アンダーワールド 16
全てが終わったと感じたディーンの手からは力が抜け、ビクターの命を奪った長剣は滑り落ちて水に沈んだ

そしてまだ変身したままのサムに向き合ったディーンはその瞳がゆっくりと彼の色を取り戻すのに安堵し、漸く改めて周囲を見回した

物陰には無数の狼男の気配が有ったが、最強の処刑人のディーンと狼男とバンパイアの混血種の強さに恐れをなしたのか、それとも仇のビクターを倒した者に危害を加える気を無くしたのか、小さな唸り声を残し一人又一人と消え去ってゆく

やがて、信じられないような静寂が、その場を包む





「・・っ・・・サム・・?・・」

やがてビクターが落としていた数奇な運命を辿るネックレスを拾い上げ、顔を上げたディーンの前にはすっかり人間の姿に戻っていたサムが立っていた

「・・ディーン・・」

これまでと変わらぬ顔でこちらを見つめ差し出しくれたサムの手を見て、ディーンは思った



これは、漸く自分が掴み取った自由

自分が選んだ、未来



「・・サムっ」

逞しい胸の中に、ディーンは飛び込んだ

それをサムはしっかりと受け止め、すぐに苦しい程の力で抱きしめてくれる

「・・ディーン・・」

互いに名前を呼び合うだけの二人に、やはり言葉は必要なかった











































館の地下

仲間の裏切りと狼男との戦いにバンパイア達が出払ったその奥深くで、今は主亡きビクターの棺の横に、3人の長老の一人マーカスは眠っていた

アメリアの死もビクターの死も、クレイヴンの裏切りさえ知らずに、眠っている筈だった

だが、その床の下に安置された棺を操作する為の美しい彫刻の施された金属板の直ぐ側には、ビクターの一撃で殺された頭を割られたジンゲイの死体が置かれたままになっていた

その体からは夥しい血が流れ出して床を伝い、やがて引力に従ってマーカスの棺の中へと注がれている




バンパイアにとって、血は記憶







もうすぐ、全てを知ったマーカスは、目覚めることになる














































俺に未来を予言する力は無い

だが、今夜の出来事はバンパイアと狼男、両一族の間で末永く語り継がれるだろう

バンパイアの長老のうち、二人が殺された

うち一人は俺の手で



やがて、マーカスは目覚める

そして怒りと報復の気運が夜の街に溢れ出し、バンパイアはその血の元にマーカスへの忠誠を誓い合う





そしてその時俺達は、追われる身となるのだ







end

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