続・お色気賞金首 1
僕はサム
3ヶ月前に両親の仇討ちの旅に出て、漸く数日前遂にその犯人とされる賞金首の男を捜し出すのに成功した
だけど、今の気持ちは複雑だ
その仇と思い込んでいた男は真犯人じゃなく、その上我に返った時はその男とベッドの上で絡み合い、あれよあれよという間に同性との初体験というものをしてしまったからだ
でもそれだけなら犬に噛まれたとでも思えばよかったが、問題はその後
終わった途端それまでの隠微で淫らな雰囲気はどこへやら、ディーンは僕の顔をスリスリ撫でながら親父にそっくりだ、ずっと側に居てくれと泣き始め、その後ムギュっと抱き着いたまま眠ってしまったのだ
その可愛い様子は痛い程に胸をキュンとさせ、途端に僕は彼と恋に堕ちた
よく男は女のギャップに参るなんて言われるけどそれは同性間でも有効で僕はそれからすっかり彼の虜、今なら途中の酒場の客が言っていた、奴は強いが気をつけるべきは他の点だという忠告の意味も分かる
けどその忠告も虚しく父親の愛人だった男と只ならぬ関係に陥ってしまった僕は、彼と共に真の両親の仇『黄色い目の悪魔』を追う為、街から街へと旅を続ける事になった
次の日、朝から馬を走らせていたディーンは、突然何も無い荒野の真ん中で脚を止めて僕に言った
「ここから先はテキサス・・無法者の町だ」
「・・・・」
そして馬を降り近くの枯れ木に手綱を結び付けると、少し離れた所に有る岩の上に空き缶を置いて僕を見上げる
「サム、お前の腕前をまだ確かめてなかった・・・・此処に立って、撃ってみろ」
「・・えっ?」
「・・ここから先、何時何があるか分からないだろ?、確認、確認」
何事かと馬を下りて近づく僕に、ディーンは腰に下げた銃を視線で促す
そのディーンの目は真剣で、僕はヤバイとじっとり掌に汗を掻いた
実は格好を付けてコルトのピースメーカーなんか持ち歩いているが、これで人を撃った経験どころか自分の狙った所に飛んだ例が無い
確かにこれから仇討ちの旅をする相棒として僕の銃の腕前を確かめたいディーンの気持ちは痛い程分かるが、本当の事を知ったら彼の気持ちが変わりかねない
「・・あ・・あの・・ディーン・・」
「早くしろ、まさか銃の扱いも知らないってんじゃないだろ?」
初対面で俺に銃口を突きつけたくらいなんだから、とディーンは腕を組み僕の後ろに回る
仕方なく僕がホルスターに手を乗せると、直ぐ彼のカウントが始まった
3
2
1
shoot!
精一杯の早さで抜いて引き金を引くと、ターンと乾いた音が当たりに響き、僕は手首への衝撃と硝煙り臭いを感じる
「・・っ・・」
だが目の前の空き缶は微動だにしておらず、振り返るとディーンは手で額を覆いヨロヨロと地面に座り込んでいた
「・・・・・・サミー・・・」
「・・ご・・ごめんディーン・・今のは・」
「・・調子が悪かったなんて言い訳はやめろ・・・俺にはこの一発でよ〜く分かった」
ほとほと呆れたという様子で溜息をつくディーンに、僕は焦る
「ディーンっ・・こ・・これから練習するっ・・毎日やるよっ、やるから・」
「・・・・分かったよ、約束しろ・・・・・じゃ、次はお手本だ・・・見てろ」
この場でさようならと言われなかっただけでも良かったと思いながら、僕は前に進み出たディーンを息を飲んで見つめた
そして微かな布がすれるような音と、彼の腕が動いたのを見たような気がした
「・・・・・ぇ?」
それだけで、同時に銃声がすると目の前の空き缶は遠くに吹き飛んでいた
信じられない速さだ
酒場の男の語った噂話も、決して誇張ではない
「・・見えたか?、サミー」
笑って振り返ったディーンに、僕はプルプルと首を振る
「ぜ・・全然・・・・凄い・・・凄いよ、ディーン・・
・・どうやったら・・あんなに早くなるの・・・」
銃口からまだ出ている煙をフゥっと吹いて、ディーンはもう一度一連の動作をゆっくりとやって見せてくれた
だがそれは別段特殊な方法を取っている訳ではなく、単に全てが熟練から来ているものだ
「だけど、サム・・・早く抜く練習なんかするなよ
どれだけ速く抜けるかより、冷静さを保つ事が大切なんだ・・冷静な頭でいられれば相手を倒せる」
「・・そう・・かな・・」
「そうさ・・俺はこれより早くも抜けるが、正確には撃てない
これは正確に当てられるギリギリの速さだ・・・まずは正確に当てる事、それが大切なんだよ」
「でも・・・もし・・相手が正確で・・その上自分より速かったら・・?」
僕が言うと、ディーンはニヤリと笑ってみせた
「死ぬ♪」
「・・・・・・・・」
そうだよね、と僕は心の中で頷き、再び彼の後ろで馬を走らせて次の町を目指した
やがて遠くに蜃気楼のように町が見え、僕はディーンが入り口近くの看板の言葉を無視してそのまま馬を進めるのに、後ろから付いて行く
大抵はこの程度の町には、中に入る者は保安官に銃を預けるようにとの注意書きが有るのだが、もちろんお尋ね者であり多額の賞金首のディーンが丸腰で居られる筈は無く、ホルスターを外し上着の中に銃を仕舞ってそ知らぬ顔をして入る気らしい
そして町の入り口のゲートが近づくと、ディーンは僕を振り返って小さく手をヒラヒラ振った
「サム、ここから別行動な」
「・・はぁ??・・なんでっ?!」
「いいから、付いて来るな」
そう言ってディーンは大通りを闊歩し、もう営業を始めている酒場を見つけるとそそくさとその中に消えてしまった
「・・っ・・なんだっていうんだよっ!!」
僕は冗談じゃないと、その後に続き酒場兼宿屋のドアを潜ったのだ
「あ〜・・もう!・・行こう、ディ−ン!」
「・・ん?、どうして?」
酒場でディーンは今、僕の目の前で真昼間だというのに女にも男にもチヤホヤされ、回りを取り囲まれている
兎に角ディーンは老若男女問わずよくモテるらしいがそれを断るという事を一切しない様子で、僕は彼は通称お色気賞金首と呼ばれるいうガンマンだが、本当はお色気ではなく尻軽賞金首と呼ばれるべきだと思った
特に僕の父親ジョン位の年配の男がお好みらしく、そんな彼を見ていると確かに話通り親父を愛していたと言うのは本当だろうとは思うが、その息子の僕とまで関係を持ち尚且つ愛してると囁いて旅のパ−トナ−に誘ったのだから、今まで通り手当たり次第というのは遠慮して頂きたいところだ
「坊主・・なんだ、お前・・ディーンの仲間かぁ?・・」
そのうちディーンの隣にベッタリくっついている僕が連れだと気付いたのか、彼に群がる一人が聞いてきた
「僕は・」
「仲間じゃねぇ!!、俺は何時も一人だ・・知ってるだろっ!!」
だが答える暇も無くディーンにそう言われ、僕はそんなに僕の存在がナンパに邪魔なのかとギロリと睨む
「・・ディーン・・」
「なんだよ、サミ−・・休みたいならお前だけ部屋に帰れってっ」
ディーンは街に入った途端一人になりたがりまるで僕を避けているようだが、僕としてま見す見す彼が他の人間と閨を共にするのを見過ごす事は出来なかった
「い・や・だ」
僕は誘蛾灯に集まる蛾を追い払うようにしてディ−ンを囲む人込みから彼の腕をグイグイ引っ張り、強引に予め取っておいた二階の部屋へと急いだが、まだディ−ンは未練が有るらしく階段の上の手摺りにかじりついて階下の酒場を見下ろすと僕を振り返る
拗ねたように尖ったアヒル口に絆されそうになったのも束の間、ディーンはこっちに向かって三本指を立ててきた
「・・なぁ・・サム
お前は町を出たら好きなだけ犯らせてやるからさ・・・・今夜は折角の3Pのチャンスなんだ
・・いや・・あの人数なら4Pとか、5Pも可能かもな・・いや6P・」
「・・・・」
この尻軽と、僕はディ−ンを思い切り部屋の中に引っ張りベッドに突き飛ばす
「いい加減にしろよ!、ディ−ン!!!」
ぶち切れた僕に、スプリングの強いベッドの上でポヨンポヨン跳ねながら、ディーンも言い返して来る
「・・そ・・それはこっちの台詞だぞっ
折角こっちが下手に出てやってんのに・・1回位犯らせてやったからってもう亭主面かっ?」
「・・っ・・な・・なんだよっ、一緒に旅をしようって誘ったのはそっちだろっ!」
「誘ったけど、旦那になれとも俺を専属にしていいとも、俺の性生活を管理しろとも言ってないっ」
ディ−ンは覆い被さった僕の下腹部に膝を立て、ウゲっとなった隙をついてベッドから抜け出した
「大体・・お前なんでここにキングサイズの部屋勝手に取ってんだ?
俺は毎晩お前と同じ部屋で寝る気なんか無いからなっ!!」
町では別行動だと言っただろ、とディ−ンは言い捨て、僕が呻いて言い返せないうちに部屋から出て行ってしまった
僕は股間を押さえながら、確かにあんな美人に迫られてこれからずっと一緒に旅が出来るとずっと恋人のように居られると、いい気になったのは一方的に自分だと思い返す
でも、それじゃああの初めて肌を合わせた日あんなに縋り付いて来たディ−ンはなんだったのかと、僕は漸く治まった痛みを堪えて部屋を出て彼を追い掛け始める
どうせ下の酒場で今夜の相手を見繕っていると思われたディ−ンだがヨロヨロ降りて行った階下に姿は見えず、人々に聞けば外に出て行ったのだと言う
「・・ディ−ン・・」
僕は急いでキイキイ音をたてる店の観音開きの格子扉を開き、埃っぽい砂塵が舞う街の大通りへと探しに出たのだ
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