アンダーワールド 13
研究室に縛ったままのサムを置きルシアンが隣の部屋に行けば、そこには硬い表情のクレイヴンが部下を引き連れて立っていた

「約束だぞっ、ルシアンっ!」

「落ち着け、クレイヴン・・・・二人だけで話したいことがある
 ・・・・お客様を下の階にお連れしてさしあげろ」

ルシアンはクレイヴンが頷くのを見て、部下に命令した

そして彼の部下がその場を立ち去り部屋の扉が閉まって二人きりになると、クレイヴンに言った

「元老院のメンバーは既に皆殺しにした・・・全てはお前のものだ
 最高位の地位と、我ら狼男との平和条約がな
 俺達も終戦の恩恵には・・・大いに期待している」

「っ・・ビクターが復活した以上登りつめるのは無理だ
 お前にも倒せない・・・・彼は強くなる一方だっ」

実は小心者のクレイヴンはうろたえているが、既にサムを手に入れたルシアンは覚悟を決めていた

「だからこそ、俺には今サムが必要なんだ
 簡単にビクターを殺せるなら、お前が殺しているだろ?・・・とっくの昔に」

「・・・・・」

クレイヴンはどこか納得のいかない様子で黙り込み二人の間に暫しの沈黙が続いたが、その時、突然外で爆弾が爆発したのかガラスが粉々に割れ二人に降りかかった

そして敵の襲来を告げる鐘が、建物中に鳴り響く

「・・ビクターだっ!」

怯えた表情で叫んだクレイヴンに対し、ルシアンは遂に彼との戦いが到来した高揚感に目を輝かせて答えた

「そうとも・・・・お前がミスらなければ、奴はまだ眠りの中にいたんだがなっ」

だがたった一つルシアンに不安が有るとすれば、それはアメリアの血を持ち帰る手筈のレイズの帰りがまだだという事だ

遠くから聞こえる無数の機関銃の音に、ルシアンはレイズを捜そうと銃に紫外線弾を込めて武装した

「ルシアン、他に逃げ道は無いのか?」

「これだけの窮地に直面して・・多少の血を流すくらいの覚悟も出来ないのか?
 ・・・・・・・逃げようなんて考えるなよ、許さんぞ、クレイヴン」

ルシアンは心底意気地の無いバンパイアの当主を嘲った

だが、その部屋にクレイヴンを置いたまま扉を開け背を向けた瞬間、胸に熱く激しい衝撃を感じた

「・・っ・・?・」

部屋に反響した銃声と胸に開いた穴を見て漸く、ルシアンは自分が後ろからクレイヴンに撃たれたのだと分かった

「・・硝酸銀の弾だ・・予想もしなかったろ?」

傷口を押さえた指の間から流れ出る銀色の液体に、ルシアンは自分の血管を通って毒物が体の隅々に流れ出すのを感じた

そして立ち去るクレイヴンの足元に、ルシアンの体は力無く倒れこんだのだった































その頃狼男族のアジトに乗り込んできたディーンとカーンの隊は、閉じ込められていた部屋から脱出したクレイヴンの部下達に出くわしていた

だがそのバンパイア同士の戦いは最強の処刑人であるディーンにとっては容易いもので、敵の待つ通路に上から飛び降りたディーンは正面から2丁の銃を構えて撃ちまくるが、敵の弾は彼に一発も掠らない

それどころかカーンの見事な援護もあって瞬く間に全員を倒し、更に奥へと進んで行く

するとカーンはここからは敵が狼男になると覚悟したのか最新の注意を以って慎重に歩を進め、角では進路の安全を確保し隊に縦に長い列の陣形をとらせた

それを見た最後尾のディーンは、このときがチャンスと横に伸びた細い通路に飛び込み、全力で走って彼等から離れる

なぜなら、このままカーン他バンパイアと行動を共にしていれば、サムを殺されるのを止められない

彼等よりも早く、ディーンはサムを見つけなければならないのだ































「・・・ルシアン・・」

駅からアジトに戻ったレイズは、変わり果てた姿のルシアンの前に呆然と立ち尽くしていた

力が抜けた手からは、アメリアから抜き取った血が入った注射器がすべり落ちて割れて音を立てる

そして傍に跪いたレイズは頬に触れ彼の死を確信すると、攻め込んだ敵の存在に憎悪を漲らせ狼男に変身した

愛するルシアンを殺された復讐

それしか、今のレイズの頭には無かった






だから、それから暫くして意識を取り戻したルシアンが身動ぎをしたのには、気付かないままだった






























サムを捜す為カーンの隊から外れたディーンは、一人狭い通路を銃を構え慎重に歩いていた

皮肉にもそこから遠くも無い場所をクレイヴンも又逃げ道を求めて彷徨っていたのだが、地図も無く廃墟を利用したこの建物の複雑な通路では他の者の居場所の確認は不可能だ

ディーンは、カーンの断末魔らしきものが遠くから聞こえた気がしたが心の中で謝ると、更に奥へ奥へと進んで行く

そしてやがて幅が1メートルほどの狭い通路に入って直ぐ、彼の耳は不気味な地響きを捉え、背後を振り返った

見れば曲がり角の壁に巨大な獣の影が映り、次の瞬間には横壁に張り付いてこちら走って来る狼男が姿を表す

ディーンは直ぐ前方に向かって走り、次の曲がり角で振り向いて撃った

だが、それを一撃で倒しても次の通路からもう一匹獣に変身した狼男が飛び出して来て、それを仕留めれば又次の路地から一匹が顔を覗かせて、ディーンを見て唸り声を上げる

「・・クソっ・・」

今度は二つ角を進んで立ち止まり後ろに銃を構えたディーンだが、直後反対側の自分の背後に獣の気配を感じて大きく上に跳んだ

そして空中で回転しながら銃を撃ちまくりそこに潜んでいた一匹を倒したが弾倉はそれで空になり、背後からはさっきの獣が走り来る足音が迫る中、ディーンは背中を向けたまま銃に新しい弾倉を込め始めた

だが直ぐ後ろで獣が自分に向かって跳躍する足音が聞こえても、ディーンは振り返らず冷静だった

鋭い牙を向いた獣があと数センチに迫った位置で振り向くと、弾を込め終わったばかりの銃を向けて、確実にその頭に銀の弾丸をぶちこんだのだ































ディーンが命を危険を冒して獣達を倒していた近くで、ある男が襲い掛かってきた狼男を一撃で次々と葬っていた

このアジトに乗り込んで来た、ビクターだ

彼は無数の狼男の出現に怯える部下の前で、首をへし折った狼男に懐から取り出した長い剣を突き立てて止めを刺すと、牙をむき出しにして微笑んで見せた

最年長にして、最強のバンパイア

もはやビクターに勝てる者は、この世に存在しなかった






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