お色気賞金首
僕はサム

三ヶ月前からこの広大な西部の開拓地に点在する街を馬で廻って旅をし、ある男を追っている

それは父さんと母さんを殺した、ディ−ン・ウィンチェスターという男だ

銃の名前が通り名になっていることからも分かるように名うてのガンマンの奴はもう多くの人を殺していて、既に多額の賞金がその首に掛かっていた

だが立ち寄る街の酒場酒場にお尋ね者の似顔絵が無数に張られているというのに、未だ保安官への市民からの通報も無く、僕もその姿に一度も遭遇で出来ないで居る








「ディ−ン?・・ああ・・あの、お色気賞金首か?」

そして遂に僕は数日前に立ち寄った酒場で、彼の目撃談を聞くことが出来たのだが、何故か奴の名前には変な冠名が付いていた

「は?・・お色気って?」

「坊主、奴に会ったことあんのか?・・もし狙ってんなら気を付けろよ」

「・・・そんなこと・・分かってるさ、奴は強いんだろ?」

当たり前だと、僕は身を乗り出した

「違うって、気をつけるべきはそれじゃない・・・・まぁ、強いのは途轍もなく強いがな
 後ろから銃なんか抜こうとしてみろ・・激鉄に指を掛ける前に脳天を撃ち抜かれちまう
 ・・奴は気配だけで分かるのさ・・後ろにも目が付いてるのと同じだ」

「・・・・後ろからなんか卑怯だろ・・僕は撃たない」

僕が言うとその男はバーボンの入ったグラスを傾け、茶色の歯を見せてケケケと笑った

「じゃ・・果たし状でも突きつけて、正々堂々ま正面から決闘か?
 言っとくが奴の銃捌きは早すぎて、目には見えないって噂だ
 ・・無理な事はやめとくもんだ、坊主・・その歳で死にしたくねぇだろ?」

恐らく金目当ての賞金稼ぎだと思ったのか、肩をポンポン叩いていた男に僕は真実を打ち明ける

「両親の・・仇なんだ、なんの罪も無い二人を殺した
 ・・・だからどうしてもディーンを倒したい」

だがその言葉にはその男だけではなく、側で盗み聞きしていたと思えるバーテンさえ驚きで目を見開いている

「あいつが??・・・信じられねぇ・・なぁ?、ニック」

頷くニックと呼ばれたバーテンにもどうしてかと尋ねると、彼はこれまで考えていたディーン像とは全く違う話をして来た

最強のガンマン、ディーン・ウインチェスターががこれまで殺したのは、借金の借用書を書き直し貧しい者をますます窮地に陥れたり、法外な利息での借金のかたに娘を攫おうとするような、極悪人ばかりだと言うのだ

そして奪った金はその街々の、食うにも困るような人々の玄関先や街外れの先住民の家に配って歩くのだと

「・・そんな・・・それが本当なら・・何故僕の両親を・・?・・」

「そりゃ・・なにかの間違いだろ?
 誰かがその殺しをディーンのせいにしたんじゃねえのか?
 第一・・坊主、殺しの現場を見たのか?、ディーンだっていう証拠は?」

「・・・・・・・・」

そう言われればディーンが殺したところを見てもいないし、証拠も無い

唯一は、保安官の目撃談だけだ

「・・保安官が・・見たと・」

だがそう言うと、途端に男達は目を剥いて反論した

「はぁ?、保安官だと?!・・・全く、世間知らずな坊やだなっ
 あんなもん・・都合よく賞金首として狙いたい奴に罪を被せるに決まってるだろ?!」

「・・・」

「不正を行い悪人から賄賂をもらってる保安官は、ディーンが邪魔なんだよっ」

そうだそうだと後ろの席の男達にも声を合わせて同意されて、僕はスゴスゴとその酒場を退散した

そして心迷ったまま、男に教わったディーンが向かったと思われる街に、今日着いたのだ
































「サァ〜ミィ〜?」

語尾にハートが付きそうな声で、その街の大通りを堂々闊歩していたディーンは、偶然尋ねた通行人に教えられて呼び止めた僕を一目見るなりそう呼んだ

漸く見つけたとその全身を凝視するもその美しい姿に、僕はなんてお尋ね者の張り紙の似顔絵が似ていないのかと、嘆きたくなる

黒鹿毛の馬の上の彼は思ったよりずっと細身で、そのしなやかな体やパコパコと馬が歩みを進める度に前後する腰などは、同性だというのにどこかエロティックに思えてしまう程だ

お色気賞金首と、酒場の男達が彼を呼んでいた理由が分かった気がした

それでも今はそんな彼の色気に、惑わされている場合ではない

ずっと追ってきたディーン本人が目の前だと、僕は覚悟を決めて両親の仇討ちという目的を達しようと馬を近くの店の手すり繋ぎ、腰の銃に手をかける隙を窺いながら彼に近づいた

「・・・おいおい・・サミー・・
 なんかお前からスゴイ殺気を感じるんだけど・・気のせいかな〜?・・」

なんで顔も名前も知ってるのか、それにそもそもサミーってなんだと、僕はディーンを懸命に睨み付ける

その前でディーンはヒラリと馬から降り、この黒鹿毛馬は女の子で名前はインパラちゃん、綺麗だろ?、などど聞いてもいない事を自慢気に馴れ馴れしく喋って来る

「・・そ・・そんな事、どうでもいいっ!・・それより僕の両親をっ・」

「ぁ?・・ああ、気の毒だったよなぁ〜」

ディーンは殺気を感じると言いながらも構わず僕の前に立ち、キュっと眉を寄せ悲しそうな顔をした

まだ酒場で聞いた保安官の話に半信半疑だった僕は、そんな他人事のディーンを前にしてすっかり頭に血が上り、食って掛かると同時に思わず銃を掴んで彼に向けてしまった

「き・・・・・気の毒ってっ!、自分で殺しておいて、そんなこと言うのかっっ!!」

途端にそのやり取りを見ていた周りの男達が遠巻きになり、女達からは小さな悲鳴が上がった

誰もが数秒後には、僕が死体となってこの乾いた砂地に横たわると思っている証拠だ

「・・サミー・・?」

「どうして父さんと母さんを殺したのかっ・・それを教えろっ!!、ディーンっ」

だがディーンはキョトンと首を傾げて自分の胸元に突き付けられた銃を見つめると、円を描くように銃の先端をクルクル人差し指で撫で始める

「それ・・俺じゃないぞサミー・・俺がジョンを殺す訳無いだろ?
 ・・あの後・・街のみんなに話を聞かなかったのか?」

「・・話・・って・・・・?」

「二人を殺したのは、『黄色い瞳の悪魔』って呼ばれてる殺し屋だぞ?
 お前のママに一方的に懸想し・・・家に忍び込んだんだよ
 ・・俺だって今、復讐の為に奴を追ってるところなんだ」

「・・嘘だ・・」

「嘘じゃない・・俺は随分前からお前のパパの知り合いだからな
 だからお前だって小さい頃から知ってる・・可愛いサミー坊やだろ、よく自慢されたぞ?」

「・・・な・・・なんで・・?・・なんであんたと父さんが?・・」

接点など何処にも無いと尋ねると、急にディーンは照れたように微笑んだ

「んー・・・・・なんでって・・まぁ・・」

「なんだよっ」

「・・実はさ・・・・俺とジョンは付き合ってたんだよ・・・・言わば、ラブラブ?」

「・・・ラ・・・・」

「若い愛人ってやつ♪」

僕は突然の訳の分からない彼の言葉に混乱し、そのままディーンの濡れた肉厚の唇と真っ赤な舌先、そして上目遣いに見てくる長い睫が縁取る瞳が見せる淫靡な妄想に吸い込まれそうになって、駄目だ駄目だとプルプル頭を振った

父親に男の愛人がいたなど、信じられないし信じたくもない

パニックになった僕は銃にかかるディーンの手を振り払うと、彼の額にそれを押し当ててやった

「ぃ・・いい加減な事言うなっ・・僕は本気だぞ・・・」

だがディーンは少しも怯えず、何故か美味そうに舌舐めずりしている

「・・お前さ、ジョンによく似てるよな・・・・お前のナニも・・こんなに立派なわけ?」

「は・・はぁ????」

「折角会えたんだ・・積もる話ついでにそこの宿でさ・・・一発どう?」

「・・ぃ・・・ぱつ・・・?」

呆然とする僕にディーンはニッっと笑うと、銃に手をかけゆっくりと下に下ろし始めた

額から鼻筋、そして口元に到達すると、それをまるで男のシンボルを愛撫するように口に含む

「・・っ!・・・」

チュっと濡れた音を立てて咥え、舌で銃身を前後に扱き、濡れた唇を見せ付けるように舐める

そしてそうしながらもディーンのネットリとした視線は、僕の体を這い回っている

特に、下半身を

僕はズキンっとそこが突然疼いて、動転した

以前から愛人だったとディーンは言ったが、それが真実なら当然肉体関係も有った筈で、この目の前の魅力的な体を父さんは何度も抱いているということだ

脳裏に裸のディーンが身悶える様が映し出され、遂に僕のペニスは勃起した

「・・こんなふうにさ・・・してやるよ、お前のも♪」

だからそう言って強引に手を引いて来るディーンを、もう僕は拒絶出来なかった

何故どうしてこんな事にと考える間も無く僕はふらふら歩き、ディーンと彼の馴染みの宿に真昼間からしけこんで、そのまま関係を結んでしまったのだ























「よしっ・・サミー、次の街だ」

「うん」

こうして僕達は共に仇である『黄色い瞳の悪魔』を追う旅を始め、一緒に街から街へと馬を走らせるようになった

だが、流石はお色気賞金首

僕が行く先々での酒場で、ディーンに群がる男達を追い払うのに大忙しだった事は、言うまでも無い










end

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