アンダーワールド 2
長年の圧倒的な不利な戦いの中狼男達は何もせず、迫り来るバンパイア達にただ牙を剥き爪を立てていただけではなかった

バンパイア達には考えも着かない科学的なアプローチで、現状を打開しようとする者も現れていた

その証拠にある条件に当て嵌まる人間を捕らえては、その血液を採取し科学者のジンゲイという男に調べさせている

それはある計画に、絶対不可欠なものを探し出す為

「残念ですが・・この男も陰性です」

だがその日も狼男族の研究所で、ジンゲイがこれまでと同じようにビ−カ−の中の液体反応を見てそう言うと、その様子を見守っていた眼光鋭いリーダー各の長髪の男は口惜しげに顔を歪めた

そして壁に貼られた多くの写真から、ジンゲイが一つの名前にペンで×を書いて消し去るのに背を向け、丁度誰かを担ぎ戻って来た大男に期待を込め足早に近寄る

「レイズ、お前の獲物はっ?!」

しかし予想に反してベッドにドサリと横たえたのが負傷した仲間だと分かると、男はレイズと呼んだ黒人の男を睨み付けて問い質す

「失敗したのか?・・・・なんてザマだ」

「・・っ・・待ち伏せされた・・あの処刑人のディーンが居たんだ
 それに・・純度の高い銀製の弾で変身を阻止されて・・・その隙に逃げられた・・」

「・・くそっ・・」

服を破れば一目でもう助からないと分かる程の無数の銀の弾丸がその男には撃ち込まれていて、それを見たジンゲイツももう彼を手当てをしようとはせず、レイズの胸に刺さったままだったディーンから投げ付けられた武器を引き抜いてやっている

その肉に食い込んだ金属の円盤を一つ一つ取り去る度に上がる悲痛な呻き声に、男も獲物を取り逃がした怒りをそれ以上レイズに向けることを諦めたのか、気を取り直したように静かな口調で質問した

「俺達があの男を・・サム・ウインチェスターを追っていた事は、連中にバレていないだろうな?」

「・・多分・・知られてはいないと思います・・」

「多分?」

再びピクリと長髪の男の頬の肉が痙攣するのに、レイズは内心震えて急いで答え直す

「だ・・大丈夫です・・」

「あとはもう・・サムの血に賭けるしかないですよ」

まるでそんなレイズに助け舟を出すようにジンゲイが壁の写真で唯一×印のついていない男の写真を叩いて言うのに、その男はとうとう我慢出来なくなったのか死体の乗った寝台を叩いて叫んだ

「貴様らが駄目なら俺が行くっ!」

男の目的地、それはサム・ウインチェスターの自宅だった






































サムは、もう訳が分からなかった

平和に暮らしてきた生活の中、突然降りかかった災厄

それは昨夜地下鉄に乗ろうと駅の構内に下りた時、突然自分の周りで始まった銃撃戦に端を発する

周りで次々銃弾を受けて倒れる人々を見てインターンとして病院で働くサムは黙って見ている事は出来ず、肩を撃たれた女性の傍らに走り寄り手当てをしようとした

だがその時、何故かその時撃ち合いをしていた一人の男が駆け寄って来てサムの襟首を掴み、まるで連れ去ろうとするかのように凄い力で引っ張ったのだ

幸運にもその男は、向かってきた黒い革のコートを着た若い男に撃たれて後ろに飛び自由を得たが、サムはその時になって漸く、その場で銃を手にしているほぼ半数が自分に注意を向けていると気付いた

まさか、彼等の目的は自分なのかと、途端に耐えられないほどの恐怖が体を走り抜ける

何故自分が狙われるのか、心当たりなど全く無い

そしてどうにか彼らの隙を見て急いでその場から逃げ去ったサムは職場の病院へと逃げ込み、誰にもその夜遭った事を話せないまま次の日の夜中、どうにかそれまでの仕事を無事こなしてから家に帰ることにしたのだ











だが安息の地となる筈の自宅も、誰かの手によって暴かれた後だった

サムは鍵を掛けて出た筈の玄関のドアが開いているのを、信じたくない気持ちで呆然と見つめるしか出来ない

そして暗闇の中窓から射し込む月明かりを頼りに足音を潜めて中に踏み込めば、丁度同僚から留守電にメッセージが吹き込まれてるところで、警察が職場に来て自分が銃撃戦に巻き込まれたと言って聴取の為探しているのだと同僚は話している

サムは、あの場には警察も知り合いも居なかったのに身元がバレたその話を不可解に感じ、もう誰も信じられないと思った

こうなればもう頼れるのはその同僚だけで、サムは彼に匿ってもらおうと電話に近づいたその時、闇から突然誰かの手が伸びてサムの喉元を締め上げ高く持ち上げたのだ

「っ!!!」

「・・お前、どうして奴等に追われてる?」

「・・・?・・・」

呼吸を妨げられている苦しみを堪えて見下ろせば、そこにはあの夜地下鉄の構内で見かけた若い男が立ち、こちらをきつい目で見上げていた

敵か味方かも分からないが、よく見ればその大きく澄んだグリーンの瞳はその中に自分が写る事を望まぬ者はいないと思える程美しく、染み一つ無い抜けるような白い肌に、弾力の有りそうな肉厚の唇は紅を差したかのように赤い

確かに同性だが恐ろしく整ったその容貌はまるで月の光が見せる幻か妖精のようだと、サムは今自分が置かれている立場も忘れて目の前の男に見とれた

だがそんな時間も、天井を突き破った数匹の狼男の襲来で終わりを告げる

突然の化け物の登場でパニックに陥ったサムは、舞い落ちる瓦礫の中どうにか目の前の美しい男が2丁の銃を構えそれらに応戦し始めたのだけを確認すると、一目散にエレベーターの方へ向かって走り出した

狼男の話は聞いたことがある

満月の夜に人間を襲って食べる、凶暴な魔物だ

このままでは自分も彼等の餌になると、震える手で叩きつけるようにエレベーターのボタンを押してドアを閉めたサムは、下に向かって動き出してからさっき見た若い男の発する銃の音がまだ聞こえているのに気付いたが、もう彼を助けに再び自分の部屋の有る階に戻る勇気は出なかった

それに、何故だか彼はこんな状況に慣れている、そんな気がする

サムは減ってゆく数字を眺め、ただ早くそれが1になることだけを箱の中で祈った

そして無限とも思える時間が過ぎ、やがてゆっくりと地上に到着したエレベーターのドアが開くと、そこには一人の眼光鋭い長髪の男が立ち塞がりサムに笑いかけていた

「・・・・?」

「やあ、サム」

ニっと笑ったその見知らぬ顔は何処か禍々しくサムが思わず後ろにあとずさると、その瞬間無数の銃弾が男の側面から撃ち込まれ、その拍子に男が着けていた特長のあるペンダントがキラリと舞うのが見えた

遠くから響く銃の音でそれがさっきの若い男が追いついたのだと分かったが、目の前の長髪の男は撃たれたのに絶命するどころかこちらに襲い掛かって来て、サムは首筋を酷く噛まれて肉を引き千切られ悲鳴を上げた

そしてこのまま自分は殺されるのかと絶望のまま目を瞑りかけた時、複数の狼男の中に置き去りにしたというのにあの若い男はサムを助けにエレベーターの入り口へと走り寄りって来て、足を掴むと信じられない力で男から引き離してくれた

そのままアパートの出口まで引き摺られたサムは、やがて焼けるような首筋の痛みを堪えてどうにか自力で立ち上がり、彼が乗り込んだ車の助手席に滑り込む

「・・これは・・どうゆうことなんだよ?!」

そのサムの問い掛けに答えぬまま、彼はあれだけ弾を撃ち込んでもあの男が死んでいないとでも思っている様子で、車を猛スピードで発進させた
















結果的にディーンの判断は正しかった

二人が去ったエレベータホールでは、男は口に含んだままのサムの血を大事そうにカプセルに入れ、胸元へと忍ばせると満足そうに笑っていた

そして上着を脱ぐと、体内に撃ち込まれた銀の弾丸を自らの力で体外へと排出してしまう

歳を重ねた狼男はその能力も優れていて、多少の数の銀の弾などほんの少し動きを止めるのにしか役立たないのだ

長髪の男はその瞳を不気味なブルーに光らせると、猛然と二人が乗る車を追いかけ始める




















サムは車の上に何かが乗った音に、信じられない思いで運転席を見た

だが彼はそれを覚悟していた様子で、天井を突き破って車内に刺される巨大な刃物も恐れず更にアクセルを踏み込む

やがて敵も狙いを定めたのか巧みに身をかわしていた彼の肩を刺し貫き、堪え切れず呻き声をあげるのをサムは呆然と見守るしか出来ない

それでもハンドルを放さなかった彼は、急ブレーキの反動で上に乗っていた男を落とすと急いで車をバックさせ、そしてタイヤが焼け焦げた臭いを放つほどアクセルを踏み込むと猛スピードで男に突っ込み、天高くその体を跳ねた

「・・・・・」

サムは宙を舞ったその男を後ろに見送り、軽々と男が着地したのにあれが人間ではなかったのだと確信した

















バックミラーを確認して男が追って来ないと分かると、二人は漸く安堵の息を付いた

だが見れば彼の肩の傷は深く、骨までがサムの位置からも見える

「・・車を停めて」

刻々と流れ出る血は月明かりの中シ−トまで黒く染めて、サムは医学に携わる者としてその量に早急な手当が必要だと判断した

だが男は構わず車を走らせ、こちらを見ようともしない

「車を停めろって言ってるだろっ」

「・・煩いっ、離れろ!」

心配して身を乗り出せば、男は酷いことに銃をこちらに向けて来る

彼は自分を助けてくれたのだから撃たれるとは思わないが、やはりこんな物を持った経験も無いサムは恐怖を感じ両手を小さく上げて見せた

「・わ・・わかったよ、落ち着いてくれ・・・・・・僕はサム・・君は?」

「・・・・」

「・・なぁ・・名前くらい教えてくれてもいいだろ?・・」

話している間も彼の血は流れ続け、もう普通なら気を失っている量を軽く越えている

その証拠に彼は目を瞬かせ、懸命に頭を振って意識を保っていて、呼吸も荒い

「出血が酷い・・車を停めないと二人とも死ぬことになるよ」

なんとか彼を説得しようとする努力も虚しく、サムはついに声を荒げた

「・・いい加減にしろっ!!、僕は本気で言ってるんだぞっ!!」

「俺だってそうだっ!
 俺の名前はディーンだ・・知りたがってる事を教えてやったんだから、黙って座ってろっ!」

可愛い顔をしてるくせになんて凶暴で頑固なんだとサムが呆れて座りなおした、次の瞬間、彼の意識は唐突に失われガクリと前に突っ伏した

「・っ!!・・危ないっ!!」

サムは咄嗟にハンドルを取り上げ、横に切る

こうしたら車が横転する危険もあると感じていたが、仕方が無い状況だった

何故なら前にもう道は無く、埠頭の明りの向こうに広がる漆黒の海がただ広がっているだけだったからだ

だが残念なことに車は止まらず、クルクルと回転して海の中へと落ちた

そして、数秒ももたずに二人は暗闇の中へと沈んでいったのだ










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