アンダーワールド 15
ホールへと墜落して数秒間気を失っていたサムは、自らの体に起こり始めた異変で突然覚醒した

それはあの満月の下の変身の時とは比べ物にならないもので、何か体内で二つの異物が互いに牙を向き、争い、殺し合う、そんな感覚だ

だが、異なる二つはやがて融合し、互いの欠けた部分を補い始める

一つ一つの細胞が破壊と再生を繰り返し、それはサムに無限の力を実感させると同時に、その肉体を誰も見たことが無い者に変えようとしていた

「・・ぁ゛・・あ゛あ゛あ゛・・っ・・」

メリ、メリ、と音をたててサムの手の爪が鋭く伸び、腕は人の形のまま筋肉が力強く盛り上がって、肌は闇の色に変わった

肋骨は形を変え弱点となる腹部を完全に守る形態を取り、歯はまるでバンパイアそのままの鋭さを持って、その目は黒く染まる

無限の快楽と、無限の激痛

今正に、この世に生まれ出る赤子のように、全身を反り返られて、サムは絶叫した



































「何処に行ったっ?、クレイヴンはっ?!」

裏切り者への粛清に燃えるビクターは、辺りを見回してディーンに問い質した

だがディーンがたった今知ってしまった真実とサムへの仕打ちに何も言わず疑惑の目を向けるのに、ビクターは常に従順で付き従う彼の態度とは違うものを感じたのか、その表情が厳しさを増す

「・・どうしたというのだ、ディーン」

「あれは・・・狼男じゃなかった、あんただったんだな・・ビクター・・」

「・・・・・っ・・」

潤んだ目でディーンが発した言葉に、一瞬の間の後ビクターは目を見開いた

「もう信じられないっ・・・俺の家族を殺したあんたを・・」

漸く何について言っているかの確信を得たビクターは視線を逸らしたが、すぐ傲慢な表情でディーンを見下した

「・・そうだ、だが家族を奪った代わりに、それ以上のものをお前に与えた
 永遠の命という贈り物をくれてやったというのに、まだ不満だと言うのか?」

「それに薬を・・俺に薬を使ったっ・・・・・その上、あんたは自分の娘まで殺してたっ」

ビクターはそれに答えずディーンに背を向けると、ルシアンの死体から娘が身に着けていたネックレスを奪い取り、やがて両手を広げて叫んだ

「娘を愛していたっ・・そしてお前もだっ!」

「・・・・」

「・・だが・・娘は腹の中に私と一族への背信の証を宿していた
 あの時私は、種の保存に必要な事をしたまでだ
 その為なら今も・・それを繰り返すのに何ら躊躇いは無いっ!」

そう言い切ったビクターは、長剣を掴んだ

もはや、それが何の為かは明白だ

「・・っ・・や・・やめてくれっっ!!」

そしてディーンが止めるのも構わず、ビクターはサムを突き落としたホールを覗き込んだ

だが、そこには確かに投げ捨てた筈の姿は、どこにも見えなかったのだ




































その瞬間、ディーンが瞬きするよりも早く、それは下のホールを覗き込んだビクターの後ろに立っていた

一瞬それがサムだと確信出来なかったディーンだが、人間の時とさほど変化は無くただ全身が黒く変わっていただけの後姿は、確かに彼だ

だが命が助かったのだとディーンが安堵したのも束の間、サムは目の前のビクターを下のホールへと突き飛ばし、二人の戦いの火蓋が切られる

「・・っ・・」

仰向けに浅い水の中に落ちたビクターの側に跳んだサムは一瞬で彼の前に立ち塞がり、ビクターが立ち上がれば又直ぐ後ろに回って彼を翻弄した

最長老であり最強のビクターを以ってしても、狼男とバンパイアの混血種となったサムの動きの速さには、付いて行くのがやっとだ

だが繰り出した拳を避けられ爪を食らい壁に叩きつけられたビクターだが、接近した隙を突いてサムの首を掴み張り付いていた壁から下に叩き落とすと、遠心力を利用して硬い柱に頭を叩き付ける

そして落としていた長剣を拾い上げて振り回せば、サムは超人的反射神経で巧みにそれを避けた

ならばと足元を払えばサムは背後に回転して壁に張り付き、そのバンパイアそのものの動きはビクターにもサムが双方の優れた能力を受け継いだのだと認識させる

だがある意味この世に生まれ出てて間も無いサムはまだ上手く力をコントロール出来ず、それに対してビクターには長年の経験と自信が有った

剣を払い落とされたビクターは、なんと殴り合いでわざと数発のパンチを食らって膝を付き、その弱り切った芝居が生んだ一瞬のサムの躊躇をついて、渾身の力を込めて下から拳を振り上げて殴り飛ばす

十数メートルも先に飛ばされたサムは水の中に臥せり、丁度その時駆けつけたビクターの部下達はホールへの階段を降りて、ここがチャンスとばかりにサム目掛けて銃を乱射し始めた













壁際に倒れこんだまま迷い続けたディーンは、サムに向けられた幾つもの銃声に顔を上げた

そして堪らずに立ち上がると迷いを振り切り、ホールへと飛び降りると素手で男達を瞬時に倒す

だがディーンにとって容易い事でもそれはビクターへの真の反逆を意味し、柱の影に隠れたサムに駆け寄ろうとしたディーンはビクターに殴られて倒された

そしてそれを見たサムは怒りの唸り声を上げてビクターに走り寄り、二人は再び浅い水の中で揉み合う

拮抗する力だが、バンパイアの長老の力は驚異的に強い

やがてサムはビクターによって、背後から首を絞めらてしまう

「・・っ・・」

「っ・・死ぬがいい」

サムの体からゆっくりと力が抜けるのに勝利を確信したビクターはその顔に笑みを浮かべて呟き、それを見ていたディーンは傍らに落ちていた長剣を手にした

反逆したディーンを一撃で殺さなかったのはビクターの情だったが、それが彼の運命を変える分岐点だった

背後のディーンの動きに気付いたビクターはサムを離して向き直ったが、ディーンはそれより一瞬早く跳んだ





そして、ディーンからビクターへの、訣別の一撃













一瞬静寂が辺りを包み、ディーンが十数メートル先に着地した水音だけがホールに響く












「・・っ・・」

ディーンが振り返れば、ビクターは両袖からナイフを出し臨戦態勢を取っていた

だが、何かが違っている

ディーンが顔の前に翳した剣にはしっかりとビクターの血が付いていて、それが彼が既に絶命しているのだと教えていた

そしてそれを自らが認識した瞬間、ビクターの頭は鋭い切れ口で二つに分かれ、頭頂部は滑り落ちて水に落ちる

続いて斜めに切断された断面を晒した体もそれを追うように崩れ落ち、ビクターの永遠といわれた命は彼が愛した男の手によって、こうして終止符を打たれたのだ









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