新・お色気賞金首 5
美しい赤毛馬に乗ったエリックの後ろを大人しく付いて行くこと30分、すっかり朝日が昇る頃入り組んだ渓谷の道の先に、小さくて可愛い家が幾つか寄り添う集落が見えて来た
「安心しろ・・・もう保安官も誰も、白人はここまでは入って来ない」
「・・ぁぁ・・すまない、エリック・・」
複雑な民族調の彫刻が施された門を開けてもらって進めば、彼等の朝は早いのか朝の支度に桶を抱えた数人の女とすれ違う
井戸から水を汲む手を休めこちらを興味深げに眺めている表情は静かだが、決して反感は感じられない
だがディーンを心配していたサムは彼女達に視線でさえ応える余裕も無く、屋根の上から煙が立ち昇り始めたそれらの家々から外れた小屋の一つにエリックに案内されると直ぐ、インパラの背中からディーンを抱え上げて玄関を入った
「いいぞ・・こっちに持って来て寝かせろ」
奥の部屋から聞こえるエリックの声に中を覗けば、彼は先に寝室に入って柔らかな藁の上にシーツを敷いてポンポンと叩き平らにしている
「これが薬だ・・・毛布を・・」
「ぁ、ああ・・」
やがて包んでいた毛布を取り去り、改めてディ−ンの体を見たサムは息を飲んだ
火事の中から助け出す時は夢中で、その後も追っ手から逃れる事だけに集中していたから裸で縛られていたディ−ンが彼等に何をされていたか無意識に考えないようにしていた
それでもこうして向き合うと無数の蚯蚓腫れからは血が流れ出し、手首と足首そして膝にまで食い込んだ縄目まではっきりと見て取れる
「っ・・・僕の・・無茶のせいで・・」
その上白い肌には酷い火傷の痕が残りじくじくと水泡を形成し始めていて、それがサムが保安官詰所に投げ込んだ火薬が起した火事によるものだという事は明らかだった
だがエリックはまるで全てを予期していたかのように、その無残な様子にも下肢を濡らす白濁混じりの血にも動揺を見せず、薬の入った箱をサムに差し出して言った
「早く手当を、雑菌が入ると厄介だぞ」
そして自らディ−ンに手を伸ばすのを見て、漸く硬直の解けたサムはエリックを遮った
「だ・・大丈夫、僕一人でやれるよ」
「・・・・・そうか、なら・・これを塗ってやれ、鞭傷にもだ」
出来ればこんなディ−ンの姿は他の人間に見せたくないと思うサムの気持ちを汲んでくれたのか、エリックは良く効くという薬草をペースト状にした物が詰まった瓶を傍に置き、部屋を出て行った
そうして二人だけになると、賑やかさを増した部落の雰囲気とは不釣り合いに部屋はシンと静まり返り、傷から熱が出てきたのかディーンの早い呼吸音だけが大きく聞こえる
「・・・サム・・?・・」
やがてサムが体を屈めて覗き込み、ギシリとベッドが軋むとディーンはうっすらと目を開けた
「ディ−ン!気がついた?・・もう大丈夫だよ、エリックが・」
「・・俺・・の銃は・・?」
この状態で何よりも先に言う事が銃かと力が抜けるサムだが、傍の台に置いた彼の愛用のホルスターを視線で示す
「もちろん、無事だよ・・あんな状態でもディーンが取りに行った物だから、ちゃんと・・」
「・・・ここは?・・居留区に入れたん・・だな?・・」
ホっと安堵の溜息をついたディーンの前で、サムは改めて小さくなって呟いた
「うん、無事着いた・・・・でも、そんな事より・・・ごめんディーン」
「・・?・・」
「その火傷・・・僕の使った火薬のせいで
助けようと夢中だったから、つい量の加減が効かなくて・・火の勢いが大きくなったんだ」
「ぁ・・ぁぁ・・これは・・お前のせいじゃないぞ・・」
「えっ?」
「・・こんな・・ピンポイントで・・火傷しないだろ、普通」
確かに冷静になって見れば、酷い箇所は両方の乳首付近に集中している
「・・まさか・・」
「そのまさか、だ・・これは葉巻だよ・・ゴ−ドンの野郎、変態だからな・・」
「・・・なんてこと・・・」
真実を聞いたサムは悔しさに唇を噛み締めながらも、急いでエリックが消毒用に持って来てくれた酒を布に浸した
そしてディ−ンの胸を拭えば、優しくと細心の注意を払ったにも関わらず沁みたのか小さな悲鳴が上がる
「・・っ!!」
「っ・・ご・・ごめんっ」
見れば水ぶくれになっていた突起の先端の薄皮が剥がれてしまって、これではどうやってもディ−ンを苦しませてしまう
「・・い・・いいから・・サム・・」
手を引いたサムにディーンは言ったが、その瞳は痛みから潤んでいる
「布じゃ無理だね・・・・・・・・じゃ、こうすればいいかな・・」
「?!」
サムはそう言うとディーンに覆い被さり、舌を伸ばして乳首を舐めた
「サ・・サムっ!・・なっ・・」
焦るディーンを無視して一つ一つ、葉巻の痕と鞭傷を優しくなぞりこびり付いた汚れを清めてゆく
「これなら・・痛くないよね・・?」
「・・っ・・ん・・痛く・・ないけど・・」
もうとっくにこれ以上の事もしている関係だというのに恥ずかしそうに顔を背けたディーンにつられて目を上げれば、窓の外にはまぶしい太陽が燦燦と降り注き子供の遊ぶ声が響く集落の中庭が見えた
確かに一枚の壁を隔てて外と中、余りにも落差が有り過ぎる
だがサムは目の前に力なく横たえられた体を、徹底的に自らの舌で浄化した
彼の血を味わい、剥がれた薄皮は伸ばして元通りにし、そう出来ないものは噛み切って飲み込んだ
「・・サム・・もういい・・」
やがてサムの顔が下半身にまで及ぶと、ディーンは髪を掴んでグイグイと引っ張ってくる
「よくないよ、ここも・・」
ゴードンは変態だと言った、ディーンの言葉を裏付けるようにそこは陰毛まで焼かれ、乱暴に毟られた痕も有る
「・・っ・・ぁっ・・サムっ・・」
更にサムが片足を抱え上げ、股間に舌を這わせつつ白濁交じりの血液を流す秘所にも指を差し入れて掻き回すと、トロリとディーンの体内から注がれたものが流れ出して、敷いていたタオルを汚した
その量と酷く裂かれた傷から今も染み出るディーンの血に、サムは口惜しげにシーツを小さく拳で叩く
「・・畜生っ・・」
「・・・・」
「奴等、ディーンを吊るして鞭で打って・・犯して、葉巻を押し付けた?
・・どうしてこんな拷問を・・何を知りたがったの?」
「・・言っただろ・・ 別に知りたがってたわけじゃない・・」
サムは熱で熱くなったディーンの手が、そっと自分の首筋に回るのを感じた
「奴等は何時も俺を捕まえるとこんなさ・・だから、変態野郎の事なんか忘れるに限る
・・・それに、俺は生きてる・・お前のお陰で助かったんだ、勇気有るサムのお陰で・・」
「・・ディーン・・」
「こんな怪我はたいした事じゃない・・もう気にすんな」
チュっと音をたてて暖かくて柔らかい、肉厚のディーンの唇に包まれればサムの怒りも苛立ちも瞬く間に溶けて行く
その後、サムはディーンの体を隅々まで清めて手当てし、丁寧過ぎると文句を言われる位包帯で全身をグルグル巻きにした挙句無理矢理スープを飲ませて満足すると、漸くディーンに眠るのを許した
「ディーンは眠ったよ・・ありがとう、エリック・・何もかも」
全てを終えてサムが外に出ると、エレックが井戸の横の岩に腰掛けてこちらを見ていた
徹夜明けには眩しい強い日差しに目を細めて近寄れば、エリックは吸っていた煙草を差し出して来る
「・・・・・」
サムは、これはもしかして先住民の親愛の情を表す儀式か何かかと、思わず受け取って深く吸い込んだ
「・・っぐっ・・ゲホッ・・ゲホッ・・」
途端に強烈な刺激が肺に突き刺さり目を潤ませたサムだが、エリックは取り返した煙草を平然と美味しそうに2回ほど吹かして言った
「・・ディーンはずっと一匹狼だった
それが仲間を連れているとは・・最初は嘘かと疑ったが・・お前の目は真実を語ってた」
「・・・・」
「どうして、ディーンと居る?」
ずっと前からディーンを知っているらしく、又助けてくれたここの人達に説明する義務は確かに有ると、サムは涙が滲ん目を擦るとエリックの隣に腰かけて口を開く
「・・僕は・・最初ディーンを親の仇だと思って探していたんだ、両親を殺したと
でも、違ってた、それで・・」
「・・それで、ディーンの悪い癖が出たってことか?」
「・・・・・ぁ・・・し・・知ってるの?・・」
彼等にまでディーンのお色気ぶりは知られているのかと焦って聞き返したサムだが、エリックは何故か真面目な顔で頷いていた
「ああ・・だがその事に関しては・・ディーンのせいじゃない」
「・・ぇ?・・」
「ディーンが傍に居ることを許したのなら・・彼の為にもお前の誤解は解きたい
・・誰彼構わず寝る悪癖は、ディーンの父親のせいだ・・・彼のせいじゃない」
「・・お父さんのって・・どうゆうこと?」
サムは思わず身を乗り出していた
ディーンの過去など、これまで知りたいと思っていても聞ける雰囲気ではなかったから
「・・ディーンの祖母は、この村の出身だ・・その娘、つまり彼の母親は白人との間に出来た
愛し合っていたと聞いたが・・当時は認められず此処を出て行って生んだと聞いている」
「・・・」
「その彼女もある白人の男との間にディーンを儲けたから、彼は1/4我々と同じ血だ
そしてディーンが4つになる頃我々は男と別れた彼女を許し、この村に迎え入れた・・だが・」
「だが?・・何?」
「やがてディーンの父親がやって来て、彼を攫って行ってしまった
・・・そして、遠くの州の娼館に彼を売り飛ばした・・まだ9つだったというのに・・」
「・・・・」
サムはディーンが先住民の血を引いていたと知ってもショックは感じなかったが、
父親の手によってそんな残酷な境遇に貶められたとは震えが来る程の衝撃を受けた
「・・酷い・・っ・・」
「だが・ディーンは賢かった
やがて娼館を逃げ出し、銃の腕を上げたのだと・・そのへんの事は俺も詳しくは聞いていないがな・・」
エリックはそこまで語って、再びサムに煙草を差し出した
今度は慎重に静かに吸うと、サムにも咽ずに香ばしい味を感じることが出来る
「・・孤独だったディーンがお前と居ることが、俺は嬉しい
ずっと一緒にいてやって欲しいとさえ思っているが・・・・どうなんだ?、サム」
サムは静かに微笑んで、エリックを見つめた
「うん・・僕もずっと・・一緒にいたいと思ってる、仇討ちが終わっても・・ずっと」
ディーンを家族のように想ってくれている人が居たと、サムの心は温かくなっていた
「最後に聞くが・・お前の両親を殺したのは誰なんだ?、知ってるんだろう?」
エリックは意外に俺達は情報に敏いのだと、サムに確認してきた
もしその噂を聞きつければ知らせてやれると
「・・ぁあ、『黄色い目の悪魔』と呼ばれている殺し屋だと、ディーンが」
「っ!」
さり気なく返したサムだったが、何故かエリックはそれを聞くと厳しい表情で振り返った
「・・?、どうしたの・・・エリック」
「・・・・」
そして顔を背けると、静かにサムに告げた
「『黄色い目の悪魔』・・それこそ今、行方不明のディーンの父親が呼ばれている名だ」
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