・ハイ・・私、アマンダ
 3Pしたいの?・・それともセックスを見られて燃える二人かしら?」

「これは息子だ・・まだ15」

自分の後ろを指して言ったジョンの言葉に、アマンダと名乗った男娼は忽ち逃げ腰になった

「・・ちょっと待って・・
 売春で捕まるならまだしも・・未成年に手を出した罪でまで捕まるのは御免よ
 たとえ買ったのはそっちでも、この場合実刑での刑務所行きは私だわ」

「信じろ、絶対に誰にも言わない
 それに息子とセックスしろとは言ってない・・教えてやって欲しいだけだ」

「・・?・・・なにを?」

ジョンは、アマンダ同様ディーンも驚いてこちらを見るのを無視して言った

「男の悦ばせ方をな」








「・・父さんっ・・いやだ・・こんな・・」

ジョンは腕を掴み引き摺るようにして近くのホテルにディーンを運びながら、彼が自分のする事に嫌だと言ったのは初めてだと思っていた

6つの頃から射撃や格闘、ナイフの使い方に弓、世界各地の魔術や霊の退治封印の方法までを半ば虐待といえる強引さで教え込んで来たし、その為には友達との約束さえ反古にさせ学校さえも平気で休ませて、普通の父親がしてやるべき当然の事もしてやらなかった

だがディーンはこれまで自分の全ての命令に従い、最近も丁度反抗期に入ったサムの分まで働くと言っていたところだったのに

「ディーン、これは必要な事だ」

ジョンは勤めて鬼軍曹としての顔を作って、冷酷にディーンに言ってやった

「・・・・・」

「・・さて・・と、まさかパパも一緒の部屋に入って見学とか言わないわよね?・・」

部屋の前まで来ると、アマンダは呆れた顔でどこまでも付いて来るジョンを見た

「・・ああ」

「・・じゃ・・何処かで待ってて
 直ぐにマスターするのは無理だろうけど・・・なにせ今日が初日じゃね」

数時間で売春の3倍の金を約束すると渋々頷いたアマンダだったが、ここまで来るとプロフェッショナルに徹する気になったのかディーンの肩を抱いて部屋へと誘って行く

そしてその時のディーンは、まるで屠殺場に連れて行かれる動物のように、抵抗も出来ず強張った表情のままだった































あれから半年

フェラチオから始まった『レッスン』は徐々に内容をエスカレートさせ、確実にディーンの精神と肉体を変えていった

そして今夜その仕上げともいえる段階に進み、もう嫌だとは言わなくなったディーンは初めてレッスンの相手の選択を許されて、その彼が気に入ったらしき男娼と一緒に部屋に入って行ったのだ





やがて数時間が経過し、ドアが開くのを見たジョンはポケットから財布を取り出しながら非常階段から廊下へと入った

「・・金だ」

流石に気分が悪くなって、ジョンはその男娼の顔は見ないように数枚の札を差し出すが、今夜も何時もの如く彼等は何か一言ジョンに言いたいらしい

道徳観念など薄いと思われる彼等だが、皆ジョンのやっている事の異常性には不思議と敏感に気付く

「・・息子を一流の男娼にでも育てる気なのか?・・あんた」

「・・・・・」

「それともブルーボーイフィルムにでも売り飛ばす準備?
 ・・どちらにせよ、ロクデナシだな・・・俺達以下だ・・・獣以下だよ」

「・・・・」

男は札をひったくるようにして奪い取り、汚いものを見るような目でジョンを眺めてから背を向けた

そして暫く歩くと振り向き、部屋の中に入ろうとドアノブを掴んだジョンに言ったのだ

「そういゃあ・・犯されてる間、あの子ずっと俺を『父さん』って俺を呼んでたぜ
 ・・・なんとなく似てるもんな、俺とアンタ」














end

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