新・お色気賞金首 4
「・・・なんだ・・?」

ディーンを嬲るのに飽き、保安官詰め所の窓から顔を出し周囲の警戒を改めて指示していたゴードンは、何かが遠くから迫り来る足音を聞き眉を顰めた

夜も更けて静まり返った街のメインストリートには人一人歩いて居らず、特にこの詰所には保安官のピートが振り翳す権威を恐れて街の人々は近寄らないのだ

だが、数秒後闇の中に目を凝らしていたゴードンが見たのは一頭の栗鹿毛の若馬で、それは猛スピードで真っ直ぐこちらに突っ込んで来るではないか

「・・!!」

そしてその馬上には確かにサムの姿が在り、彼はゴードンが向けた銃にも怯まず手にしていた袋を詰め所の前に向けて投げ付けた

すると何やら黒い粉末がザザっと保安官詰め所のテラスに飛散し、振り返ったサムが初めてこちらに銃を構えたのを見て全てを悟ったゴ−ドンが一目散に建物の中に避難すると、一瞬の後にはたった今まで彼が立っていた所は爆風に包まれガラスは粉々に砕け散る

「・・っ!!・・あの餓鬼っ、なんて無茶をしやがるっ」

なんとサムは取り扱いが危険な火薬を、爆走する馬上で持ち運んでいたのだ

「っ・・どうしたんだ?!、ゴードンっ・・うわっ」

ピートも悲鳴を聞きつけ燃え盛る詰所の表玄関に続く部屋を覗くが、火の勢いに直ぐ背後の空間に逃れる

だが、それもサムの作戦だった

直後その背後に控えた部屋の窓ガラスも割られると、外から火薬の入った袋が叩きつけるように投げ入れられ爆発が起こる

つまり、これで後無事なのはディーンが倒れている奥の拷問部屋と裏口に続く小部屋だけで、当然自分の命が大切なゴードンとピートは賞金首よりも燃え盛る炎から逃げる事を優先して、一目散に裏口に回る

たてつけの悪いドアを慌てて足で蹴飛ばし、ゲホゲホと咳き込みながら煤けた姿で二人は愛馬を探すが繋いでおいた筈の場所に馬は居らず、その上どこからか二人に向けて弾丸が撃ち捲くられて来た

明らかに射撃の腕の悪い者だと解るその攻撃も、煙で開いた目も見えず馬も無い今では堪らない

「・・っ・・畜生っ・・・逃げろっ・・」

二人は金よりも命が大事と、詰所に背を向けその場から全力で走り去っていった























その数分前




意識を失ってたらしいディ−ンは、遠くの男の怒鳴り声で覚醒していた

よく聞けばそれは自分を嬲るのに飽きて冷静さを取り戻したゴ−ドンが仲間の到着の遅さに完全に疑いを確信に変え、詰所の外の警備に当たっている男達を怒鳴っている声で、その直後詰所のメインストリート側から爆発音が響く

「・・?・・」

咄嗟には何が起こったのか解らず冷たい床に縛られた痛む体でどうにか見上げれば、逃げ惑うゴードンとピートの背後のドアの向こうに炎が見えて、初めて外から何者かの力が働いたのだと理解した

「・・まさか・・サム・・?・・」

何れにせよ逃げるチャンスは今しかないと、ディーンは必死になって手足に力を込める

もちろん危険を冒しサムに助けに来て欲しいなどとは決して思わなかったが、今までもゴードン達が隙を見せるもしもの時の為に手足を動かしどれくらい自分が咄嗟に反応出来るかを密かに確認する位の意思は失われていなかった

だから、徐々に詰所の奥の拷問部屋にも火災の煙が迫りサムが助けに建物に入ってきた時も、手足を縛られて床に転がされていたディーンは血塗れながら芋虫のように這って行き、燃え盛る部屋の隅に置かれた自分愛用の銃の入ったホルスターを口に咥えていたところだった

「・・ディーンっ!!、どこっ?!!・・どこだよっ!!」

「・・は・・・はむっ(サム)!・・」

煙の中にサムの声が響き渡って、火の粉を浴びながらディーンは咄嗟に革のベルトを口に咥えたままその名を呼ぶ

「ディーンっ、なんでこんな所にっ・・・・早くっ、逃げるんだっ!!」

サムは頭から濡れた毛布を被っていたが、全裸のディーンは至る所小さな火傷を負って白い肌も煤けている

「僕は・・てっきり拷問部屋に居ると思ってたのにっ・・」

「ひはぉ・・へふぉ・・(居たよ、でも・・)」

ディーンは毛布で包まれると軽々と抱え上げられ、焼け落ちそうな壁を蹴破ったサムによって外に運ばれる

「ふぇぉ、こふぇふぉほりひにひっふぇ・・(でも、これを取りに行って・・)」

「・・何言ってんのか解んないよっ!・・いいから、逃げるんだっっ!!」

もうこれ以上火薬に火が回って爆発する心配は無いが、この様子を街の多くの人が見ていたし近くの街の保安官に知らせが行くのも時間の問題で、又ゴードンとピートがいつ反撃を仕掛けてくるかもわからない

飼い主の姿を見て火も恐れず駆けつけたインパラの上にディーンはホルスターごと括り付けられ、直ぐ愛馬に跨り鞭を振るったサムと共にその場から風のように走り去った




後には、無残に焼け崩れる詰所が闇の中いつまでも赤々と燃え盛っているだけだった






































「ディーン・・?・・ディーン、大丈夫・・?・・」

「・・っ・・・・・ん・・ぁあ・・・・」

とりあえずは街から離れるのが先決と馬を走らせたサムだが、数マイル来た所で荷物のように積んでいたディーンの体をインパラの上に座り直させてやろうと馬を止める

だが意識が朦朧としているらしいディーンは揺さぶって漸く目を開くも、鞍を跨がせ鐙に足を入れてやるともう前に倒れこんでしまう

「・・ディーン、これから・・どうしよう・・」

荒野の真ん中辺りを見回してももちろん助けてくれる人は誰も居ないのだが、傷を負って酷く衰弱しているディーンを手当てし休ませてやる暖かなベッドがどうしても必要だった

「・・・・サム・・西・・・」

「・・えっ?」

その時目を閉じて、もう気を失ってしまったと思ったディーンが掠れた声で呟いた

「・・西に・・・走れ・・居留区に・・・・・」

「居留区・・って、インディアンの??・・・そんなことしたら・・」

殺される、と思ったサムだが、直ぐいつか酒場で聞いたディーンの彼らに大しての行いを思い出した

賞金首としてお尋ね者のディーンだが彼が人を殺すのは極悪人ばかりで、奪った金は貧しい者や先住民に分け与えていると

「・・彼らなら・・助けてくれるんだね?」

「・・・・」

サムは、もう何も言わずにインパラにしがみ付くばかりのディーンに頷き、西を目指して再び馬の腹に踵を当てた






























徐々に背後の東の空が白み始め、赤茶けた大地がその鮮やかな色を見せる頃になり、道幅の狭い峡谷に入ったサムの耳はぴったりと付いて来る馬の足音を捕らえた

もうインディアンの支配地に入ったと分かっていたがなかなかその姿を見せずに焦っていたところだったから、サムは思い切って馬を止めて辺りに響く大きな声で叫んだ

「・・僕の名前はサムっ、そしてこれはディーンっ!
 彼が怪我をして意識が無いんだっ、助けてくれっ!!・・・頼むっ、ディーンに聞いてここまで来たんだっ !!」

だが叫んだ途端気配は消え去り、やがてサムは絶望して再び西を目指そうと元の位置に向き返った



「そう大声で叫ばなくても分かっている」



「っ!!」

すると目の前には、足音も無く近寄った一人の先住民が赤毛馬に乗って立っていた

若く逞しいその男は長い髪を三つ編みにして垂らし、その部族の特徴有る飾りの付いたなめし皮の上着を着て腰には鋭利な刃が光る鉈を差している

サムがその射るような鋭い漆黒の瞳に気圧されて固まったままでいると、ゆがて彼は不思議な言葉を言ってから走り出した

「・・えっ?・・ちょ・・待ってっ」

意味が分からないサムは、慌てて馬を走らせて付いて行きながら聞き返す

「サムと言ったな・・・・今のは名乗っただけだ、我々の言葉でな
 だがお前に分かる名前も今の俺達は持っている
 ・・そちらなら、俺の名前はエリック・・・・好きな方で呼べばいい」

「・・あ・・エリック、君は・・・・」

「ディーンは俺達の兄弟だ・・安心しろ、助けてやる
 もうすぐ部落に着く、そうすれば薬草も近代的な薬も揃ってる・・・その煤塗れの顔も洗えるぞ」

どうやらこの男は自分達の支配地に入ってきた者を見張る係りらしく、一人サムに道案内をしてくれるようだ

「・・ぁ・・・ありがとう・・・」

サムは安堵し、途端に覚える疲れと喉の渇きを堪えながら、エリックの後について馬を走らせた








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